取り組み
2025.09.18更新

時価総額1兆円への挑戦。SMBCリーガルX、契約プロセスを変革しグローバルへ。

コロナ禍を経て著しい成長を遂げたSMBCクラウドサイン。次に見据えたのは、契約業務全般をテクノロジーで変革するCLM※(コントラクト・ライフサイクル・マネジメント)の領域でした。

この領域に本格的に参入すべく、SMBCグループは日本を代表する法律事務所やインドの革新的リーガルテック企業などと共創し、新会社「SMBCリーガルX」を設立しました。

本記事では、三井住友フィナンシャルグループ CDIO 磯和 啓雄氏と、SMBCリーガルX 代表 三嶋 英城氏が、その挑戦の全貌を語ります。

※CLM(コントラクト・ライフサイクル・マネジメント):契約の作成から締結、管理、更新、終了まで、契約に関する業務プロセス全体を最適化する手法やシステムのこと

SMBCクラウドサインの次の一手、新会社設立の背景

SMBCクラウドサインのサービス立ち上げから5年が経過し、業績も順調な中で、あえてSMBCリーガルXを設立した経緯について教えてください。

三嶋おかげさまで、SMBCクラウドサインは業績的にはIPOに足るレベルに成長しました。このタイミングで中期戦略を練り直し、今後の飛躍的な成長について考えたのですが、やはりグローバル展開や事業領域の拡大が重要であると感じ、今回の新会社設立に至りました。

SMBCリーガルX株式会社 President CEO/SMBCクラウドサイン株式会社 代表取締役
三嶋 英城氏

磯和3年ほど前に、当時グループCEOだった太田やグループCDIOの谷崎らと「ガツンといかなあかん」と発破をかけた。その際に話していたのが、三井住友銀行の口座ができたらもれなくSMBCクラウドサインが使えるようになる「総付け」と海外展開だったんだよね。契約書そのものだけでなく、契約に至る経緯から管理、ビジネスの上流下流まで含めたサービスで海外展開していこうと、ずっと構想し準備してきました。

三嶋そうでしたね。総付けについては早々に実現しましたね。

磯和法人向けのデジタル金融サービスTrunk(トランク)にもそういった機能を搭載したので、国内の規模は一気に広げられました。でももうひとつ残っていたのが海外展開という課題です。

三嶋SMBCクラウドサインで積み上げてきた顧客は9,000社あまり。それはそのまま継続しつつ、契約に関する前後プロセス、つまりCLMのグローバル展開を新会社で推進し発展させていこうと考えています。

磯和SMBCクラウドサインの枠組みは継続しつつ、海外にも出て世界の上流下流も取りにいくという形です。

最良のパートナーと、絶好のタイミングに恵まれたインド進出

様々な検討をする中で、パートナー選びの決め手はなんだったのでしょうか。

三嶋まずはSMBCグループがアジアに注力していることから、そのグループ戦略に乗るほうが良いと考え、注力エリアを決めました。CLMに関し、欧米は競合が多い一方、アジアは進んでいない国が多い。その中で日本はハンコ文化が強かったがゆえに、電子契約が進んでいる状況です。電子手続きでは印紙税が不要となったことや、コロナ禍でDXが進んだことなどから日本は急速に電子契約が進みましたが、新興国では未だに電子契約も普及していない国が多いのが実情です。

三井住友フィナンシャルグループ 執行役専務 グループCDIO
磯和 啓雄氏

三嶋模索する中で注目したのがインドです。言うまでもなくポテンシャルが巨大なことに加え、ちょうどリーガルテックの転換期を迎えています。キャッシュレス等のデジタル化は途轍もない勢いで進んでいますが、リーガル分野は紙文化が根強く残っており、まさにこれからデジタル化に向けて法整備が進む絶好の機会です。SMBCグループもインドで商業銀行のマルチフランチャイズ化に打って出るタイミングでもあり、市場状況とタイミングの両面で最適だと判断しました。

磯和タイミングは本当に重要。早すぎても遅すぎてもダメだよね。インドに行ってまずは現地を見てこいって言ったの良かったでしょ?(笑)

三嶋はい、大変よく実感できました。まさに百聞は一見に如かず(笑)。

そしてパートナーを選定するにあたり、インドから米国、欧州まで様々な企業のサービスを実際にベンチマークしたのですが、その中でひときわプロダクトが良かったのが、インドのCLMベンチャー企業「VOLODY」様でした。もともとワークフローのシステム提供から始まり、リーガルテックへ展開してきた歴史があるので、CLM全体がシームレスに繋がっていたんです。また、インド市場で地の利があることもポイントでした。さらに、創業者が本気でコミットしてくれて、我々と一緒にリスクを取ってくれる姿勢も大きかった。受発注の関係ではなく、ともにリスクを取り、ともにリターンを得ようという考えで握手ができました。

