SMBCグループがNFTに挑戦。HashPortとトークンビジネスで協業
「Web3」(*1)時代におけるエコシステムの構築を目的として、2022年7月に三井住友フィナンシャルグループと三井住友銀行がトークンビジネスへの参入を発表しました。ブロックチェーンやトークンに精通したHashPortグループをパートナーとして、両グループの知見を融合した「トークンビジネスラボ」を設置し、トークンビジネスの推進に関わる調査・研究および実証実験に取り組むほか、将来的には多くのプレイヤーと連携することにより、国内のトークンビジネスの普及を後押ししていく予定です。
メガバンクが今トークンビジネスに参入する意義とは何か、そして今後どのような取り組みをしていくのか。今回は三井住友銀行東館にて、HashPort 代表取締役CEOを務める吉田世博氏と、三井住友銀行デジタル戦略部の下入佐広光氏に伺いました。
(*1)Web3は ブロックチェーン技術を使い、データを特定の利用者に集めず管理する分散型インターネットの世界。 個人がデータを所有・管理し、自由に交流・取引することができ、従来型インタ-ネットの世界におけるデータの独占や改ざんの問題を解決できると期待されている。
投機商品ではない、新たなNFTの価値を見出す
両社の協業のきっかけを教えてください。
下入佐三井住友銀行はこれまで、金融取引であるデジタル証券を中心とした「セキュリティトークン(*2)」という領域を手掛けてきました。このトークンビジネスで対象となるのは個人のお客さまですが、その関心領域は金融以外にも広がっています。トークンは金融以外の領域でもビジネスに活用できると考え、行内で新しいビジネスのアイデアを議論するようになりました。
NFT(*3)を活用したビジネスは、技術的要件としてブロックチェーンを使うため、パートナーが必要になります。そこでNFTのビジネスを展開する事業者様にお声がけをしたところ、我々のビジネスアイデアを一緒に検討していただけるHashPortグループと意気投合して協業が始まりました。
(*2)ブロックチェーン等の電子的手段を用いて発行する有価証券。セキュリティトークンを活用した資金調達手法STO(SecurityTokenOffering)により、幅広い投資家ニーズに沿った投資機会が広がると見込まれている。
(*3)Non-Fungible Token(非代替性トークン)の略で、ブロックチェーン技術を利用したデジタルデータ。
コピーが可能であるデジタルコンテンツなどに対して、唯一無二の価値を与えるしるし。唯一性のほか、取引可能性、相互運用性、プログラマビリティといった特長がある。
HashPortの吉田さんに伺います。三井住友銀行と初めて打ち合わせをした際の印象を教えてください。
吉田NFTを使ったビジネスについて、非常に具体的な検討が進んでいるという印象を受けました。NFTは今注目のキーワードなので、社内で検討はしているけれども明確なイメージができてないお客さまが多い中で、三井住友銀行さんは初回のミーティングで具体的な資料を用意していたことが非常に印象に残っています。その中には今実際に検討中のアイデアもあり、強いコミットメントとイノベーションへの高い関心を感じました。
その具体的なアイデアについて、お話しできる範囲で教えてください。
下入佐もともとIP(知的財産)を所持している企業をお客さまとして想定しています。例えば自動車メーカーならば、新しい車種を開発するときにカラーやフォルムについてのアイデアを投票できる権限をNFTとして提供するとか、ファンコミュニティにおける特別なサービスとしてNFTが使えるのではと思案しています。いわゆるデジタルコンテンツをトークン化して販売するといった既存のビジネスとは異なるものです。
NFTに精通した吉田さんから見て、このアイデアはいかがでしょうか?
吉田二つの大きな特徴があると思います。まず、三井住友銀行さんの場合はNFTを販売することが目的ではなくて、NFTによってユーザーのエンゲージメントを高めることや、ビジネスを進化させていくことに主眼を置いています。その点が他とは大きく異なります。面白いIPがあるからNFT化して売ってみよう、ではなく、もう一歩踏み込んでNFTの流通によりどんな変化が起こるのかを考えている。そして、三井住友銀行さんのような大企業自身が、NFTの発行を考えていることも非常に画期的です。
金融機関がトークンビジネスに参入する意義
金融機関がトークンビジネスに参入する意義はどんな点にあるのでしょうか?
