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パーセフォニ社に聞く、グローバルで進むサステナビリティ情報開示と、脱炭素社会のファーストコールバンクを目指す三井住友銀行の取り組み

現在、地球の気候変動問題に対してグローバルでの対策が急務となっています。グローバル全体で脱炭素社会を目指すサステナビリティ開示報告の義務化は、今後進んでいくとみられており、気候変動対策に対する企業の取り組みは転換点を迎えようとしています。

三井住友銀行は脱炭素に関するファーストコールバンクを目指し、DXを活用したさまざまな取り組みを進めています。気候変動管理・会計プラットフォームのグローバルリーディングカンパニーである米パーセフォニ社と戦略的パートナーシップを組み、グローバル企業向けのGHG排出量算定サービス「パーセフォニ」を共同で提供しています。

三井住友銀行が提供する、GHG排出量削減のDXソリューション

三井住友銀行では、脱炭素×デジタルソリューションでお客さまの脱炭素支援を目指しています。その取り組みの一例が、企業の温室効果ガス(GHG:Greenhouse Gas)排出量の可視化クラウドサービス「Sustana」です。

Sustanaは国内の算定をメインに行うお客さまにご利用いただいている一方、グローバルにビジネスを展開されるお客さま、金融機関で投融資先の排出量算定を行う必要があるお客さまにはパーセフォニ社のGHG排出量算定ツール「パーセフォニ」を提供しています。パーセフォニ社は気候変動管理・会計プラットフォームのグローバルリーディングカンパニーであり、その豊富な機能セットと高度なデータ分析機能でお客さまの算定を支援し、脱炭素の取組みを加速させます。

三井住友銀行は、2021年秋にパーセフォニ社への出資を行い、2022年から協業をスタートしています。さらに「Sustana」および「パーセフォニ」などのGHG排出量算定ツールを利用する前段階に必要なデータ収集作業においても、AIlganize社と提携し、AIを活用し効率化をするクラウドサービス「Alli for green」を提供しています。

グローバルで進む、サステナビリティ情報開示の義務化

2023年6月末に、ISSB(International Sustainability Standards Board:国際サステナビリティ基準審議会)が国際的なサステナビリティ開示基準を公表しました。この公表は世界の資本市場に影響を与えるものであり、そのインパクトを議論するために、三井住友銀行とパーセフォニはグローバルにおける最新の脱炭素の規制動向やお客さまへの影響に関するセッションを開催いたしました。

セッションをリードしたエミリー・ピアス氏は、SEC(Securities and Exchange Commission:米国証券取引委員会)において、気候関連の開示問題対応、世界中の規制当局や基準設定機関と密接に連携しSECの情報開示の枠組みを発展させていく非常に重要な任務を行っていました。その後、パーセフォニ社に転じ現在は最高グローバル政策責任者として、国際的イニシアティブや世界中の規制当局の動向を踏まえたパーセフォニの方向性を決定し企業の脱炭素を支援しています。

Persefoni AI, Inc. 最高グローバル政策責任者 エミリー・ピアス氏

ピアスグローバルで脱炭素の要求が加速するなか、サステナビリティへの対応の必要性はこれから益々大きくなっていきます。 私はSECに勤務後、パーセフォニでお客さまに脱炭素の規制動向をお伝えし、企業としてどのように対応していくべきかアドバイスをしています。

気候変動を含むサステナビリティにまつわる分野はかつて、社会問題として認識されていました。その後、気候変動は財務リスクと同等であると認識されるようになり、加速度的に気候変動にまつわる情報開示が始まりました。そうしたなか、TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース、以下TCFD)が設立され、TCFDが世界的に1つのフレームワークとして広まり、TCFDが市場で主流を占める一方で、使い方がバラバラで任意の開示にとどまっていました。

そのようなバラバラの状況を統合すべく、2023年6月にISSBはサステナビリティ基準の最終版を公表しました。今後はTCFDに代わりISSBが開示のフレームワークとなり、開示報告が義務化されていきます。ISSBのポイントは以下の3点です。

  • スコープ3含めた全範囲の開示が義務化されること。
  • 財務報告と同時に報告すること。
  • 2025年以降の開示に適用され、日本国内では2026年3月以降の適用が予定されていること。

今まで様々な開示基準が乱立していましたが、今後はISSBがサステナビリティ領域における新しい共通言語になります。投資家だけではなくて、消費者、企業に紐づくバリューチェーンも含めて、比較可能なデータを広めるという1つの目的があります。ISSBが重要視される理由は、市場の安定化を図ることができるという点にあります。
投資家が必要な情報を必要なフレームワークでしっかりと開示できるように、ISSBが役割を果たしていきます。ISSBという共通言語に乗り換えることで、世界の市場でコミュニケーションがスムーズに進むことが考えられます。

今後、ISSBに準拠した規制要件を各国当局で定めることが発表されています。
日本もこの分野ではリーダーとしてISSBの議論をリードしてきており、日本でもISSBを基にした新しい開示規制が定められることになっています。
香港とシンガポールでは、既にこれに準じた形で今後は報告を行うことが発表されており、他の国もISSB準拠に追随する予定です。

