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アジアのスタートアップ投資で、アジア経済発展の先導役に。「SMBC Asia Rising Fund」の狙い

三井住友銀行がベンチャーキャピタルのインキュベイトファンドと共同でシンガポールに設立した「SMBC Asia Rising Fund」。SMBCグループ初となるコーポレートベンチャーキャピタルとして設立されたこのファンドは、中長期的な成長が見込まれるアジアの地場金融機関に出資を行い事業の拡大を図るSMBCグループと、2013年より東南アジアでスタートアップへのシード投資を行ってきたインキュベイトファンドの狙いが合致したことで生まれました。

アジアとともに発展するという想いが込められた「SMBC Asia Rising Fund」はどのように生まれ、アジアでどのような戦略を描いているのか。関係者のインタビューを通じて明らかにします。

スタートアップとの連携でビジネスを創出し、アジア経済の発展に貢献

今回両社が共同で立ち上げた「SMBC Asia Rising Fund(以下、ARF)」の概要について教えてください。

安達ARFは三井住友銀行とインキュベイトファンドが共同で設立したコーポレートベンチャーキャピタル(以下、CVC)です。主に三井住友銀行が出資をして、インキュベイトファンドがマネージャー的な立場で運用を行います。ファンド名に冠した「ライジング」という言葉は、SMBCグループロゴの上昇カーブを描くマーク「ライジングマーク」にも使われており、私たちSMBCグループが事業を行なっていく上で非常に大切にしているものです。これにはアジアのスタートアップとともに新しいビジネスを生み出して、アジアとともに発展するという想いを込めています。今回のCVCの名称にも「ライジング」という言葉を入れています。これにはアジアのスタートアップとともに新しいビジネスを生み出して、アジアとともに発展するという想いを込めています。

ARFはコーポレートベンチャーキャピタルということでSMBCグループとのシナジーを重視しています。投資銘柄としてはフィンテック企業を中心に、レンディング、ペイメント、サプライチェーンファイナンス、デジタルアセットなどの領域にフォーカスしています。

SMBCグループがアジアにおいて掲げている、「マルチフランチャイズ戦略」とはどのようなものでしょうか?

宿澤現在、東南アジアおよびインド地域で4つの金融機関に出資しています。それらを軸に第2、第3のSMBCグループを構築する戦略がマルチフランチャイズ戦略です。インドネシアの「Bank BTPN」は我々の出資比率が9割を超える最重要拠点です。次いでインドの「Fullerton India」の出資比率は約75%で、フィリピンの「RCBC」、ベトナムの「VPBank」「FE Credit」といった金融機関にも戦略拡大を目的に投資しています。

では、ARFを共同で設立した背景について教えてください。

松永もともとSMBCグループとインキュベイトファンドは、国内のベンチャー投資を通じて深いリレーションがありました。我々がLP(Limited Partner、有限責任組合員)としてインキュベイトファンドが見出したスタートアップに投資を行い、バリューアップを図り、上場後も銀行として事業拡大に向けた支援を続けていく。こういった良好な関係を長年にわたって築いてきました。

一方で、私は2年ほど前からシンガポールにおいて、コーポレートのお客様に向けて、「サプライチェーンの最適化」をテーマに、DX支援を行ってきました。当地で、多くのお客様と、サプライチェーンのDXについてディスカッションをする中で、様々な産業毎のバリューチェーンに対して、エンベデッドソリューションの開発を進めていくにあたり、従来の金融サービスの枠を超えたニーズや悩みを聞くことも多く、常々スタートアップと連携し、新しいビジネスモデルをスピーディーに取り入れ、金融・非金融を含めた事業開発に活かしていくことが重要だと感じていました。

SMBCがアジア地域で取組むエンベデットソリューション

そんななか、インキュベイトファンドから従来のLP投資ではないCVC設立のお話をいただいたのです。スタートアップとの協業を通じた事業開発を加速していくためには、とてもいい話だと感じました。

しかし、SMBCグループが主導していくCVCの取り組みは今回が初めてです。そのためにはどんな座組みにするべきか、ガバナンスはどうすればいいのか、目標達成のためになにをするべきか、解決すべき問題は数多くありましたが、約1年という短期間で形にすることができました。

SMBCグループの事業規模に期待を寄せる現地のスタートアップ

現状のアジア経済およびスタートアップの状況について、どのように見ていますか?アジアに着目した理由を教えてください。

宿澤アジアのスタートアップは成長が著しく、我々もマルチフランチャイズ戦略で新しいグループの創出を目指しています。この成長のタイミングを逃してしまうことのないよう、より迅速に成長を後押しできるCVCという形を取っています。

村上プレスリリースを出した2023年5月のタイミングでインドのベンチャーキャピタルやフィンテックのスタートアップと面談をしたところ、非常に好意的な反応をいただきました。やはりスタートアップが独力で一定の規模に事業を拡大するのは難しいので、グローバルに事業展開をしており投資余力もあるSMBCグループがマーケットに参入することを、歓迎していただいています。

