サービス・導入事例
2025.11.27更新

シリコンバレーの技術で切り拓く開発革命。Replit社導入の舞台裏

株式会社三井住友ファイナンス&リース(以下、SMFL)は、急成長中のエージェント型AIソフトウェア開発プラットフォームである「Replit」を導入しました。Replitのデザインシンキングを活かした開発支援により、新規事業開発のスピードと品質が大きく前進しました。

この両社の出会いを実現させたのが、SMBCグループの調査・事業開発拠点である「シリコンバレー・デジタルイノベーションラボ(以下、ラボ)」です。ラボは、現地のイノベーティブなスタートアップを発掘し、SMBCグループとの共創をアレンジすることで、グループ全体の付加価値向上に貢献することをミッションとしています。

出発点は「開発スピードを上げたい」という現場からの声

SMFL 藤原私が所長を務めるSMFLのデジタルラボでは、新規事業開発を推進しています。この推進上課題となっていたのは、「社会課題やビジネス課題に関する暗黙知をいかに組織内ですり合わせ、形にしていくか」という点でした。要件を口頭や文章で説明するだけだと、細かいニュアンス(暗黙知)をエンジニアが取りこぼしてしまい、当初伝えたものと違うものが出来上がっていってしまうリスクがあります。結果としてやり直しが増えたり、開発が属人化したり、同じ質問が部門ごとに再発したりするなど、業務上の不利益が積み重なります。

仕様書は進んでいるのに操作の手触り感が誰にも見えていない。そんなギャップを動的なプロトタイプで埋めることが、今回の導入で狙った効果でした。

株式会社三井住友ファイナンス&リース デジタルラボ 所長
藤原 雄氏

SMBC 荒木藤原から相談を受けた当時、シリコンバレーでは生成AIを活用したコーディングの自動化、いわゆる「バイブコーディング(vibe coding)※」が大きな注目を集めていました。こうした新しいソリューションを活用すれば、藤原の抱える課題を解決できるのではないかと考え、すぐにスタートアップのソーシングを開始しました。

※バイブコーディング:ユーザーが自然言語(日本語や英語)でAI(LLM/AIエージェント)に指示を出すと、AIがコードの生成・修正・実行などを自動で行う技術。

その中で出会ったのが、Replitという企業でした。Replitは「エンジニア経験がない人やビジネスユーザー」に焦点を当て、日本語や英語だけでアプリケーションを生成できる、自律性に強みを持った開発プラットフォームでした。初めてReplitに触れたとき、たった2~3行の日本語を入力するだけで、美しく整ったアプリがわずか数分で生成されました。私はエンジニアではありませんが、この体験に衝撃を受けたのを覚えています。

また、当社創業者のAmjad Masad氏は、シリコンバレーでも著名な人物でした。当地でつながりのあるベンチャーキャピタルの厚意により、幸運にも同氏と接点を持つことができ、そこからSMFLとの面談をセッティングすることができました。

株式会社三井住友銀行 シリコンバレー・デジタルイノベーションラボ 部長代理
荒木 未来氏

Replit AmjadReplitは「ソフトウェア開発の民主化」を目指して設計されたプラットフォームであり、専門的なプログラミングスキルがなくても、誰もが自身のアイデアをアプリケーションとして形にすることができます。これまで多くの人々は、少数の開発者が構築したツールを利用する「ソフトウェアの消費者」に留まっていました。さらに、その多くのソフトウェアの誕生は、世界の限られた地域、特にシリコンバレーに集中していました。

Replitは、こうした状況を変えるべく、世界中の誰もがキャリアバックグラウンドに関係なくソフトウェア開発ができるように設計されています。そして、AIの進化がこのビジョンの実現を後押ししています。現在、Replit上でソフトウェアを開発したことがあるユーザーは世界で4,000万人を超えており、中でも日本は国際的な成長市場のひとつとして特に注目しています。こうした背景の下、当社の日本市場への関心は高まっており、SMBCグループからの相談は非常にタイムリーなものでした。

CEO & Founder, Replit, Inc.
Amjad Masad氏

直観的で、安全かつ柔軟な開発体験に惹かれて

SMFL 藤原実際にReplit社の技術を見たとき、「これは単なる生成AIのエディタじゃない」と感じました。これまでもアプリケーションのデザインのみを作るプレーヤーは多く存在していましたが、日本語で「この画面を作って、裏側ではこのデータベースにこうつないで」と指示するだけでバックエンドのロジックやデータベースも含めて高度に構築できるという点が、Replitならではの強みだと感じました。また、最初に作ったプロトタイプに対して、同じく日本語で手を加えていくことができ、作成の途中で要件が変化しても、柔軟に仕様を変更することができます。