磯和SMBCグループがインドで展開するクレジット会社、SMBCインディアクレジットがすでにVOLODY様を使っていたことも、ひとつの判断材料になったよね。

三嶋はい。VOLODY様の第三者評価を客観的に聞けたのは大きいですね。

さらに、もう1つのグローバルパートナー、LexisNexis様と組むことができたのも大きいです。理由は2つ、1つは彼らの法規制・改正情報のデータベースが膨大で、このデータを使って商品を共同開発できること。もう1つはグローバル展開における彼らの販路です。彼らは世界150カ国で、同領域にてグローバルNo.1のシェアを握っている企業で、海外の大手法律事務所や大企業の法務部門と多くのコネクションがあります。いくら良い商品があっても売れないと意味がないので、SMBCグループのルートに加えて彼らのルートも活用することで、強力なグローバル展開が可能になると考えました。

日本を代表する法律事務所が参画、史上初の資本提携が示す本気度

磯和アンダーソン・毛利・友常法律事務所様も、よくぞパートナーになってくれたよね。

三嶋日本を代表する法律事務所のひとつで、電子契約の先にある契約書の作成、分析、管理保管等の領域で高度な法律知見を提供いただき、まさに日本最高峰の知見が集っています。特筆すべきは、彼らも受発注の関係ではなく、レベニューシェアという形で共にリスクを取って商品開発に参画し、さらには新会社への出資まで行いコミットいただけること。法律事務所としては非常に珍しい取り組みで、メガバンクと大手法律事務所が資本業務提携を結ぶのは史上初です。

磯和リーガルテックという領域は、彼らからするとある意味、自分たちの仕事を奪う可能性がある領域だよね。だからこそ、どんな法律事務所も慎重になる。そういう状況を理解しつつも、それでもいつかは必ず誰かが実現していく、それならむしろ自分たちがリードする立場になるのが正しいという判断をしていただいたのは大きいよね。入り口がデジタルだったとしても、生身での相談事は必ず残る。弁護士がいらないなんてことにはならないと思いますよ。

三嶋全くそのとおりです。我々が作っているサービスは、あくまで契約行為を効率的かつ適切に行うための支援であり、法的論点の最終的な回答は弁護士が導き出すことになります。高度な部分にこそ“人間”が残ります。

磯和そもそも弁護士が導き出す回答も必ずしも唯一無二ではなく、あくまで見解だからね。テクノロジーが入っても入らなくても、その辺りは変わらないだろうね。

三嶋時代や法改正とともに判断は変わりますからね。

生成AIを駆使したプロダクト開発、激変するAI環境との共存戦略

サービスの中で、AIはどのように活用されていますか?

三嶋生成AIは社としてフルコミットしようと思っています。私のこれまでのキャリアでブロードバンドの普及、スマートフォンの普及と2つのパラダイムシフトを経験してきましたが、今、AIは3番目のパラダイムシフトを起こすものと確信しています。そのため、プロダクト開発は生成AIありきで考えています。ただ、生成AIの進化はあまりに激しく、3カ月、半年で状況が大きく変わるため、今後の動きは予測が難しいです。ゆえに、「今後の予測ができない」という前提でどうするか決定していく必要があります。例えば、今はChatGPTが優れていても、3カ月後は別のAIが優位という話は当たり前に起こり得ます。その動きが読めないからこそ、いつでも最適なAIを活用できるよう、独自のシステムを可能な限り作りこむことなく、変化に対し機動的に対応できるような開発思想・体制が重要だと思っています。

磯和色んなアルゴリズムを把握しつつ、コンセントの口みたいに、そのとき一番良いものを自由に繋げられるようにしておくのがいいよね。アプリケーションを作り込んで、最新の技術が使えなくなるほうがリスクが高い。実はつい最近まで、自力でシステム開発していたのにピボットしたよね(笑)。あれは良い判断だったと思うよ。

三嶋そうなんです。約半年かけて独自のアルゴリズム開発に注力していましたが、環境が急激に変わりすぎてこれは再考しないといけないな、と思い開発思想を見直しました。作っている間に生成AIが進化して、部分的には我々が作ったものより良くなったりして……そういうのも鑑みて、今後は開発手法も大きく変えるべき重要な岐路だと感じています。

磯和作り込んじゃうと、それを一気に変えるのは心理的に難しいもの。それをいとも簡単に切り替えたのは、やっぱりすごいよ。

三嶋本当に重要な学びにはなりました。開発費がかかり、時間もかかったものをピボットするのは心理的にも大変です。しかし、お金と時間がかかっても明らかに微妙なものができる一方で、開発手法を見直せばもっとスピーディーに、安価に、より良いものができる。だからこそ、この判断は避けられませんでした。今回の件に関してはSMBCが「これも学びだった」と認識してくれたのは非常にありがたかったです。

磯和従来の銀行文化だったら、「自分で作ったものがダメになった」と言うこと自体、非常に難しいはず。いたってデジタル子会社らしい判断ができたと思います。

“攻め”を起点に動ける組織へ。変化するSMBCグループの企業文化

SMBCグループ内の企業文化も変わりつつありますか?

