本気の産学連携を志向。SMBC日興証券「第5回高専インカレチャレンジ」
SMBC日興証券が開催している「高専インカレチャレンジ」は、全国の異なる高等専門学校(以下、高専)に通う学生がチームを組み、企業が抱える課題の解決を目指すコンテストです。この「高専インカレチャレンジ」は世界に通用するイノベーター人材を創出するエコシステムの構築を目指す取り組みとして2021年より実施し、これまでに全4回開催されています。
2024年4月21日に開幕した「第5回高専インカレチャレンジ」では、全国から過去最多となる高専生29人が参加。本チャレンジでは、SMBC日興証券が抱える「人事」、「企画」、「調査」、「その他全般」の領域におけるさまざまな課題が出題されました。異なる学校の学生同士で9チームに分かれ、起業家を中心とする高専卒業生のメンターから助言を受けながら課題に対するアイデアを競い合いました。
7月15日(月・祝)の成果発表会では、SMBC日興証券の役員や社員が審査員を務めるなか、各チームが2カ月以上にわたって練ってきたアイデアについてオンライン上でプレゼンテーションを行いました。
SMBC日興証券と高専生が、本気の産学連携を志す
まずは事務局を務めるSMBC日興証券の磯野 太佑氏が登場。今回の企画を通じて「本気の産学連携を伝えたい」と述べ、学生たちだけではなく、SMBC日興証券の人たちにも本気で学生たちにぶつかってほしいと思いを語りました。
その後、SMBC日興証券の取締役社長CEOである吉岡 秀二氏からのビデオメッセージが流れました。
「今回のチャレンジに参加しているような若い方がエネルギーを持っていれば、日本の未来は明るいと信じている。挑戦するすべての人を応援しています。明るい未来を一緒に切り拓きましょう」
と高専生たちにエールを送りました。
続く成果発表会では、いずれのチームからも素晴らしい課題解決のアイデアが披露されました。本来、表彰されるチームは最優秀賞、優秀賞の2チームでしたが、審査の結果、今回は特別賞を加えた3チームが表彰されました。3チームのプレゼンテーション内容をご紹介します。
学生ならではのアイデアが満載。受賞チームのプレゼン紹介
最優秀賞 Gチーム「株のこ のこのこ こしたんたん」
最優秀賞を受賞したのは、鳥羽商船高専、東京高専、長岡高専の学生たちで構成されたGチーム。金融商品などの投資に関する知識を楽しみながら学べるすごろくゲーム「株のこ のこのこ こしたんたん」が選ばれました。
まずは貯金をしている高校生が約7割いるというデータを紹介。一方、投資に関心のある人の割合が少ないことを課題とし、Z世代を対象に、投資に興味がない人でも楽しみながらゲームをするうちに投資理解が深まるゲームを提案しました。
調査結果から男性よりも女性のほうが投資への関心が薄いことに着目し、アバターの着せ替え機能などゲーム要素に関心を惹く内容を用意。ロード画面で投資の豆知識を出したり、止まったマス目で「金融教育クイズ」を出したりすることで、ユーザーが投資知識を身に付けられるような工夫も行いました。ポジティブな知識だけではなく、金融規制に関する知識を学べるイベントも用意し、法に逸脱した答えを選んだ場合はゲームの結果に反映するなど、具体的な学びにつながるようになっています。
株価の上がり下がりだけを見るのではなく、実際に起こり得る出来事や、それに影響されるであろう銘柄の値動きを上手くゲームに取り入れることで、臨場感をもって楽しめるのが特徴です。また、ゲームのゴール条件にワークライフバランスを採り入れており、幸福度でも判断されるのがユニークなポイント。株で重要なのは資産運用だけではないことを伝えたいというチームの思いが反映されていました。
優秀賞 Bチーム「SMBC GAME」
優秀賞に選ばれたのは仙台高専、長野高専、香川高専の学生たちによるBチーム。提案したのは、投資を学びながらSMBC日興証券をより身近な存在に感じてもらうことを狙ったスマホゲーム「SMBC GAME」です。
ターゲットはZ世代。「投資への興味があるZ世代は9割。しかし、経験したことのある人は1割」というチームの調査結果を元に、投資への第一歩を踏み出しやすくすることを目指し、投資とメタバースを組み合わせた人生ゲーム式の没入型投資ゲームを考案しました。
ユーザーは、キャラクターの見た目と職業を決め、ゲームをスタート。案内人が出すミッションをクリアしながらゲームを進めていきます。自分が選んだ職業に応じた金額が収入として一定時間ごとに付与され、お金が貯まれば投資にチャレンジ。最初は案内人が丁寧に教えてくれ、始めたあとに株価が大きく変動した際には、通知で知らせてくれる仕組みです。
ゲーム内の通貨「NIKO」は、SMBC日興証券独自のサービス「キンカブ」(※)と連動しており、ゲーム内で得たお金を現実の投資資金として利用することができます。ゲーム内の使い道は、メタバース内の街の発展に絞り、メインテーマからブレないよう工夫しています。メタバースを採用したのは、この街の発展という要素をわかりやすくするため。メンバーが通う学校である香川高専の学生たちにゲームについてのアンケートを取り、「プレイしたくなるのは見た目や内容の作り込まれたゲーム」という意見が出たことも、メタバースを採用した理由の1つということでした。
※キンカブ(金額・株数指定取引)とは、東京証券取引所に上場している銘柄のうちSMBC日興証券が定める銘柄を対象に、「金額」もしくは「株数」を指定して100円から株式投資ができるサービス。100円以上の希望の金額で注文が可能。
特別賞 Cチーム「ニッコー君」
今回、急きょ設けられた特別賞に選ばれたのは、秋田高専、石川高専、長岡高専の学生たちで構成されたCチームです。提案したのは、営業員の営業効率化MAPアプリ「ニッコー君」です。
