【脱炭素経営最前線】「Sustana」×「Zeroboard」がCO2排出量データを連携。脱炭素分野におけるライバル同士が手を組む理由
企業の温室効果ガス排出量を可視化するサービスとして、日本国内で大きなシェアを誇るゼロボード社の「Zeroboard(ゼロボード)」と、三井住友銀行が提供する「Sustana(サスタナ)」。2023年9月に、両社がCO2排出量データの連携に関する基本合意を締結したことで、両社のサービス間で相互にCO2排出量データを連携することが可能となりました。
従来のビジネスの常識では考えられない、競合となる二つのサービス同士が手を組む背景にはどのような狙いがあったのでしょうか。ゼロボード代表取締役の渡慶次(とけいじ) 道隆氏と三井住友銀行サステナブルソリューション部の清水 倫氏とデジタル戦略部の長山 奨尉氏にお話しを伺い、両社の目指す脱炭素社会の全貌を明らかにします。
国内初、異なるサービス間でのCO2排出量データ連携
今回、CO2排出量データの連携に至った背景と経緯について教えてください。
清水世界の潮流を見ると脱炭素社会の実現に向けた取り組みは待ったなしの状態で、すでに日本を含めた150カ国以上が2050年までにカーボンニュートラルを達成するという宣言をしています。しかしCO2排出量の可視化ができていない企業はまだまだ多く存在しており、上場企業単体での可視化ではく、サプライヤー全体を含めた可視化が求められています。そういった時代背景を受けて、今回のデータ連携に至りました。
渡慶次個社によるCO2排出量の開示はここ1〜2年でだいぶ進みましたが、問題はサプライチェーン全体を含めた排出量の開示です。大手企業は全てのステークホルダーから排出量のデータを調達する必要がありますが、そのときに重要なのはいかにデータの受け渡しをスムーズに行うかです。業界の中でも大きなシェアを誇るSustanaと我々が手を組めば、ユーザー間でのデータ連携がよりスムーズになり利便性が高まります。国内でも複数社がCO2排出量を可視化するサービスを提供していますが、異なるサービス間でのデータ連携は初の試みだと思います。
三井住友銀行さまとは、競合ではありながら2年ほど前から意見交換をしていました。当時はデータ連携の必要性がそれほど高くはありませんでしたが、現在はサプライチェーン全体でのデータ連携に着手し始めた企業が増えており、必要性は高まっています。
今までデータ連携できなかったことで生じていた課題とはなんですか?
長山これだけ多くのCO2排出量を可視化するサービスが存在する状況では、一つのサプライチェーンの中にもさまざまなサービスを使っているユーザーが入り乱れた状態になっていました。例えばCO2排出量の報告単位が年間、四半期、1ヶ月と異なるなど、サービスごとに細かい規格の違いがあります。それぞれの規格の違いにより、排出量のデータのやり取りが煩雑になり、それがデータ連携上のネックになっていました。
渡慶次そういった規格の違いがあると、どのサービスを選べばいいのかを見極めるまで「買い控え」が起こる可能性があります。サービスを導入しても、他社とデータ連携ができずガラパゴス化してしまったらどうすればいいのか。そういった心配があるのかもしれません。けれども、異なるサービス間でデータ連携の流れができればそういった不安からも解消されます。
CO2排出量可視化サービスが他のクラウドサービスと違うのは、「データを外に出す頻度が高い」ところです。例えば会計クラウドサービスなどのデータは、上場企業であればマーケットに開示するものの、積極的に取引先に開示していくようなものではありません。しかし、CO2排出量データは納品先や金融機関、自治体にも開示する必要があります。ですから、多くの開示先との連携が取れるサービスであればそれだけユーザーの利便性は向上します。ユーザー数が増えることでネットワーク効果が発揮され、それだけ価値が高まるわけです。
昨今、サステナビリティを推進する専門部署を設ける企業が増えてきましたが、CO2の算定作業に追われ、本来やるべきCO2の開示や削減にまで手が回っていない方も多くいらっしゃるかと思います。今回の提携によって、CO2の算定から開示、削減までを支援するサービスを導入しやすくすることで、そういった煩わしい作業から解放されて本来の業務に取り組めるようになるでしょう。
企業のCO2削減努力が可視化することで、生まれるメリット
今回のデータ連携により、どのような波及効果が生じると推測していますか?
