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地場企業の脱炭素化を支援。より高度で精緻なGHG排出量算定を目指し、めぶきFGがパーセフォニを導入

世界的に気候変動問題への関心が高まる現在、各企業において脱炭素への取り組みが進んでいます。特に金融機関は、自社内のGHG(温室効果ガス)排出量のみならず、ファイナンスド・エミッション(投融資先を含めたGHG排出量)を算定していく必要があり、メガバンクだけではなく地域金融機関もさまざまな対応策を検討・実施しています。三井住友銀行は脱炭素に関するファーストコールバンクを目指し、ファイナンスド・エミッション算定の必要がある地域金融機関などのお客さまに対し、パーセフォニ社のGHG排出量算定ツール「パーセフォニ」の提供および導入支援をしています。

2024年2月、常陽銀行と足利銀行をグループ会社に持つめぶきフィナンシャルグループ(以下、めぶきFG)は、ファイナンスド・エミッション算定のためにパーセフォニを導入することを発表しました。「パーセフォニは国内のGHG排出量算定ツールとして唯一、PCAF(※1)からオフィシャルの認定を受けている信頼性の高いツールです」と語るのは、常陽銀行でサステナビリティ推進室長を務める田中正樹氏。茨城と栃木の両県からどのように脱炭素を推進し、どのような展望を描いているのか。めぶきFGの脱炭素の取り組みについて伺いました。

(※1)PCAF(金融向け炭素会計パートナーシップ:Partnership for Carbon Accounting Financials)。金融機関が投融資を介して資金提供した先のGHG排出量(スコープ3カテゴリー15)の算定・開示基準を策定する組織。

ファイナンスド・エミッション算定の高度化を目指し、パーセフォニを導入

めぶきFGにおける脱炭素の取り組みの課題について教えてください。

田中これまでめぶきFGのグループ会社である、常陽銀行と足利銀行のファイナンスド・エミッションの算定は、エクセルを使った手作業で行っていました。しかし、エクセルは人によって使う機能や関数が異なるケースもありますし、特にマクロになると属人性が高くなるのでメンテナンス性が非常に悪く、継続性がありません。担当者が入力した値を検証者が見極めるのも難しく、人事異動により担当者も数年で替わるので、ファイナンスド・エミッション算定にかかるスキルやノウハウの伝承に課題を持っていました。こういった情報の正確性や継続性、そしてガバナンスの面でも課題があると感じ、パーセフォニの導入を決めました。

株式会社めぶきフィナンシャルグループ 経営企画部 担当部長
株式会社常陽銀行 経営企画部 担当部長 兼 サステナビリティ推進室長
田中 正樹氏

パーセフォニの優れている点はどこでしょうか?

田中パーセフォニはPCAFの基準に則って算定ができるツールです。そして、これまでは上場企業のGHG排出量については統合報告書の数値を確認したり、外部のサイトから引用したりする必要がありましたが、パーセフォニはそれらもすべて自動で引用してくれるので、算定作業が大幅に効率化されます。

他社の排出量算定ツールとの比較はしましたか?

田中他社ツールとの比較を行いましたが、パーセフォニは国内で展開している算定ツールとして唯一、PCAFからオフィシャルの認定を受けています。その信頼性も大きかったというのが、導入判断時の大きなポイントでした。もう一つは導入支援をしてくれている三井住友銀行さまの存在も大きいですね。TCFD(※2)、TNFD(※3)など、気候変動への対応と自然環境を保全する取り組みで最先端を走る三井住友銀行さまの知見をお借りできるのは非常にメリットがあります。

(※2)TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース:Taskforce on Climate-related Financial Disclosure)。G20が金融安定理事会(FSB)に要請して2015年に設立された組織。企業は気候変動による「リスク」や「機会」を経営方針に織り込んで事業を行い、統合報告書にTCFDが求める項目の開示が求められる。
(※3)TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース:Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)。GHG排出量の削減を目指すTCFDに対し、生物多様性や自然環境の保全を目的としている。

