サービス・導入事例
2025.10.16更新

中小企業向けデジタル総合金融サービス「Trunk」誕生の舞台裏

これまで中小企業やスタートアップにとってハードルが高かった、メガバンクでの口座開設。そのイメージを打ち破るべく、SMBCグループが2025年5月に提供を開始したのが、法人向けデジタル総合金融サービス「Trunk(トランク)」です。

業界最安水準の振込手数料、最短翌営業日の口座開設を実現するために、デジタルを駆使し、銀行内のルールを大胆に変革。UI/UXや開発手法まで刷新し誕生した画期的なサービスです。その裏には、数々の壁を乗り越え、挑戦と情熱を注いだプロジェクトメンバーの姿がありました。

三井住友銀行の決済商品開発部 斉藤 一茂部長、ホールセール統括部 法人デジタル企画室 加賀 卓哉上席推進役、同室 柳澤 隆大室長代理、そして、三井住友カードのBM事業開発部 井上 祐也グループ長、同部 酒井 美空氏に、Trunk誕生を支えた覚悟と奮闘の舞台裏を伺いました。

中小企業の課題解決へ。Trunk誕生の原点

法人向けデジタル総合金融サービス「Trunk」のコンセプトとサービスの特徴、立ち上げの経緯について教えてください。

SMBC柳澤Trunkは、中小企業向けの銀行口座と法人用クレジットカード(新ビジネスカード)の2つを軸にした総合金融サービスです。

これまでの法人向け金融サービスは、紙やアナログな手続きが多く、人手と手間がかかっていました。DXが進む社会において大きな課題と考え、改善を図りたいという思いが原点です。

また、銀行の本業に回帰する形で、これまであまりお取引ができていなかった中小企業のお客さまと関係を築きたいと考えました。

三井住友銀行 ホールセール統括部 法人デジタル企画室 室長代理
柳澤 隆大氏

SMCC井上もう一つの背景には、個人向け総合金融サービス「Olive」の成功があります。このプロジェクトに三井住友銀行と三井住友カードが共同で取り組み、デジタルのノウハウを培ったこと。その知見は、Trunkに十分に活かされています。

三井住友カード株式会社 BM事業開発部 グループ長
井上 祐也氏

SMBC斉藤そうですね。一緒に事業を進める環境が整っていたことは大きかったと思います。SMBCグループの価値観の一つ「Team “SMBC Group”」(多様性に富んだ組織の下で互いを尊重し、グループの知恵と能力を結集する)が定着した結果の現れでしょう。

三井住友銀行 決済商品開発部 部長
斉藤 一茂氏

「なぜ、今メガバンクが中小企業を?」その背景にある二つの理由

三井住友銀行は大企業向けのサービスに強みがありますが、中小企業向けのサービスを提供する理由は何ですか?

SMBC柳澤理由は大きく二つあります。
一つは、これまでのサービスに対する反省です。長年、中小企業の皆さまに十分向き合えず、求められているサービスを提供できていませんでした。「中小企業やスタートアップはメガバンクとの取引は敷居が高い」というイメージが定着し、多くの企業が地方銀行や信用金庫、ネット銀行と取引されています。中小企業の皆さまに合ったサービスへと作り直し、さまざまなニーズにも応えられるようになれば、このイメージも変えることができるのでは、と考えました。

もう一つは、デジタル化によるビジネスモデルの変革が可能になったことです。これまで大企業のお客さまとは1対1で接することが多かったのですが、デジタル活用により、日本企業の99.7%を占める中小企業の皆さまと向き合うことができる土台が整いました。

メガバンクの常識を覆す、スピード重視の口座開設

Trunkの機能面の大きな特徴の一つは、最短翌営業日で法人口座を開設できることですね。

SMBC柳澤はい、その通りです。従来もオンライン開設は可能でしたが、多くの書類提出や長い審査期間が必要で、今日のお客さまのビジネスのスピード感にはそぐいませんでした。

