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マンション管理業務をデジタルで効率化。社内SNS発・新規事業第一号「マンション管理DXプロジェクト」誕生秘話

現金や紙、印鑑に依存する諸手続きに毎月発生する通帳記帳や振込手続き、年一回の理事長交代手続き……。マンション管理業務には未だアナログなものが多く、数々の手続きに手間を要しています。多くの人が不便に感じていた業務の改善に一石を投じたのは、マンション管理会社を担当する三井住友銀行の行員が社内SNSで発した、一つのアイデアでした。

「マンション管理業務がデジタル化したら、もっと便利になるのではないか」。社内SNSに載せられた問題提起に、多くの賛同の声が集まりました。こうして誕生したのが、今回紹介するマンション管理業界向けの新規デジタルサービスです。

マンション管理業界向けの新規デジタルサービスとは具体的にどのようなものなのか、そして今後の展望について、プロジェクトを推進する、三井住友銀行 法人デジタルソリューション部 部長代理の成田 匡孝氏と澁谷 あゆみ氏(当時)、事務統括部 事務支援グループ 部長代理の佐々木 和彦氏(当時)、トランザクション・ビジネス本部 決済商品開発部 国内商品開発第二グループ 部長代理の中井 瞳氏と、共同開発を行うNTTデータNJKのオリジナルソリューション事業部 営業部 部長の平舘 弘行氏に聞きました。

発端は社内SNSに投稿された一行員のアイデアから

今回のプロジェクトは社内SNSの「みどりの広場(ミドりば)」(以後「ミドりば」と略称する)に投稿されたアイデアから生まれたそうですね。

成田はい、マンション管理会社を担当していた当行の担当者が、日頃お客さまと接する中で感じたマンション管理に関する振込や銀行関連手続き等の負担の大きさに対して問題提起をしたことがきっかけです。その投稿に対して他営業部の部長や本部の企画担当者から賛同の声が多く集まり、より具体的な形にしていこうとプロジェクトチームが立ち上がりました。

主にマンション管理における課題にはどのようなものがあったのでしょうか?

佐々木マンション管理は、マンションの区分所有者によって組織される管理組合によって行われます。他方で、管理業務の幅は会計・大規模修繕計画の立案・補修・定期メンテナンス・清掃等多岐にわたり、多くの場合、管理組合から管理会社に業務委託されています。その中で、例えば銀行に関連するものでは、会計や修繕に起因して発生する、管理組合名義の口座残高の確認や修繕実施後に行う業者への振込などがあります。毎月の通帳記帳や管理組合の理事長が押印したうえで窓口に伝票を管理会社の方が持ち込むなど、往訪・紙といった、手間・時間がかかり、また紛失してしまうリスクもある業務となってしまっています。加えて、1つの管理組合で複数の口座を持つため、管理会社は複数の口座管理が必要となり、また、管理組合理事長は年に1回交代するケースが多く、その度に口座の代表者名を変更する必要もあります。

デジタル化の遅れは、マンション管理業界全体の課題

マンション管理の非金融領域における課題にはどのようなものがありますか?

平舘マンション管理会社の多くはペーパーレス化が遅れていて、未だ紙でのやり取りが主流です。コロナ禍においても在宅勤務が浸透せず、アナログな条件で仕事をしており、他業界と比べてもデジタル化の遅れが顕著です。さらに、コスト削減や特別なシステム投資をするという意識が芽生えにくいという構造的な問題もあります。

今回のプロジェクトで提供する、具体的なサービスについて教えてください。

中井まずは支払いに関するサービスです。これまでも三井住友銀行が管理会社のお客さまにご提供をしてきた「e承認サービス」を、順次機能強化しております。「e承認サービス」は、管理会社が組合に代わって支払手続きを進め、管理組合の承認を経て振込を実行するマンション管理業界に特化したインターネットバンキングサービスです。佐々木が課題として例示した銀行への伝票の持ち込みの背景には、管理会社が管理組合に代わって支払手続きをするケースが多い一方で、通常のインターネットバンキングでの振込は契約者本人が手続きを行わなければいけないというギャップがあります。そこで開発したのが「e承認サービス」です。

今回の機能強化では、管理組合での承認の際に、振込の背景にある請求書の内容をご確認いただける機能を追加するなど、よりスムーズに手続きを進めていただけるように振込実施に付随する機能を追加します。また、管理会社が管理する複数の管理組合の銀行口座が全て一つの銀行の口座というケースは極めて珍しいです。そのため管理会社では出金元となる口座の銀行が変わるたびにインターネットバンキングサービスの再ログイン、あるいは紙とデジタルの併用という業務の複線化が起きてしまいます。そこで出金元を当行だけに限定をしない、複数の金融機関の口座からの振込も可能にした別バージョンの「e承認サービス」のリリースを準備しています。このサービスをご利用いただくことで、複数の銀行口座を管理せずに、「e承認サービス」だけをご利用いただくことで業務を完結できます。

