コンタクトセンターの併用でお客さまの困りごとを解決する、法人向けインターネットバンキング「Web21」のチャットボット

SMBCグループが提供する法人向けインターネットバンキング「Web21」。PCやスマホアプリを利用することで「振込・振替」「総合振込 給与・賞与振込」「税金・各種料金の払込」などが可能となるサービスで、中小企業から大企業まで、多くの企業に利用されています。
2019年からは利用者からのお問い合わせに対応するチャットボットを設置。これによって自己解決いただけるお客さまが増えた結果、コンタクトセンターにお電話いただいたお客さまに対して、丁寧に寄り添った対応ができるようになっています。
今回はAIを活用したチャットボットの開発背景と工夫した点、さらに今後の展望について、法人eビジネス部と決済商品開発部の関係者に聞きました。
法人インターネットバンキングにおけるお客さまの困りごとを、チャットボットで解決
まず、法人インターネットバンキング「Web21」の特徴と他行のサービスと比較して秀でているポイントについて教えてください。
岡山挙げられるのは、操作性や分かりやすさを意識したデザインです。少子高齢化が進み、情報過多の時代には重要な情報をわかりやすく伝える「ユニバーサルコミュニケーションデザイン(UCD)」が企業には求められています。Web21は2021年にUCDを意識してホームページ画面を刷新し、UCD協会(UCDA)より情報が分かりやすいとして、UCDAアワードという賞をいただきました。また、2023年度にはアプリのデザインもお客さまに触れてもらいながら、操作性の確認→改善→再度インタビューというサイクルを繰り返し、UI/UXの見直しを実施しました。その結果、アプリのストア評価を1.6→4.5点へ向上させることに成功しました。

サービス面では、2024年3月にWeb21低価格帯プラン「Web21ライト・デビュータイプ」の新機能をリリースしたほか、プラン毎の機能配置の刷新や、受付可能件数・時間、照会期間の拡大などのスペックを向上させました。これらもデザイン面同様、お客さまの声をもとに改善につなげています。以前より使いやすくなったというお声とともに、拡張した機能の利用数を増加させることに成功しています。

岡山 晨哉氏
Web21のチャットボット開設以前にはどのような課題がありましたか?
伊津チャットボット開設以前は、Web21をはじめとした法人向けインターネットサービスに関するお客さまからのお問い合わせ窓口はコンタクトセンターのみでした。センターは月末や5の倍数である五十日(ごとおび)に電話が集中する傾向にあり、オペレーターの応答まで長時間お待たせしてしまうなど、お客さまにはご不便をおかけしていました。また、コンタクトセンターの営業は基本平日の夕方まで(休日夜間時間帯は別途サポート体制有)という課題もありました。
そこで、お客さまからのお問い合わせ内容を統計的に集約したところ、「振込手数料やサービス月額利用料の確認」「パスワードロック解除」「画面の印刷方法」などの問い合わせが多く、そのほとんどが定型的な対応で解決できることが判明しました。
同時に、スマホの普及により会話よりもチャットが得意な若者世代が増えたことから、いつでもアクセスできて、より簡潔で分かりやすく、自己解決がしやすい窓口としてチャットボットの導入を検討することになりました。

伊津 千波氏
利用者からは「わかりやすかった」という嬉しい反応が
Web21のチャットボット開発において工夫した点を教えてください。
押木Web21のチャットボットは、2019年4月に「Web21 ライトタイプ」プランの取り扱いが始まり、それに伴うお問い合わせが増加するタイミングで開設し、その後段階的に機能を拡充しています。
このチャットボットは、コンタクトセンターおよびチャットボット双方の強みをもつアルティウスリンク アップス社と連携し、同社の「バーチャルエージェント」システムを導入しています。このシステムには3つの特徴があります。
まず1つ目は、会話データを分析する専門チームがユーザーのインサイトを洞察し、本質的な課題を理解できること。2つ目は、コンタクトセンターで培った会話ノウハウで、会話の自然な流れを実現していること。最後に、機械学習と会話チューニングにより、会話精度を継続的に向上できることです。
アルティウスリンク アップス社とは、数値やログを定期的に分析し、分析結果からの課題や改善点を基に改善施策を実施しています。さらにご満足いただけるチャットボットの整備のために、PDCAサイクルをしっかりと回しています。

押木 彩氏
伊津開設当初はサービスログイン後の画面にチャットボットを設置していましたが、実際は「ログインができない」というお問い合わせが殺到して、チャットボットで対応可能な問い合わせがコンタクトセンターへ殺到する事態になってしまいました。
ログイン後の画面への設置ではお客さまにチャットボットの存在が認識されず、満足に機能しないことが分かったので、ログイン前の画面に設置し直しました。その後もお客さまの声や反応を常に見ながら改善を続けています。
また、チャットボットの回答はシンプルで分かりやすい内容を心がけています。あまり込み入った内容にしてしまうとお客さまにも伝わりにくいので、基本的には一問一答スタイルで簡潔に表示しています。より詳細な内容を知りたいお客さまには、別ページでFAQシステムへ遷移できるよう動線を整えています。

