導入事例
new
更新

DXの二極化が進む地方の現状を是正する。プラリタウンと山形銀行の取り組み

山形県内にある企業のデジタル化を進めるべく、2023年5月にSMBCグループ子会社であるプラリタウンと業務提携をした山形銀行。中堅・中小企業のデジタル化を支援するサービス「PlariTown」を活用して、同行顧客のDX推進と地域の活性化を目指しています。本提携では、同行の顧客に対する、プラリタウンが提携するSaaS企業の紹介や、山形銀行・プラリタウン・SaaS企業が共催(共同制作)するオンラインセミナーの配信などを行います。

県内においてDXに積極的に取り組んできた山形銀行とプラリタウンの提携はどのような形で実現し、どのような将来を描いているのか。山形銀行とプラリタウン、そして三井住友銀行の三社の視点から語っていただきました。

中堅・中小企業の支援から地域のDXを目指す

山形銀行がなぜ取引先法人のIT化支援に取り組むことになったのか、理由を教えてください。

山形銀行 澤村 晃弘氏

澤村当行では、2022年の4月に、当行自身のDXを推進するために「DX Labo」というプロジェクトを立ち上げました。「DX Labo」では「法人向けDX化支援サービスの提供」や「バンキングアプリサービスのマネタイズ化」、「デジタル技術を活用したプロセス改革」といった五つのタスクフォースを掲げて、DXに関わる課題の解決に取り組んでおります。

その中で具体的にどういった形でお客さまのご支援ができるのかを検討していたところ、三井住友銀行さまからプラリタウンさまをご紹介いただいたのがきっかけでした。

「DX Labo」は現場からの声で生まれたのでしょうか?それとも経営陣からの指示でしょうか?

澤村現場で働く行員からDXの必要性を訴える声が高まり、そこに経営陣も同意して形になりました。デジタル化は特定の部署ではなくすべての部署に関わる問題であり、今後はどのような施策をするにしてもデジタル技術の活用が必須となります。そこで企画担当の一人ひとりがデジタルについて個別に考えるのではなく、組織横断的にディスカッションを重ね着実にDXを進めていくことを目的にしています。

そこでプラリタウンとしてどのような提案をしたのでしょうか?

プラリタウン 髙田 謙一氏

髙田まず、私たちの業務内容をご説明します。プラリタウンは中堅・中小企業のデジタル化支援を目指し、現在28社のSaaS企業と協業し、約70サービスをご紹介しています。プラリタウンのセールスメンバーは、お客さまとの面談を通じて課題を特定し、その解決策として最適なソリューションのご提案を行っています。また、経営課題の解決手段としてデジタルを活用する価値を知っていただくために、セミナーを中心とした情報発信にも注力しています。

すでに3年前からSMBCグループのお客さまに対しサービス提供を行ってきましたが、そこで培ったDX推進のノウハウを山形銀行の皆さまにもお使いいただきたいとご提案しました。

「PlariTown」を入り口に、約70の厳選されたSaaSサービスを提供

やはり、地域金融機関にとってDXの推進は一つの大きな課題でしょうか?

髙田私はこれまで30行以上の地域金融機関さまとお話をさせていただきましたが、DXの推進は共通の課題となっています。SaaS企業側も、企業のDXを進めるためにイベントや展示会を開催していますが、DXの必要性を感じていない企業とは接点が作れていません。しかし、これからの時代の成長のためには、どの企業にもデジタルが必要です。
そのため、多くの中小企業、特に経営者層との接点をもつ金融機関が、地域のDXを推進する意義は、非常に大きいと考えます。山形銀行さまは独自に「DX Labo」を立ち上げるなど、DXにかける熱い思いが強く、非常にスピーディーに話が進み、初めての顔合わせからわずか1年という短期間で業務提携に至りました。

澤村我々も含め多くの地域金融機関では、SaaSサービスをはじめとする業務支援ツールはシステム部門などが選んで利用しているので、自分たちでそういったサービスをユーザーとして選んだ経験がほとんどありません。しかし、今は自分たちで日々の業務に使うさまざまなツールを選択できるということをプラリタウンの方々にレクチャーいただいたことも大きかったですね。

実際に「PlariTown」を利用してみての感想を教えてください。

山形銀行 齊藤 文哉氏

齊藤我々がひとつひとつのSaaSサービスを吟味して提携していくことは非常に大変ですが、「PlariTown」を通すことで厳選された数十のSaaSサービスから最適なものをお客さまへご提案できます。このハブとしての機能はありがたいですね。世間にこれだけのサービスが存在する中で、ニーズの高いサービスをお客さまへご案内できるのは魅力的です。