下入佐いろいろなIPを持つ企業は日本に数多く存在しますが、現状のNFTマーケットではそれらのIPが投機商品のように扱われています。自分たちが大事にしているIPが金融の道具のように扱われることに抵抗感を持つ企業様もある中で、「三井住友銀行のような金融機関が参入することで、NFTの発行をサポートしてくれる環境が生まれるのは安心だ」といったお声も少しずついただくようになりました。
そして、現状のNFTの取引は暗号資産を使うのが一般的ですが、日本の企業にとって暗号資産を使うのはまだまだハードルが高い。そこを法定通貨に連動するもので決済できるようにすると、多くのお客さまとってハードルが下がるわけです。そもそもNFT自体の価格変動もある中で、暗号資産の価格変動まで加わるのが現状です。税制上、暗号資産自体が取り扱いにくいものなので、現状は誰もが簡単に扱えるような環境とは言えません。そういった意味でも金融機関がトークンビジネスに参入する意義はあると考えています。
吉田信用の補完という側面については、まさにその通りだと思っています。我々のお客さまでもNFTに興味を持たれる方は非常に多く、担当者レベルではぜひやりたいということでも、役員決裁で止まってしまうケースが多々あります。NFTをビジネスに取り入れるにあたって、伴走者がスタートアップだけだと心もとない、信頼性に欠けると見なされてしまうのです。一方で弁護士やコンサルティングファームに依頼したとしても、具体的な事業化は難しい。そこで、スタートアップでもコンサルティングファームでも弁護士でもない、身近にいて信頼性が高く、あらゆる相談に乗ってくれる金融機関が伴走してくれるという存在がもたらす意義は大きいと思います。
しかも、今回のプロジェクトの場合、三井住友銀行さん自らがNFTを絡めたチャレンジをするということで、自社が変革の当事者となりノウハウのシェアをしていくという点も非常に説得力があります。
さらに信用の補完に加えて、NFTをはじめとするトークンビジネスが持つ可能性を、三井住友銀行さんのような大手の金融機関が関わることで実現できるのではないかと考えています。
World
Bankのパブリックデータ(*4)、Crypto.comの調査(*5)によると、暗号資産の利用者数は2022年になってやっと、1998年のインターネットのユーザー数に追いつく見込みです。つまり現状の暗号資産の普及具合は、インターネットでいうところの1998年時点にあるわけです。当時のインターネットは、少しパソコンに詳しい方のおもちゃのような側面があったと思うのですが、ご存知のように、その後20年でほぼ全ての産業に取り込まれています。
ブロックチェーンについても、私たちが今見えている可能性は一部に過ぎず、今後さらに増えていくと確信しています。これからのトークンは、現在スマートフォンに入っているアプリのような存在となり、今後は多種多様なトークンが出てくるはずです。
トークンが社会に組み込まれていくためには、現状のインフラや法整備も含めて、深く結びつきながら広がっていく必要があります。すでにアメリカではフィデリティ証券やJPモルガンなどがブロックチェーンの領域に深く投資をしています。日本でも、三井住友銀行さんのリーダーシップの下で同じ波を広げたいと考えています。
(*4)World Bank 調査レポート
(*5)Crypto.com 調査レポート(16ページ目)
さまざまな取り組みを通じて、トークンビジネスの可能性を切り拓く
トークンビジネスと相性が良いのはどういった業界でしょうか?
