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DXで決算書入力業務時間を大幅削減。「人を中心とした生産性向上」を目指す、農林中央金庫とSMBCバリュークリエーションの挑戦

農林水産業と食と地域の暮らしを支えるリーディングバンクとして1923年に設立され、2023年の12月には設立から100周年を迎える農林中央金庫。JAバンク・JFマリンバンク・JForestグループの全国機関として日本国内の農林水産業をしっかり支えているだけでなく、国内有数の機関投資家としてグローバルな投資活動も行なっています。

国内外に数多くの顧客を持つ農林中央金庫は、当時大きな課題を抱えていました。それが、膨大な数の決算書を、一つひとつ財務システムに入力する業務でした。それぞれフォーマットや項目名・言語の異なる決算書を手作業で入力する業務に追われ、顧客とのリレーションの構築に思うような時間が取りにくいことがありました。この状態を打開したのが、SMBCバリュークリエーションが提供する新サービス「決算書業務効率化ソリューション」です。

高い識字精度と変換精度を誇るなど、SMBCグループのノウハウと経験が蓄積されたこのサービスはどのように生まれ、どのような価値を生んでいるのでしょうか。そして今後の展望とは。開発から運用に携わる関係者の意見を伺いました。

テクノロジーファーストではない、人を中心とした生産性の向上へ

農林中央金庫のコーポレート本部 統合リスク管理部は、どのような業務を担っているのか教えてください。

農林中央金庫は2023年の12月20日で100周年を迎える、第一次産業の発展に資するための金融機関です。我々の特徴として、貸出業務以外にも有価証券運用の比率が大きい点が挙げられます。債券と株式だけでなく、クレジット投資やオルタナティブ投資などを幅広く行っており、そこで得られた収益を第一次産業への安定還元に努めています。

その中で統合リスク管理部は、信用リスクをはじめ流動性リスクや市場リスク、オペレーショナルリスクやサステナビリティリスクなど、リスク管理に関わる幅広い業務を担っています。我々のチームは信用リスク管理の中でも、内部格付制度を担当しています。内部格付制度は与信先の債務償還能力や、デフォルトした場合の回収可能性を評価する仕組みで、農林中央金庫は2017年より先進的内部格付手法を採用しています。

SMBCバリュークリエーションのサービス概要について教えてください。

栗本SMBCバリュークリエーション(以下、バリューC)はRPA(ロボティックプロセスオートメーション)やOCR(光学文字認識)などの先端技術を応用して、お客さまに生産性向上のソリューションを提供する企業です。これまで大規模な生産性向上に取り組んできたSMBCグループのナレッジを活かし、エスアイエス・テクノサービス(以下、SIST)さま、日本アイ・ビー・エム(以下、IBM)さまなどパートナー企業と連携して、お客さまに提供する価値の最大化を目指しています。

我々が標榜しているのはテクノロジーファーストではなく、人とテクノロジーの融合です。それにより組織は選択と集中を圧倒的なスピードで実行することが可能になり、人は人にしか生み出せない価値を発揮できるようになります。私たちが念頭に置いているのは「人を中心とした生産性の向上」です。

多様なフォーマットの決算書を自動入力する、画期的なソリューション

「決算書業務効率化ソリューション」を導入する以前は、農林中央金庫としてどのような課題を抱えていたのでしょうか?

これまでお客さまからいただいた決算書は、主に職員が手作業で財務システムへ入力していました。上場しているお客さまであればある程度の自動反映が可能となる仕組みを導入していたのですが、それでも多くのお客さまについては手入力に頼っており、特に決算シーズンは決算書の入力に業務時間の大半が奪われてしまう状況でした。

「決算書業務効率化ソリューション」のサービス内容や概要について教えて下さい。

栗本従来の手作業による決算書入力では「登録結果のバラツキや入力ミス」、「データの入力・修正の業務負荷」などが課題でした。OCRを導入しても「識字精度」と「変換精度」が低く、結果的に手作業による修正も発生していました。決算書の科目については会社によって千差万別で、「現金」と表記する会社もあれば「預金」や「当座預金」と表記する会社もあります。従来のOCRではその表記のブレに対応することができませんでした。そんな技術面の課題を解決するためにSISTさま、IBMさまと手を組んで開発した新しいサービスが「決算書業務効率化ソリューション」です。