プラリタウン 西脇 友哉氏

西脇銀行には、お客さまの経営課題を解決し、お客さまと共に成長していく使命があります。経営課題を解決し、持続的な成長を続けて行くためには、デジタルを積極的に活用することが必要不可欠です。ただ、経営課題に対する適切なSaaSサービスを見つけることは、お客さま自身にとっても、そのデジタル化支援を推進する地域金融機関さまにとっても大きなご負担がかかると思います。
「PlariTown」を通じて、提携サービスの選定、契約、案件・請求管理といった地域金融機関さまの負担となる手続きを減らすことも私たちのご提供出来る価値と考えており、その点に魅力を感じていただいたことは非常に嬉しく思います。

「PlariTown」は約70のサービスを提供しているとのことですが、いきなりそれだけの数のサービスを目の当たりにすると混乱してしまうことはないのでしょうか?

齊藤その懸念はありましたので、開始時のサービスは選定し、スモールスタートしています。プラリタウンさまと相談しながら、サービス領域を徐々に増やしていく予定です。

澤村最初からお客さまが自由にサービスを選ぶのではなく、課題を発見した時点で「こういった課題やニーズに対応できるサービスはありますか?」といった形でこちらからプラリタウンさま側に依頼することも可能となっています。その点はとても心強いです。

今回の提携を機に、同様のスキームを全国展開

都市部と地方ではビジネスの慣習に差異がありますが、「PlariTown」を地方に導入するに当たってそれらは障壁になりましたか?

髙田確かに都市部と地方ではビジネスの進め方に大きな違いがあります。デジタル化の波も東京から大阪、そこから各地方へと段階を踏んで浸透している実感があります。しかし、どの地域でも、お客さまが抱える経営課題の本質は変わりません。「売上を伸ばしたい」、「離職率を抑えたい」、「社員に楽しく仕事をしてもらいたい…」、そういった社長の想いは同じです。その想いに応える手段としてデジタルが存在することを伝えていきます。

山形銀行と三井住友銀行の業務提携に至るまでの間で、苦労した点や主立ったエピソードがあれば教えてください。

澤村「PlariTown」のサービスをどうやって我々のお客さまのDX推進に活かしていくのか。そこの共通認識を行内で得るのには時間がかかりましたね。「『PlariTown』を導入すればお客さまの課題がすべて解決するのか?」「『PlariTown』で提供されるサービスは当行が既に取り扱っている他のサービスと競合しないのか?」といった声が挙がりました。

そういった疑問への対処は難航しましたが、我々の最終的な目的はお客さまの課題解決にあるので、たとえ競合するサービスがあったとしても「お客さまに良いもの(最適なもの)をご選択いただく」という結論に至りました。そのためにも、我々も紹介できるサービスを揃えておく必要があります。

三井住友銀行 日髙 源太氏

日髙三井住友銀行の公共・金融法人部は、全国の地域金融機関さまを所管し、フロント業務・企画業務両面を担っています。SMBCグループの商品・サービスを地域金融機関さまにご活用いただき、地方自治体等のキープレイヤーも巻き込んで地域経済を共に盛り上げていくことが大きなテーマです。山形銀行さまとは長らく役員同士・現場同士で親しい関係にございまして、2022年6月にデジタル担当役員さまと澤村さまがご来京され、ご提案の機会をいただきました。そこで「PlariTown」を活用した地域のデジタル化推進をご提案しましたところ、深く共感下さり、7月には山形で勉強会も開催させていただいて今回のお話に繋がりました。

山形銀行さまと連携して山形県全体を盛り上げることはもちろん、他の地域でも同様にデジタル化をお手伝いするため、現地の地域金融機関さまと連携していきたいと考えています。

デジタルのリテラシーを高め、地方におけるDXの二極化を是正

今回の提携もスピーディーに進んだとのことでしたが、山形銀行が地域金融機関の中でもDXを率先して推進できた要因はどこにあるのでしょうか?

