
2025年4月、SMBCグループはFireblocks、TIS、AvaLabsとともに、ステーブルコインの共同検討開始を発表。日本のメガバンクがステーブルコインの事業化に向けた取り組みに本格的に着手する姿勢を示したことで、国内外の業界関係者の間で関心を集めました。
伝統的金融機関が、なぜステーブルコイン市場に挑むのか、その戦略的な狙いと、連携の背景と展望を、関係者の声から紐解きます。
新たな通貨インフラとなりうる、ステーブルコインとは
ステーブルコイン事業化に向けた共同検討のニュースは、金融業界をはじめ各界に大きな注目を集めました。そもそもステーブルコインとはどのような仕組みでしょうか。
SMBC 木浦ステーブルコインは暗号資産の一種ですが、その価値が安定するように設計されている点が一般的な暗号資産とは異なります。分散台帳技術を基盤としていることから、既存の送金手段と比較するとコストやスピードの面で優れており、国際送金や企業間決済、DeFi(分散型金融)の担保資産としての利活用が期待されています。日本では2023年6月に改正資金決済法が施行され、国内での利用が可能となりました。

木浦 義明氏
SMBC 久我法定通貨でのクロスボーダー送金はまるで「バケツリレー」のように多くのフローを経るため、時間もコストもかかります。しかしステーブルコインを利用すれば、データ送受や決済タスクが大幅に削減される分、より早く、より安価に送金が可能になります。また、取引の透明性が高く、リアルタイムで状況を確認できるというメリットも大きいですね。


久我 知也氏
4社連携で実現した、金融×Web3の最強布陣
4社連携が生まれた背景を教えてください。
SMBC 久我AvaLabsさまはブロックチェーンプラットフォーム・プロバイダとして、高速かつ低コストなトランザクションを特徴とした安定感のあるチェーンを提供されており、海外の金融機関での豊富な採用実績をお持ちです。Fireblocksさまはデジタル資産の安全な発行、移動、保管を可能にするソリューションを提供され、すでに数多くの海外金融機関との実績を築いており、その堅牢なシステムセキュリティは業界内で高く評価されています。これらの実績と信頼性を重視し両社にお声がけしました。さらに全体の取りまとめ役として、日ごろからブロックチェーンを用いて様々な権利をトークン化したST(セキュリティトークン※1)の活用に関するディスカッションをしたり、日本銀行が主催するCBDCフォーラムでもお付き合いしたりとブロックチェーンと金融領域における造詣が深いTISさまにお声がけしました。
(※1)ブロックチェーン技術を活用し、株券や社債などの有価証券に表示される権利をデジタル化したもの。
AvaLabs 井上AvaLabsはブロックチェーンのWeb3ソリューションを提供しており、ブロックチェーンプラットフォーム「Avalanche(アバランチ)」は世界中で支持されています。これまでの暗号資産(クリプト)は、投資家向けのマネーゲームという側面が強く、社会実装が進みにくいという課題がありました。我々はその壁を超え、既存金融との接続性も意識しながら、新たな金融・通貨システムを構築しようとしています。

井上 大悠氏
TIS 中川TISは2016年からブロックチェーンを次世代決済基盤として注目し、研究開発を進めてきました。近年までは暗号資産で利用されるパブリックブロックチェーン基盤と金融機関や事業者が活用を検討してきたエンタープライズ用途のブロックチェーン製品は、「暗号資産の世界」と「業務システムの世界」で異なる領域として扱われてきました。背景にはパブリックチェーンが「誰でもアクセスでき、管理者不在のオープンな環境」である一方、エンタープライズ用途では「参加者を限定し、信頼性・セキュリティ・性能を重視する」ニーズが強かったことが挙げられます。こうした中、エンタープライズ用途に応えるAvalancheの登場により、金融機関や事業者でもパブリックブロックチェーン基盤を本格的に活用でき、社会実装に向けた見通しが立ってきたのです。

兼 デジタルイノベーション事業部 フェロー
兼 ソーシャルイノベーション事業部Web3ビジネス企画部 フェロー
中川 剛氏
Fireblocks 佐々木Fireblocksは暗号資産カストディ(管理保全)サービスを手がけ、アメリカ本社ではすでに多くの金融機関と実績を築いています。日本でも昨年末にローカルチームを立ち上げ、国内の法規制に対応しながらユースケースを展開する準備を進めています。
技術面で先行するAvaLabsと弊社、国内最大手の金融系SIerであるTISさま、そして官公庁とのつながりを持つ伝統的金融機関であり、裏付け資産の保有も十分にお持ちのSMBCグループという4社の連携は、これ以上なく理想的な布陣です。

佐々木 凱生氏
高度なセキュリティとインフラ整備が支える安心設計
ステーブルコイン利用に関し、セキュリティ面で不安を抱く消費者もいるのではないでしょうか?