一方でEUでは、CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive:企業サステナビリティ報告指令)が2023年1月に発効されています。EUはサステナビリティの分野でリーダーとも言える存在ですが、CSRDは極めて広範囲を対象とした規制になっています。
開示要求項目は排出量算定に留まらずサステナビリティ全般に及び、対象となる企業はEU圏内のみならずEU圏外にも及び、多くの企業が開示を求められます。多くの日本企業にも影響があると想定されています。

一方、米国ではSECがサステナビリティ報告の分野をリードしています。SECのルールはまだ最終的ではなく、2023年の秋以降に決定する予定ですが、訴訟リスクもあるため、スコープ3をどこまで開示要件に含めるかが、政治的な課題となっています。ISSB、CSRDが決定した状況下、これらの規制に準拠が必要な米国企業もあるので、SECの決定を待たずに報告を始める企業が増えています。

今後の重要な点は、開示データの第三者保証が求められることです。規制報告の後、どのような形で企業は開示情報を保証したらよいのか、その基準についてはIAASB(International Auditing and Assurance Standards Board:国際監査・保証基準審議会)という機関が今後まとめることになっています。

企業が開示を求められるのはこうした、規制だけではありません。カナダでは銀行業や証券会社に特化した形で、財務情報と一緒に投融資先やファンドの投資先のGHG排出量を開示していくことが求められるようになりました。今後は金融機関やファンドに特化した形で開示が求められる流れが世界的に起こると考えています。

さらに、今後は開示データの質の向上が求められていきます。これは一次データの取得により精度をあげ削減目標を向上させることです。最終的にはスコープ3のカテゴリ15である投資融資先のGHG排出量をしっかりと算定していくことが必要となってきます。

脱炭素社会実現における、各企業の取り組み

エミリー・ピアス氏は、2023年7月12日、パーセフォニ社とNTTコミュニケーションズが開催した共同イベント「ダイバーシティESGがつなぐ脱炭素社会—リーダーシップを発揮する女性たち—」に登壇いたしました。また、同イベントの後半ではNTTドコモ経営企画部サステナビリティ推進室室長の武田有紀氏のファシリテーションのもと、各企業においてサステナビリティ分野に携わる女性リーダーによるパネルディスカッションも行われました。ここでは各企業の脱炭素の取組について一部をお伝えしたいと思います。

パネリスト
オムロン株式会社 サステナビリティ推進室長 劉 越氏
大日本印刷株式会社 サステナビリティ推進部長 鈴木 由香氏
株式会社デジタルガレージ 堤 世良氏
株式会社日本総合研究所 水野 ウィザースプーン 希氏
株式会社メルカリ 経営戦略室サスティナビリティチーム 石川 真弓氏

脱炭素社会への取り組みをする前と始めた後で、どのような変化が組織や会社に起こりましたでしょうか。

オムロン株式会社 サステナビリティ推進室長 劉 越氏

変化はさまざまな側面で間違いなく起きています。そのなかで、経営レベルでは環境への対応にしっかりコミットしていくことが重要ですし、情報開示も重要です。その上で、事業をしっかりと伸ばさなければいけません。オムロンではこれを機会と捉え、自社のモデル工場で、環境対応と生産効率の両方の向上に取り組んでいます。

株式会社メルカリ 経営戦略室サスティナビリティチーム 石川 真弓氏

石川私たちはIT企業であり、自社工場を持っているわけではないので、実行できる削減アクションは限られています。その上で、会社内で共通の価値観として「環境削減貢献量=ポジティブインパクト」を伸ばしていこうとしています。メルカリの事業を伸ばすことで、循環型社会の実現に繋げていこうと全社で取り組みを進めています。

企業が脱炭素社会への取り組みをしていくにあたり、障壁となりそうなことは何でしょうか。

株式会社デジタルガレージ 堤 世良氏

日本は経営者も含めて、一人ひとりの環境に対する取組みの重要性の認識がまだ薄いと感じています。私たちの生活の質を変えずに、環境負荷の低い取り組みを実行していくことが重要になるでしょう。それを踏まえ、デジタルガレージとしては、ESG分野に関連するイノベーティブなテクノロジーやビジネスモデルを持つスタートアップを発掘して投資をし、社会実装までを伴走しています。

大日本印刷株式会社 サステナビリティ推進部長 鈴木 由香氏

鈴木過去のマネジメントは、事業目標を作成しそれを達成するだけで良しとされていました。しかし現在は、事業戦略と環境対策を結びつけていく必要があります。事業成長と両立させながら、全国60以上の工場の全ての目線をどう合わせていくのか。そして、長年環境対策を実施している企業として、どうやり方を変えていくのか。そこを乗り越えていくことが重要です。そのためには社長や会社の本気度を、現場に入ってどんどん伝えていく。そういう草の根の努力も必要です。