更に、暗黙知の可視化は、プロジェクトの認識すり合わせだけでなく、いわゆる“組織学習”に効果的であることに気がつきました。生成AIでプロトタイプを素早く作れると、開発の再現性が上がり、誰でも同じアプリケーションを再現できるようになります。また、工夫が施された作品や失敗作品などがプロトタイプとして蓄積され、エンジニアの間で共有されることで、学びが積み上がります。属人的かつ暗黙知を、オープンな形式知に変換してチーム内で共有し、組織全体の開発ノウハウ強化へとスケールアップさせられるのが、今回私たちがReplitを高く評価したポイントです。

Replit Amjad長年にわたり、企業の成長はエンジニア人材の制約によって阻まれてきました。ビジネスや顧客、業務課題を深く理解しているナレッジワーカーが多数存在するにもかかわらず、彼らはエンジニア人材の不足により、自らツールやプロトタイプを構築することができませんでした。Replitはこの課題を解決しています。現在、数百社の企業がReplitを活用し、エンジニア経験のない人達が業務効率化ツールや新プロダクトの開発を自社内で進めています。

加えて、こうしたアプリケーションを安全かつスケーラブルに構築することは極めて重要です。セキュリティ面では、企業向けに認証やアクセス権限の機能強化を行い、専用アカウントやサポート体制を整備しています。またスケーラビリティに関しては、Google CloudやMicrosoft Azureと密に連携し、これらのハイパースケーラー上でReplitを利用できるようにしています。そして今回、SMFLは、日本で初めてReplitのエンタープライズアカウントを契約した企業となりました。特にエンタープライズ領域では、カスタマイズ性とセキュリティの両立が求められますが、SMFLがこの点を高く評価してくださったことを非常に嬉しく思います。

SMFL 藤原ReplitのPoCのフェーズでは、試しに勤怠管理・プロジェクト管理ツールや、生成AI機能を統合した業務アプリケーションを開発してみました。直感的かつスピーディにアイデアを具現化できることに、社内でも驚きの声が上がっていました。

導入後のインパクトと、今後の展望

SMFL 藤原導入から数ヶ月が経ちましたが、明らかに開発プロセスの質が変わりました。従来、エンジニアと企画・デザインチームの間で何度も調整していた部分が、今では1人でスピーディに形にできます。

SMBC 荒木今回のSMFLへの導入成功を踏まえ、当ラボとしての次のステップは、Replitのグループ内でのさらなる普及に加え、同社の技術を活用してお客さまのDXニーズを具体的なソリューションとして形にしていくことだと考えています。すでに他のグループ会社からもReplitについて関心の声が寄せられており、PoCを進めている所もあります。

加えて、Replitを東京に招き、法人のお客さまをお招きしてバイブコーディング体験イベントを開催する予定です。実際にReplitを安全な環境で触って頂き、バイブコーディングが社内DXの在り方をどのように変革できるか、リアルに体感していただきたいと考えています。

Replit Jeff当社は、法人のお客さまが安心して利用できる開発エージェントを目指し、目まぐるしいスピードで機能強化に注力しております。今回の連携を通じて、日本の大企業との協業には非常に大きな可能性があると確信しました。今後は、日本市場に本格参入していく構想もあります。こうした実例をもとに、より多くの日本企業と共創を進めていければと考えています。

Sr Manager - Business Development & Partnerships, Replit, Inc.
Jeff Burke氏

最後に──スタートアップ連携の価値とは

SMBC 荒木シリコンバレーは、技術やユーザー体験に強みを持ったスタートアップが密集しており、当地でパートナーを発掘することが、日本企業にとって競争力や差別化の源泉となり得ると考えております。我々シリコンバレーラボの付加価値は、現地でスタートアップと深いリレーションを築き、社内の課題や戦略にフィットした協業を創出できるという点にあると思います。これからも、SMBCグループとスタートアップとの架け橋になっていきたいです。

SMFL 藤原スタートアップとの連携によって、開発の自由度やスピードが大きく変わることを実感しました。今後はこの成功を横展開し、より多くのプロジェクトに活かしていきたいと思います。生成AIでアイデアをすぐに形にできるのは、今後のデジタル推進の考え方を根本から変える起爆剤になると信じております。実現しないアイデアには価値がありません。アイデアを持って行く道筋を切り開いてくれるReplitの価値は大きいと思います。

Replit Amjad我々としても、より多様なユースケースに対応できるよう進化を続けていきます。日本の企業の皆さんと、新しい開発体験を共に作っていけることを楽しみにしています。


PROFILE※所属および肩書きは取材当時のものです。

  • CEO & Founder, Replit, Inc.