SMBC 木浦ステーブルコインは日本の資金決済法のもとで、電子決済手段として定義されていますが、その裏付けとなるお客さまからお預かりした資産は確実に保全される仕組みが求められています。我々は、その厳格なルールに基づき、安全な資産管理を徹底します。お預かりした資産を確実に守ることは、銀行としての基本的な責務であり、それは預金でもステーブルコインでも変わりません。
Fireblocks 佐々木金融機関は外部認証のSOC2(第三者機関による厳格な監査基準で、セキュリティやプライバシー保護体制の信頼性を評価する報告書)やSOX法(会計・内部統制の不備を防ぐための法律)に基づく信頼テスト等でセキュリティを担保しています。それに加えFireblocksでは、外部監査と人的チェックを通じてセキュリティの信頼性を確保しています。
AvaLabs 井上チェーンレベルのセキュリティも必要不可欠です。Avalancheはチェーンを簡単に作成し、つなげられる柔軟なプラットフォームですが、用途や規制に応じて独自チェーンを構築できる強みがあります。たとえば今回の取り組みで言えばAML/CFTを徹底するためにチェーンレベルでユーザーアドレスを管理する機能や、誰がデプロイ(本番環境に配置・公開)するのかといった細かな権限設定が欠かせません。さらに多数のサーバーをどこに置けば安全かといった物理的な課題を含め、金融機関として遜色ないインフラを提供することも大切です。
TIS 中川ステーブルコインを発行・流通させるには、スマートコントラクトと呼ばれるアプリケーションが必要ですが、それらを含めTISはサービスの提供が可能です。ブロックチェーンに取り組むWeb3ビジネス企画部では、スマートコントラクトのセキュリティ監査サービスを提供しており、本監査を実施しています。また、インフラサービス全般においても、長年手がけているクレカ・キャッシュレス決済の構築運用で実績あるセキュリティ監査も含めて、TISで完結できるのが強みです。
SMBC 木浦AvaLabsさまもFireblocksさまもWeb3の世界の一線を走られていますが、実際の利用者はWeb2※2の世界に慣れ親しんでいる方が主体となるため、その2つの世界を繋ぐための最終的なインテグレーションを担うTISさまの役割も極めて重要です。SMBCグループと3社が連携することで、ようやく本格的な実証に進む体制が整ったと感じています。
(※2)現在のインターネットの主流であり、企業が提供するサービスを利用する中央集権型のインターネットを指す。
日本の制度優位を活かす、ステーブルコインの実装戦略
暗号資産に関して、日本の世界における立ち位置はどのような状況なのでしょうか。
Fireblocks 佐々木銀行がステーブルコインを発行できる制度設計が整っている国は少なく、日本はその点で世界の最先端を走っています。本取り組み発表後に、ようやくアメリカの4大銀行がジョイントベンチャーをつくり、同様の構想を発表したほどで、まさにアメリカが日本を追いかけているような状況です。国内の政治家や官公庁も「挑戦しないリスク」を非常に重く見ており、資金決済法をはじめとする関連法令の改正も異例なスピードで進んだことを踏まえても、日本は恵まれた環境下にあると言えるでしょう。先行している分、法的な立て付けがガラパゴス化してしまうリスクもあるので、世界の動きを見ながら細かな修正も必要です。
AvaLabs 井上クロスボーダー決済市場は法定通貨が絡むため、メガバンクの動きは非常に重要です。資金効率性やクロスボーダーの手数料に改善の兆しが見えればステーブルコインの発行量が増えるはずですし、他社も追随しユースケースが積まれていくでしょう。
SMBC 木浦今後は実証実験のユースケース選定と具体的な実装に進みたいと考えています。取り組むユースケースについては、事業者の方と一緒に議論を交わし、評価していく必要がありますが、実証実験としての単発的な使い方ではなく、将来的に世の中に浸透するユースケースの第一歩となるものを見つけたいと考えています。
