膨大なキャッシュレスデータの活用で、企業のマーケティングを変える。三井住友カードが提供する、データ分析支援サービス「Custella」。
近年、企業の経営戦略の立案や商品・サービスの企画開発、出店計画など、ビジネスのあらゆる側面でデータを活用していくことが重要視されています。また新型コロナウイルス感染拡大を契機としてキャッシュレス決済は急速に拡大しており、決済や消費にまつわるデータは、今後もより一層増加していくことが予想されます。
キャッシュレス決済のなかでもクレジットカードが占めるシェアは依然として大きく、SMBCグループの三井住友カードは、会員規模5,000万人、年間取扱高20兆円超(三井住友カード・SMBCファイナンスサービス合算)という膨大なデータを保有しています。
このキャッシュレスデータを企業のマーケティングに活用しようと、三井住友カードが2019年よりサービス提供を開始したのが、データ分析支援サービス「Custella(カステラ)」です。
「カスタマーインテリジェンス」「カスタマーを照らす」というダブルミーニングのとおり、導入企業の経営戦略を、データを切り口にサポートしながら、新たな顧客の獲得に貢献しています。
今回は、Custellaを運営する、三井住友カード株式会社 マーケティング本部 データ戦略部戦略企画グループ グループ長 細谷友樹氏、同 部長代理 平野雄介氏、富田亜莉紗氏に、Custellaのサービス概要、開発経緯はもとより、導入企業各社の活用事例、さらにはその先の展望までを聞きました。
キャッシュレスデータという“宝の山”を活用。決済事業と一線を画す新サービス
まずは、Custella(カステラ)のサービスについてお教えください。
平野Custellaは、三井住友カードが保有する膨大なキャッシュレスデータを統計化し、そのデータをさまざまな切り口から分析することで、企業様のマーケティングを支援するサービスです。
私たちが保有するキャッシュレスデータには、カード会員様の住所や性別、家族構成、年収などの属性データのほか、百貨店や飲食店、スーパーマーケットなどの加盟店での決済データがあります。
Custellaは、弊社が保有するキャッシュレスデータを活用した4種類のマーケティングサービスを提供しています。
まず、消費トレンドを紹介するデータとして無料公開している「Custella Trend(カステラ トレンド)」、売上データや顧客の属性分析から顧客の購買動向を確認できる「Custella Insight(カステラ
インサイト)」のほか、データをもとに企業様のニーズに合わせた調査・分析を行い、次の一手をご提案する、分析レポートサービス「Custella Analytics(カステラ アナリティクス)」。
そして、こうして打ち出したプランの出口戦略としてご用意しているのが「Custella Promotion(カステラ プロモーション)」です。
これは、三井住友カード会員を分析結果を基にターゲティングし、DMやスマホアプリを介してプロモーションを行うサービスです。
2019年10月にローンチされています。どのような発想がCustellaの生まれるきっかけになったのでしょうか。
細谷発端は、三井住友カードが扱うデータをグループ各社の事業に活用できないか、と検討しはじめたことにあります。さらにさかのぼってお話しをすると、2017年ごろに自治体の方とお話しする機会が多くあったこともきっかけの一つです。当時は地方創生、インバウンドの文脈で観光需要が大きな伸びをみせていたのですが、皆さん一様に「どの国から日本に来ていて、どのような購買行動を取っているのかがいま一つ分からない」という悩みをお持ちでした。このお話から、三井住友カードは決済手段のほかにデータという価値を提供できるのではないかと考え、まずは自治体向けにデータ提供を始めました。さらに、自治体だけでなく私たちの加盟店様にとっても有用であるはずだ、と考えたことが、Custellaの着想の起点になっています。
「自社では知りえない顧客を知りたい」。さまざまな業態がマーケティングに導入
Custella の具体的な活用事例を聞かせてください。
細谷もっともご利用が多いのは小売業のお客さまです。皆さん、主に自社のデータ(POSデータ)を活用し、どんな商品が売れているのかを分析されています。ただ、重要な出店戦略等は自社のデータのみでは分析が難しく、私たちのデータがうまく活用されています。出店戦略は通常、人の動き方をもとに考察します。一般的には携帯の位置情報が活用されるのですが、弊社は会員様の居住地や勤務地、さらには購買エリアのデータを持っています。それこそ、コロナで顧客行動に変化が出てきているので、こうしたリアルなデータを出店に活用したいというニーズが高まっています。さらに、その次が顧客戦略です。既存の顧客にどのようにしてリピーターとなってもらうのか、あるいは新規の顧客にアプローチするのか、マーケティングの本丸といわれる部分にCustellaをご利用いただき、エリア内の他店をご利用の人、自店をご利用の人をそれぞれ可視化したり、会員様向けにプロモーションを展開したりしています。
