取り組み
2025.09.04更新

AI台頭時代、銀行はどう進化する?SMBCのデジタル戦略に学ぶ“変革のヒント”

2020年に経営理念を見直し、金融領域にとどまらず非金融領域でも事業を拡大してきた三井住友フィナンシャルグループ(以下、SMBCグループ)。

今から約10年前の2016年に、ITイノベーションを推進する部隊を設置するなど、金融業界でもいちはやくデジタライゼーションに取り組んできた。

近年は経産省による「DX銘柄」に2年連続で選定(2024年・2025年)されるなど、外部からも評価され、影響力や勢いは増している。

その実行力の秘訣は何なのか。三井住友銀行 デジタル戦略部長の松永圭司氏に、SMBCグループのデジタル戦略の歩みと現在地、そして生成AIや新規事業などにかける未来を聞いた。

(聞き手:Business Insider Japan ブランド編集長の高阪のぞみ)

なぜ、いち早くデジタル化に取り組んだのか

三井住友銀行 デジタル戦略部長 松永圭司(まつなが・けいじ)氏/1998年三井住友銀行入行。国内外のホールセールバンキングビジネス企画、経営企画等を経て、2021年よりAsia Innovation Centre室長に就任。銀行業務の変革とアジアでの成長をビジョンに掲げ、APAC地域でデジタルを活用したクライアントの事業創出や社内インフラの刷新に取り組む。2023年よりCVC運営を兼務。2024年よりデジタル戦略部長として、グループのデジタライゼーションを推進している。東京大学卒業、カーネギーメロン大学(MBA)修了。

SMBCグループは、いち早くデジタル領域を強化されてきました。もともとの課題感は何だったのでしょうか。

松永ITイノベーション推進部を設置した2016年頃は、GAFAの台頭やFinTechサービスの勢いが増す中、一部で“今後の銀行不要論”がささやかれることもありました。そうした時代の流れに危機感があったことも確かです。

一方でスマートフォンが普及し、個人のお客様に対しても法人のお客様に対しても、より便利な金融サービスを提供できるのではないか。業法改正の動きもあった中で、デジタルの力で、銀行という枠組みを超えて“非金融の領域”でも新しい価値を作っていけないだろうか──そう検討し始めたのもその頃です。

為替や預金、融資といった銀行の本業に対するデジタル化はもちろんですが、それ以外の領域もリスクを取ってでも新たな事業の開発を進めていこうとしたのです。

なるほど。ある意味、銀行の本来のあり方を“再定義”するために、デジタル化という手段をとったのですね。

松永はい。前社長の太田(純)が「カラを、破ろう。」、現社長の中島(達)が「突き抜ける勇気。」というキャッチコピーを掲げてきたことにも象徴されますが、お客様のために何ができるのかを常に考え、金融という枠を超えて、テクノロジーを活用して新しいものをどんどん生み出していこうと。

役員にアイデアを直談判、新規事業が生まれる仕組みとは?

社員が新規事業のアイデアを経営トップに直接プレゼンテーションする「CDIOミーティング」は象徴的な取り組みですよね。始めた背景を教えてください。

松永デジタル領域で新しいことをしようとすると、システムへの投資が必要で、これまでのようにROI(投資利益率)をしっかり計算して、年に数回のタイミングで議題に上げるのはあまりにも非効率ですし、動きが遅い。

これまでのようなウォーターフォール型のシステム開発では、新たな技術やビジネスモデルがどんどん進化していく中で、そのスピードに追いつけないことも分かっていました。

そこで、カルチャー変革の意味も込めて、2017年から「CDIO(チーフ・デジタル・イノベーション・オフィサー)ミーティング」という会議を毎月開催しています。

これまでのように事前の調整に時間をかけずに誰でも経営会議にかけることができるので、“アイデアを提案してみよう”、“一歩踏み出してみよう”という従業員の意識改革にもつながったと感じています。

SMBC

そこから生まれた事業にはどんなものがありますか?

松永契約業務をオンラインで完結できる電子契約サービス「SMBCクラウドサイン」や、中小企業のサイバーセキュリティを支援する「SMBCサイバーフロント」、データマーケティングや広告メディアを展開する「SMBCデジタルマーケティング」、組織力向上プラットフォームを提供する「SMBC Wevox」など、非金融領域で10社近くが立ち上がっています。つい最近も、リーガルテック事業として「SMBCリーガルX」の設立を発表しました。

CDIOミーティングが、若手の起業を大きく後押ししているのは間違いありません。また、この動きを支えるためのデジタル予算として、3年間でおよそ300億円がついていることも大きいと思います。実際にデジタル子会社をマネジメントする社員に対しては、ストックオプションを配布する試みも始めています。

「社内の雰囲気は変わってきた」

銀行といえば「堅い、遅い、変わらない」といったイメージも根強いと思うのですが、このような取り組みを知って、SMBCグループで働きたいと考える新たな層も増えたのでは?

