金融業界におけるAI活用の最前線 ―Singapore Fintech Festival 2024 レポート―

2024年11月6日~8日、シンガポールで「Singapore Fintech Festival 2024(以下、SFF)」*が開催されました。今年は134か国から65,000人以上が来場し、SMBCは昨年に続きプラチナ・スポンサーとして参加しました。特に活発な議論がなされた“金融業界における責任あるAI活用”について、同イベントから見えてきた最前線とSMBCグループの取り組みをご紹介します。
* シンガポール金融管理局(以下、MAS)が主催し、Fintechに関わる金融セクター、テクノロジーセクター、並びに規制当局側が一堂に会する世界最大級のFintech国際会議・展示会
責任あるAIの利用に向けて ~SFF基調講演より~
SFFの共同主催者Global Finance & Technology Network*の会長であるRavi Menon氏(元 MAS長官)は、基調講演「A global network to foster innovation in financial services(金融サービスにおけるイノベーションを促進するグローバルネットワーク)」の中で金融サービスにおけるAI活用の実例として、生成AIを活用して取引に使われるデバイスやOSを追跡し、振る舞いの“らしさ“に基づき詐欺行為を検知する事例や、消費者の属性や運用目標などを基に、生成AIが投資助言を行うパーソナライズ金融助言の事例を挙げられました。一方で、テクノロジーの進展に伴うリスクにも言及し、「今後、AIに関わる主要なステークホルダーと共に議論を深め、責任あるイノベーションとスマートな規制の両立を促進していく」と、SFFのような有識者が集まるフォーラムの意義も込めて発信されました。
* テクノロジーの実装とイノベーションの促進を目的としてMAS傘下に今年設立されたNPO

SMBCグループ役員による、AI戦略の発信
SFFでは毎年、各国の産・官から有識者が入り交じり、大小様々なステージでプレゼンテーションやパネルディスカッションが行われます。SMBC役員もグローバル企業のリーダーシップと共に登壇し、それぞれAI活用について以下のメッセージを発信しました。
三井住友フィナンシャルグループ(以下、グループを総称し、「SMBCグループ」)執行役副社長 グローバル事業部門共同事業部門長である百留 秀宗氏は、「The Asian decade: Leading global financial services(アジアの10年:世界をリードする金融サービス)」のパネルディスカッションへ登壇。生成AIを含むAIに対する期待として「(1)障壁を打破すること、(2)生産性の向上、(3)新しいビジネスモデルの創出」の3つを挙げました。その中で「特にアジアの文脈では、生成AIの最大の価値の一つは言語の障壁を打破することであり、どの地域の言語でもシームレスなやり取りを可能にすることが、銀行口座を持たない方々や送金・決済など銀行サービスを十分に利用できない方々への金融アクセスを増加させ、アジアの持っている潜在性を引き上げることにつながる」と述べました。「SMBCグループは、コーポレートベンチャーキャピタルを通じたスタートアップへの出資も含めAI領域に投資を行い、自社変革を進めて行く」と結びました。
三井住友フィナンシャルグループ執行役専務 グループCDIO(チーフ・デジタル・イノベーション・オフィサー)の磯和 啓雄氏は、「AI in action: Real-world use cases for the financial services of tomorrow(AIの実例:実社会における次世代金融サービスのユースケース)」のパネルディスカッションに登壇。SMBCでのAI活用と効果について、「直近のAIブームが起こる前、約10年前にAI活用を開始した。取組を例示すると、まず、コールセンターで、お客さまからのお問い合わせに対してオペレーターが正確・迅速に回答するサポートをするために、IBM Watsonを導入。その結果、従業員の定着率と満足度が大きく改善され、コスト効率改善につなげることができた。また、業務効率化のために行内の様々な領域でRPAを活用。さらに、APAC地域では、OCRとAIを活用して貿易金融の処理を自動化し、その結果、処理能力が3倍に増加した。直近では、OpenAIのChatGPTモデルを使用して、SMBC環境内の全従業員向けにAIチャットアプリケーション「SMBC-GAI」を開発。従業員は、自然言語で質問し回答を得る、翻訳を行うなど、日常的に生成AIを利用している。現在、業務において生成AIをさらに活用すべく検討を進めている」と披瀝しました。またSMBC-GAI導入の特筆すべき点として「従業員がSMBC-GAIの利用を通じてAIをどのように使うべきか、を直接学んでいる点が挙げられる。AI活用に投資することと並行して、従業員のAIへの理解を進めることが非常に重要である」と実際にAIを使う経験を通じた理解の重要性を語りました。