IBMの白潟さんに伺います。「決算書業務効率化ソリューション」の識字精度や変換精度の特徴について教えてください。

白潟大きく三つの特徴があります。一つめが「非定型OCRの採用」です。多種多様な決算書のデータ化においては、大手のフォーマットだけに対応しているOCRエンジンよりも、非定型のフォーマットに対応できる非定型OCRが適しています。フォーマット定義は一から作成することになりますが、バリューCさまとSISTさまが今まで運用してきた実績を活かすことで、初期コストを抑えることができました。

二つめは「科目変換のルール化」についてです。手入力時代は一部の科目変換が属人化されていたので、担当者ごとに揺らぎがありました。そこで統一的な変換が可能になるよう、これまでの知見をもとにユーザのニーズに合った新たな変換定義をつくっています。三つ目が「人による運用」を意識したことです。文字認識や科目変換が自動化できたとしても、最後は人手による修正やチェックが必要です。業務プロセス全体を網羅した運用設計、システム設計を行なうことで担当者が運用しやすいソリューションを実現しています。

「決算書業務効率化ソリューション」は導入前から皆さまのご意見を反映させてブラッシュアップを重ねてきました。今後も運用する中で改善点があれば、随時状況共有を行いながら改善を続けていきます。

業務時間を劇的に削減。より付加価値の高い業務にリソースを割けるように

サービス導入後の業務はどのように変化しましたか?また、現場からの声について教えてください。

藤原私は前職で営業等を含むフロントオフィスに在籍していましたが、農林中金に来たときに感じたのは顧客営業の時間が大切なのに時期によっては財務計数の整理に追われることもあったことです。一次審査などの業務に時間をかけているともいえますが、営業活動により時間をかける余地があるともいえます。

これまで決算書の手入力については一社あたり平均約1~2時間を要していました。これは、都内であれば1~2社の営業先を訪問できる時間です。我々は数千社の取引先があるので、劇的な業務時間の削減につながっています。この時間を新規営業先の開拓や、既存のお客様への訪問など、より付加価値の高い業務に充てられるようになりました。

2022年6月の正式導入から約1年が経過しますが、依頼からデータ化までスピーディーにご対応いただけるので非常に助かっています。農協さんや森林組合さんといった専門用語の多いお客さまの決算書も問題なくデータ化されるので、人手による修正業務もほぼ発生していません。変換精度についてはとても満足しています。さらに海外企業の決算書についても対応いただいており、劇的な業務削減につながりました。

SISTの西村さんに伺います。高い識字精度と変換精度を運用面で実現するにあたって工夫した点を教えてください。

西村今回新たに開発していただいたOCRはAIを活用したAI-OCRですが、システムを上手く活用して機械と人間それぞれの良さを掛け合わせたハイブリッド型の運用を目指しました。IBMさまが開発する上で識字精度、変換精度を向上させるための要件定義をバリューCさまと共に行い、機械と人間双方の得手不得手を切り分けて、それぞれのメリットを活かした効率的な運用を実現しました。

また、弊社はこれまで20年以上、三井住友銀行さまのデータ変換業務に携わりバリューCさまと共に長年ノウハウを培って来ましたが、今回は農協、森林組合、海外企業などへの対応も発生するということで、農林中央金庫さまと科目変換について幾度となく協議を重ね定義を確立しました。さらに最後の人手による修正・チェックをスピーディーかつ正確に行う為、会計知識の豊富なスタッフが業務を担当しつつ、会計基準改定・金融行政指針変更・英文決算書などに対応するための教育体制を整えました。

同じくSISTの池澤さんと玉城さんに伺います。運用面で苦労した点があれば教えてください。

池澤私は主に日本企業をメインで担当しましたが、やはり農漁協・森林組合さまの決算書には初めて見る科目が多数ありました。三井住友銀行さまでは取り扱わない科目のため、バリューCさまと共に会計士を交えて議論しながら運用ルール整備に取り組みました。
また、売上債権・金融負債・キャッシュフローなど財務格付けで重要な内容は特に細かくチェックする運用をしていますので、金融機関の財務データとして相違・欠落が無いような運用体制を構築するなど責任感を持って取り組んでいます。

玉城私は海外企業を担当していますが、日本とは会計基準が異なるため、最初から大きな壁にぶつかりました。本番導入の前に1年ほど時間をかけて国際会計基準を学び、英文決算書にも対応できるようBATIC(国際会計検定)、IFRS検定(国際会計基準検定)などの資格及び知識を活用しながら、ばらつきの無い標準化された運用に落とし込んでいく事に注力しました。今では簡易的な科目であれば見てすぐに日本語に置き換えて迅速なチェックが出来るようになりました。現在は米国会計の学習が中心ですが、今後はグローバルな会計基準も学んでいきたいと思います。