地場中小企業のお客さまに対し、脱炭素の取り組みを支援

パーセフォニの導入にあたって、実際に算定を行った行員の皆さまの反応を教えてください。

田中実際に算定作業を行う担当者からは、Excelベースで初回の算定を終了して以降「システム化が必要」との声が挙がっていました。これまでは算定作業に時間と労力を取られていたので、効率化されればファイナンスド・エミッションの算定だけではなく、分析にまでリソースを割けるようになります。また、営業部門にはパーセフォニで算定した結果を有効活用し、お客さまのネットゼロを効率的に支援して、エンゲージメントの向上につなげてほしいと思います。

パーセフォニを活用した具体的なGHG削減の取り組みについて教えてください。

藤野めぶきFGでは、2030年にCO2排出量(Scope1、Scope2)をネットゼロにすることを目標として掲げています。金融機関におけるGHG排出量全体の中で、Scope1とScope2が占める割合はほんの1%程度であり、その部分については、順次LEDやEV車、再生可能エネルギーの導入により削減していく予定です。一方で、排出量の大部分を占めるファイナンスド・エミッション、つまり私たちの投融資先であるお客さまの排出量をどのように削減していくのかが今後の課題となります。

株式会社めぶきフィナンシャルグループ 経営企画部 サステナビリティ統括グループ 担当部長
株式会社足利銀行 総合企画部 サステナビリティ推進室長
藤野 直美氏

田中私たちの投融資先であるお客さまは地場の中小企業であるケースが多いので、GHG排出量を削減していかないと大企業のサプライチェーンから外されてしまうリスクがあります。ただ、脱炭素の必要性は知っていても具体的にどう動けばいいのか分からなかったり、算定する人材が足りなかったり、コストの問題を抱えているお客さまが多くいらっしゃいます。我々が支援すべき中堅中小企業の中で、物流業については比較的GHG排出量が大きいセクターですので、脱炭素の必要性を訴求して削減に向けた支援を進めていきたいと考えています。

脱炭素支援で、地場企業がサプライチェーンから外されるリスクを防ぐ

大企業のサプライチェーンから外されてしまうリスクは、どの程度あるのでしょうか。

田中今のところは顕在化しておりませんが、銀行としてはそういったリスクから投融資先のお客さまを守っていくと同時に、サプライチェーンが寸断されると困る大手企業も守っていく必要があると思っています。

藤野現状でそのような危機感を感じている企業は、まだまだ少ないと聞いています。しかし、ある大手自動車メーカーではすでに、サプライチェーンに対し、具体的な数値目標を示しGHG排出量の削減を求めていますし、建設業ではSBT(科学的根拠に基づいた目標設定:Science Based Targets)の認定を受けていないと入札に参加できないなど、より踏み込んだGHG排出量削減に向けた措置がとられはじめています。

藤野常陽銀行と足利銀行がそれぞれ主な営業地盤とする茨城県と栃木県は、隣接しているものの産業構造などの面で異なる部分もあるため、地域の特性に応じた対応や対策が必要となります。

田中栃木県は、自動車産業や航空産業をはじめとする製造業が県内の経済を牽引しています。一方、茨城県は、日立の城下町といわれる地域がある他、鹿島地域には鉄鋼・石油化学メーカーが集積しています。ただ、全国的に見た場合に、この両県は極端な産業の特徴があるわけではなく、本当に平均的でどの産業から優先的に脱炭素に取り組むべきか選定が難しいという面もあります。

脱炭素を含むサステナビリティの分野は非競争分野であり、めぶきFGグループ内だけではなく地域金融機関同士で手を取り合って推進していくことが望ましいと考えています。めぶきFGが単体で取り組んだとしても、お客さまはついてこないし、日本全体のカーボンニュートラルには向かわないでしょう。ここは極力、他行とタッグを組みながら進めていきたいと考えています。私たちは投資家向けの情報開示はもちろん、他行からの要請があれば公開できる情報は積極的に公開していくつもりです。

地域金融機関とメガバンク、それぞれの役割で日本全体の脱炭素を推進

三井住友銀行が地域金融機関と共同で、脱炭素の取り組みを進める意義を教えてください。

榊原私たちと地域金融機関は互いに補完し合える関係です。メガバンクだけで国内の脱炭素の推進をしていくには限度があり、毛細血管のように地域に根差した地域金融機関の皆さまの力もお借りする必要があります。栃木県と茨城県の脱炭素支援を進めていただくことで関東エリア全体、そして国内へと啓発が広がると考えています。