長山企業単体でCO2の可視化をしたときと、サプライチェーン全体で可視化したときでは、CO2削減におけるリソース配分が変わってきます。例えば、大手自動車メーカーが自社のCO2排出量を算定して具体的な削減に取り組むとなると、やはり自社の排出量を削減するためにリソースを割くことになると思います。しかし、サプライチェーン全体で連携をすることで、これまで見えていなかった物流や製造工程の段階での大きな排出が判明するかもしれません。より効率的なCO2削減が可能になるわけです。
清水企業努力の可視化にもつながるメリットがあります。サプライチェーン全体で排出量データが連携されていないと、その製品を生み出すためにどれだけのCO2が排出されたのかが見えません。データ連携によりCO2の削減に取り組んでいる企業が可視化され、それが評価されることで、脱炭素に取り組むモチベーションの向上になるでしょう。
渡慶次経済的なメリットなしで中小企業の皆さまがCO2削減の取り組みに本腰を入れるには、高いハードルがあります。CO2の削減努力が可視化されることで、消費者や納品先からの評価が上がり自社のシェアが上がるのであれば、より自主的な取り組みが進むでしょう。サプライチェーンのデータ連携により、そういった波及効果が期待できます。
サプライチェーン内でのCO2削減量の可視化を促し、脱炭素社会を実現する
今回のデータ連携をきっかけとした両社の展望、および実現したい社会について教えてください。
渡慶次大手メーカーの工場などは以前より脱炭素の取り組みを実施していますが、サプライチェーン全体を見れば、まだまだ効率的にCO2を削減できる工程があるはずです。どこに費用を投下すれば最も効率的にCO2を削減できるのかが分かれば、社会全体でどこを改善すべきなのかが見えてきます。そのためにもサプライチェーン全体でCO2の算定と可視化をして、データに基づく判断ができるような仕組みを構築していきます。
サプライチェーン全体を見据えて脱炭素経営を実現している企業は金融市場でも高く評価されますし、なにより消費者に選ばれるようになり、企業価値は上がっていくでしょう。「サスナビリティ」という考え方はオープンかつインクルーシブであるのが大前提だと思いますので、これまでのように排他的なビジネスは馴染まないと思います。今回のSustanaとの連携についても自然な流れだと認識していますし、サプライチェーン内でのCO2削減量の可視化を促す、重要な一歩になるでしょう。ゼロボードでは「気候変動を社会の可能性に変える」という理念を掲げていますが、義務だから脱炭素に取り組むのではなく、積極的に取り組んで社会を変えるサポートができればと考えています。
清水SMBCグループはこの春に「幸せな成長の実現」をキーワードにした新しい中期経営計画を発表しました。今までは経済的な利益を支えることが銀行の一つの使命ではありましたが、これからは社会的な価値創出にも貢献していきます。幸せな成長を実現するためには、将来の世代に確かなバトンを渡す必要があります。しかしこのまま温暖化が続いていけば、環境が危ぶまれてバトンを渡すことができなくなるでしょう。
私は日本の再成長の鍵を握るキーワードは「脱炭素」と「DX」にあると考えています。この二つをビジネスの追い風にして、未来の世代にしっかりとバトンをつないでいく。「脱炭素」と「DX」に取り組む企業を応援して、努力や頑張りが報われる社会にしていきたいですね。
長山多くのCO2排出量可視化サービスが存在する中、SMBCグループにとってゼロボードさまはライバル関係にありつつも、一緒にマーケットを大きくしていくパートナーであると認識しています。今回の連携をきっかけにさまざまな企業同士の連携が進み、マーケットが広がっていくことが理想です。中長期的な視点においても、今回の提携は非常に大きな意味のある一歩になったと感じています。
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株式会社ゼロボード 代表取締役
渡慶次 道隆氏
JPMorganにて債券・デリバティブ事業に携わったのち、三井物産に転職し、コモディティデリバティブや、エネルギー×ICT関連の事業投資・新規事業の立ち上げに従事。その後、スタートアップ企業に転じ、電力トレーサビリティや環境価値取引のシステム構築などエネルギーソリューション事業を牽引。脱炭素社会へと向かうグローバルトレンドを受け「Zeroboard」の開発を進める。2021年9月に同事業のMBOを実施し、株式会社ゼロボードとして事業を開始。東京大学工学部卒。
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株式会社三井住友銀行 サステナブルソリューション部 上席部長代理
シニアサステナビリティエキスパート清水 倫氏
2007年3月慶應義塾大学卒業(MDGs専攻)。株式会社三井住友銀行入行。法人営業部での勤務経験を経て、新規ビジネス開発を行う部署へ異動。2018年東京都とともに政策特別融資「三井住友銀行経営基盤強化」「SDGs経営計画策定支援」を立ち上げ。2020年日本総合研究所とともに、横浜市における地方創生SDGs金融制度の構築を支援。現在はSustanaをはじめとするサステナブルソリューション全般の企画・開発・推進を行う。
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株式会社三井住友銀行 デジタル戦略部 部長代理
デジタルビジネスエキスパート長山 奨尉氏
2011年株式会社三井住友銀行入行。中小企業向け法人営業での7年の経験を経て、新規業務開発を担う部署で複数プロジェクトの推進を経験。2020年からデジタル戦略部にて「Sustana」の企画推進業務に従事。2022年5月Sustanaのサービスローンチ後もプロジェクトマネージャーとして企画・開発・推進を担当。