元ラグビー日本代表廣瀬氏「結果を求め過ぎないことも大事」──異業種からメガバンクに飛び込んだSMBC社員と語る、強い組織のつくり方

ラグビー日本代表でキャプテンを務め、現役引退後はMBAを取得、株式会社HiRAKUを設立し、スポーツ・食・教育などの多岐にわたる分野で活動する廣瀬俊朗氏。金融領域に留まらず非金融領域にビジネスを拡大し、新規事業×デジタルサービスを続々と発表している三井住友銀行(以下、SMBCグループ)のデジタル戦略部に、異業種から転職した池田真梨氏と中井沙織氏。
3人には、これまでの環境とは全く異なる場所に飛び込み、新たなキャリアを拓き挑戦を続けている共通点がある。
なぜ、挑戦を続けるのか。多様な人材の力を引き出しながら0→1を生み出し、成果を出すためのチームビルディングの秘訣とは。それぞれの経験からの学びを語り合った。
起業や異業種転職……それぞれの「挑戦」の理由

廣瀬さんは2016年の現役引退後、2019年にHiRAKUを設立されていますね。
廣瀬俊朗氏(以下、廣瀬)はい、社名の通り、あらゆる可能性を「ひらく」ことを目指して活動しています。例えば、神奈川県鎌倉市で運営する「BLOSSOM」というカフェでは、甘酒をただ飲むだけではなく、あんバターサンドなどにも取り入れて、新しい楽しみ方ができるようなメニューを提供しているんです。
中井甘酒!なぜ甘酒に着目したんですか?
廣瀬現役時代から発酵食品を多く摂取してきましたが、引退後、食について学ぶうちに、日本で古くから受け継がれてきた発酵食品の技術や伝統を守り、次世代につなぐ必要性を感じました。そこで発酵食品に光をあてられたらという思いから、“飲む点滴”と言われる甘酒に着目しました。
他にも、例えば、アフリカのケニアでスポーツをするユース世代の育成にも取り組んでいます。陸上競技などで身体能力が高いケニアの選手が活躍する姿をご覧になっている方は多いと思いますが、一部を除いて、現地ではトレーニング環境が整っていません。日本式のトレーニングやコーチングを伝え、ケニアでラグビー文化の土台づくりをする……などもやっています。

中井さんは通信業界から、池田さんは保険業界からSMBCグループに入りました。異業種から転職した理由は?
中井簡単に言ってしまえば、“さらに違う目線、違うフェーズでの新規事業を立ち上げる経験を積みたい”と考えたからです。
新規事業開発と一口に言っても、領域によっても違いますし、事業立ち上げ前後のフェーズによっても取り組むことや向き合うことが違います。例えば「0→1」をつくると言っても、「0から0.2」と「0.8から1」は違うし、「3から5」はもっと違うんですよね。
前職では、非金融業界でFinance(金融)とTechnology(技術)を組み合わせたFinTech領域を担当していました。次は、さらに領域に捕らわれない新規事業の立ち上げに挑戦したいと思ったんです。
そこで出会ったのがSMBCグループで、祖業である金融以外の、非金融領域の事業も立ち上げているSMBCグループは、今まさに“挑戦することが当たり前”の雰囲気。
特に中途採用で入ってきた社員には常に“新しいこと”が求められていて、刺激的な環境を求めていた私にはぴったりな場所でした。

池田私が転職した1番の理由は、会社の方針で携わっていた新規事業が撤退になってしまい、やりたいことができなくなったからです。
ずっとヘルスケア領域で新規事業開発をやってきたので、ヘルスケアサービスの企業も検討していたのですが、大学院の知り合いにSMBCグループの手掛ける幅の広さや影響力の大きさを聞いたこと、そして小さな子どもがいても働きやすそうだったことが魅力的でした。
実際に、時間ではなく成果で評価してくれて、子育てをしながら働く女性も多いので、働きやすさを感じています。

引退後に考えた、アスリート経験者としてできること
廣瀬さんは、現役引退後になぜ起業を考えたのでしょうか?
廣瀬それまでずっとラグビーをやってきて、ラグビーというスポーツの価値や自分にできることを改めて考えたときに、全然違う属性の人と話したりつなげたりすることが重要だなと思ったんです。
ラグビー界の中だけだと、「ラグビー最高!」で終わってしまうような気がして。まずは広く学んでみようという気持ちで、MBAの取得に挑戦しました。
中井先日、女性アスリートの競技後の人生をサポートする会社を経営されている方の話を聞く機会があったのですが、現役中は競技に集中しているからこそ、引退後、自分は何ができるのか、何をやりたいのかを急に問われても答えることが難しいと。
現役引退後の道を主体的に選択できる人とそうでない人がいるのも事実なんだなと感じました。
廣瀬そこは切実な問題ですよね。僕が携わっている「アポロプロジェクト」という活動では、バスケットボールやテニスなどさまざまな競技のアスリートが、学びを通じて人生の軸を見つけられるようなプログラムを提供しています。
現役のときはもちろん競技に集中していますが、1日24時間のうち、睡眠時間の8時間を除いた16時間、すべて競技のことを考えているかといったらそういうわけでもない。アスリートにも休息は必要ですし、食事やオフの時間もありますから。自らの軸を見つめ、それが競技人生にも、競技後の人生にも活かせたらいいなと思っています。