SMBCの「生成AI CFOダッシュボード」プロジェクト
ステージイベントばかりでなく、出展者各社が最先端のテクノロジー実装事例を披露する意匠性に富んだブース展示も、SFFの見どころの1つです。今回SMBCブースでは、“パートナーと共に、AIなどのテクノロジーを活用し、困難な時代・産業のうねりに打ち勝っていく”というメッセージを、『鬼ヶ島に向かう桃太郎一行の船旅』に重ね、アバター技術の活用など様々なパートナーとの先進的な取組を披露しました。浮世絵・折紙といった日本文化の要素を取り入れた現代アートで彩ったブースは、来場者の注目を集めました。

また、当行は、アジア大洋州統括部アジアイノベーションセンター(以下、AIC)主導で開発を進める生成AIプロジェクト「生成AI CFOダッシュボード」の新たなデモを公開しました。昨年のSFF2023でのコンセプト公開以来、同プロジェクトでは、APAC地域の統括会社のお客様のご協力を得て、Proof of Concept(以下、PoC)を進めてきました。当PoCの結果を踏まえ、生成AI技術の社会実装における気づきや学び、ソリューション化していく上での苦労や工夫、更にはお客様の声などを披瀝しました。大きな反響をいただいた、当日の説明内容の一部をご紹介します。
今回のPoCでは地域統括拠点のCFO/GMの方々が傘下の現地法人から営業実績など報告資料を受け取り、予算進捗確認・実態把握・対策検討を実施し意思決定を行う、というユースケースを想定し実施しました。実際の業務において、どのように生成AIを活用していくことが求められているか、という点を議論・検討していく中で、生成AI技術の現在地とコーポレートユーザーの利用シーンにおけるシステムの在り方について、当初気づけなかった多くの学びがありました。
今回のユースケースの中で、生成AIの効果を期待したい実際に手間がかかっている業務として報告書に含まれるデータやその裏付け確認作業、過去の報告資料内容と比較する際に参照するデータを探す作業などが挙げられました。報告業務そのものを生成AIに置き換えるのではなく、現状把握に係る時間を短縮し、捻出された時間を今後の対策や打ち手の件に活用していくようなニーズがありました。生成AIがデータ活用の水準を向上させ、報告業務のプロセスをより経営の高度化につなげていく、という使い方と効果への期待が見えてきました。
加えて、財務・経理の専門家であるCFO/GMの方々や現場スタッフの方々にとってより有益な回答をするためには、それぞれの観点やレビューポイント、また企業や組織個別の用語や重点項目を考慮したパーソナライズされた回答が求められていることが明確になり、それに対する機能設計と開発検証を行うことができました。
このような学びをテクノロジーと合わせ検討に生かし、AIと人がうまく共存する世界で、専門家から非専門性の業務を上手く取り除き、組織の生産性向上をサポートすることを目的に、実際のリリースに向けて開発を続けています。今年度内にはAPAC地域の一部のお客様への提供を開始し、2025年度中には日本や米国のお客様へも拡大する予定です。ご期待ください。

SMBCグループは、今後もAIなどの最先端技術の研究を進め、新たな金融サービスをお客様に提供するための変革に積極的に取り組んでまいります。
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三井住友フィナンシャルグループ 執行役副社長 グローバル事業部門共同事業部門長
百留 秀宗氏
1988年に入行後、コーポレートバンキング、ストラクチャードファイナンス等、国際業務を中心に従事。2019年から米州本部長を務め、2022年に執行役専務 グループCCO、2024年に執行役専務 グローバル事業部門共同事業部門長を経て、2025年4月より執行役副社長 グローバル事業部門共同事業部門長(現職)に就任。
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三井住友フィナンシャルグループ 執行役専務 グループCDIO
磯和 啓雄氏
1990年に入行後、法人業務・法務・経営企画・人事などに従事した後、リテールマーケティング部・IT戦略室(当時)を部長として立ち上げ。その後、トランザクション・ビジネス本部長として法人決済の商品・営業企画を指揮。2022年デジタルソリューション本部長、2023年より執行役専務 グループCDIOとしてSMBCグループのデジタル推進をけん引。
シリーズ:APACデジタルプロジェクト