DXサービス
new
更新

【脱炭素経営最前線】Sustanaを活用した、これからの経営のあり方

2023年9月13日〜15日、幕張メッセにて開催された専門展「第3回脱炭素経営 EXPO」。三井住友銀行は特別講演としてパネルディスカッション「脱炭素経営の最前線~先行事例に学ぶ〜」を開催しました。

登壇いただいたのは、三井住友銀行が提供するCO2排出量の算定・削減支援クラウドサービスSustanaを活用し、脱炭素経営のための取り組みをおこなう企業です。いずれの企業も、三井住友銀行が脱炭素社会の実現に向けた取り組み・想いを社会に向けて発信し、脱炭素社会の実現を目指すことを目的として開催したアワード「Sustana ONE PLANET ACTION AWARD 2023」にて表彰をされています。本レポートでは、当日の様子をお伝えします。

海外企業との意識の差を痛烈に感じ、脱炭素経営を決意

脱炭素化に向けた潮流が世界的に加速しています。

今や、世界198カ国のうち150もの国が各国の政府レベルでCO2排出量のネットゼロを掲げており、世界は脱炭素社会実現に向け、歩みを進めていることは疑いようがありません。化石燃料へ依存する社会から脱炭素社会に大きく変化するなかで、対応できない企業は市場から退出を迫られる可能性すら出てきています。

そのような潮流の中、いち早く脱炭素経営を実行し、脱炭素化の取り組みをリードしている企業は、なぜ脱炭素経営に取り組み始めたのか。直面した課題はあるのか。また、SMBCグループの専門性をどのように活かして前進したのか、パネルディスカッションの中で、現場からの生の声をお届けします。

今回のパネルディスカッションでは、旭タンカーの常務取締役 中野 道彦氏に日本総合研究所の環境・エネルギー・資源戦略グループマネジャー 山田 幸美氏が話を聞きました。

山田まずは、なぜ脱炭素への取り組みを始められたのか、具体的な取り組み内容をお教えください。

中野取り組みを始めたきっかけは、海外の方々と話すなかで、自社の認識の甘さに気づいたことです。

旭タンカー株式会社 常務取締役 中野 道彦氏

我々は船を使った輸送業を営んでいますが、トラックと比べると、同じ重さのものを運ぶにしても1/6〜1/7しかエネルギーを使いません。排出するCO2も1/5程度で、そもそも我々は環境に優しい輸送ができていると思っていました。そこからさらにCO2排出量を減らすには、稼働自体を減らすしかなく、お客さまのニーズ次第で運航が決まるビジネスの都合上、自社の努力だけではどうしようもないと考えていました。

しかし、海外のお客さまやパートナーの方々の意識は全然違いました。とくに、ヨーロッパでは、今の国際基準に則った排出量を目指すのみならず、さらに厳しくなることを見越して動いていました。欧州の流れが少し遅れてアジアに来る傾向があるなか「もしかしたら、我々は遅れているかもしれない」と痛烈に感じ、2022年6月に環境サステナビリティの推進をミッションにしたチームを立ち上げました。

具体的には、2022年3月に竣工した世界初のバッテリー搭載のタンカーや、バッテリーと発電機を積んだ船を運航しています。さらにもう1隻、バッテリーで動く電気船の製作にも着手しました。また、縁あって瀬戸内海でブルーカーボン事業を始め、海藻を育てCO2を吸収することにも取り組んでいます。この事業は事業再生、島おこしの一環でもあります。

CO2排出量の見える化で、打ち手を明確化

山田三井住友銀行が提供するCO2排出量の算定・削減支援クラウドサービスSustanaをどのように活用されていますか。

株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 環境・エネルギー・資源戦略グループ マネージャー 山田 幸美氏

中野自社のCO2排出量を見える化し、次の打ち手を考えるために活用しています。

Sustana導入前は、CO2排出量を算出する場合、弊社で運営している142隻の内航船、22隻の外航船それぞれのデータを回収して集計する必要がありました。膨大な手間がかかるため、定期的な算出は現実的とは言えませんでした。Sustanaを活用することで、各船がどのぐらいの排出量なのか自動的に集計され、全社トータルの排出量も月ごとに把握ができるようになりました。