池田その人がどのような競技にどんな役割で取り組んできたかによっても、違いがありそうですよね。
廣瀬仰る通りだと思います。例えば、キャプテン経験があったり、ラグビーのようなチーム競技に取り組んできたりした人は協調性を重視する傾向がありますが、逆に一匹狼タイプで活躍してきたアスリートや、テニスのような個人スポーツの経験者は個性を発揮することに重きを置く傾向もあります。これまでの経験を活かしたキャリアや場所を見つけられると良いですよね。
多様なバックグラウンドを持つメンバーをどうまとめるか

2020年に設立したSMBCグループのデジタル戦略部では、従来の銀行のイメージと違い多様なキャリアを持つ方々が働いているそうですね。
池田私のチームには新卒入社メンバーのほか、異業種からの転職者や自治体からの出向者など、多様なバックグラウンドを持つメンバーがいます。みんなそれぞれ多種多様な経験をしているので、刺激を受ける部分も多いです。
中井私が所属するイノベーションチームは、中途入社のメンバーが多いチームです。銀行が今までやってこなかったことをやるミッションの部署であり、さらに新しい技術起点で事業をつくっていくチームなので、ある意味必然なのかもしれませんが、多様性があって化学反応が起きやすい環境ですね。

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一方、多様性がある組織の場合、一つの方向に目線を合わせることが難しいと感じることもあります。
きっとスポーツでも、選手それぞれの個性が推進力になることもあるけれど、意識を合わせることも大切ですよね。廣瀬さんは現役時代、どのようなことを心がけて、多様なメンバーがいるチームを主将としてまとめていたのですか?
廣瀬「目立ってやろう」という思いは野心の現れですから、大事なことだと思います。ただもっと大事なのは、そのプレーや行動は何につながるのか、チームが勝つためのベストな選択なのかを深く考えることだと思うんです。
ある選手が「俺はこういうプレーをしたい」と主張したら、そのプレーが戦略にはまるか、はまらないかを検討します。もしもはまらないときは、その選手にきちんと理由を話して我慢してもらうこともあります。
ラグビーの場合、キャプテン・副キャプテンの他にポジションごとのリーダーがいます。監督の考えたゲームプランをキャプテンがまとめ、リーダーと共有し、さらにリーダーが各メンバーに落とし込んでいく。
毎回ディスカッションを重ねて、コンセンサスをとっていきます。決して個性を押しつぶすわけではなく、チームの中で、「今回は我慢してもらうけれど、今度はこうしてみよう」という話し合いがなされるんです。

池田なるほど。「多様性のある環境ではグッドクラッシュ(良い衝突)を起こせ」と言われることがありますが、個が立った人たちの中でどうしたらグッドクラッシュを起こせるのか、自分の中で解がなかったんです。でも、今のお話を聞いて、ちゃんと一人ひとりの話を聞いて、合意や理解を積み重ねていくことが大事なんだと改めて思いました。
廣瀬そうですね、グッドクラッシュを起こすには、やはり「無下にされていない」という感覚を持てるようにコミュニケーションを取る必要があると思っています。
それもキャプテンだけですべてをやるのではなく、リーダーの協力も必要ですし、バディや同じ国出身の選手といったつながりも頼って、チームビルディングをしていく。例えば、僕がどれだけ言っても全く反応しなかった選手が、同じ国の出身のボスに言われたら素直に聞いたりしますから(笑)。
不安になったら、自分たちの積み重ねを確認する
目標達成へのこだわりと、心身のバランスの保ち方について教えてください。
廣瀬ラグビーの試合での目標はやはり勝つことなので、勝つことにはこだわりを持っていました。でも同時に、なぜ勝つために頑張るのか、勝ちの先にどんな世界を作りたいのかも見据えるように心がけていました。
勝負の世界なので、最終的な勝ち負けは分からない。勝ちだけを目的にせず、「自分たちはやりきった」という達成感や、少しでも自分たちの成長を感じられるような過程も重要だと思っています。
中井それでも不安になったときはどうするんですか?
廣瀬今までの自分たちの積み重ねを確認しましたね。不安な気持ちを受け入れながらも、最終的に「この舞台は俺らにしか用意されていない。やるしかない!」と思えるように。ある意味、最終局面では開き直りも必要なのかなと思っています。
池田すごく分かります。私は、新規事業開発に携わって9年ほどになりますが、成功例はほとんどなくたくさんの失敗をしてきました。でも、そこから学べることも大きいと感じています。
“自分たちの積み重ねを確認する”ということでしたが、ビジネスも同じです。振り返らないと、何が成功と失敗を分けたのか、もっと言うと何が失敗なのかが分からないこともありますから。
廣瀬トライしないとイノベーションは生まれないということですよね。私も今やっている事業は「ご縁があったから」というのが半分、「人がやっていないことをやるのが好きだから」というのが半分です。スポーツやアスリートとしての経験を“ひらく”という軸で活動していますが、臆せず挑戦していきたいと思います。
挑戦し続けるために必要なこと