国内外のインパクトエコノミーの成功例があればお教えください。インパクトエコノミーに向き不向きはあるでしょうか。

株式会社日本総合研究所 水野 ウィザースプーン 希氏

水野インパクトエコノミーにおける私自身の解釈をまずお伝えすると、企業でいえば利益追求型よりはソーシャルドリブン型やパーパスドリブン型寄りの企業で、事業を進めればすすめるほどポジティブインパクトが出る企業だと考えています。国内であればメルカリ、海外ではサンフランシスコ発祥のスニーカーブランド、オールバーズなどもその一例じゃないでしょうか。インパクトエコノミーを推進する企業の向き不向きの観点で言うと、可視化や指標化ができている企業は向いていると思います。一方で、可視化する意欲がない企業がインパクトエコノミーを推進するには限界が生じるでしょう。

「Plan for Fulfilled Growth」
お客さまのトランジションの支援を通じた脱炭素社会の実現へ

最後に、グローバルでの脱炭素規制開示が義務化されていくなかでSMBCグループとしてお客さまの脱炭素化をどのように支援していくのか、今後の展望についてSMBCグループでCSuO(チーフ・サステナビリティ・オフィサー)を務める髙梨氏に聞きました。

髙梨今年度、SMBCグループは新中期経営計画で「Plan for Fulfilled Growth(幸せな成長)」を掲げると共に、我々が解決を目指すべき新たな重点課題の一つとして「環境」を定めました。SMBCグループでは、気候変動への取組として、Scope1,2(自社GHG排出量)を2030年までにネットゼロとするほか、2050年までにScope3(ポートフォリオGHG)のネットゼロ実現を掲げています。
脱炭素社会の実現に向けては、削減を支えるトランジションや技術革新に向けたお客さまの取組を金融機関がファイナンスの面から支えることが必要です。三井住友銀行では2030年までの取組目標であるサステナブルファイナンス50兆円を通じて、社会のサステナビリティの取組みを一段と加速させていきたいと考えております。
その他、Sustana・パーセフォニを含め脱炭素化に資する様々な非金融サービスをお客さまに提供することで、脱炭素に向けた取組の第一歩から実現までを多方面からサポートします。
世界の目標である2050年までに自然と共生する世界の実現のため、また、未来の社会への責任として、お客さまのトランジションの支援を通じた脱炭素社会の実現を目指していきます。

PROFILE
※所属および肩書きは取材当時のものです。
  • Persefoni AI, Inc. 最高グローバル政策責任者

    Emily Pierce氏

    パーセフォニ参画前は、米国証券取引委員会(SEC)で、気候関連開示や、各規制当局とSECとの調整を担当。SEC在籍中に、国際証券委員会(IOSCO)の持続可能ファイナンスタスクフォースの共同議長を務め、ISSBの設立に貢献。パーセフォニでは、急速に変化する国際的な気候変動情報の開示規制に準拠することを支援し、規制順守だけでなく、ベストプラクティスを活用した排出量の計算、管理、報告においてクライアントやパートナーをサポート。

  • 株式会社三井住友フィナンシャルグループ 執行役員 グループCSuO

    髙梨 雅之氏

    2022年4月に当社及び三井住友銀行のサステナビリティ企画部長に就任、2023年4月よりグループCSuOを兼務。1993年に住友銀行(現三井住友銀行)に入行し、企画部にて当社初の統合報告書(2016年発行)の作成を主導したほか、三井住友銀行欧州営業第五部共同部長として欧亜中東地域におけるサステナブルファイナンスを推進。現職就任後は、当社グループ全体のサステナビリティ戦略を統括。

DX
(Digital Transformation)

類義語:

  • デジタルトランスフォーメーション

「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の頭文字をとった言葉。「Digital」は「デジタル」、「Transformation」は「変容」という意味で、簡単に言えば「デジタル技術を用いることによる、生活やビジネスの変容」のことを指す。

ダイバーシティ
(Diversity)

類義語:

  • 多様性

集団において年齢、性別、人種、宗教、価値観などさまざまな属性の人が集まった状態のこと。

GHG
(Greenhouse Gas)

類義語:

  • 温室効果ガス

Greenhouse Gasの略称であり、地球の温暖化現象を引き起こす気体のこと。 大気中の温室効果ガス濃度が増加すると、地球表面の温度は上昇するため、地球温暖化の主な原因とされている。

プラットフォーム
(Platform)

類義語:

サービスやシステム、ソフトウェアを提供・カスタマイズ・運営するために必要な「共通の土台(基盤)となる標準環境」を指す。

ESG
(Eivironment, Social, Governance)

類義語:

Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス(企業統治))を考慮した投資活動や経営・事業活動を指す。

TCFD
(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)

類義語:

  • 気候関連財務情報開示タスクフォース

「Task force on Climate-related Financial Disclosures(気候関連財務情報開示タスクフォース)」の略称。企業による気候関連の情報開示と金融機関の対応についての基準を検討する組織。

カーボンニュートラル
(Carbon Neutral)

類義語:

  • 脱炭素

温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすること。 「全体としてゼロに」とは、「排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにする」ことで、現実には温室効果ガスの排出量をゼロに抑えることは難しいため、排出した分については同じ量を吸収または除去する。