取り組み
2025.08.07更新

スタートアップとの共創で切り拓く未来。RCBCとSMBCが挑むイノベーション

企業の変革を加速させる鍵として、スタートアップとの“共創”が注目を集めています。特に新興国では、社会課題を起点にしたイノベーションが次々と生まれ、既存の金融機関もその波に乗り始めています。
三井住友銀行(以下、SMBC)の持ち分法適用会社であるフィリピンの大手銀行Rizal Commercial Banking Corporation(以下、RCBC)はスタートアップと連携し、銀行口座を持たない方々に金融サービスを届ける「DiskarTech」や、地方部にてポータブルATMを展開する「ATM Go」など、社会課題の解決と自社の変革を同時に実現してきました。こうした取り組みを牽引するのが、同社においてデジタル変革と金融包摂を統括し、同国フィンテック協会の会長も務めるリト・ビリャヌエバ氏です。

2025年3月、RCBCは、SMBCグループのコーポレートベンチャーキャピタルであるSMBC Asia Rising Fund(以下、SARF)と共催で「Business Co-Creation Dōjō in Manila」(以下、「Dōjō」)を開催しました。イベントではスタートアップ、投資家、SMBCグループのお客さま、政府関係者ら約70名が一堂に会し、共創の可能性を探りました。

本稿では、リト氏と、SARFの活動を支援するSMBCの成田氏、安達氏へのインタビューを通じて、RCBCの挑戦とその背景にある思想、そして日本企業とスタートアップとの共創が広げる可能性を探ります。

Rizal Commercial Banking Corporation 副社長兼Chief Innovation and Inclusion Officer
リト・ビリャヌエバ氏

ご自身のキャリアと、フィリピンのスタートアップ市場の変遷について教えてください。

リト私のキャリアは常に「イノベーションと社会的インパクトの橋渡し」をテーマにしてきました。すべてのフィリピンの方々に金融包摂を届けるため、意味のあるサービスを創出することに情熱を注いできました。

RCBCのExecutive Vice President 兼 Chief Innovation and Inclusion Officerとして、またDigital Enterprise and Innovation and Inclusion Groupの責任者として、私は同行のデジタルトランスフォーメーションを主導してきました。その結果、RCBCは地域でも屈指の柔軟で機敏な変革推進力を持つ、国際的な評価を受ける銀行へと進化しました。
また、FinTech Alliance Philippinesの創設会長として、政策提言、国境を越えた連携、地域間の協力を通じて、フィリピンのフィンテックエコシステムの成長にも尽力してきました。この20年で、スタートアップ・エコシステムの風景は断片的な試みから、ミッションドリブンな活気あるコミュニティへと大きく変化しています。今や単なる利益追求ではなく、「イノベーションを通じて国家をつくる」という未来志向が根付いてきています。

RCBCがこれまでにスタートアップとどのように連携してきたか、具体例を教えてください。

リトRCBCでは、スタートアップの俊敏性と、ユニバーサルバンクとしての信頼と基盤を融合させることで、顧客体験を再定義し、国内外で数々の賞を受賞してきました。ただし、私たちにとってデジタル化は目的ではなく手段です。私たちは、すべてのフィリピンの方々の生活より豊かなものにするソリューションを共創しています。

たとえば、シンガポール発のスタートアップ「APIwiz」とは、「デジタル2.0マーケットプレイス」という、金融サービスAPIの配信プラットフォームを共同で試験運用しています。こちらでは、フィンテック企業やeコマース事業者など銀行機能を自社のサービスに付加されたい方々に対して、RCBCの銀行機能を利用できるAPI群を提供しています。お客さまは、こちらのプラットフォーム、APIをご利用いただくことで、保守・管理の手間を減らしながら、決済や口座情報の把握・送金機能を自社のサービスに、速やかに、取り込むことができます。よりカスタマージャーニーに沿った形で、迅速かつ安全な銀行サービスを利用できる、スケーラブルな金融サービスの提供を可能にしています。

また、フィリピン国内のスタートアップ「Higala」とは、これまで金融サービスから取り残されてしまっていた企業・個人の方々にも、低コスト・リアルタイムでのモバイル送金を提供できるよう開発を進めています。

これらの連携は単なる技術導入ではなく、「イノベーションを社会的インパクトにつなげる」という私たちの姿勢を体現するものです。スタートアップと手を取り合うことで、RCBCはデジタルバンキングの進化と金融包摂の拡大を同時に推進しています。

FinTech Alliance Philippinesの会長として、フィリピンのスタートアップエコシステムが直面する課題をどのように見ていますか?