実装にあたり、一番障壁となることはなんでしょうか。
SMBC 久我仕組みそのものが変わるときは、既存システムと新たなシステムが併存する瞬間が必ず存在します。その際、コストやオペレーションに負荷がかかる点が大きな障壁となります。
Fireblocks 佐々木Web3が既存の金融市場を奪うという話ではありません。KYC(本人確認)・KYT(取引確認)を自動スクリーニングしたり、資金効率の向上などのデジタルメリットを活かしたりしながら、“置き換え”ではなく、“共存”という形で進められると理想的だと思います。
技術も法規制も、日本は本当に世界に先駆けているので、省庁とディスカッションしながら海外事業者に沿ったレギュレーテッド準拠(規制に準拠した形)としていくことで、社会実装が間違いなく進むでしょう。その意味でも、SMBCグループの官公庁とのつながりは大きな力になると確信しています。
日本再成長の起爆剤へ。ステーブルコインが拓く未来
ステーブルコインの事業化について、どんな未来像を描いていらっしゃいますか。
AvaLabs 井上お金のデジタル化はまだまだ途上にあります。キャッシュレス決済も、その裏側では送金コストがかかっているわけで、お金を動かすたびに摩擦が生じます。価値を移転するためだけに、お金が減っていくのは非常にもったいない。それらをステーブルコインがゼロコストにすることで、お金の状態変化や持ち方をもっと多様に、自由にできるかもしれません。
我々は本当に先行しているアイデアを持っていると思いますし、実証へと展開していける座組も揃っています。弊社はアメリカ発ではありますが、本国に負けたくないという気持ちは強いですね。
TIS 中川ブロックチェーンはアセット資産が投下される大規模なマーケットとなり、新たな金融市場を生みだす可能性を秘めています。一方でアセットがあってもステーブル(安定性)がなければ連動性を失ってしまいます。
TISでは不動産、証券、社債などのアセットをトークナイゼーション(トークンに変換する技術)するセキュリティトークンのプラットフォームを保有しています。このプラットフォームでトークン化されたアセットを、ブロックチェーン上でシームレスに流通させることでDVP(金融資産の引き渡しと、対価の支払いが同時に行われる決済方式)を実現できます。DVPにより、あらゆるアセットがトークン化され、シームレスに流通・管理ができる世界を目指します。
SMBC 木浦キャッシュマネジメントにおける効率化の幅を広げるには、デジタルアセットと掛け合わせるのが有効です。ステーブルコイン単体だけでなく、トークン化されたデジタルアセットは必須になるでしょう。現実世界で経済的価値を持つものをトークン化するRWA(Real World Asset:実在する資産をブロックチェーン上でデジタル化したもの)の流れと掛け合わせ、トークン化された金融商品・経済的価値を担保にお金を借りたり、AIを活用してリアルタイムで保有・運用資産を組み替えたりするなど、最適なポートフォリオをオンチェーン上で完結して構成できるところまで踏み込んでいければさらに可能性は広がります。
利便性向上を目指し、ユーザーが意識せずとも恩恵を享受できるような社会の実現に向け、現実的な実装を進めていきます。
SMBC 久我従来、ポートフォリオで死蔵していたアセットをトークン化によって流動性を持たせることができれば、資本が格段に効率化します。日本には知的財産をはじめ無形資産が数多くあり、これらのアセットに流動性を持たせることで資金調達への活用や新たなマネタイズポイントの創生が可能になると考えており、ひいては日本の再成長につながると思っています。
AvaLabs 井上仕事柄、様々な金融機関とご一緒する機会がありますが、最終的には“人”次第。同じことを進めていても人によって結果が変わりますが、この取り組みは建設的なメンバーが積極的にチャレンジしています。私も人として貢献し、動かしていきたいと思っています。