平野別の事例をお話しすると、富裕層をターゲットとした客船旅行業を営むお客さまから、「今後の事業戦略を描く為、富裕層が今後、どう変わっていくかを知りたい」とのご依頼をいただいたことがあります。そもそも「富裕層」というカテゴリは定義が曖昧です。そこで、キャッシュレスデータからまずは富裕層の定義の仕方を考え、一部オープンデータも使いながら、過去と現在の傾向から今後を予測した結果をレポートさせていただきました。
このほか、「転売層を知りたい」とおっしゃる玩具メーカーのお客さまもいらっしゃいました。「各商品の基本的な属性(性年代レベル)は把握しているものの、その人たちが普段何をしていて、何にお金をかけているのかが見えてこない」ということで、自社のデータからは読み取れない顧客層を知るために、Custellaをご利用いただいています。
富田地方の水産加工業のお客さまから、「EC事業を始めるので相談に乗ってほしい」とお声がかかり、プロモーションのお手伝いをした事例もあります。
地方の場合、リアル店舗に送客するとなると、足を運べる距離にお住まいのカード会員様が限られているため、効果を出すことの難しさがありますが、これがインターネット上への集客となると、物理的条件が取り払われるため、ターゲットは全国に広がります。そうなると、わたしたちも「Custella
Promotionでお手伝いできます」と胸を張って言えますので、ECを始められる地方や小中規模の事業者様が、「それならば」と、お使いになるケースは徐々に増えています。
AIによる機械学習で想像していない顧客に出会えるケースも
データを分析して提供する、となるとアナリスト的な役割が必要になると思うのですが、この辺りの人員強化も行っているのでしょうか。
細谷ここはかなり戦略的な動きをしています。そもそもCustella を運営するデータ戦略部は立ち上げ当時、10人に満たないチームだったのですが、いまや50人に届く大所帯になりました。人のリソースは積極的に増やしていますが、そのうち50%以上が中途採用です。外国籍の社員も数人在籍しており、グループ内でも珍しい人員構成になっています。このように専門の人材を自社でしっかり抱え、さらには育て、自社でサービスを提供していくことも、データ戦略部の一つのミッションです。
AIを実装し、人では気づけない顧客ターゲットを発見する仕組みも導入している、と聞きます。具体的な活用事例はありますか。
細谷車のサブスクリプションサービスを展開するお客さまの事例があります。こちらは、「若年層」「ファミリー層」をターゲットとして想定されていらっしゃるのですが、このペルソナは「若年か否か」、「婚姻の有無」「子どもの有無」くらいの情報でセグメントできる、非常にざっくりとしたものです。一方、私たちは約1,200の変数をベースに持っているので、非常に細かくターゲットを区切ることができます。例えば、AIを活用したところ、ゴールドカード会員様で、年額2万円から3万1,000円の保険に加入されていて、かつリボ払いを利用されている55歳の反応が高い、といった方が高スコア層として抽出されたりもします。
平野美容商材を取り扱うお客さまでも似たような事例があります。一つ十数万円する美容器具の発売にあたり、お客さまは当初、「カード利用額の多い人」「年収の高い人」にアプローチしたいと、購買層をシンプルに考えていらっしゃいました。しかし、機械学習をさせてみると、年収は低く、カードの利用額も多くないものの、カード利用額の5割以上を美容関連に投資する人が出てきたりもします。このように想像だけでは取れない層が機械学習によって把握できる点はおもしろいポイントです。
細谷ちなみに「Custella Promotion」は、お客さまの設定したセグメントに行うことも、機械学習で出てきたターゲットを試すこともできます。ABテストを実施されるお客さまもいらっしゃいます。
Custellaがあることによって、決済事業のみをサービスとしていたときにはない新たな取引も生まれているのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
細谷そうですね。これまでは経費削減や業務効率化の一環で「現金ではなくカードを使いませんか」と経理部門の方にご提案することが主だったのですが、Custella
のローンチ以降は「売上を上げていきましょう」と、攻めのアプローチができるようになりました。