三嶋社内の雰囲気はずいぶん変わったと思います。デジタル子会社が様々な業務や新規事業にチャレンジすることで、銀行全体の組織風土における波及効果も大きいのではないでしょうか。

磯和4年前だったら、アンダーソン様と組むという話が出た時点で、「他の法律事務所との関係はどうなるのか」「レピュテーションリスクはどうなのか」といった反対意見が出ていただろうね。今は、まず「攻め」でどうやれるかを考え、その上で「守り」も考えるという風に、バランスが良くなってきているよね。

ロジカルに考えすぎると、誰もが同じ結論に至り、結局レッドオーシャンになってしまう。自分すら信じていない企画を、マーケットデータだけでやり始めるのは大企業でありがちだけど、本当に信念を持ってやっている人には勝てるわけがない。最後は自分でアカウンタビリティ(説明責任)を持って遂行できる人が勝つ。

三嶋新規事業は目新しいものほど根拠を示すのは難しく、逆に根拠を示せるということは、すでに業界が確立しているということ。今のAI隆盛の状況下では、将来予測は不確実すぎます。SMBCグループの新規事業体制は、そういった理屈を理解した上で「次の柱を作る」という側面と「銀行ビジネスに資する事柄」の両軸で検討してくれるのがありがたいですね。

目指すは時価総額1兆円。信頼と営業力を武器に、世界へ

グローバルNo.1を目指すとのことですが、具体的な時期は設定されていますか?

三嶋今年度中にはインドを足がかりに確実な第一歩を踏み出したいと思っています。システム開発、現地の商慣習や文化への対応、販路構築等、スピーティに進んでいる実感はあるものの、インドの環境がめまぐるしく変わっているところなので、それによって遅延するリスクはあります。AIの進化が3カ月スパンでガラッと変わる状況を見ると、半年で提供することすら遅いのではないかという危機感もあります。

また、良いものを作っても売れなければ意味がないので、営業力は非常に重要です。SMBCグループのコネクションを活用し、国内外の様々なルート、特に大企業への提案ルートが確立されているのは他のベンチャーにはできない強みです。SMBCブランドがあるからこそ、他のパートナーとも販売協業しやすいというスケールメリットもあり、様々な販路構築が可能です。長期的に見ると、AIがどんどん進化する中で、最後に残るビジネスの差別化要因は人間関係やリレーションを含めた営業力になるのではないか、とも思っていますね。

磯和いずれ商品はコモディティ化し、営業力の勝負になりそうだよね。実際、SMBCクラウドサインを銀行がお客さんに紹介すると機能や料金だけで選ばれない。これはSMBCグループ全体の信頼関係の上に成り立っているビジネスモデルでもあるね。

三嶋SMBCクラウドサインは、コロナ禍における脱ハンコの動きに対し、時流に即した必要なサービスを提供できたと思います。当初「電子契約って本当に大丈夫なの?」という漠然とした不安がビジネス上の最大の敵でしたが、三井住友銀行自体が住宅ローンをはじめとする本業で電子契約を使っているという事実が、お客様の安心感につながっていきました。これが、電子契約市場全体の拡大にも貢献したと思います。

SMBCリーガルXも同様に、信頼の上に成り立っている銀行グループが提供するサービスであるからこそ、リスクをしっかりと検証し、弁護士とも議論を重ねながらサービスを整理し続けています。だからこそ、自信を持ってサービスを提供し、まずはIPOを経て時価総額1兆円を本気で目指していきます。そして、その実績をもって国内の新規事業開発におけるロールモデルとなり日本経済発展に寄与していきたいと思っています。

磯和まずは早く上場達成しような。本気で目指すで!


PROFILE※所属および肩書きは取材当時のものです。

  • 三井住友フィナンシャルグループ 執行役専務 グループCDIO

    磯和 啓雄氏

    1990年に入行後、法人業務・法務・経営企画・人事などに従事した後、リテールマーケティング部・IT戦略室(当時)を部長として立ち上げ。その後、トランザクション・ビジネス本部長として法人決済の商品・営業企画を指揮。2022年デジタルソリューション本部長、2023年より執行役専務 グループCDIOとしてSMBCグループのデジタル推進をけん引。

  • SMBCリーガルX株式会社 President CEO
    SMBCクラウドサイン株式会社 代表取締役

    三嶋 英城氏

    2018年三井住友銀行にキャリア入行。2019年SMBCクラウドサイン(株)設立、代表取締役社長に就任。2023年経済同友会へ入会、オープンイノベーション委員会副委員長に就任。
    2025年SMBCリーガルX(株)設立、President CEOに就任。レガシーな文化・風習の変革、国内でのオープンイノベーションの普及に邁進。

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類義語:

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類義語:

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類義語:

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類義語:

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類義語:

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