そのおかげで、具体的な数字をベースに「今何トン排出していて、何年以内に何トンにしなければいけない」と議論ができるようになりました。

我々の排出するCO2は、自社にとって削減の対象であることはもちろんですが、お客さまにとってもScope3における削減対象に含まれます。とくに食料品や自動車業界では、輸送時のCO2削減の具体的な目標を掲げている会社もあります。数字をベースに議論ができるようになったことは、これから先も選ばれる会社であり続けるための大きな前進だったと考えています。

Scope3における削減対象 出典 環境省「グリーンバリューチェーンプラットフォーム」

さらなる脱炭素経営の実現に向けて

山田最後に、脱炭素経営の実現に向けた今後の展望を教えてください。

中野船の世界では、CO2排出量に関する目標はどんどん高くなっていて、その流れはもう止まらないでしょう。日本政府は2050年までのカーボンニュートラル実現を目標にしていますが、個人的にはもっと高い目標に引き上げられると予想しています。時代の流れに対応するため、我々としては2つの取り組みを考えています。

1つ目は、燃料そのものから「C(炭素)」を抜くことです。例えば、重油に比べて液化天然ガス(LNG)はCO2の排出量が7〜8割程度に抑えられます。技術的ハードルが高くなりますが、メタノールやアンモニアが使えるようになればさらに炭素の排出量を抑えることも可能です。

2つ目は、船の運航の仕方を見直して輸送効率を上げることです。その場合、我々の都合で燃料の安定供給を止めるわけにはいきませんので、石油会社や輸送先と、どのように協力してCO2を減らしていくのかがテーマになると考えています。

脱炭素社会への移行を加速させる存在に

基調講演後、登壇した三井住友銀行 サステナブルソリューション部 シニアサステナビリティエキスパート 清水 倫氏と、デジタル戦略部 デジタルビジネスエキスパート 長山 奨尉氏に、さらに詳しく話を聞きました。

Sustanaをリリースした2022年5月頃と今とで、脱炭素化に向けた世の中の動きに変化を感じますか?

清水非常に強く感じます。

まず、大きな変化として「裾野の広がり」があります。1年半前は、Sustana導入企業の8割以上が上場企業でしたが、今は中小企業からの相談が増えており、導入企業の3割以上が非上場の中小企業です。

株式会社三井住友銀行 サステナブルソリューション部 シニアサステナビリティエキスパート 清水 倫氏

背景には、外発的な要因と内発的な要因があります。外発的な要因としては、コーポレートガバナンス・コードの改訂や、有価証券報告書でのサステナビリティ開示の義務化があります。とくに上場企業ではサプライチェーン全体でのCO2排出量の算定・削減・公開が社会から要請されるようになり、それに伴って、取引先企業にも排出量の報告を求める気運が高まっています。

内発的な要因としては、脱炭素経営が企業にとってブランディングのような役割を果たすようになっていることがあります。脱炭素への取り組み自体が他社との差別化になり、売上アップや販路拡大につながると考える企業はどんどん増えています。

脱炭素経営を目指す企業にとって、何が壁となることが多いのでしょうか?

脱炭素経営の代表的なステップ「見える化」「削減目標の設定」「削減施策の検討」のそれぞれで壁があります。

「見える化」のなかでも最初に壁となるのは、事業部門別ごとにバラバラのデータを集めることです。部門横断的に協力を得ないとデータが集まりませんが、なかなかうまくいかないケースが多いです。

うまくデータが集められても今度は「削減目標の設定」でつまずく企業も多いです。実現可能で、他社と比べられても遜色のない適切な目標水準の設定は難しく、スムーズに進められない企業も多いです。

「削減施策の検討」では、数ある施策のなかから投資対効果の高いものを選ぶことにハードルを感じる企業が多いです。脱炭素の取り組みは、同じ施策でも業界によって大きく結果が変わります。自社にフィットした施策の検討は難易度が高く、それゆえ迷う企業も多いのだと思います。

最後に、今後の展望について教えてください。

清水脱炭素社会への移行を加速させる存在になりたいと考えています。

そのための最初のステップがSustanaによるCO2排出量の見える化でした。さらに今後は、サプライチェーン全体の見える化に取り組みたいと考えていて、そのためにゼロボード社とCO2排出量データの連携もはじめました。