SMBC 木浦この先、この新しい決済インフラを1つの銀行単独ですべてまかなうのは難しいからこそ、コンソーシアムなど様々な形でほかの金融機関とも連携しながら、未来の金融の形を描いていきたいですね。

PROFILE※所属および肩書きは取材当時のものです。
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TIS株式会社 デジタルイノベーション事業本部 クレジットSaaS第3部 フェロー
兼 デジタルイノベーション事業部 フェロー
兼 ソーシャルイノベーション事業部Web3ビジネス企画部 フェロー中川 剛氏
長年にわたりクレジットカードシステムの構築プロジェクトに携わり、近年では数万人月規模の大規模なクレジットカードシステム構築プロジェクトにてPLを務める。2023年度より、次世代決済に関する社内ワーキンググループに参画し、ブロックチェーンを活用した新たな決済サービスの構築や、CBDC(中央銀行デジタル通貨)関連の取り組みにも従事。決済基盤の進化と、未来の決済インフラの共創を推進している。
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AvaLabs Business Development Solutions Architect
井上 大悠氏
コンピュータセキュリティのバックグラウンドから、海外e-sportsゲーム国内展開支援、パブリックチェーン上の出来高世界1位のマーケットプレイスでの勤務を経験。AvaLabsではBDとソリューションアーキテクトを担当。金融機関の課題解決をブロックチェーンを活用して取り組んでいる。ビジネスの立案からサービスの実装までサポート。
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Fireblocks Sales Engineer
佐々木 凱生氏
SBIグループ在籍時代にSBI VCトレードにて取引所統合型ウォレットSBI WEB3ウォレットの開発や暗号資産ステーキングシステムの開発に従事。大手企業のブロックチェーン子会社のプロジェクトへのシステム・セキュリティアドバイスに従事後、2024年7月にFireblocksにSales Engineerとしてジョインし、お客さまへのアーキテクチャレベルからの導入提案に従事中。
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三井住友フィナンシャルグループ デジタル戦略部 部長代理
三井住友銀行 デジタル戦略部 部長代理木浦 義明氏
総合電機メーカー、新形態銀行で最新デジタル技術を活用した新規事業開発を担当した後、2024年にSMBCグループに入社。Web3・ブロックチェーン関連領域における新規事業開発には2019年から従事し、金融機関でのVerifiable Credentialsやセキュリティトークン、ステーブルコイン等の事業化に向けた取り組みを推進。また、SMBC入社後は、CBDC(中央銀行デジタル通貨)、トークン化預金、ステーブルコイン等のデジタル通貨に係るプロジェクトを担当。
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三井住友フィナンシャルグループ デジタル戦略部 部長代理
三井住友銀行 デジタル戦略部 部長代理/デジタルビジネスエキスパート久我 知也氏
総合電機メーカーにて異業種横断での共創ビジネス創出を担当し2023年にSMBCグループに入社。Web3・ブロックチェーン関連領域における新規事業開発には2018年から従事し、Verifiable Credentialsやセキュリティトークン、RWA(リアル・ワールド・アセット)のトークン化等の事業化に向けた取り組みを推進。直近では大手事業会社を中心とした外部企業とのアライアンスを通してのステーブルコインの流通に向けた事業創出に従事。
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