松永そうですね。「SMBCグループが変わったことをしている」という声は着実に広がってきていると思います。将来的には、アントレプレナーの資質や気概を持った人材が「起業するならSMBCへ」という流れも作れたらと考えています。

もちろん、従業員全員が起業家精神を持つ必要はないと思いますが、一方で、銀行業務のオペレーションや組織体制の変革が急務な中、そういったマインドを持つ方々を取り込んでいくことも大切だと思っています。

例えば今、生成AIの発展が目覚ましいですよね。生成AIは単に業務を効率化するだけでなく、お客様とのやりとりも含めて、ワークフローやオペレーションのあり方そのものをドラスティックに変える可能性があります。

もっと言うと、企業活動や経済活動の在り方をも変えてしまうかもしれない。だからこそ今の延長線で考えるのではなく、高速進化していくテクノロジーをいち早く取り込んで、変革を起こす。そんなマインドを持った人の活躍の場をつくるべきだと考えています。

実際にSMBCでも、業務や事業にAIを取り入れる動きは始まっているのですか?

松永この急速なAIの発展を目の当たりにして、昨年の10月頃から生成AI活用の話は出ていました。とはいえ、各事業部門からすると、目の前の業務もある上、今使っているシステムの更改やアップデートの方が優先度が高く、効果や活用方法が説明しにくいAIを活用することになかなか踏み切れない現状があったんです。

そこで、デジタル予算に「生成AI投資枠」として500億円を追加して、運用を始めています。先ほどご紹介したCDIOミーティングでも、例えば「コールセンターの業務にAIを活用し、より高度化したい」「社長のAIアバターを作って、従業員とのコミュニケーションを活性化したい」といった提案があり、30件ほどの案件がすでに承認されています。

さらに、銀行の各事業部門の中でAIを活用していくだけではなく、我々自身がお客様にAIソリューションを提供し、お客様の業務を効率化・高度化していく構想もあります。

銀行の本業としての決済や経理、財務に関わるようなデジタルソリューションに加えて、AIが情報収集や分析、レコメンドできる機能を提供できれば、新しい価値をお客様に提供できると考えています。現在、海外からトップ人材を招き、AIソリューションを提供するスタートアップの設立と、銀行の中の業務変革とカルチャー変革を進めようとしています。

2年連続で経済産業省のDX銘柄に選定されるなど、社外からも一定の評価がありますが、どのような手応えを感じていますか?

松永非常にありがたいことだと感じています。Oliveなど金融プラットホームを先行して進めていること、非金融事業に取り組み、それをオウンドメディアなどを使って外向けに広く発信してきたこと、そして土壌となる失敗を恐れない文化を作ってきたことなど、総合的に評価いただいたものと認識しています。

お堅いイメージの強い銀行が「失敗を恐れない」というのは、とてもいいですね。

松永銀行は社会のインフラでもありますから、もちろん守らなければならないもの、失敗してはいけないものもあります。一方で、リスクをとって新しい動きもしていく。その両軸のバランスをとりながら進めていく必要があると思っています。

数年前と比べても、社内の雰囲気はだいぶ変わってきました。テクノロジーを積極的に取り入れて、新しいものを作ってみよう・やってみようという動きやマインドが、デジタル戦略部のみならず他の部署にも広がっていると思いますし、この動きはもっと加速させていきたいですね。

日本再成長のカギは「テクノロジーの活用」

松永さんは、現在のポジションに就く前はシンガポールに駐在されていたそうですね。アジアの最前線にいた経験も踏まえて、改めて、日本の今後をどう見ていますか?

松永例えば、インドでは豊富な人口と積極的なデジタル化が同時に進んでいます。一方で日本は、労働人口が頭打ちになっていく中で、日本の経済が何もせずとも自然と再成長することはなく、どのように日本の再成長を加速していくかを考える必要があると思います。

そのためには、銀行も含めた日本の企業が、AIをはじめとしたテクノロジーをいかに早く取り込んで、労働生産性を上げていけるか。その上で、世界で戦っていく力をどれだけつけられるかが肝だと思っています。

ただ一企業だけでデジタル化を進めても、それは国全体の成長の起爆剤にはなり得ません。SMBCグループがデジタルを推進し、パートナーとともにイノベーションを加速させ、お客様のデジタル化や企業変革のサポートをしていく。そして、その先のサプライチェーンや産業全体のデジタル化にも貢献していく──。そんなエコシステムをつくっていきたい。

AI以外にも、デジタルアセットやステーブルコイン、アバター、ARグラス、量子コンピュータなど、さまざまなテーマで新たな事業の可能性を追いかけています。

今後も、グローバルのテクノロジーを積極的に取り込みつつ、企業の在り方やビジネスモデルを変革していくような仕掛け作りに注力していきます。

出展元:「2025/7/15公開 BUSINESS INSIDERタイアップ広告より」


PROFILE※所属および肩書きは取材当時のものです。

  • 三井住友銀行 デジタル戦略部長

    松永 圭司氏

    1998年三井住友銀行入行。国内外のホールセールバンキングビジネス企画、経営企画等を経て、2021年よりAsia Innovation Centre室長に就任。銀行業務の変革とアジアでの成長をビジョンに掲げ、APAC地域でデジタルを活用したクライアントの事業創出や社内インフラの刷新に取り組む。2023年よりCVC運営を兼務。2024年よりデジタル戦略部長として、グループのデジタライゼーションを推進している。東京大学卒業、カーネギーメロン大学(MBA)修了。

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