チャットボットについて、利用者の声はどのようなものがあるのでしょうか?
押木メガバンクの一般的なイメージとして、「人による手厚いサービスを提供する銀行」というイメージが少なからずあると思います。私たちもチャットボットという新システムの扱いになかなか慣れることができず苦労していたこともあり、リリース当初は「AIではなくオペレーターに案内してほしい」といったご意見が寄せられることを想定していました。しかし、チャットボットを利用されたお客さまからは、「実際に使ってみたら分かりやすかった」といった嬉しい反応を多くいただきました。
現在ではコンタクトセンターにお電話をいただいた際に、オペレーターが電話口でチャットボットの操作案内をするケースも多くあります。日々のコンタクトセンター業務におけるオペレーターの「気づき」を、月次で反映させるようにした結果、機能のブラッシュアップを図る意識がオペレーター間で醸成されました。
チャットボットの具体的な改善例があれば教えてください。
伊津年末や大型連休のある時期には、営業時間についてのお問い合わせが増える傾向にあるので、チャットボットのトップページで営業時間を事前にお知らせするようにしています。過去、シルバーウィークの際にも同様の問い合わせが殺到することが予想されたので、事前にチャットボットで告知した結果、コンタクトセンターへのお問い合わせは減少しました。

チャットボット利用割合は40%強、お客さま満足度向上にも貢献
チャットボットの開設により、コンタクトセンター業務にはどのような変化がありましたか?
押木大きな変化は2点あります。まずコンタクトセンターへのお問い合わせ件数が減少したことです。チャットボット開設前と直近の件数を比較すると、2割程度減少していることが判明しました。定型的な問い合わせにはチャットボットで自己解決するお客さまが増えてきたため、コンタクトセンターの長年の課題だったお問い合わせ件数の減少につながっています。
もう1つがチャットボットの利用率の増加です。私たちは開設時から「利用率」と「解決率」に重きを置いています。当初の利用率はそこまでありませんでしたが、2024年度のチャットボットの利用割合は40%超と、多くのお客さまにご活用いただいています。チャットボットで自己解決いただけるお客さまが増えた結果、コンタクトセンターにお電話いただいたお客さまに対して丁寧に寄り添った対応ができるようになり、お客さま満足度の向上に貢献しています。
「クオリティ格付け(センター評価)」2023年調査で、最高評価となる三つ星を獲得
では、Web21のチャットボットの今後の改善ポイントについて教えてください。
片山チャットボットにつきましては、コンタクトセンターへのお問い合わせ内容やお客さまからの声をもとに、日々改善に努めています。岡山の話にもありましたが、将来的にはお客さまがどのような機能を求めているのか、チャットボットを通じてピックアップし、より多くのお客さまに喜ばれるサービスにしていきたいと思います。

片山 慶美氏
押木現在のチャットボットは、お客さまからのご意見を蓄積して分析したうえで、月に一度のメンテナンスを実施していますが、ご意見をリアルタイムに反映できず、タイムラグが生じてしまう点がネックとなっています。今後はご意見をリアルタイムに反映し、よりお客さまのお困りごとに寄り添えるようにしたいと考えています。
また、チャットボットの開設でコンタクトセンターへのお問い合わせ件数が減少したことにより、専門かつ高度なスキルをもつ人材の育成や、お客さまへプラスアルファのご提案を行うアドバイザリーセールス施策にも注力できるようになりました。応対品質の面ではHDI-Japan※1によるサポートサービスの格付けである「クオリティ格付け(センター評価)」の2023年調査において、最高評価となる三つ星を獲得しています。
一方で、会話をしてみないとわからない部分もあり、コンタクトセンターも欠かすことはできません。ですから今後も、チャットボットとともにコンタクトセンターも進化させていき、それぞれ棲み分けをしていくことで、社会への貢献度を高めていきたいと考えています。
(※1)ITサポートサービス業界における世界最大のメンバーシップ団体「HDI」と同様のコンセプトで2001年に設立された団体。

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株式会社三井住友銀行 トランザクション・ビジネス本部
法人eビジネス部 企画第一グループ 部長代理伊津 千波氏
1997年、株式会社ジェイス(現:株式会社日本総研情報サービス)に入社。SMBCパソコンバンクサービスのソフトインストール業務を経て企画業務に従事。
三井住友銀行出向後、法人eビジネス部にて2019年Web21ライト専用照会窓口立ち上げに従事し、チャットボット構築を担当。 -
株式会社三井住友銀行 トランザクション・ビジネス本部
法人eビジネス部 企画第一グループ押木 彩氏
2015年、株式会社三井住友銀行に入行。
支店配属を経て、同年より決済企画部にて法人eビジネス部の業務推進企画に従事。2023年より現職にてコンタクトセンターのデジタル化・運営企画を担当。 -
株式会社三井住友銀行 トランザクション・ビジネス本部
決済商品開発部 国内商品開発第二グループ 部長代理岡山 晨哉氏
2019年、株式会社三井住友銀行へ入行。
池袋で法人営業を2年間経験したのち、2021年より決済商品開発部にて法人向けインターネットバンキングWeb21のサービス企画に従事。Web21の推進・収益増加施策の立案やUI/UX改善、新サービス企画等を担当。 -
株式会社三井住友銀行 トランザクション・ビジネス本部
決済商品開発部 国内商品開発第二グループ片山 慶美氏
2018年、株式会社三井住友銀行へ入行。
中小企業向け法人営業を経験後、2020年より決済商品開発部にて、B2C企業向けキャッシュレス決済商品の企画業務に従事。2024年3月より法人向けインターネットバンキングWeb21の企画を担当。