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SMBCグループが提供する、法人向け非決済系WebサービスIDを統合。世界でも前例の少ない取り組みに挑戦する「Xnavi」開発秘話

現在、金融だけでなく非金融サービスを含め、さまざまなサービスを提供しているSMBCグループ。これまで法人向けの非決済系サービスがそれぞれ個別に行っていたID管理を一括で管理する取り組みに着手しています。それが2023年8月21日にサービスをリリースした「Xnavi(クロスナビ)」です。

第1弾としてビジネスマッチングサービスである「Biz-Create」と、中堅・中小企業のお客さまのデジタル化を支援するサービスである「PlariTown」のIDを統合し、今後もグループ各社のサービスと連携していく計画です。

実は法人向けのID統合は、世界を見渡しても前例の少ない取り組みでした。そんな状況のもと、法人向けのID統合サービスはどのような経緯で生まれ、開発にはどのような苦労があったのでしょうか。三井住友銀行 法人デジタルソリューション部 部長代理を務める山本 賢治氏と同部署の野寺 祐生氏にXnaviの開発秘話を伺いました。

各サービスのIDとPWを個別で管理することの不便さ

Xnaviの概要について、どのようなサービスなのか教えてください。

野寺XnaviはSMBCグループが提供している各非決済サービスのID体系を1つに集約する法人向けのサービスです。2023年8月21日にリリースして、第1弾としてBiz-CreateとPlariTownを対象にIDの統合を図りました。今後も連携サービスを追加していき、SMBCグループベースでの非決済系サービスのIDと顧客情報の一括管理を可能にしていく予定です。

最初の対象サービスをBiz-CreateとPlariTownに決めた理由を教えてください。

野寺Biz-CreateはWeb上でビジネスマッチングを行いお客さま同士のつながりを促進するサービスで、PlariTownは業務に役立つ情報の配信やデジタル化による業務フローの見直しやデータ利活用といったお客さまのDXを支援するサービスです。双方のお客さまのユーザー像は近く、統合することでより利便性を高めることが狙いです。

株式会社三井住友銀行 法人デジタルソリューション部 野寺氏

Xnaviはどのような経緯で生まれたのでしょうか?

山本数年前より、デジタル化を推進すべくグループとしてさまざまなサービスを提供してきました。一方で、サービスごとにIDを発行していたことにより、お客さまが複数のサービスを利用されるに伴いそれぞれのIDとパスワードの管理が将来的な課題になることが想定されました。さらに、1つのサービスをご利用いただいているお客さまが、2つ目のサービスを申し込むときは再度必要な情報を入力する手間等もあり、それらの課題を解消するためにID管理の基盤となるXnaviの開発がスタートしました。

株式会社三井住友銀行 法人デジタルソリューション部 部長代理 山本氏

法人のID統合という、国内外でも前例の少ない試み

開発からリリースまで、どのくらいの期間を要しましたか?

山本Xnaviは私が当時の部長に提言をして始まったサービスで、リリースまでには約3年を要しました。現状、Yahoo! JAPAN IDやLINEのアカウントがあれば複数のサービスが利用できるように、個人のIDを統合するサービスはすでに存在しているのですが、国内では法人で同様のサービスを提供しているところはほとんどありません。海外を見ても同様で、当時実施していたのはシンガポールのDBS銀行くらいでした。個人と違い法人のケースではさまざまなハードルが存在するので、海外の先進事例の調査や問題事項の洗い出しに多くの時間を要しました。

そこからシステムの開発を進め、試作を作り、大企業から中小企業まで多くのお客さまをまわってヒアリングを重ねました。法律面で課題となる部分を解決すべく弁護士にも協力いただき、最終的に約3年の時間をかけてリリースすることができました。

弁護士にもメンバーに入ってもらったということは、やはり法律面、セキュリティの面でいろいろな課題があったということでしょうか?

山本そうですね。三井住友銀行単体でIDを統合するのではなく、SMBCグループ間でIDの統合を図るため、コンプライアンスの面でもセキュリティの面でも解決しなければならない課題がありました。しかし、そこにこだわるあまりお客さまの利便性を損ねてしまっては意味がありません。セキュリティと利便性の折り合いをどうやってつけるかが、難しかったポイントです。

特に難しかったのはどのような点でしょうか?

山本資金を動かせる決済用のIDと、資金を動かさない非決済のIDを統合するかどうかという問題です。お客さまによって統合したいというニーズもあれば、分けておきたいというニーズもあることが事前のヒアリングで分かっていました。例えば、中小企業であれば経営者が大きな権限を持っているので、決済も非決済も同じIDにしたほうが使い勝手がいいのです。しかし、非決済のIDで万が一情報漏洩などが発生した場合、そこから決済用のIDを悪用されてしまうリスクもあります。そういった点を考慮して、基本的に決済用のIDと非決済のIDの統合は行っていません。

また、大企業の場合は決済の部署とそれ以外の部署が分かれているので、決済用のIDで非決済のサービスを利用するとなると決済部門の承認が必要になってしまいます。そういった問題点がヒアリングをする中で見えてきたので、まずは非決済のIDの統合を進めていくことにしていますが、決済のIDも統合してほしいというお客さまのニーズにも応えられるような動線を設けることも検討していきます。

立案から約3年、紆余曲折を経てリリースに漕ぎ着けたXnavi

さまざまな課題を抱えながら、先進的な事例である法人のID統合サービスを実現できた理由はどこにあるとお考えでしょうか?

