「銀行がそこまで?」金融の枠を超え、SMBCグループがセンコーGHDの物流DX・人材教育・風土変革を丸ごと伴走支援
物流業界は、2024年問題や働き方改革の影響で人材不足が深刻化し、DXとそれを担う人材育成が急務です。
創業100年を超える物流大手のセンコーグループホールディングス(以下、センコーGHD)も、労働力不足や業務の属人化という大きな壁に直面し、DXで乗り越える必要がありました。SMBCグループは、その課題に真正面から向き合い、議論を重ね、「銀行がそこまで?」と言われる人材育成や風土変革にまで踏み込み、SMBCグループ総力でセンコーGHDの改革に伴走してきました。
今回は、センコーGHDおよびSMBCグループの当事者に、その伴走支援の背景や取り組みの中身、そして成果について話を伺いました。
迫る物流2024年問題。データ活用から始まったDX支援
DXの必要性を感じた理由と、SMBCグループの支援がどのように始まったかを教えてください。
南里弊社は創業以来、常に次の革新を模索してきました。コロナ禍を機に「デジタル前提の改革」の必要性が加速し、さらに物流2024年問題や働き方改革への対応から、人手不足と業務の属人化に危機感を抱いていました。また、お客さまの要求レベルが高度化し、従来のやり方では到底捌き切れず、DXは避けられない状況にありました。輸送ルートや荷物の格納方法など、効率化の多くが属人的な経験値に依存しており、ノウハウのデジタル化と共有が不可欠でした。
(元 人材組織開発部 センコーユニバーシティ 部長)
南里 健太郎氏
星加SMBCグループとしても、保有データを活用し、お客さまに付加価値を提供できないかと考えていました。センコーGHDさまが運んだものは最終的に消費者に届くので、商流上は距離があるように思える三井住友カードの大量の決済データも、実はセンコーGHDさまの物量予測モデルの精度向上に繋がるのではないかという仮説を議論したのが発端です。
三井住友銀行のデータサイエンティストも合流して両社で検討を重ねるうちに、まずは今あるデータの使い方を変えるだけでも十分精度向上が期待できそうだと判断し、今回はSMBCグループの決済データは使用しませんでした。ただ、今後の展開次第では再検討する可能性はあります。
さらに、SMBCグループにはオートリース会社の住友三井オートサービスもあり、彼らが持つ車両の走行データも将来的には役立つかもしれないと議論を続けています。
デジタルソリューショングループ 室長代理
星加 梓氏
南里正直、最初は「銀行がDXまで支援してくれるのか!」と驚きました。資金面の支援にとどまらず、幅広い課題を相談できる。まるで専属のコンサルタントがついたかのようです。今では、物流予測だけでなく、人材育成など多方面で意見交換を続けています。
DX人材教育にも伴走。「センコーユニバーシティ」の進化
星加議論を重ねる中で、センコーGHDさまの「デジタルは手段にすぎない」「人のマインド変革と育成が重要」「挑戦を恐れない風土づくりが必須」という考えに強く共感しました。なぜならSMBCグループ自身も同じ課題に取り組み、「カラを破る」変革を進めてきたからです。私たちの経験もヒントになればとSMBCグループ内の各所の力も借りながら議論を重ね、壁打ちを続けてきました。
その中でも特に共感いただいたのが「デジタル人材育成」と「挑戦できる風土づくり・挑戦を支える従業員のエンゲージメントの維持向上」です。これらはセンコーGHDさまでも取り組めるのではないかと考え、SMBCグループやパートナー企業も交えて、ありたい姿の実現に向け、徹底的に議論しました。
辻村SMBCグループには、デジタル人材を育成する「デジタルユニバーシティ」があります。一方で、センコーGHDさまは2016年から社内大学「センコーユニバーシティ」を運営されており、DX研修を充実できないかと検討されていました。そこでSMBCグループのデジタルユニバーシティのパートナー企業を紹介し、新たな研修メニューを立ち上げました。この研修は受講者だけでなく、送り出した現場の上司からも高く評価されています。
南里センコーユニバーシティは2016年の開始以来、経営人材学科で108名、高度プロ人材で101名が卒業しました。センコーユニバーシティ全体の受講者は、24年度までで累計1818人にのぼります。
木下基礎学習で知識を学んだ後は、現場課題をテーマに分析を進めます。参加者はいずれも「現状を変えたい」と強い思いを持っています。
木下 博文氏
DX施策の成功例を教えてください。
南里大手飲料メーカーが荷主さまのとある現場では、小さな倉庫で製造計画の急激な増減に対応する必要がありました。物量が増えると収めきれない、そして収納作業をしていると出荷に間に合わない、といった課題が頻発していたのです。この課題に対し、パレット数に換算して効率的に格納し、出荷予測まで行えるツールを現場とともに開発しました。お客さまのニーズに即した成果を生み出せた良い経験でした。
変革の火種を絶やさない。挑戦を後押しする風土づくり
辻村もう一つの取り組みが「挑戦できる風土づくり・挑戦を支える従業員のエンゲージメント維持向上」です。ユニバーシティで培った挑戦意欲も、現場に戻った際に活かせる環境がなければ定着しません。そこで、SMBCグループの子会社のSMBC Wevoxを紹介し、卒業生が集まって変革の火種を絶やさない「アルムナイネットワーク」を立ち上げました。
アルムナイネットワークとは革新・挑戦に向けたマインドを養った修了者が知見や経験を共有しながらセンコーグループ全体の成長に寄与することを目的とした人的ネットワークです。
さらに、センコーGHDさまにとって念願だったアルムナイイベントをセンコーGHDとSMBC Wevox協働で開催し、挑戦を継続するための議論とワークショップを実施しました。