更に、他課題として認識している、通帳記帳、代表者の変更手続きに関する機能の拡張も検討中です。

平舘NTTデータNJKは「FMS-組合会計」というマンション管理業界専用の会計ソフトを提供していますが、2023年下期には、両社の共同開発により「FMS-組合会計」と「e承認サービス」のシステム連携機能を新たにご提供する予定です。「FMS-組合会計」は貸借対象表や収支計算書の作成を行うものですが、マンションの居住者からお金を集める収納代行の仕組みと、銀行送金用の支払データを作成する仕組みを備えております。会計・送金データ作成を行う業務は、実際の振込を行う業務と極めて密接な関係にあり、管理会社の業務フローでは連続したものですが、これまでそれぞれのサービスを操作するため、サービス間を行き来する必要がありました。そこで、「FMS-組合会計」と「e承認サービス」を連携した機能をご提供することで、管理会社が「FMS-組合会計」で作成した支払データを、「e承認サービス」に直接連携し管理組合に承認いただき振込を行うことができます。これによりマンションの維持・保守に必要となる会計処理・支払までの一連の業務をシームレスに対応頂けるようになります。

会計・支払以外では、既にNTTデータNJKが提供している「FMS-デリバリ」というサービスを、両社の持つノウハウ・ソリューションを組み合わせて機能強化します。「FMS-デリバリ」は、居住者が管理会社に紙・郵送などで届け出ていた手続き・現金で行っていた支払等をWeb上で完結させる機能をもつ、マンション管理業務のペーパーレス化を進めるwebサイトです。今回、画面デザインの刷新と、利用できる機能・メニューの追加を行います。具体的にはSMBCグループと連携し、駐車場利用等の手続きで電子契約機能が利用できるようになり、また、管理費等の口座振替関連手続きがwebサイト上で完結できるメニューを追加します。

管理会社も絶賛。より見やすく、より使いやすいデザイン設計

マンション管理DXの検討からリリースまでの期間において、工夫した点や苦労した点を教えてください。

成田今回刷新した「FMS-デリバリ」の画面デザインは三井住友銀行が担当しています。三井住友銀行にはインハウスデザイナーが在籍しており、SMBCダイレクトや銀行アプリのデザインに非常に力を入れています。今回のプロジェクトも実際のマンション居住者の方が利用するWebサイトになるので、デザインパートナーの会社にも協力いただき、より使いやすい画面の実現にこだわりました。

澁谷理想的なデザインを実現するにあたって、サービスの前提を考えるところからディスカッションを重ねていきました。「誰のどのような課題を解決するために、このサービスをつくるのか?」といった認識のすり合わせから始まり、その上で理想的な顧客体験の検討、情報設計、画面遷移やインターフェースを検討していきました。デザイナーの中にはマンション居住者もいますので、デザインのプロとしての意見だけでなく、客観的な視点を持つ一人のマンション居住者としての意見も取り入れています。

(画像イメージ)

澁谷開発の途中でユーザーテストも実施しました。私たちがディスカッションを重ねて磨いてきたアウトプットが利用者の課題解決に繋がっているのか。忌憚のない意見をいただくことで、使う人に寄り添ったサービスに近づけることができました。

平舘三井住友銀行の皆さんが手がけたデザインを、多くの管理会社にプレゼンをしたところ「うちも早く導入したい」といっていただくことが多く、大変好評でした。サイトの構造から、色合いやメニューボタンなどのインターフェースに至るまで、私たちが手がけた旧バージョンとはまったく別物となっています。

成田好評いただいているというのは、すごくありがたいです。ただ、これで完成だとは考えていません。サービスの目的であるデジタル化を進めるためには、お客さまに評価頂いて、使い続けていただけるWebサイトである必要があります。今後、実際に使って頂く上で改善点が出てくると思うので、これからも常に改良を重ねていきます。

社内SNSから生まれた、新規事業第一号プロジェクト

今回のマンション管理DXプロジェクトは、社内SNS「ミドりば」から生まれた初のサービスと伺いました。

成田そうですね。「ミドりば」は人事部が用意した社内のコミュニティ広場のようなwebサイトです。「ミドりば」の中に新規事業の発案を目的にしたコミュニティがあり、そこでのお客さま起点の課題提起がきっかけになりました。その後、投稿内容をもとに、直接お客さまにヒアリングを行うなど実態把握とアイデアのブラッシュアップを行い、グループCDIO(Chief Digital Innovation Officer)の谷崎(当時)をはじめ、グループCEOの太田など経営陣が参加し新規デジタル事業の投資決定を行う場であるCDIOミーティングでプレゼンを行いました。そして、その場で事業化が決定し本格検討が始まりました。「ミドりば」は社員間のコミュニケーションを促進することはもちろんのこと、新規事業のアイデアを生み出し具体的な形にしていくことにも活用できる、ということを示すためにも、第一号のプロダクトとしてしっかりとサービス化を実現して成功に導きたいと考えています。