山本まずは私自身が立案者として最後まで課題感を持ってやり続けられた点があるかと思います。30社ほどのお客さまにインタビューを行い、200社ほどのお客さまにアンケートベースで課題をヒアリングしました。その中で法人IDの統合に対するニーズがあると確信できたので、最後まで熱意を持って続けられました。

お客さまからいただいた声の中で面白いと感じたのは、1つのサービスを利用されているお客さまが2つ目のサービスを申し込むときに、入力する情報があらかじめ記入されているのを見て「我々のことをすごくよく知ってくれている銀行だと感じました。」というお声をいただいたことです。このように法人IDの統合によって親近感を持っていただけるとは思っていなかったので、とても新鮮な驚きがありました。また、私たちがお客さまに能動的にサービスの紹介をしていなくても、別のサービスに申し込みが入るケースもあり、お客さまの利便性をあげることでサービス申し込みのハードルが下がることを実感しています。

国内外でも同様の事例が少なくXnaviの立案からリリースまで約3年を要したとのことですが、今振り返ってみていかがでしょうか。

山本私自身はサービスの責任者としてやりきった感があります。紆余曲折あって、途中でこれは一度中断したほうがいいのではと思うときも何度かありました。それでも当初の信念を持ち続け、何とかリリースできたときは感無量でした。

あきらめそうになったというのは、主にどのような理由からですか?

山本やはりシステム面ですね。Xnaviは要件が複雑なプロジェクトだったため、開発ベンダーにこちらの要件を正しく伝えることに腐心しました。意見の摺り合わせもありましたが、なかなか折り合いがつかずローンチまでには多くの壁がありました。

「IDの統合」と一言でいうと簡単そうに聞こえるかもしれませんが、法人は個人のような簡単な本人確認ができないという課題があります。皆さんも経験があるかと思いますが、個人の本人確認はメールアドレスに届いたメールの指定のURLをクリックすれば済みます。これが法人になると「所属の確認」と「授権の確認」が必要になってきます。「所属の確認」とは、例えば私が本当に三井住友銀行の従業員なのかを確認する方法です。これはIDとパスワードの入力だけでは確認できないのです。そして、「授権の確認」とは私が三井住友銀行に所属しているとしても、該当サービスを使う権限を持っているのかどうか。これらの情報をどのように確認すればいいのかという点に苦労しました。

SMBCグループのサービスIDや情報を管理するインフラ的存在に

Xnaviは今後、どのようなスケジュールで連携サービスを追加する予定でしょうか?

野寺2024年の3月を目処に機能の改善を続け、それ以降順次サービスを追加していきます。それが中長期的な予定です。Biz-CreateとPlariTownの次に連携する候補先については具体的な進捗状況含め定期的に情報共有をしていて、密に連絡を取り合っており、優先順位をつけて対応していきます。

Xnaviの開発はSMBCグループの今後の取り組みにどのような影響を与えるとお考えでしょうか?

野寺XnaviはSMBCグループのサービスのIDや情報を管理するインフラ的な存在です。今までサービスごとに個別に管理していた情報を一括で管理するようになるので、新規サービス立ち上げ時に、個別のID管理や運用システムの構築が不要となります。これにより開発期間の短縮と費用削減につながるのは大きなメリットですし、よりスピーディーにお客さまのニーズを満たしていくための重要な存在になるはずです。また、お客さまがSMBCグループの各サービスをご利用しやすくなることで、お客さまの事業の高度化・効率化により一層貢献できると考えています。私たちはこれからも顧客の利便性に資するサービスの提供に力を入れてまいります。

PROFILE
※所属および肩書きは取材当時のものです。
  • 株式会社三井住友銀行 法人デジタルソリューション部 部長代理

    山本 賢治氏

    2014年に三井住友銀行へ入行。中小企業への法人営業・グループ会社の経営所管・業務所管を担当後、法人デジタルソリューション部にて新規ビジネス開発・デジタルマーケティングの企画を担当。現在はビジネスクリエイターの肩書で活動。
    2020年8月からXnaviプロジェクトを企画。

  • 株式会社三井住友銀行 法人デジタルソリューション部

    野寺 祐生氏

    2019年、大学院卒業後に三井住友銀行入行。2年間の法人営業に従事した後、2021年4月より法人デジタルソリューション部にて法人向けデジタルサービスの企画・開発業務に従事。2021年10月からXnaviプロジェクトを担当。

関連リンク
DX
(Digital Transformation)

類義語:

  • デジタルトランスフォーメーション

「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の頭文字をとった言葉。「Digital」は「デジタル」、「Transformation」は「変容」という意味で、簡単に言えば「デジタル技術を用いることによる、生活やビジネスの変容」のことを指す。

コンプライアンス
(compliance)

類義語:

  • 法令遵守

「法令遵守」のことを指す。企業や個人が法令や社会的ルールを守ることに加え、企業倫理や社会規範などに従い、公正・公平に業務を行うこと。