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国内最大規模の公立大学誕生にあたり、学費支払いプロセスのデジタル化を実施。大阪公立大学が実現した、業務量9割削減プロジェクトの成果

ともに約140年の歴史を有する大阪府立大学と大阪市立大学が統合し、2022年4月に開学した大阪公立大学。現在、1学域・11学部・15研究科を設置しており、教員数は約1,400人、学生数は約16,000人を抱える全国有数の規模の大学として新たに始動しました。

近年、行政や自治体においてもDXが求められる中、公立大学として最大規模となる2つの大学のスムーズな統合を目指すにおいても多くの課題に直面しました。中でも事務手続きの方法の統一と、職員が担っていた多種多様な作業の効率化への対応は急務でした。そのための一つの取り組みとして実施されたのが、学費支払いのペーパーレス化です。システムとして導入されたのは、三井住友フィナンシャルグループのNCore株式会社が提供するNCoreプラットフォームです。

今回は実際に、NCoreプラットフォームを導入して学費支払いのペーパーレス化を実現した大阪公立大学 学生課の皆様に、システム導入の効果や今後の展望を伺いました。

統合による学生数の増加で、ペーパーレス化は待ったなしの課題に

今回大阪公立大学では学費支払いのペーパーレス化を実現されましたが、それ以前はどのように事務手続きをされていて、どのような課題を抱えていらっしゃいましたか?

鈴木これまでは両校とも合格者に対して学費支払いのための口座振替依頼書を送付して、そちらを記入した後に大学に提出してもらい、大学内で紙書類の処理を行っていました。具体的にお話しますと、口座振替依頼書は基本的には3枚複写になっていて、金融機関に行って手続きをする必要があり、学生からしても手間がかかっていたのです。金融機関お届け印を捺印してから提出いただくのですが、中には「金融機関お届け印が不一致なので、口座登録ができません」といった不備がたびたび発生していました。

3月は入学料の入金に関する業務、4月は入学した学生を含む全学生の授業料納付に関する業務を行っているので、この時期はかなり煩雑な作業が多くなります。それに加え、口座振替手続きの不備についても同時並行で対応しなければならず、それも1人の学生に対して複数回発生するケースもあり、だいぶ労力が割かれていました。

大学の統合により学生数は一気に増加しましたが、大阪公立大学の学生課授業料担当は現在7人という限られた人数で運営しています。当然、事務負担も大きくなることが予想されたため、NCore株式会社の和田さんをはじめとした三井住友フィナンシャルグループの皆様にご協力いただき、特に労力がかかっていた学費支払いのペーパーレス化を行うこととなりました。

<NCoreプラットフォーム スキーム図>

実際にペーパーレス化のプロジェクトを進めるにあたって、大変だった点を教えてください。

鈴木統合前から準備はしていましたが、私たちが苦労した点の一つは、口座が登録されてから学内のシステムに取り込むところです。そのままデータを取り込めたらよかったのですが、システムに取り込むには、新たに加工する必要がありました。そのため、データを正確に取り込むために、システムを連携させる調整作業が発生しました。

櫻間当校のシステムを手掛けている他部署の担当者及び開発業者と打ち合わせを行い、データを正確に取り込みできるようにルールの統一を行いましたが、思うように取り込めず、苦労しました。

ペーパーレス化により、学生の負担軽減とともに、大学側の学費支払い手続き作業も9割削減

電子化した結果、どのような効果がありましたか?

櫻間例えば、学生が卒業するまでの間に、口座を変更したいという場合があります。これまでは変更する際に、大学の窓口や金融機関に行っていただく作業が発生していましたが、Web登録を行っていれば、登録の変更もWebのみで可能です。大学に来る必要もないですし、遠方にお住いの保護者の方でもインターネット等で手続きが可能です。保護者と学生双方にとって大きいメリットが生まれたと考えております。

<Web決済登録画面 サンプル>

黒田実は今回のプロジェクトでは新入生だけでなく、在学生にも影響しました。大阪府立大学は大阪公立大学になってからメインバンクが変更されたため、大阪府立大学の学生全員に対して収納代行会社の変更に伴い学費引き落し口座の再登録手続きが必要になりました。そこで、全員にWeb登録してもらうよう呼びかけを行いました。

最初は学生から「この辺はどうなっているのですか?」とか、「なぜこの金融機関は使えないのでしょう?」といったご質問が集中しました。しかし、数千人の学生に対して一斉に口座登録の案内をお送り出来たことで、結果的には多くの学生の方への負担軽減にも繋がりました。統合のタイミングまでにプロジェクトが実施できて、本当によかったと思います。

今回、手続きを電子化されたことで、事務負担はどれくらい軽減されましたか?

尾田今まではこの処理のためだけに、短期で臨時職員を2人ほど雇っていましたが、その必要がなくなりました。また書類の整理だけでもかなり時間がかかっていましたが、電子化により紙がなくなり、すべてWebで完結できるようになったので、業務はかなり効率化したと実感しています。データ入力も外部の会社に頼んでいましたが、その必要もなくなりました。

また以前は手書きだったため、カタカナの「リ」や「ソ」、数字の「0」や「9」が読み取れず、ダブルチェックを行っていました。ほかにも提出された口座振替依頼書が誰のものなのかをしっかりと認識するために、1つひとつ学籍番号を記入していましたが、そういった業務もなくなりました。授業料引落口座登録手続きのために毎日のように2、3時間の残業を行っていましたが、それも今はほとんどありません。