辻村 能章氏
星加SMBCグループでも5年ほど前からデジタル人材育成に注力していますが、知識や技術だけでは不十分で、各現場の従業員が「デジタルやデータを使って業務を効率化し、お客さまに価値を提供したい」というマインドを養う必要があります。センコーユニバーシティの取り組みは、その考え方と強く合致しています。
また、私たちは「データ活用」を起点に、「人材育成」「企業風土の変革」をご支援しましたが、言語化が難しく解のない課題に対し、壁打ち相手として伴走し、課題と解決策の解像度を上げていくことは、銀行だからできる支援だと考えています。
金融の枠を超え、SMBCグループ横断で伴走支援
金融の枠を超えた支援を実現するために、意識されたことはありますか。
辻村センコーGHDさまの未来像を正しく理解し、各部門の課題を俯瞰して真因を探り、SMBCグループ全体をつなぐハブとなることを意識しています。その取り組みをSMBCグループ内部にも共有し、より効果的な体制構築に貢献したいと考えています。
星加お客さまのありたい姿や課題を正しく理解し、場合によっては深掘りし、お客さまの目線で、SMBCグループ全体でお役に立てる方法を考え、コーディネートしています。DXのように風土変革を伴うビジネス変革は、単独のソリューションで課題解決できるケースはほぼありません。お客さまの複雑な課題を解決するために、SMBCグループ各社の強みや専門性を正しく理解し、協力してくれる各社に対してお客さまの考えや課題の全体像・ストーリーを分かりやすく伝えることを意識しています。
今後、挑戦してみたい取り組みはありますか?
南里私たちの会社は物流をはじめ商事や貿易、ライフサポート、ビジネスサポート、プロダクトなど、多岐にわたる事業を展開しています。センコーユニバーシティでも、最初は物流部門の参加者が中心でしたが、今では多様な部門からバランスよく参加するようになりました。物流にとどまらず、各社のデータをつなぎ、ビジネスの川上から川下まで、必要なものが円滑に届くサプライチェーンを構築する仕組みやサービスを手がけてみたいですね。
木下2026年でセンコーユニバーシティは10年目を迎えます。卒業生の活躍を見据えつつ、時代に即した学習プログラムを再構築し、さらに実効性を高めていきたいですね。
南里また、卒業1期生が昇格し、部下にセンコーユニバーシティを勧めるケースが増えています。トップが「チェンジ&チャレンジ」を掲げる中、現場の管理職層も挑戦を後押しする雰囲気が広がってきました。継続の大切さを実感しています。
木下また、弊社には「チェンジ&チャレンジ賞」という、新たな取り組みを発案・応募できる制度があります。センコーユニバーシティで学んだことから生まれたアイデアや、DXコースの受講生が授業をヒントにブラッシュアップした内容もあり、応募自体も年々増加傾向にあります。
南里デジタル関連の応募が増えてきたのも特徴的ですね。
DXに踏み出せない企業へ。銀行だからこそできる伴走支援
DXに取り組みたいが踏み出せない企業もあります。そうした企業へのメッセージとSMBCグループができる支援体制について教えてください。
星加DXで最も重要なのは「どんな姿を実現したいか」という変革意識や課題認識です。SMBCはお客さまの成長とともに歩む立場だからこそ、特定のソリューションに縛られず、中長期的な視点で伴走できます。さらにSMBCグループ各社に加え、多くの取引先企業の力もあります。
「銀行にDXを相談?」と意外に感じるお客さまもいらっしゃるかもしれませんが、まずは課題整理や目指す姿の解像度を上げるところからご一緒したいと考えています。
PROFILE※所属および肩書きは取材当時のものです。
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センコーグループホールディングス株式会社 商事・貿易事業担当 部長
(元 人材組織開発部 センコーユニバーシティ 部長)南里 健太郎氏
1994年センコー(株)入社後、物流センターの構築・運営に従事。
2016年よりコーポレートユニバーシティの創設に携わり、「センコーユニバーシティ」をセンコーグループホールディングス(株)にて運営。
企業内に潜在する人財が一歩踏み出し、組織・社会へポジティブインパクトを産む環境創りを目指す。2025年よりHD商事・事業・貿易事業担当へ異動。 -
センコーグループホールディングス株式会社 人材組織開発部 人材開発担当 係長
木下 博文氏
2010年に大学を卒業し前職に入社。
6年間の営業経験を経て、人事部に異動し「人を大切に」をモットーに採用と教育に8年従事。
2024年よりセンコーグループホールディングス株式会社に入社し現在に至る。 -
株式会社三井住友銀行 梅田法人営業第一部 部長代理
辻村 能章氏
2011年株式会社三井住友銀行入行。複数の法人営業部で中堅~大企業の法人営業経験を積み、2023年梅田法人営業第一部に着任。大企業クライアントが抱える多種多様な経営課題に最前線で対峙。
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株式会社三井住友銀行 法人戦略部 グループソリューション推進室
デジタルソリューショングループ 室長代理星加 梓氏
2013年株式会社三井住友銀行入行。法人営業部での中小中堅企業向け法人営業の経験を経て、2021年法人戦略部 グループソリューション推進室 デジタルソリューションGに着任。法人顧客のDXのサポートを行う。
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