DXへの取組
new
更新

【Singapore FinTech Festival 2023レポート】世界最大級のFinTechイベントでSMBCグループが示すアジア地域のデジタル戦略

2023年11月15日〜17日、シンガポールで「Singapore FinTech Festival 2023(以下、SFF)」が開催されました。SFFは、シンガポール金融管理局の主催のもと、2016年から毎年行われている世界最大級のフィンテックイベントです。「政策・金融・テクノロジーの交差点」をうたい、最先端の金融技術やソリューション、それらの社会課題解決に向けた取り組みや、対応する規制の状況や方向性等を披露する場となっています。

今回は150カ国から6万6000人以上が参加し、過去最大規模となりました。今年のテーマは「金融サービスにおけるAIの適用」。3日間で合計970名を超えるスピーカーによる講演・パネルディスカッションが行われたほか、会場には世界中の名だたる企業が展示ブースを構え、官民を越えた世界規模での幅広い交流が行われました。

SMBCグループは、2016年の初回からSFFに協賛しており、今年はプラチナ・スポンサーとして参加しました。SMBCグループでは、アジア地域におけるデジタル戦略推進を目的として、「アジアイノベーションセンター」をシンガポールとインドに設置し、これまでFintechと連携して、「サプライチェーンマネジメントの最適化」を切り口にしたデジタルソリューションの開発や、銀行内部のデジタル化を推進しています。2023年5月には、こうしたデジタルやFintech連携の加速に向けて、アジア地域のスタートアップ企業への出資を目的としたコーポレートベンチャーキャピタルSMBC Asia Rising Fund」を設立しました。

アジアイノベーションセンター室長の松永圭司は、「グローバルバンクとして、海外のデジタル戦略はまだまだ途に就いた段階。特にアジア地域は、金融のデジタル化が加速する中で、大きなチャンスが見込めるとともに、今のままでは近い将来顧客ニーズに対応できなくなる可能性もある、という危機感のもとに取り組んでいる」といった背景とともに、SFFへの継続参加は、「アジア地域におけるSMBCグループのデジタル戦略の今までの成果と、今後のビジョンとコミットメントを、顧客やパートナー等ステークホルダーに幅広く示す活動」と位置付けている、と語る。

本記事では、SFF当日の模様をお届けします。

ESGへの取り組みを推進するために金融機関がすべきこと

ESGを実践する上でテクノロジーが果たす役割について議論されたパネルディスカッション「Tech Infrastructure for ESG- Global Leaders’ Assessment」には、三井住友フィナンシャルグループ 代表執行役副社長の今枝哲郎が登壇しました。冒頭、モデレーターからの「現在、どのようなESGテックのインフラが不足しているか?」という質問に対し、今枝は、ESGの持続的な取り組みには、プランニングに必要となるAIの活用やデータ分析だけでなく、CO2削減に貢献するコアテクノロジーの開発や活用などを含めた具体策が重要である点を強調しました。

また、金融機関の立場から、ESGの要素である「ガバナンス」についても言及しました。「今後5年間、社会が直面するESG上の主要課題とその金融機関への影響として、どのようなものがあるか?」と聞かれると、「銀行にとって、資金使途や資金移動の透明性等のガバナンスは非常に重要。規制はますます厳しくなっており、ガバナンス遵守は一見すると負担増加と見なされる傾向があるが、デジタル技術を駆使してコーポレートガバナンスを効率的かつ効果的なものにすることは、企業にとって競争優位につながると私は強く信じている」と話しました。

最後は、「アジア太平洋地域のスタートアップを対象に、ESGを優先課題とした2億ドルのファンドを立ち上げた。私たちはこの地域にコミットし、社会的価値を創造していく」と、締めくくりました。

三井住友フィナンシャルグループ 代表執行役副社長
今枝 哲郎氏

生成AIを活用した法人向けソリューションを紹介

三井住友フィナンシャルグループ 執行役専務 グループCDIOの磯和啓雄は、金融機関における生成AIの活用について意見を交わしたパネルディスカッション「Generative AI Unleashed: Revolutionizing Finance with Pioneering Use Cases」に登壇しました。

磯和は、SMBCグループでのAI活用の取り組みとして、現在開発中の生成AIを活用した法人向けソリューションを紹介しました。磯和は、本ソリューションのターゲットである企業のCFOが抱える問題として「意思決定のための有意義な洞察を得るためのデータ整理や処理が彼らの最大の課題であり、苦痛のひとつである」と指摘し、「私たちはCFOが十分な情報に基づいた意思決定を行うためのデータ分析・可視化に役立つダッシュボード・テンプレートを提供していく」とサービスの意義を語りました。

また、一般的にAIの活用は、効率化の観点や顧客の裾野を広げるために「標準化」を進めるべきだとの意見が他のパネリストから出る中で、磯和は、生成AIこそカスタマイズが可能だと主張します。「私は、生成AIが『カスタマイズを自動化する』可能性を持っていると期待しています」と言い、生成AIだからこそ、標準化ではなく各顧客が持つニーズに応える最適解を出すようなカスタマイズが可能だと展望を語りました。

「今後5年間に期待できることは何か?金融サービスにおいて生成AIが果たす重要な役割とは何か?」と尋ねられると、銀行内のプロセスの効率化や、金融包摂とサスティナビリティを推進したいと話すとともに、「SMBCグループはアジアにコミットし、あらゆるテクノロジーを活用して、経済的価値とともに社会的価値を創造していく」と、改めてアジア展開への意欲を示しました。