澤村当行のDXに対する取り組みが不十分だったからこそ、内部から「DX Labo」を立ち上げる声が出てきたのだと思います。行内の業務の中で紙で集計作業を行っていても誰かがその非効率性を指摘しない限り、それが当たり前になり改善はされません。大切なのは気づいた人が声を上げる習慣です。それが大きなDXにつながる第一歩だと思います。

齊藤人間、ひとりで考えられることには限界があります。どうしても凝り固まってしまいますし、同じ部署の人間が集まってもそれは同じです。でも、異なる部署が複数集まれば新しい声も聞こえてきます。基本的なことではありますが、部署の垣根を取り払ってディスカッションを重ねる。そこが重要だと思います。

今回の二社の業務提携について、今後の展望を教えてください。

西脇山形銀行さまとのご連携はまだスタートラインに立ったばかりです。プラリタウンは「明日のビジネス、ここから変えよう。」というコンセプトを掲げています。山形銀行さまと共に、県内のお客さまのデジタル化支援を行い、山形県全体を盛り上げていくパートナーとして、お客さま、山形銀行さまと共に成長し続けたいと思います。

澤村プラリタウンさまとの連携で最も助かったのは、当行の内部に入り込んで一緒に課題と向き合っていただいたことです。具体的な営業店の施策についても伴走しながらご支援いただき、顔の見える良好な関係が続いています。

今後はプラリタウンのパートナーであるSaaS企業について、より行員の理解を深め、お客さまの課題解決に最適なサービスをご提案できるよう人材育成にも取り組んで参ります。営業店の中でも、デジタルに精通してお客さまの伴奏型支援ができる「ICTコンサルタント」を育成中です。

地方にはDXが進んでいる企業もある一方、すべての報告書が紙だったり、口頭ベースのコミュニケーションがメインとなっていたりする企業もあり、二極化が進んでいます。地域を活性化するためにも平均的にデジタルに対するリテラシーを高めて、DXが当たり前の社会を目指していきます。

PROFILE
※所属および肩書きは取材当時のものです。
  • 山形銀行 経営企画部 ハイブリッド戦略室

    澤村 晃弘氏

    2005年4月に山形銀行に入行。営業店や融資部勤務を経て、2018年より経営企画部に配属。2021年より現職。
    長期ビジョンに掲げるハイブリッドカンパニーの実現に向けた企画を担当。

  • 山形銀行 営業企画部 法人企画グループ

    齊藤 文哉氏

    2014年4月に山形銀行入行(上山支店配属)。
    2020年4月より、営業企画部法人企画グループに配属。現在に至る。

  • 株式会社プラリタウン 事業企画・開発部
    (三井住友フィナンシャルグループ 法人デジタルソリューション部兼務)

    髙田 謙一氏

    2008年三井住友銀行に入行。法人営業を経験後、本店各部にて大企業の人事部向けソリューションの企画や、店舗改革のBPRプロジェクトに従事。2021年よりプラリタウンに参画。

  • 株式会社プラリタウン 事業企画・開発部
    (三井住友フィナンシャルグループ 法人デジタルソリューション部兼務)

    西脇 友哉氏

    2016年大学卒業後に三井住友銀行へ入行。リテール部門で資産運用ビジネスに従事した後、中小企業向け法人営業を経験。2022年よりプラリタウンへ参画。当社の事業拡大をミッションに、地域金融機関や外部パートナーとのアライアンスを担当。

  • 三井住友銀行 公共・金融法人部
    (現在はデットファイナンス営業部に異動)

    日髙 源太氏

    2008年大学を卒業後に三井住友銀行へ入行。
    大阪での営業店勤務の後、シンガポールで2年間トレーニーとして日系企業向け営業やソリューション関連部署で勤務。帰国後は約2年間新商品開発部署に携わり、その後2023年3月までの5年半、公共・金融法人部で地域金融機関向け企画及びフロント業務に取り組んだ。
    現在は、シンジケートローン業務のデジタル化、部内の業務効率化、新商品開発等に従事。

この記事でご紹介したサービス
DX
(Digital Transformation)

類義語:

  • デジタルトランスフォーメーション

「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の頭文字をとった言葉。「Digital」は「デジタル」、「Transformation」は「変容」という意味で、簡単に言えば「デジタル技術を用いることによる、生活やビジネスの変容」のことを指す。

ICT
(Information and Communication Technology)

類義語:

  • 情報通信技術

インターネットやパソコン・スマートフォンなどの情報伝達技術を使ってコミュニケーションできる技術を活用すること。

SaaS
(Software as a Service)

類義語:

Software as a Serviceの略。読み方は「サーズ」。ソフトウェアを利用者側に導入するのではなく、提供者側で稼働しているものをネットワーク経由でサービスとして利用することを指す。納期短縮、設備投資削減などの効果がある。