SMBC斉藤そこで従来のやり方を大胆に変えました。柳澤を筆頭に、これまでのルールやお約束ごとを切り捨てていきました。

SMBC柳澤例えば登記簿謄本は公開情報で誰でも取得できます。ならば当行が取得して、お客さまのご負担を減らした上で、お客さまにはお客さま自身でしか提出できない資料をご提供いただき、審査に活用していく形に変えました。

SMBC加賀これまでは「銀行のルールに従っていただく」やり方でしたが、今回は、お客さま視点でゼロベースから見直しました。結果、最短翌営業日での開設が可能になったのです。

三井住友銀行 ホールセール統括部 法人デジタル企画室 上席推進役
加賀 卓哉氏

SMBC斉藤「ご来店いただくことを前提としない手続き」にしたことも大きいです。これまではお客さまに書類を持ってきていただいて、その書類が十分でなかった場合はまた改めてご来店いただくこともありました。それをデジタル化によって、ご来店不要という世界を実現したんです。

SMBC加賀社長は多忙ですから、わざわざ支店に来ていただくのではなく、隙間時間でお手続きいただけるのが本来あるべき姿ではないかと考えました。

SMBC斉藤ルールチェンジができたのは、法人取引の企画・責任を負っている部署が本気で中小企業のお客さまに向き合うと決めたからだと思います。「ルールを根本から変えたい」「ルールを一部緩和したい」という場面において、その責任をすべて引き受けると決断したことがターニングポイントだったと思います。

「業界最安水準、他行宛145円の振り込み手数料」に挑戦できた理由

もう一つの特徴は、業界最安水準の手数料です。他行宛ての振込手数料は145円と随分と思い切りましたね。

SMBC加賀はい。競合となるネットバンクは、とても安い手数料で展開されています。我々はサービスの品質自体には自信があったものですから、手数料についても、競合と同水準まで頑張ってみようと覚悟を決めました。

背景には、ネットワーク効果があります。当行は大企業の取引先が非常に多いですが、その取引先の取引先は、今回のターゲットとなる中小企業です。つまり、取引先が三井住友銀行の口座を持ち、取引先の取引先にも当行の口座を持っていただければ、資金移動が当行内で完結する割合が高まります。当行内での資金移動にコストはほとんどかかりません。また、新ビジネスカードを提供することによりお客さまとのお取引の幅を拡げ、業界最安水準の手数料に挑戦できました。

そのほか、インターネットバンキングの特徴はありますか。

SMBC斉藤従来の仕組みを活用しつつ、マニュアルを見なくても感覚的に使えるような新しいサービスを作りました。開発もクラウド環境でアジャイル型。デザイナーも参加し、お客さまにインタビューさせていただき、フィードバックを開発に活かすという当行としては今までにない手法でシステムを構築しました。

SMBC加賀我々は大企業のお客さまとの長年のお取引の中で、経理や財務のプロの方が使いやすいものを提供し、一定のご評価をいただいております。一方で、今回のターゲットである中小企業の場合、経理や財務が専門ではない社長や役員が直接システムをお使いになることも多い。そこでUIを一新しました。

社内には「法人向けサービスにデザイナーを入れる必要があるのか」という意見もありましたが、新しいマーケットに挑むにあたり今までのやり方は通用しないと考え、ゼロベースで作り直そうと呼びかけました。

SMBC斉藤そうですね。我々も中小企業のお客さまのことを知らないという自覚があったので、多くの方にインタビューをさせていただき、その意見を踏まえて開発してきました。まだまだ改善の余地がありますので、これからも作る側の理屈ではなく、使う方々の意見を取り入れていく方針です。

AI与信で最大10億円、新ビジネスカードの全貌

現在、口座開設と同時に法人代表者向けの三井住友カード ビジネスオーナーズの申し込みが一気通貫でできますが、さらに開発されている新たな法人用クレジットカード(新ビジネスカード)があるそうですね。その特徴を教えてください。

SMCC酒井機能面では三つの特徴があります。一つ目は、新たなAI与信エンジンによる大きな利用限度額です。現在、Visaとも連携し、新たなAI与信エンジンを共同開発しています。口座やカードの利用状況など、豊富なデータをもとにAIを駆使することで、新たに起業する新設法人のお客さまにも幅広くカードを発行できるようになり、最大10億円の与信枠の設定が可能となります。