長山ゼロボード社との取り組みは簡単に言うと、各企業が算定しているCO2排出量データをつなぎ合わせ、サプライチェーン全体、業界全体、社会全体のCO2排出量を見える化するものです。

株式会社三井住友銀行 デジタル戦略部 部長代理 デジタルビジネスエキスパート 長山 奨尉氏

現在は多くの企業がまだ自社の排出量を算定している状況ですが、そこから、さらにどの算定ツールを使っていても、その算定結果としての排出量データがサプライチェーン全体でつながることができる世界をつくれればと考えています。

清水データ連携の取り組みを通じて、少しでも脱炭素の入り口に立てる企業を増やせればと考えています。結果として、SMBCグループの価値向上にもつながると思っています。

今後も脱炭素経営に迷った企業が、最初に相談ができるような存在であるべく、取り組みを進めてまいります。

Sustana ONE PLANET ACTION AWARD 2023を受賞した、旭タンカー、日本パーカライジング、ベネッセホールディングス3社それぞれの取り組みについて、特設サイトより動画およびインタビュー記事をご覧いただけます。

PROFILE
※所属および肩書きは取材当時のものです。
  • 旭タンカー株式会社 常務取締役

    中野 道彦氏

    1988年3月早稲田大学理工学部卒業後、大阪商船三井船舶株式会社(現 株式会社商船三井)に入社。
    LNG船に関するプロジェクトを約15年担当、米国・英国勤務も4年間経験。またドライバルク船、経営企画、燃料、調査など国内外における様々な業務に従事。
    2021年に旭タンカー株式会社 執行役員(経営企画部担当)就任。
    2022年、同社 常務取締役(経営企画部管掌、海外事業部担当)に就任し、経営企画部内に「経営企画・環境サステナビリティ推進チーム」を新設。
    カーボンニュートラルに向け、サステナビリティ方針の策定やマテリアリティの特定、運航船舶の環境負荷低減の為の施策に携わる。

  • 株式会社日本総合研究所
    リサーチ・コンサルティング部門 環境・エネルギー・資源戦略グループ マネージャー

    山田 幸美氏

    2003年3月、早稲田大学商学部卒業。株式会社みずほ銀行に入行。三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社を経て、株式会社日本総合研究所に入社。民間企業への気候変動分野の環境経営や、官公庁への気候変動分野の環境政策等のコンサルティングに従事。注力テーマは、民間企業へのCO2排出量算定及び中長期目標設定、削減施策の検討支援、カーボンクレジット関連プロジェクト支援

  • 株式会社三井住友銀行 サステナブルソリューション部 上席部長代理
    シニアサステナビリティエキスパート

    清水 倫氏

    2007年3月慶應義塾大学卒業(MDGs専攻)。三井住友銀行入行。法人営業部での勤務経験を経て、新規ビジネス開発を行う部署へ異動。2018年東京都とともに政策特別融資「三井住友銀行経営基盤強化」「SDGs経営計画策定支援」を立ち上げ。2020年日本総合研究所とともに、横浜市における地方創生SDGs金融制度の構築を支援。現在はSustanaをはじめとするサステナブルソリューション全般の企画・開発・推進を行う。

  • 株式会社三井住友銀行 デジタル戦略部 部長代理
    デジタルビジネスエキスパート

    長山 奨尉氏

    2011年株式会社三井住友銀行入行。中小企業向け法人営業での7年の経験を経て、新規業務開発を担う部署で複数プロジェクトの推進を経験。2020年からデジタル戦略部にて「Sustana」の企画推進業務に従事。2022年5月Sustanaのサービスローンチ後もプロジェクトマネージャーとして企画・開発・推進を担当。

この記事でご紹介したサービス
カーボンニュートラル
(Carbon Neutral)

類義語:

  • 脱炭素

温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすること。 「全体としてゼロに」とは、「排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにする」ことで、現実には温室効果ガスの排出量をゼロに抑えることは難しいため、排出した分については同じ量を吸収または除去する。

ブルーカーボン
(Blue Carbon)

類義語:

陸上の植物により貯留される炭素をグリーンカーボンと呼ぶのに対し、海洋生物により海洋環境に吸収・貯留されている炭素をブルーカーボンと呼ぶ。ブルーカーボンを吸収・貯留する海洋生態系として、海藻藻場、湿地、マングローブ林が挙げられ「ブルーカーボン生態系」と呼ばれる。