    Amjad Masad氏

    ヨルダン系米国人の起業家であり、エンジニア。クラウドベースでAIを活用したソフトウェア開発プラットフォーム「Replit」を創設し、世界で最も急成長している開発者コミュニティを築く。Replit立上げ以前は、FacebookでJavaScriptインフラストラクチャチームを主導し、オープンソース開発ツールの開発に貢献。また著名なオンラインコーディングスクールであるCodeacademyの創業エンジニアとして重要な役割を果たした。

  • Sr Manager – Business Development & Partnerships, Replit, Inc.

    Jeff Burke氏

    2022年にReplit, Inc.の初期メンバーとして参加し、初期のAI製品立上げやグローバル展開を主導。Replit入社以前は、Boston Consulting Group(BCG)に在籍し、コンシューマー領域およびテクノロジー分野のプロジェクトに従事。BCG以前は、San francisco Giantsの組織にてプロ野球選手として活躍。

  • 株式会社三井住友ファイナンス&リース デジタルラボ 所長

    藤原 雄氏

    米国にてMBA in Information Systemを取得後、国内システム開発会社、GEコンシューマーファイナンス、ゴールドマンサックスなどで国内外の各種システム開発プロジェクトリーダー、システム責任者を務める。2012年にGEキャピタル(現株式会社三井住友ファイナンス&リース)に転じ、クオリティ部門にて各種業務変革プロジェクトを担当。2015年よりデジタル開発チームの立ち上げ、AIやIOT、RPAを中心とする全体ITデジタルトランスフォーメンション施策の責任者として現在に至る。

  • 株式会社三井住友銀行 シリコンバレー・デジタルイノベーションラボ 部長代理

    荒木 未来氏

    2016年より三井住友銀行に入行し、法人営業部に所属。スタートアップや上場企業に対する事業・財務戦略提案業務に従事。2023年よりシリコンバレー・デジタルイノベーションラボに所属。現地のFintech・AI領域のスタートアップ調査に加え、スタートアップとSMBCグループ各社の協業創出をサポート。

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AI
(artificial intelligence)

類義語:

  • 人工知能

コンピュータが人間の思考・判断を模倣するための技術と知識体系。

プラットフォーム
(Platform)

類義語:

サービスやシステム、ソフトウェアを提供・カスタマイズ・運営するために必要な「共通の土台(基盤)となる標準環境」を指す。

プロトタイプ
(Prototype)

類義語:

「原型」や「最初のもの」を意味し、新製品やシステムの開発過程において設計の妥当性を確認するために製作される試作品のこと。IT分野では、ハードウェア開発の際の量産前の試作品や、動作や機能を検証するために最小限の規模で試作されたソフトウェアなどのことを意味する。

シリコンバレー
(Silicon Valley)

類義語:

米カリフォルニア州サンフランシスコ南郊のサンタクララやサンノゼなどを含む地域の通称。半導体の素材であるシリコンに由来しており、半導体メーカーがこのエリアに集まるようになったことに由来する。

ベンチャーキャピタル
(Venture Capital)

類義語:

未上場の新興企業(ベンチャー企業)に出資して株式を取得し、将来的にその企業が株式を公開(上場)した際に株式を売却し、大きな値上がり益の獲得を目指す投資会社や投資ファンド。

PoC
(Proof of Concept)

類義語:

  • 概念実証

新しいアイデアや技術の実現可能性を検証すること。日本語では「概念実証」と訳される。新しいサービスを立ち上げる際や新しい技術が実現可能かを確認するため、本格開発・導入の前段階で実施される。

DX
(Digital Transformation)

類義語:

  • デジタルトランスフォーメーション

「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の頭文字をとった言葉。「Digital」は「デジタル」、「Transformation」は「変容」という意味で、簡単に言えば「デジタル技術を用いることによる、生活やビジネスの変容」のことを指す。

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