二つ目は、ウェブ管理機能です。口座やカードの利用金額を一元管理できるサービスを新しく構築しています。UI/UXデザイナーに入ってもらい、パーツの一つ一つにまでこだわりを持って開発をしています。

三つ目は、利用コントロール機能です。今は個人がカードを紛失した際に、オンラインで一時的にカードを停止することができますが、今回の新ビジネスカードにも同じような機能が追加されます。また、法人用カードなので、従業員の方にカードをお配りすると思いますが、利用できる加盟店を絞る機能や、1カ月単位や1回あたりの上限金額を設定できる機能が追加されます。

この機能は私がメインで担当し、機能の設計から要件整理やシステム開発に至るまで取り組みました。私は入社3年目ですが、入社当初からこの案件に携わっているので、強い思い入れがあります。

三井住友カード株式会社 BM事業開発部
酒井 美空氏

新ビジネスカードを開発する中で、壁を感じましたか?

SMCC井上正直、たくさんありました。今回のカードは今までのカードから抜本的に変えるような設計を行っているため、当部の力だけでは限界があり、多くのノウハウを結集する必要があります。各部署をまわり、この新ビジネスカードが目指す姿、想いを丁寧に伝え、協力を仰いだことで、システム部門をはじめとする関係各部の人たちがこのプロジェクトを一体となって進めてくれたので、どうにか壁を乗り越えてきました。

他社と比較した場合の強みは何でしょうか?

SMCC井上与信の柔軟性、ガバナンス、お得さです。与信については先ほどお話しした通りですが、大きな与信額を提供するからこそ、第三者の不正使用、内部不正を未然に防ぐ為の利用制限機能を提供しています。更に、万が一第三者に不正にカードが利用されてしまった場合でも、全額補償しますので、そういった意味での安心感が全く違うと思います。また、Trunk口座とセットで利用して頂くとポイントが高還元になるようなプログラムも準備しています。

今回、我々はTrunkで口座を作り、その法人様の情報を引き継いで、カード発行まで一気通貫の動線を設計しました。ここもお客さまの手間を最大限省略することにこだわった、こだわりのポイントです。

全国へと広がるTrunk、中小企業を支える次の一手

リリースされてから半年が経ちました。反響はいかがでしょうか。

SMBC柳澤SNS上では「作って良かった」「簡単に開設できた」など、ポジティブな声を多くいただいています。まさに我々が考えて作ったものが、世の中に少しずつ受け入れられていると感じて、とても嬉しいです。

SMBC斉藤私も入社して30年以上経ちますが、サービスをゼロから立ち上げて、直接の反響が得られる機会は初めてで、貴重な経験だと感じています。

今後の機能追加やサービス拡張の予定を教えてください。

SMBC斉藤2026年1月に「請求書支払い機能」を追加予定です。受領した請求書をアップロードしたりスマホで撮影したりするだけで、自動でデータ化し、振り込みや支払い繰り延べが可能になります。経営者の方の業務効率化を進めて、本業に専念いただくという目標に一歩近づくサービスです。また、補助金情報の提供・申請支援サービスも予定しています。

SMCC井上2026年秋に、先ほどお伝えした新ビジネスカードをリリース予定です。

中小企業にTrunkが普及すると、日本全体のビジネス環境や地域経済にはどのような変化が期待できるとお考えですか。

SMBC柳澤中小企業のお客さまにTrunkをご提供することで、「メガバンクは敷居が高い」という認識を変えたいと考えています。Trunkはすでに47都道府県からお申し込みをいただいております。支店という物理的制約や営業時間という時間的制約を超えてサービスを提供できるのは、デジタルの強みです。