また、コンシューマーとつながる事業領域が限定的なお客さまの場合、カード事業で切り込むことの難しい側面がありました。しかし、Custellaというソリューションがあることで、違う角度から関係性を築けるようになりました。これらの成果から、グループの新たな役割を担っていけるのではないか、と感じています。
CustellaをSMBCグループの強みとして育てていきたい
改めて、Custellaはお客さまの事業活動にどのような価値を提供できているとお考えでしょうか。現在の手応えを踏まえ、お聞かせください。
細谷世の中は良い商品を揃えていれば顧客を獲得できるという時代から、顧客側がお店を選ぶ時代へと移行しつつあり、多くの事業者様の意識もまた、この方向へと変わってきています。いかに顧客とつながり、理解し、選ばれていくのかは、事業者様のこれからの命題となるでしょう。その点、私たちはこれらの課題を解決に導ける膨大なデータを保有しています。お客さまの経営戦略と私たちが持つデータを重ね合わせることで、戦略の精度を上げられる点は、今後Custella の根本的な価値になると思っています。顧客をより理解したいと考える事業者様の増加とともに、Custellaが普及していくイメージを持っています。
最後に、お一人ずつ今後の展望と意気込みをお願いします。
富田わたしは、お客さまの生の声を伺う機会が多いのですが、一番印象に残っているのが、「自分たちの仮説が確信に変わった」「いままで見えなかったものが見えた」というものです。Custella による分析と考察の結果、ターゲットが明確になり、次のアクションにつなげられることをお喜びになる姿は、わたし自身、何回見てもうれしいものです。今後はさらに多くの事業者様に導入していただき、活用策を見出していただきたいと思っています。
平野「Custella はSMBCグループにとっても、有用なもの」という考えがグループ内に浸透しつつあり、グループ各社がそれぞれのお客さまに提案する、という動きも多くみられるようになってきました。現状のデータだけでもこの状態をつくりだすことができているのですが、今後はたとえば、「どこで、『何を』買っているのか」という粒度まで会員様の動向を把握できるようになれば、もっと多くの事業者様のニーズに明確に応えられるようになると考えています。そこにたどり着ければ、SMBCグループは唯一無二の価値を提供できる企業体になれると思っているので、そこを目指して頑張っていきたいです。
細谷SMBCグループはCustella
があることで、「金融のみならず、データ活用とマーケティング支援までお手伝いできます」と言えるようになれると思っています。先述してきた事例のとおり、この領域に向かうための土壌が整いつつありますので、その世界をグループで本気で目指すことが、大事になると考えています。
金融事業で培ってきた信頼があるからこそ、これほどのボリュームのデータをお預かりできていると思っていますので、それをまた私たちへの信頼をもとに加工処理を行い、私たちしか持たないデータとして事業者様にお届けし、またその事業に活かしていただく――。この繰り返しのなかでCustellaのサービスを拡充することで、SMBCグループの強みとして育て、お客さまへのさらなる貢献を実現していきたいです。
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三井住友カード株式会社 マーケティング本部
データ戦略部戦略企画グループ グループ長細谷 友樹氏
2006年三井住友カード入社。法人営業やファイナンス事業等に携わり、2012年より自社SNS、アプリ、インバウンド向けメディア、自治体向けデータ分析サービス等デジタルマーケティング、データ活用領域の企画に従事。2020年よりデータ戦略部にてデータ分析支援サービス「Custella」を指揮。
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三井住友カード株式会社 マーケティング本部
データ戦略部戦略企画グループ 部長代理平野 雄介氏
2011年三井住友カード入社。 会員・加盟店営業、電子マネー「iD」の商品企画、クレジット受託業務等に携わり、2018年に三井住友銀行へ出向。銀行・クレジット業務の一体化に向けた商品企画・開発業務を経て、2020年よりデータ戦略部にてデータビジネスプランナーとして「Custella」の推進企画に従事。
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三井住友カード株式会社 マーケティング本部
データ戦略部戦略企画グループ富田 亜莉紗氏
2021年三井住友カード入社。入社直後より、データ分析サービス「Custella」事業に関わり、決済データを活用したマーケティングに携わる。これまでデータ利活用が困難だった企業にも、三井住友カードがもつデータを活用したソリューションを提案し、多数企業とのデータマーケティング事業の成約を実現。