<口座振替依頼書 サンプル>

櫻間4月は授業料担当者が総動員で作業を行っていましたが、だいぶ効率的になりました。

尾田これまでは入学料徴収業務も行いながら作業をしていたのでかなりの負担がありましたが、それが必要なくなり、業務がスムーズに回るようになったと思います。

鈴木作業全体から考えると、9割ほどの減少になったと思います。もちろん問い合わせはまだ少しありますが、紙の口座振替依頼書を集めていた時も同程度の問い合わせはありました。

櫻間また、これまで在学生から口座変更の問い合わせが来たら、それぞれ学部ごとにファイリングされている口座振替依頼書を取り出して、学籍番号を聞いて該当する在学生を探さなくてはいけませんでした。でも今はWeb上で変更できるため、すぐに対応できます。確認のために電話を一度保留したり、口座振替依頼書を探したりする手間がなくなったこともメリットの一つです。

鈴木一番大きいのは、各キャンパスで授業料引落口座登録を行うために、今まではバラバラに人を配置していたところを、配置しなくても済むようになったことです。そういった負担がなくなったメリットは、非常に大きいです。

最高教育機関である大学だからこそ、デジタル化を進める必要がある

学費支払いのペーパーレス化による、学内での評判、学生からの声を教えていただけますか?

鈴木基本的に、主に1学生が入学後に一度しか行わない手続きですし、当たり前のようにスムーズに行えるので、利用者の学生から「簡単になった」という声はなかなか届かないですね。逆にデメリットの声の方が届いているのは、仕方のないことだと思います。そこは一定、経年で付き合っていかなければいけない部分だと考えているので、改善に向けた対応を粛々と行っていきたいと思っています。

また以前は入学手続きの一環として口座振替依頼書を回収していましたので、口座登録率はほぼ9割9分という状況でした。それがWeb登録の案内を新入生にお送りし対応をお任せするような形になったことによって、登録率は若干下がっています。この対応として、次年度は手続き期間を変えたり、周知の方法を変えたりするなどの変更も必要だと思っています。

大学全体としてのデジタル施策において、今回のプロジェクトの影響はあったでしょうか?

鈴木今回は学費振り込みの口座登録をデジタル化しましたが、依然として入学試験の手続きはアナログなままです。このように私たちを含め国公立大学ではデジタル化が進んでいない部分が多くある一方で、多くの私立大学においてはネット出願やオンラインによる入学手続等の整備が進んでいると思います。やはり私たちも同様の水準までデジタル化を進め、すべての手続きをネットで出来るような環境を整えていかなければいけないのではないか、と考えております。

逆に言えば、今回のデジタル化は非常にいいチャンスだったと思います。今まで口座登録手続きは当たり前のように対面でチェックして、コロナ禍でも大学に来ていただく手法をとっていましたが、手続きがデジタル化したことで登録のために来学する必要がなくなりました。結局、情報を大学側が取り込めるという環境が整えば、大学全体でも手続きの煩雑さの緩和にはつながる。あくまでも私見ではありますが、多少の工数をかけてでも結果的に大学にも学生にもメリットに繋がることであれば、大学全体として考えていくべきなのかなと思っています。

これだけの規模の大学になったので、新たなシステムを導入するというと、なかなかハードルが高いでしょう。でも、デジタル化が当たり前になっていく時代になるはずですから、結果を踏まえて、大学側も乗り遅れないように研究しなければいけない、と感じています。

またその他の教育機関と比較すると、最高教育機関である大学は輪をかけてデジタル化が進んでいないと感じています。たとえば小学校では電子黒板が導入される例もある中で、大学では昔ながらの黒板を使用していることも多く電子化が進んでいないと感じる部分があります。

大学に進学し、学生が「さすが大学だな」と魅力を感じてもらえるように、大学職員一人ひとりが意識していくことで、大学全体の活性化につながると思います。

池山今後デジタル化が進んでいく中で、システムトラブルもつきものになっていくでしょう。そういったところの対応強化も考えていかないといけないと思っています。同時にこういうデジタル化、IT化に伴い、使う側のマインドも変えていかなくてはならないでしょう。

またデジタル世代の学生であれば変化にも柔軟に対応できるでしょうが、利用する保護者世代や人によっては、「ITは苦手」「システムを変えられても、ついていけない」という方もいらっしゃると思います。そういう方にも安心して使っていただけるようなシステムや方法の周知についても、これから大学側で検討し進めていく必要があると考えています。

PROFILE
※所属および肩書きは取材当時のものです。
  • 大阪公立大学 事務局学務部 学生課 学生課長

    池山 尚高氏

    17年間民間企業にて勤務。2010年4月に大阪市立大学(当時)に転職。
    法人運営本部総務課、医学部附属病院庶務課、大学運営本部キャリア支援室を経て現在に至る。

  • 大阪公立大学 事務局学務部 学生課 学生担当係長

    鈴木 直大氏

    高校教員(保健体育)、私立大学職員を経て、2020年4月に大阪市立大学(当時)転職。
    経済支援・授業料・入学料に関する業務を担当。

  • 大阪公立大学 事務局学務部 学生課 主任

    櫻間 栄実子氏

    2012年 大阪市立大学(当時)入職。
    入学料・授業料に関する業務を担当。

  • 大阪公立大学 事務局学務部 学生課 主任

    黒田 健太氏

    2013年 大阪府立大学(当時)入職。
    入学料・授業料に関する業務を担当。

  • 大阪公立大学 事務局学務部 学生課

    尾田 奈月氏

    2013年 大阪市立大学(当時)入職。
    入学料・授業料に関する業務を担当。

DX
(Digital Transformation)

類義語:

  • デジタルトランスフォーメーション

「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の頭文字をとった言葉。「Digital」は「デジタル」、「Transformation」は「変容」という意味で、簡単に言えば「デジタル技術を用いることによる、生活やビジネスの変容」のことを指す。