松永私も同様の印象ですね。アジアにおいて今回の取り組みはとても好意的に受け入れられています。我々も現地のベンチャーキャピタルやスタートアップとのネットワークがありますが、彼らもSMBCグループの持つアセットを活用して事業を成長させたいという想いがあるので「ぜひ連携しましょう」というお声をいただいています。

村上私たちが投資先にしたいと考えているアジアのスタートアップと話していて感じるのは、SMBCグループのマルチフランチャイズ戦略やグローバルバンクとしての存在感はとても受けがいいということです。インドのスタートアップのサービスが東南アジアに進出したり、インドネシアのサービスがベトナムに進出したりするときには必ず現地のパートナーが必要になります。そこでSMBCグループとの連携を考えているスタートアップは数多くいるでしょう。

日本のリーディングバンクとして、アジアでの投資を成功させる

インキュベイトファンド社として今回のCVCの設立に賭ける想いを聞かせてください。

本間今回の取り組みの大きなポイントは、SMBCグループの巨大なインフラを活用してアジアで社会的なインパクトを残していく点にあると考えています。現地スタートアップからの大きな期待値も感じているところです。スタートアップが独力だけで成長するには限界があります。特にフィンテック企業は、巨大プラットフォームであるSMBCグループと組んでユーザー数を増やし、展開するマーケットを拡大することに大きな期待を持っています。我々としてもその想いに応えるべくチャレンジを続けていきますし、アジアにおける多くのスタートアップもそれを望んでいると感じています。

村上私がインドのビジネスに関わるようになって9年が経過しますが、その間ずっと感じていたことがあります。それは、韓国や中国、欧米圏の企業と比べて日本企業は現地のスタートアップとのコラボレーションを生み出せていないということです。インドや東南アジアで生まれるイノベーションを日本の企業が取り込めてない事実は私たちの投資先を通じても感じていて、戦略投資や大型の事業提携はいつも欧米や韓国の企業でした。そんな忸怩たる想いを抱えていた中、日本のリーディングバンクであるSMBCグループがアジアでCVCを設立して大きな取り組みをはじめることは大きな意味があると感じています。

インキュベイトファンド 本間氏(右)、村上氏(左)

SMBCグループが関わる先には日本の大企業、中小企業が数多く存在します。そのことを考えると我々には大きな責任がありますし、失敗させてはならないというプレッシャーもあります。仮にこのプロジェクトが失敗すると、「やはりインド市場は難しい」「アジアでのスタートアップは時期尚早か」といった認識が広まり、せっかくの気運が弱まってしまうでしょう。私たちがアジアでの投資を成功に導き、インド、東南アジアのスタートアップと連携をして大きな事業を生み出せることを証明していきます。それが日本の国力の強化にもつながり、いずれはアジア全体を盛り上げていくことになると考えています。

海外でのオープンイノベーション成功で、次世代を切り開く急先鋒に

CVCの支援先としてフィンテック以外に注力していきたい業界・分野はありますか?

宿澤基本はフィンテックと既存ビジネスの延長にあるレンディングやトランザクション、Eウォレットなどのビジネスに投資をしていきます。逆に投資を考えていない分野でいいますと、例えば我々は銀行業なのでインシュアテック(保険「Insurance」とテクノロジー「Technology」の造語)には手を出しません。また、Web3の分野などは我々の事業領域とは遠いのでメインの投資先にはなりませんが、成長分野なので布石を打つ可能性はあります。

松永Web3の分野においても、仮想通貨などのデジタルアセットには投資する可能性があります。銀行の既存の考え方にこだわらず、スタートアップ投資に精通したインキュベイトファンドの皆さんの意見を取り入れながら投資をしていきます。

村上インド、東南アジアの国々ではまだまだ金融サービスが個人にも法人にも行き届いていません。この金融における中心領域にも、効率的な投資を続けていきます。奇をてらわずに大きなマーケットを取るのが基本的な戦略です。

最後にSMBCグループ、インキュベイトファンド社のそれぞれの展望を教えてください。

松永日本国内においてSMBCグループは大きな事業規模を持っていますが、海外ではまだまだ入り口の段階ですので、どのように規模を拡大していくかが問われています。アジアでの事業拡大は難しいという認識を取り払い、ARFを現地に根付かせてしっかりと海外での実績をつくっていきます。それが結果としてアジアでの日本企業のプレゼンスを高めることにつながってくるので、覚悟を持ってその試金石になるつもりです。

本間今回の取り組みは海外でオープンイノベーションを成功させるという壮大なチャレンジだと認識しています。大企業とスタートアップの連携は国内でもまだまだ難しいところがありますが、海外で成功させて日本社会に大きなインパクトを与えたいと考えています。