全国津々浦々に質の高いサービスを提供することによって、経営者がお金周りの悩みから解放され、本業に専念できる環境づくりを後押ししたいと思います。


PROFILE※所属および肩書きは取材当時のものです。

  • 三井住友銀行 ホールセール統括部 法人デジタル企画室 室長代理

    柳澤 隆大氏

    2015年に三井住友銀行入行。一貫して新規事業開発・戦略立案に携わる。子会社2社の設立・事業経営・サービス開発、イノベーション拠点の企画運営、米テック企業との業務提携等を推進。TrunkではPMOとして全体統括と口座開設を中心とした業務刷新をリード。

  • 三井住友銀行 ホールセール統括部 法人デジタル企画室 上席推進役

    加賀 卓哉氏

    コンサルティング会社を経て、2007年に三井住友銀行へ入社。一貫して法人のお客さま向け決済関連サービスの企画・開発に従事。Trunkは前身プロジェクトの立ち上げから携わり、アジャイル開発体制構築、規約制定、口座開設を担当。

  • 三井住友銀行 決済商品開発部 部長

    斉藤 一茂氏

    1994年に住友銀行(現三井住友銀行)に入社。法人営業部を経て、債権流動化などのアセットファイナンス業務に従事。その後複数部署を経て、Trunkの立ち上げ時から開発チームのヘッドとしてプロジェクトに参画。

  • 三井住友カード株式会社 BM事業開発部 グループ長

    井上 祐也氏

    2012年に三井住友カードへ入社。SMFGのサイバーセキュリティ部門の立ち上げやLINE Payとの戦略的提携などを推進。2020年から法人決済部門に所属、BPSP事業の展開、ビザ・ワールドワイド・ジャパンとの協業プロジェクトなどを経て、Trunkの新ビジネスカードの開発責任者として従事。

  • 三井住友カード株式会社 BM事業開発部

    酒井 美空氏

    2023年に三井住友カードに入社。BPSP事業ではWebサイトUI/UX刷新を担当。現在はTrunkの新ビジネスカード案件を担当し、カードコントロール機能の開発、ポイントプログラム・付帯サービスの企画に従事。

その他の記事を読む

Trunk

類義語:

法人口座とビジネスカードを一体提供する法人向けデジタル総合金融サービス。2025年に三井住友銀行・三井住友カード共同サービスとしてリリース。経理業務の効率化、資金の見える化、資金繰り支援など、銀行口座・カードに留まらないおカネ周りのサービスをシームレスに提供。

アジャイル開発
(Agile development)

類義語:

短い開発期間単位を採用することで、リスクを最小化しようとする開発手法の一つ。

UI/UX
(User Interface/User Experience)

類義語:

UIとはユーザーインターフェイスのことで、Webサービスやアプリケーションなどにおいてユーザーの目にふれるすべてのものを指し、UXとはユーザーエクスペリエンスのことで、ユーザーが商品やサービスを通じて得られる体験のこと。

DX
(Digital Transformation)

類義語:

  • デジタルトランスフォーメーション

「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の頭文字をとった言葉。「Digital」は「デジタル」、「Transformation」は「変容」という意味で、簡単に言えば「デジタル技術を用いることによる、生活やビジネスの変容」のことを指す。

ダイバーシティ
(Diversity)

類義語:

  • 多様性

集団において年齢、性別、人種、宗教、価値観などさまざまな属性の人が集まった状態のこと。

クラウド
(cloud)

類義語:

インターネットを通じてデータやアプリケーションをリモートサーバーに保存し、管理、処理する技術。ユーザーは自分のデバイスにデータを保存する必要がなく、どこからでもアクセス可能。データストレージ、コンピューティングリソース、アプリケーションなどのサービスがある。

AI
(artificial intelligence)

類義語:

  • 人工知能

コンピュータが人間の思考・判断を模倣するための技術と知識体系。

  • その他の記事もチェック
    DX-link(ディークロスリンク)
    Webサイト
  • 最新情報はこちら
    DX-link(ディークロスリンク)
    X公式アカウント

アンケートご協力のお願い

この記事を読んだ感想で、
最も当てはまるものを1つお選びください。

アンケートにご協力いただき
ありがとうございました。

引き続き、DX-linkをお楽しみください。