株式会社三井住友銀行 公共・金融法人部 部長代理
榊原 奨太氏

田中上場している大手企業の脱炭素支援は三井住友銀行さまをはじめとするメガバンクが行い、大手企業のサプライチェーンに加わっている地場の中小企業の脱炭素支援は私たちが担当します。この形が他の地域にも広まり、日本全国で脱炭素の取り組みが広がればと思います。

では、今後の展望について教えてください。

藤野めぶきFGにおけるファイナンスド・エミッションの算定はスタートしたばかりであり、議論を重ね試行錯誤の中で算定を進めてきました。私たちの知見だけでは、業種コードの読み替えなど、判断に迷うケースもありましたが、今後は三井住友銀行さまの知見もお借りしながら、ファイナンスド・エミッションの算定をより精緻化・高度化していきたいと思います。地域のお客さまのGHG排出量算定の支援を行うことでお客さまの排出量の可視化が進み、結果としてめぶきFG自体の排出量算定の精緻化にもつなげていくことが大事だと考えています。排出量の算定は、開示することが目的ではなく、お客さまとのエンゲージメントを高め企業の価値向上につなげていただき、最終的には地域の脱炭素化、ひいては国内の脱炭素社会の実現につなげることが目的です。

田中地域金融機関に限らず銀行セクターは、投融資先への脱炭素の啓発と支援を担う存在として期待されています。そのための情報提供やコンサルティングをはじめ、トランジション・ファイナンス(※4)やグリーンローン(※5)など、GHG削減に応じたファイナンスにも力を入れています。

さらに今後、IFRS(国際会計基準)が定める、サステナビリティ情報の開示基準となるS1、気候関連情報の開示基準となるS2が日本にも導入されると、より厳格な排出量の算定が求められ、場合によっては第三者認証なども必要になるでしょう。そのときに備えて、いろいろな観点で検証をしながらマニュアル化、システム化を進めていきます。

(※4)脱炭素社会の実現のために、長期的な戦略に基づいて着実なGHG削減の取り組みを行う企業に対し、その取り組みの支援を目的に資金を供給する新しい金融手法。
(※5)資金使途を、環境や社会課題の解決に資する事業に特定したローン。

PROFILE
※所属および肩書きは取材当時のものです。
  • 株式会社めぶきフィナンシャルグループ 経営企画部 担当部長
    株式会社常陽銀行 経営企画部 担当部長 兼 サステナビリティ推進室長

    田中 正樹氏

    1994年4月に常陽銀行に入行。個人事業部、営業統括部での勤務を経て、2015年より経営企画部に配属。2022年より現職。

  • 株式会社めぶきフィナンシャルグループ 経営企画部 サステナビリティ統括グループ 担当部長
    株式会社足利銀行 総合企画部 サステナビリティ推進室長

    藤野 直美氏

    1988年4月に足利銀行入行。栃木西リテールセンター支店長、下野ブロック個人営業部長を経て、2022年4月より現職。

  • 株式会社三井住友銀行 公共・金融法人部 部長代理

    榊原 奨太氏

    2013年4月三井住友銀行に入行。公務法人営業第一部にて独法・自治体取引を担当後、葛西法人営業部にて産廃処理を手掛ける「資源循環産業」事業者を複数社担当。営業店発「資源循環産業PT」を立上げ。2023年より公共・金融法人部にて地域金融機関と協働・協調による価値創造に従事。

GHG
(Greenhouse Gas)

類義語:

  • 温室効果ガス

Greenhouse Gasの略称であり、地球の温暖化現象を引き起こす気体のこと。 大気中の温室効果ガス濃度が増加すると、地球表面の温度は上昇するため、地球温暖化の主な原因とされている。

TCFD
(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)

類義語:

  • 気候関連財務情報開示タスクフォース

「Task force on Climate-related Financial Disclosures(気候関連財務情報開示タスクフォース)」の略称。企業による気候関連の情報開示と金融機関の対応についての基準を検討する組織。

カーボンニュートラル
(Carbon Neutral)

類義語:

  • 脱炭素

温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすること。 「全体としてゼロに」とは、「排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにする」ことで、現実には温室効果ガスの排出量をゼロに抑えることは難しいため、排出した分については同じ量を吸収または除去する。