ネット証券が人気を増すなか、対面取引を主軸としているSMBC日興証券を選んでもらうために何をすべきなのか、強化していくべきなのかという疑問を入り口に、事務局や現場の社員たちと会議や質疑応答の場を重ねてきたCチーム。その結果、「ネット証券にはない訪問営業の効率化」「リテールのモチベーション、営業スキルの向上」「主要顧客である高齢者へのアプローチ強化」というアイデアが出され、それぞれの解決策を考えました。
1つ目の「訪問営業の効率化」に対しては、位置情報システムによる名前、年齢、口座番号といった顧客情報の可視化と議事録の自動作成を提案。2つ目の「営業スキルアップ」に対しては、取引の損益の可視化、支店ごとの予算達成ランキングの表示を提案し、「高齢者へのアプローチ」に対しては、高齢者顧客の認知症判定を提案しました。
プレゼンテーションでは、これらの機能を持たせたアプリ「ニッコー君」のデモにより、画面の見え方や使い勝手をわかりやすく紹介しました。最後に、「ニッコー君」の1番の強みとして時間短縮について説明。現在、訪問営業の議事録をまとめるのに1件平均20分かかっているところ、「ニッコー君」を活用すると1件約5分で済むようになり、訪問先の増加やお客さまへのフォローに浮いた時間を回せるようになることをアピールしました。
高専インカレをオープンイノベーションの場に
最後に、事務局の磯野 太佑氏にあらためて本大会について伺いました。
学生たちのアイデアや大会全体についてどうご覧になりましたか?
今回のテーマは「金融」と学生にとってはなじみの薄いテーマでしたが、各チームとも積極的に社員に質問をしたりしながら証券会社の提供価値や日常業務について分析して本質的な課題をあぶり出していたと思います。
最終発表では、ゲームを活用したり、Chat GPTを駆使したり、メタバースやWeb3の要素を含めたりと、保守的な金融のイメージを打破するような柔軟なアプローチで高いクオリティの提案が見られたと感じています。
印象に残った学生のアイデアはございましたか?
個人的に印象に残ったのは、ChatGPTのAPIを活用して人生ゲームのイベントを独自に生成するAIを作ったチームですね。自身の創造したイベントを入力すると、AIが自動的に経済全体や個社別の株価インパクトをシミュレーションし、アナリストレポートのような文章で内容を解説してくれる仕組みがとても興味深かったです。
個社別にどういったイベントにどのように株価が反応するか過去のデータをAIに学ばせて作成したもので、短期間で実装する技術の高さだけでなく、シミュレーション結果も示唆に富む内容で、証券会社のChat GPTの活用可能性を、リアリティをもって示してくれた提案として印象に残りました。
過去の大会との違い、変化はございましたか?
今回は当社が課題提供企業だったこともあり、普段他社様が感じられているであろう感覚も当事者として体験できました。それに加え、今後の高専とのオープンイノベーションによる本気の産学連携の場として、当社が考える一通りのチャレンジも試せたことが今までとは大きく違った点だと感じています。
たとえば当社からはすべての提案に関する意思決定レイヤーの社員を審査員に配置して最終発表会に臨み、最終発表会の内容を他社にも公開しました。
あとはリピーターが8人といつもより多かったことです。これまで事務局としてインカレチャレンジを運営してきたなかで、学生とのコミュニケーションが私たちにとっての財産ですが、その成果が目に見える形で確認できる機会はそう多くないので、非常に嬉しかったですし、各チームに経験者を配置できることで提案のレベルも底上げされたように感じました。
今後の展望、改善点についてお聞かせください。
高専インカレチャレンジをより柔軟なオープンイノベーションの場にしていきたいですね。複数の企業で課題を一緒に考えて出すなど課題提供する側のオプションを広げたり、開催までの流れや開催期間中の取り回しをより見える化・仕組み化できたりすると、今後の展開を見せやすくなると感じています。
Web3などの高専で習わない最先端技術についても、スタートアップのご協力をいただいて毎回意識的に触れてもらうようしていますが、期間中の単発のワークショップなどでは実装できるレベルでのスキル習得は難しく、なかなか実装まで行くチームが出てこないのが現状です。今後は、別で開催している高専インカレワークショップ(※)なども併行して強化していきたいと思っています。
※SMBC日興証券が主催する「高専インカレチャレンジ」の姉妹イベント。テーマを決めて社会人と学生が対等な立場で学ぶワークショップ
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SMBC日興証券株式会社 Nikko Open Innovation Lab長
磯野 太佑氏
2012年SMBC日興証券に入社し、以来8年間投資銀行バンカーとして、国内外のM&A案件および資金調達案件を多数経験。社長直轄の社内公募プロジェクト「Nikko Ventures」にて採択され、オープンイノベーションチーム「Funder Storm」を立ち上げる。証券会社のリソースを活用しながら日本の未来を変革するエコシステムを構築する活動を推進しており、次世代イノベーター人材育成プログラム「高専インカレチャレンジ」(2021年)、ふるさと納税と連携した寄附型クラウドファンディング新スキーム(2022年)、Web3とアートを活用した街づくりを考える「NEO KYOTO NFT ARTs」 (2022年)、Web3を活用して日本の文化芸能を支援する Proof of Japan株式会社(2023年)の立ち上げなどを行う。