宮城ARFは「We rise with Asia」「We grow with founders」「We pioneer SMBC's future」という三つのミッションを掲げています。約400年の歴史を持つSMBCグループが、アジアだけではなくそのほかの国で働いている人や日本で事業を行なっている人たちにとっても起爆剤となり、次世代を切り開く急先鋒になるという意識を持ってこれからも事業に取り組んでまいります。

PROFILE
※所属および肩書きは取材当時のものです。
  • インキュベイトファンド株式会社

    本間 真彦氏

    慶應義塾大学卒業後、ジャフコの海外投資部門、アクセンチュア、三菱商事傘下のワークスキャピタルを経て、ベンチャーキャピタリストとして独立後2010年にインキュベイトファンドを設立。国内投資に加えて、シリコンバレー、インドおよび東南アジアの海外ファンドの統括を行う。

  • インキュベイトファンド株式会社

    村上 矢氏

    野村證券グループの東京及びNY拠点にて一貫してIT/インターネット領域のスタートアップを担当。多くの企業をIPOへと導く。2014年にインドへと移り、現地にてスタートアップ立ち上げを経験。2016年にIncubate Fund Indiaを設立し、ジェネラルパートナー就任。

  • 株式会社三井住友銀行 アジア・大洋州戦略統括部
    アジアイノベーションセンター 室長

    松永 圭司氏

    1998年三井住友銀行入行。国内外のホールセールバンキングビジネス企画、経営企画等を経て、2021年よりAsia Innovation Centre室長に就任。銀行業務の変革とアジアでの成長をビジョンに掲げ、APAC地域でデジタルを活用したクライアントの事業創出や社内インフラの刷新に取り組む。2023年よりCVC運営を兼務。東京大学卒業、カーネギーメロン大学(MBA)修了。

  • 株式会社三井住友銀行 アジア事業部 グループ長

    宿澤 悠介氏

    2008年三井住友銀行入行。法人営業部、NYトレーニー経験後、CA第一部で機械業界のM&A/アライアンスカバレッジ。2019年アジア事業戦略部に着任し、以後アジアにおけるインオーガニック案件を手掛ける。現在はアジア事業部にてベトナムMF先の経営管理に従事。東京大学大学院(修士)、ロンドンビジネススクール(MBA)修了。

  • 株式会社三井住友銀行 デジタル戦略部 部長代理

    安達 賢記氏

    2013年三井住友銀行入行。日本国内を中心に幅広いステージのスタートアップの成長支援業務に従事し、Fintechを始めとする顧客のデット・エクイティ両面の調達や資本政策の立案を支援。2023年よりシンガポールに移り、本CVC運営を担当。早稲田大学卒業。

  • 株式会社三井住友銀行 デジタル戦略部 上席推進役

    宮城 悟氏

    2006年三井住友銀行入行。中小企業営業、海外営業(中国上海)、大企業営業、グローバル人事戦略等を経て、2022年デジタル戦略部着任。新規事業開発にかかる戦略策定・組織運営や国内外のベンチャー投資業務に従事。ロンドンビジネススクール(MBA)修了。

シリーズ:SMBC Asia Rising Fund

DX
(Digital Transformation)

類義語:

  • デジタルトランスフォーメーション

「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の頭文字をとった言葉。「Digital」は「デジタル」、「Transformation」は「変容」という意味で、簡単に言えば「デジタル技術を用いることによる、生活やビジネスの変容」のことを指す。

プラットフォーム
(Platform)

類義語:

サービスやシステム、ソフトウェアを提供・カスタマイズ・運営するために必要な「共通の土台(基盤)となる標準環境」を指す。

フィンテック
(FinTech)

類義語:

金融(Finance)と技術(Technology)を掛け合わせた造語。銀行や証券、保険などの金融分野に、IT技術を組み合わせることで生まれた新しいサービスや事業領域などを指す。

ベンチャーキャピタル
(Venture Capital)

類義語:

未上場の新興企業(ベンチャー企業)に出資して株式を取得し、将来的にその企業が株式を公開(上場)した際に株式を売却し、大きな値上がり益の獲得を目指す投資会社や投資ファンド。

仮想通貨
(Digital Currency)

類義語:

  • 暗号資産,デジタル通貨

電子データのみでやりとりされる通貨であり、法定通貨のように国家による強制通用力(金銭債務の弁済手段として用いられる法的効力)を持たず、主にインターネット上での取引などに用いられる。

Web3.0
()

類義語:

非中央集権のインターネット。これまで情報を独占してきた巨大企業に対し、デジタル技術を活用して分散管理することで情報の主権を民主的なものにしようとする、新しいインターネットのあり方を表す概念。読み方は「ウェブスリー」。

オープンイノベーション
(Open Innovation)

類義語:

製品開発や技術改革、研究開発や組織改革などにおいて、自社以外の組織や機関などが持つ知識や技術を柔軟に取り込んで自前主義からの脱却し、市場機会の増加を図ること。