下入佐業界というよりも、テーマが重要だと思います。三井住友銀行では今、環境に対する取り組みに力を入れていますが、二酸化炭素を排出しない環境価値の証明などにトークンは活用できると考えています。再生可能エネルギーの由来を証明するツールとしても使えるでしょうし、環境問題とトークンビジネスは可能性を感じる分野です。
吉田これは現在進行中の実例ですが、渋谷にあるSMBCグループのオープンイノベーション拠点である「hoops link tokyo」の5周年に合わせて4種類のNFTを発行しました。hoops linkに訪れる度に発行されるNFTのバッジに対して、ユーザーはどんな価値を見出すのか。ここで得た気づきや反省をもとに、更にブラッシュアップしたトークンビジネスを展開していきます。
二社の協業について、今後の展望を教えてください。
下入佐現時点では、今後どのような展開をしていくのかをHashPortさんとともに検討している段階です。今回、新たに設置した「トークンビジネスラボ」を拠点に、トークンビジネスの推進を目的とした調査や研究、実証実験に取り組んでいきます。三井住友銀行独自のトークンの発行も視野に入れているので、これからにご期待ください。
吉田今後さらに多くの事業者様にトークンビジネスを提案するにあたって、PoC(概念実証)を通じてトークンの有用性を明確にしていきます。トークンビジネスはコラボレーションによって大きな可能性が生まれてくるので、どれだけ多くの事業者様とコラボできるかが重要です。NFTの基礎からお話いたしますので、興味を持たれた事業者様がいらっしゃいましたら、ぜひお声がけください。そういった機会を重ねる中で、より良い方向性を見つけていきたいと考えております。
終わりに
また、SMBCグループとHashPortは、新たに2022年12月8日にSoulbound Token(*6)(ソウルバウンドトークン、以下、SBT)の実用化を中心とする新規共同事業の立ち上げに向け、具体的検討を開始する旨の基本合意書を締結(*7)しました。
(*6)SBTとは、譲渡不可能なNFTであり、その特性を活かし、SBTのウォレットを保有する個人の経歴や行動履歴を表すトークンとして発行されます。様々なSBTが保管されることになるウォレットは、そのウォレットの持ち主の姿を示すものとなることから“ソウル”と呼ばれます。
(*7)2022年12月8日付プレスリリース『Soulbound
Token領域におけるHashPortグループとの業務提携検討について』
同12月23日には、『“譲渡不可なNFT”(SBT)がWeb3にもたらす新機軸!
~SMBCとHashPortが切り開く未来~』と称したオンラインイベント(*8)を共同で開催し、「Web3の注目キーワードのソウルバウンド・トークン(SBT)とは?」「今後の新規事業開発においてWeb3をどのように活用するのか?」といったテーマについて、ゲストを招いて語る予定です。このように、SMBCグループとHashPortグループでは安心・安全なWeb3経済圏の発展に向けて検討を続けていきます。
今後ともSBTを含むHashPortとの連携についての記事もDX-linkに掲載していく予定です。
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HashPort 代表取締役CEO
吉田 世博氏
2013年慶應義塾大学法学部卒。
ボストンコンサルティンググループのデジタル事業開発部門であるBCG Digital Venturesにて、東京オフィス最年少のVenture Architect(投資・事業開発担当者)として日本及び中国でのプロジェクトに従事。
2018年に株式会社HashPortを創業。国内の主要暗号資産交換業者にコンサルティング・システムの提供を行う。
その後、2020年にNFT分野の子会社として株式会社HashPaletteを創業。同社は日本国内で初のIEO(当局の許可を受けた暗号資産での資金調達)を成功させた他、日本国内最大級のNFTマーケットプレイスとNFTゲームスタジオをはじめとするNFTエコシステムを運営している。
日本暗号資産ビジネス協会理事、東京大学工学系研究科共同研究員、慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート「暗号資産研究プロジェクト」共同研究メンバーを務めている。 -
三井住友銀行 デジタル戦略部 上席推進役
下入佐 広光氏
1998年にさくら銀行(現三井住友銀行)入行。
金融市場営業部に配属後デリバティブ・信託商品の販売・開発に18年間従事。
2013年に商品開発グループ長として法人向けヘッジ商品や信託を活用した運用商品を開発。
2016年にO&D(オリジネーション&ディストリビューション)ビジネスを推進するために立ち上げられたディストリビューション営業部上席推進役として機関投資家向け運用商品を開発。
2021年からデジタル戦略部に配属、hoops link tokyoにてオープンイノベーション推進、デジタル通貨・セキュリティトークン・NFT・メタバースなど先端技術に関する調査・検討。