三井住友フィナンシャルグループ 執行役専務 グループCDIO
磯和 啓雄氏

生成AIを活用した新サービスで、CFOの意思決定に貢献

Founders Peak(新コンセプト発表ステージ)では、パネルディスカッションで磯和が紹介した生成AIを活用した企業CFO向け「対話型」デジタルダッシュボードのプロトタイプによるデモを実施しました。
アジアイノベーションセンターでは3年ほど前より、顧客の社内に分散して存在しているキャッシュフローや財務等のデータを統合して、可視化するダッシュボードソリューションを提供してきました。一口に「社内のデータ」と言っても、フォーマットの違いや、国を跨いだ事業では各国の言語や規制も異なるため、企業にとって情報を統合するだけでも簡単ではありません。今回デモを行ったのは、処理に時間のかかるデータ・情報を統合、可視化することに加えて、AIを活用することで、CFOの意思決定に必要な傾向・要因分析を対話型で提供するサービスです。例えば、データを可視化して、「キャッシュフローが悪化している」ということがわかった場合には、要因まで推定し、CFOの観点に立ったネクストアクションを提案します。現在開発が進められており、実用化に向けて精度を上げています。

実際にデモを見たSFFの来場者からは、「これを活用することでデータ分析のスピードを高め、より生産的な業務にフォーカス出来る可能性がある」や「プロトタイプながら、現実的なユースケースのシナリオ立てになっており、非常に実用性が高いと感じた」といった評価のコメントをいただきました。

アジア地域におけるデジタル戦略を加速

展示会場では、プラチナ・スポンサーとしてSMBCグループのブースを設置しました。「SMBC x Tomorrow for Creating Social Value」というブースコンセプトのもと、「Optimize Industry Value Chain」では、SMBCグループがアジアで推進している法人向けの産業バリューチェーンDX支援の取り組みの紹介、「Better Finance for Everyone」では、金融包摂やゲーミフィケーション等新たな金融価値を提供するFintechとの連携事例、「Asia Franchise」では、SMBCグループが進める「マルチフランチャイズ戦略」(成長が見込まれるアジアで、東南アジアやインド地域で地場の金融機関に出資し、リテールを含めたアジア全体でのビジネス拡大を目指す取り組み)のパートナーの取り組み紹介、という3つのテーマで情報発信を行いました。ブース内ではグループ会社やパートナー企業によるプレゼンテーションや、インタラクティブタッチパネルを通じた説明が行われ、3日間で3500名以上が訪れ、大盛況のうちに幕を閉じました。

アジアイノベーションセンター室長の松永圭司は、「今後も、顧客やFitnechパートナーと共に、現在進めてデジタル戦略の事業拡大や、デジタルによるマルチフランチャイズ戦略の加速に向けて、全力で取り組んでいきたい。SMBCグループとして、グローバルも視野に入れながら、アジア地域においてデジタルエッジのプラットフォームをつくっていきたい」と意気込みを示しました。

PROFILE
※所属および肩書きは取材当時のものです。
  • 三井住友フィナンシャルグループ 代表執行役副社長
    三井住友銀行 代表取締役兼副頭取執行役員

    今枝 哲郎氏

    1986年東京大学法学部卒。三井住友銀行に入行後、大企業法人業務・国際業務などに従事。2014年に三井住友銀行執行役員(シンガポール支店長)、2016年に常務執行役員(欧阿中東本部長兼欧州三井住友銀行(社長))、2020年に取締役兼専務執行役員(三井住友フィナンシャルグループ執行役専務グループCCO)、2023年4月に代表取締役兼副頭取執行役員グローバルバンキング部門共同統括責任役員(三井住友フィナンシャルグループ代表執行役副社長)に就任。

  • 三井住友フィナンシャルグループ 執行役専務 グループCDIO
    三井住友銀行 専務執行役員

    磯和 啓雄氏

    1990年東京大学法学部卒。三井住友銀行に入行後、法人業務・法務・経営企画・人事などに従事した後リテールマーケティング部・IT戦略室(当時)を部長として立ち上げ、デビットカードの発行やインターネットバンキングアプリのUX向上などに従事。その後、トランザクション・ビジネス本部長としてBank Pay・ことらなどオンライン決済の商品・営業企画を指揮。2022年デジタルソリューション本部長、2023年より執行役専務 グループCDIOとしてSMBCグループのデジタル推進を牽引。

DX
(Digital Transformation)

類義語:

  • デジタルトランスフォーメーション

「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の頭文字をとった言葉。「Digital」は「デジタル」、「Transformation」は「変容」という意味で、簡単に言えば「デジタル技術を用いることによる、生活やビジネスの変容」のことを指す。

プラットフォーム
(Platform)

類義語:

サービスやシステム、ソフトウェアを提供・カスタマイズ・運営するために必要な「共通の土台(基盤)となる標準環境」を指す。

フィンテック
(FinTech)

類義語:

金融(Finance)と技術(Technology)を掛け合わせた造語。銀行や証券、保険などの金融分野に、IT技術を組み合わせることで生まれた新しいサービスや事業領域などを指す。

ベンチャーキャピタル
(Venture Capital)

類義語:

未上場の新興企業(ベンチャー企業)に出資して株式を取得し、将来的にその企業が株式を公開(上場)した際に株式を売却し、大きな値上がり益の獲得を目指す投資会社や投資ファンド。

ESG
(Eivironment, Social, Governance)

類義語:

Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス(企業統治))を考慮した投資活動や経営・事業活動を指す。