改めて、銀行が会社として新規事業に注力する理由を教えてください。
中井池田さんが保険会社の例を話されていましたが、金融業界も同じだと思います。社会が変容して、金融だけではもうお客様の期待や要望に応えられないという危機感が根底にあり、さらに金融サービスだけでは競合他社には勝てないという現状を目の当たりにして、非金融のサービスも展開していく必要性が出てきています。
その中で、SMBCグループのデジタル戦略として「Beyond&Connect」と「Empower Innovation」という方向性を掲げ、トップから「新しいことにチャレンジしなくてはいけない」というメッセージを繰り返し出しているのが特徴的だと思います。
またトップだけでなく、現場でもその言葉を繰り返していて、どの階層でも同じ思想を取り入れることができているのは、今の組織の強みかもしれません。
さまざまな挑戦をされてきたと思いますが、“挑戦し続けるために必要なこと”は何でしょう。
廣瀬1つは、結果を求め過ぎないことだと思います。結果は大事ですが、まずは挑戦することに意味があると僕は思うんです。新しい自分に出会えたり、成長を感じられたりすることも大切だと思っています。
2つ目は、帰ってくる場所があること。「いつでも戻ってきていいよ」という場所があれば、精神的にも支えになって、挑戦しやすいじゃないですか。僕にとってのそれは、ラグビーだったり、ラグビーを通じて出会った仲間や家族だったりするのですが、そういう帰れる場所を整えることが必要だと思います。
最後に、みなさんが今後挑戦したいことを教えてください。
中井メガバンクグループならではの機動力を活かして、数多くの人に使っていただける、これまでにない価値・インパクトのあるサービスをつくることが目下の目標です。
池田私も、新しい価値を世の中に届けたいという思いが強くあります。toCビジネスはすでにたくさんのサービスがあり、ユーザーから選んでいただいたりマネタイズしたりすることの難しさを感じていますが、本当に世の中を変えられるのもtoCビジネスだと思っているので、挑戦していきたいです。

廣瀬AIが当たり前になっていくこれからの時代、「人ができることや人の価値って何だろう」という根源的な問いを持ちつつ、テクノロジーと向き合っていくことが必要だと思うんです。
そんな中でもしかしたらスポーツは一つのキーになるかもしれない。デジタル化が進んでも、常に「人」のやさしさや可能性を見出していきたいと思っています。
出展元
「2025/1/29公開 BUSINESS INSIDERタイアップ広告より」
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株式会社三井住友銀行 デジタル戦略部
中井 沙織氏
金融機関、通信キャリアでFinTech領域の新規事業開発・他社とのアライアンスなどを担当した後、2023年にSMBCグループに入社。新技術を起点に事業開発を行うイノベーションチームに所属し、Web3・ブロックチェーン関連の金融・非金融サービスへの展開や、オープンイノベーション拠点の運営などを担当。
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株式会社三井住友銀行 デジタル戦略部
池田 真梨氏
保険会社で営業店やマーケティング部門などを経験した後、ヘルスケア領域やシニア向けの新規事業に従事。2024年7月にSMBCグループに入社し、コンシューマー向けの新規事業を開発するtoCチームに所属。金融以外の非金融領域での価値創造に取り組む。
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株式会社HiRAKU 代表取締役
廣瀬 俊朗氏
1981年大阪生まれ。5歳のときにラグビーを始め、大阪府立北野高校、慶應義塾大学、東芝でプレー。日本代表として28試合に出場。2012年~2013年の2年間はキャプテンを務める。2015年ラグビーW杯では、日本代表史上初となる同一大会3勝に貢献。現役引退後はBBT大学院で経営を学び、MBA取得。現在はHiRAKU代表取締役としてスポーツ普及、教育、健康、食など多様な領域に取り組む。著書に『なんのために勝つのか。ラグビー日本代表を結束させたリーダーシップ論』など。