佐々木マンション管理DXプロジェクトは、日々感じていた非効率な業務を改善したいという一行員の想いから生まれました。最初は一人の声でも社内で賛同の声を集めれば、ここまで大きなプロジェクトに育つことが実証できたので、後続のアイデアも生まれやすくなったと思います。

澁谷このプロジェクトを形にしていく過程でも、「ミドりば」を活用しています。SMBCグループ内にもプライベートにてマンション管理組合で理事長を務めた経験のある人間が複数いますので、初期の段階で「ミドりば」を使って意見をヒアリングしました。マンションの一居住者としてどのようなサービスや機能があれば使ってみたくなるのか、利用者としての立場でのアンケートも実施いたしました。

SMBCグループには多くの従業員がいますから、「ミドりば」を活用することで多様な視点からのアイデアをもとにしたサービスが生まれていくと思います。その第一号として本プロジェクトに関わることができたのは、とても貴重な経験になりました。

では、このマンション管理DXプロジェクトの将来の展望を教えてください。

成田いずれのサービスもレベルアップが始まったところです。今後も予定されている各サービスの段階的な機能拡張をしっかりと進めていきます。今回のソリューションは三井住友銀行とNTTデータNJKさんの二社でそれぞれのサービスを強化する形で共同開発していますが、お客さまには一連の業務体験としてご利用いただけるよう細やかな連携を取っていきます。現時点ではお客さまからいただいた声のすべてを形にできているわけではないので、繰り返しになりますが、引き続きブラッシュアップを重ねていきます。

平舘二社が目指すのは業界の完全なペーパーレス化です。「FMS-デリバリ」によって管理会社と居住者の方でやり取りされる業務は大部分のペーパーレス化を実現しています。一方で、例えば、マンションの維持保全に関わる業者さんからの請求書などは、まだ紙ベースなので、そこも含めてマンション管理に携わるすべての方々が紙から解放されるサービスを目指します。

三井住友銀行さんのような金融機関との協業は弊社としても初めてであり、我々にとっても新しいチャレンジでもあります。他社との差別化にもつながる取り組みなので、ぜひこれからもご一緒できればと思います。

成田とても身が引き締まる思いです。三井住友銀行も多くの管理会社のお客さまとお取引をさせていただいておりますので、業界全体のデジタル化に貢献すべく、NTTデータNJKさんと一緒に取り組んでまいります。

PROFILE
※所属および肩書きは取材当時のものです。
  • 株式会社三井住友銀行 法人デジタルソリューション部 部長代理

    成田 匡孝氏

    2012年大学卒業後に三井住友銀行へ入社。
    中小企業向け法人営業に従事した後、プロジェクトファイナンス等ストラクチャードファイナンス業務に従事。
    グループ外の事業会社への出向を経て、2021年より法人のお客さま向けデジタルサービスの企画・開発業務を務める。

  • 株式会社三井住友銀行 法人デジタルソリューション部

    澁谷 あゆみ氏

    2020年大学卒業後に三井住友銀行へ入行。
    半年間の支店勤務を経て、法人デジタルソリューション部に着任。
    法人のお客さま向けの新しい決済サービス等の企画開発業務に従事。

  • 株式会社三井住友銀行 事務統括部 事務支援G 部長代理

    佐々木 和彦氏

    2005年大学卒業後に三井住友銀行へ入社。
    マレーシアでの事務センター立上げやSMBC信託のシステム合併等に従事した後、2021年よりマンション管理組合事務関連のBPR企画業務を務める。

  • 株式会社三井住友銀行 トランザクション・ビジネス本部 決済商品開発部
    国内商品開発第二グループ 部長代理

    中井 瞳氏

    2015年大学卒業後に三井住友銀行へ入社。
    都内近郊にて個人営業・中小企業向けの法人営業業務を経て、2020年より決済商品開発部。
    現在は法人向け決済商品の企画や諸手続きのペーパレス化業務に従事。

  • 株式会社NTTデータNJK オリジナルソリューション事業部 営業部 部長

    平舘 弘行氏

    1990年日立グローバルライフソリューションズ株式会社へ入社。
    経理部にて債権管理と経理業務に従事。
    2003年住友不動産建物サービス株式会社へ入社。
    マンション会計センターにて管理組合の会計処理業務に従事し、システム刷新PJリーダーを務める。
    2013年株式会社NTTデータNJKへ入社。
    システム導入プロジェクトに携わりながら、導入支援などに従事。
    現在は、営業と新サービスの企画業務に従事。

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