機能の改善を重ね、データ活用による新たなサービス展開も視野に

「決算書業務効率化ソリューション」の今後の展望、もしくはデータを利活用した新たな価値創出や取り組みの展望があれば教えてください。

「決算書業務効率化ソリューション」の啓発活動に力を入れ、より多くの国内外拠点のフロントの皆様の利用促進を図っていきます。機能面については科目変換ルールのマニュアル化を進めると同時に、会計制度の変更があったときには過年度のデータも一括修正できるような仕組みを構築できればと考えています。

データを活用した新たな取り組みについてですが、我々農林中金には第一次産業のお客さまが多くいらっしゃいます。貸出取引がない場合でもつながりが深いお客さまも多いので、将来的にはカバレッジを広げたうえでデータを活用したサービスを実現したいと考えています。

栗本多くの方が本サービスをご活用いただけるよう、今後もRPAなどの自動化技術による効率化を進めていきます。将来的には蓄積した財務データをもとに、人の持つ「優れた勘」たとえば業績変化の予兆やその対応策を示唆するAIモデルも提供することで、農林中央金庫さまの信用リスク管理やガバナンスコントロールの高度化をご支援できると嬉しいです。

弊社はお客さまのノンコア業務を効率化して、コア業務に経営リソースをシフトするお手伝いを本業としております。金融機関にとってますます激化する競争環境の中で、お客さまのニーズは多様化し、新たな課題解決策が求められています。我々はこれからも生産性向上ソリューションをパートナー企業とともにデザインして、お客様の成長を支援し続けてまいります。

PROFILE
※所属および肩書きは取材当時のものです。
  • 農林中央金庫 統合リスク管理部 部長代理

    弘 翔平氏

    2007年入庫。
    法人融資業務、為替ディーラー、円貨資金繰り等を経て、2020年より信用リスク管理業務を担当。

  • 農林中央金庫 統合リスク管理部 調査役

    藤原 諒亮氏

    2012年入庫(中途採用)。
    系統向け貸出業務、法人融資業務等を経て、2019年より内部格付制度関連の業務およびシステムを担当。

  • 農林中央金庫 審査部 部長代理兼審査役

    錦 亮佑氏

    2006年入庫。
    法人融資業務、JAバンクの県域推進業務、全国のJAを対象に自己資本比率関連の指導業務などを担当。
    2019年より内部格付制度関連の業務およびシステムを担当。

  • SMBCバリュークリエーション株式会社 統括本部長

    栗本 雄太氏

    1996年に現三井住友銀行へ入行。
    投融資を通じた企業の再生・海外進出・成長戦略実行の支援経験豊富。
    SMBCグループのシリコンバレー・デジタルイノベーションラボ所長を経て、2022年より現職で企業のDX推進を支援。

  • 日本アイ・ビー・エム株式会社

    白潟 一道氏

    2001年に入社。
    複雑系システム全般の設計・構築・運用の経験を経て、2011年よりデータ利活用を推進する現チームにて、グローバル案件の業務検討からシステム化にわたるご支援を中心に担当。

  • エスアイエス・テクノサービス株式会社 アウトソーシングサービス部

    西村 卓紘氏

    2014年入社、三井住友銀行及び農林中央金庫の財務諸表データ化で主にAI-OCRの運用設計~運用管理を担当。

  • エスアイエス・テクノサービス株式会社 アウトソーシングサービス部

    池澤 有紗氏

    2015年入社より一貫して三井住友銀行の財務データ入力運用全般を担当。
    このノウハウを活かして農林中央金庫の運用ルール整備を担当。

  • エスアイエス・テクノサービス株式会社 アウトソーシングサービス部

    玉城 美桜氏

    2019年入社、三井住友銀行の財務データ入力の経験と自身の英語の語学力を活かして農林中央金庫の非居住(海外)領域を担当。

この記事でご紹介したサービス
RPA
(Robotic Process Automation)

類義語:

定型作業を、ルールエンジンやAI(人工知能)などの技術を備えたソフトウェアのロボットが代行・自動化すること。

OCR
(Optical Character Recognition/Reader)

類義語:

  • 光学的文字認識

手書きや印刷された文字を、文字データに変換する光学文字認識機能のこと。