リト事業アイデアも実現していく力もすでに十分にフィリピンに揃っています。しかし、スケールアップの段階で壁にぶつかることが多いのが現状です。その背景には、各種規制、整備途上なデジタルインフラ、資金調達の難しさといった課題があります。

FinTech Allianceでは、政策提言、投資家との連携、国際的な協力を通じて、こうしたギャップの解消に取り組んでいます。スタートアップ、企業、規制当局が一体となって動くことで、イノベーションエコシステムは真に機能します。日本やシンガポールといった成熟市場の知見を活かしながら、地元発のアイデアが世界で戦える環境を整え、包摂的な経済成長を実現していくことが私たちの使命です。

こうした課題や連携の文脈の中で、「Dōjō」を開催した意図は何だったのでしょうか?

リト私たちが目指したのは、継続的に相談ができる仲間づくりです。「Dōjō」では、スタートアップ、企業、投資家、政府関係者など約70名が一堂に会し、実践的で意味のある対話が行われました。多くのスタートアップからは、「官民の意思決定者と直接対話できる場は非常に貴重だった」との声が寄せられました。
これは、RCBCやSMBCグループが推進していきたい事業共創の始まりにすぎません。業界や立場を超えた多様な視点と専門性が交わることで、より持続可能でスケーラブルなソリューションをスタートアップと生みだしていけると確信しています。

SMBC安達「Dōjō」は、SMBC及びSARFにとって、フィリピンで初のスタートアップとの事業共創イベントでした。イベントを通して、フィリピンのスタートアップに対するSMBCグループの支援姿勢を示すとともに、直接当事者の皆さまとお話することでフィリピンというマーケットを理解し、将来のSARFの投資候補先を探索することも目的としていました。特に他地域と比べて印象的だった点は、早い段階で海外進出・海外展開を着実に進めているスタートアップが多い点です。例えばあるHRテック企業では、フィリピンに様々ある給与計算・給与振込など人事関連規制に変化をモニターし、速やかに対応する深くローカライズされたサービスを提供しお客さまに好評を得ています。他方で当初より海外展開を見据え、他国でも展開できる機能と各国特有の機能は切り離して設計・構成することで、当社のサービスエッジを失わずに、速やかな地域展開を可能にしていると伺いました。

SMBC成田SARFからの投資決定に際してはSMBCグループとのシナジーの有無が重要な要素の1つです。今回参加してくださったスタートアップ各社とSMBCグループはもちろんのことSMBCグループのお客さまとのディスカッションも多く見られました。例えば、企業のeコマース事業を一貫で支援するスタートアップは、いわばネット時代の代理店の役割を担っています。ネットワーキングセッションでは、まさにブランドの代理店をビジネスとしている日本の商社の方々とオンライン・オフラインでの協業についてアイディエーションされていました。SMBCグループが持つグローバルな拠点網・顧客基盤を活かし、スタートアップのグローバル展開を支援していくといった連携・協業もより大きく将来的に模索できる、という感覚を得ました。

左:株式会社三井住友銀行 デジタル戦略部 部長代理 成田 匡孝氏
右:株式会社三井住友銀行 デジタル戦略部 部長代理 安達 賢記氏

今回のイベントを経て、今後の展望や次のステップについて教えてください。

リト「Dōjō」を契機に、RCBCは選定したスタートアップとの連携をさらに深め、先進的な金融ソリューションの共同開発・実証を進めていきます。私たちのミッションは明確です。よりスマートで、包摂的な、顧客中心のデジタルバンキング体験を提供すること。具体的には、エンベデッド・ファイナンスAI活用サービス、オープンAPIといった先端技術を活用し、フィリピンの方々が直面する課題を解決していきます。

そして、SMBCのような強力なパートナーとともに、こうした共創の成果をフィリピン国内にとどめず、アジア全体へと広げていくことを目指しています。包摂的なイノベーションの波を、地域全体に広げていきたいと考えています。

---
SMBCグループは今後も、スタートアップが持つ現地に根差した課題解決力や革新的な技術と、当グループの信用力・ネットワーク・金融知見を掛け合わせることで、企業の変革と地域社会の持続的な発展を両立する共創モデルを推進してまいります。こうした取り組みを通じて、社会課題の解決とビジネス成長の両立を実現し、アジアをはじめとする地域経済への貢献を目指していきます。


PROFILE※所属および肩書きは取材当時のものです。

  • Rizal Commercial Banking Corporation 副社長兼Chief Innovation and Inclusion Officer

    リト・ビリャヌエバ氏

    RCBCの副社長兼Chief Innovation and Inclusion Officerとして、2020年から2024年まで5年連続で「フィリピン最優秀デジタル銀行」に選ばれるなど、250以上の受賞歴を持つ同行のデジタル変革を主導。個人としても「Innovator of the Year」(Asian Management Excellence Awards)など、世界的に100以上の栄誉を受賞。Fintech Alliance.PHの創設者兼会長として、アジアおよびグローバルのフィンテック連携を推進。

  • 株式会社三井住友銀行 デジタル戦略部 部長代理

    成田 匡孝氏

    2012年大学卒業後に三井住友銀行へ入行。支店・法人営業を経て、プロジェクトファイナンス等ストラクチャードファイナンス業務に従事。その後、グループ外の事業会社への出向を経験、2021年より法人のお客さまとの共創を含むデジタルサービスの企画・開発業務に従事。2024年よりシンガポールへ渡り、SARF投資先との協業を推進。

  • 株式会社三井住友銀行 デジタル戦略部 部長代理

    安達 賢記氏

    2013年三井住友銀行入行。日本国内を中心に幅広いステージのスタートアップの成長支援業務に従事し、Fintechを始めとする顧客のデット・エクイティ両面の調達や資本政策の立案を支援。2023年よりシンガポールに移りCVC運営を担当。早稲田大学卒業。

その他の記事を読む

フィンテック
(FinTech)

類義語:

金融(Finance)と技術(Technology)を掛け合わせた造語。銀行や証券、保険などの金融分野に、IT技術を組み合わせることで生まれた新しいサービスや事業領域などを指す。

ベンチャーキャピタル
(Venture Capital)

類義語:

未上場の新興企業(ベンチャー企業)に出資して株式を取得し、将来的にその企業が株式を公開(上場)した際に株式を売却し、大きな値上がり益の獲得を目指す投資会社や投資ファンド。

DX
(Digital Transformation)

類義語:

  • デジタルトランスフォーメーション

「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の頭文字をとった言葉。「Digital」は「デジタル」、「Transformation」は「変容」という意味で、簡単に言えば「デジタル技術を用いることによる、生活やビジネスの変容」のことを指す。

エコシステム
(Ecosystem)

類義語:

各社の製品の連携やつながりによって成り立つ全体の大きなシステムを形成するさまを「エコシステム」という。

API
(Application Programming Interface)

類義語:

ソフトウェアやプログラム、Webサービスの間をつなぐインターフェース(異なる2つの事物の間をつなぐ)のことを指す。

プラットフォーム
(Platform)

類義語:

サービスやシステム、ソフトウェアを提供・カスタマイズ・運営するために必要な「共通の土台(基盤)となる標準環境」を指す。

エンベデッド・ファイナンス
(Embedded Finance)

類義語:

  • 埋込型金融,組込型金融

エンドユーザーが自ら金融事業者にアクセスせずとも、普段利用している非金融事業者の提供するサービスから利用できる金融サービスのことを指す。

AI
(artificial intelligence)

類義語:

  • 人工知能

コンピュータが人間の思考・判断を模倣するための技術と知識体系。

  • その他の記事もチェック
    DX-link(ディークロスリンク)
    Webサイト
  • 最新情報はこちら
    DX-link(ディークロスリンク)
    X公式アカウント

アンケートご協力のお願い

この記事を読んだ感想で、
最も当てはまるものを1つお選びください。

アンケートにご協力いただき
ありがとうございました。

引き続き、DX-linkをお楽しみください。