サービス・導入事例
2025.11.13更新

AIと法務プロフェッショナルの融合。SMBCリーガルXとAMTが実現する契約DXの進化

2025年8月、SMBCグループは日本を代表する法律事務所やインドの革新的リーガルテック企業などと共創し、新会社「SMBCリーガルX株式会社」を設立。

SMBCリーガルXが提供するCLM(Contract Lifecycle Management)プラットフォーム「LegalXross」は、契約の作成・締結・管理・分析といった一連のプロセスを最適化し、企業の契約業務を効率化・高度化することを目的に誕生したサービスです。その成長を支える大きな柱のひとつが、国内大手法律事務所であるアンダーソン・毛利・友常法律事務所(以下、AMT)との協業にあります。

本記事では、アンダーソン・毛利・友常法律事務所 パートナー弁護士/Chief Knowledge Officer 門永 真紀氏、同パートナー弁護士 清水 亘氏、SMBCリーガルX株式会社 Business Development General Manager 藤江 典雄氏、同Leader 白澤 祐一氏に、両社の協業の背景や今後の展望についてお話を伺いました。

アンダーソン・毛利・友常法律事務所とSMBCリーガルX協業の背景

まずは両社のパートナーシップの背景についてお伺いします。両社の協業のきっかけはどういった経緯だったのでしょうか。

AMT清水きっかけは、SMBCリーガルXの三嶋社長から直接お声がけいただいたことです。企業間の協業では「誰が声をかけるか」が非常に重要です。トップ自らがリーダーシップをもって呼びかけてくださったことで、一気にプロジェクトが動き出しました。

アンダーソン・毛利・友常法律事務所 パートナー弁護士
清水 亘氏

白澤もともとSMBCクラウドサインで電子契約事業を展開しており、その延長線上で「AI契約書管理」「契約レビュー」「ビッグデータ活用」などの事業構想がありました。それらの新規企画をSMBCグループ内で推進する中で、三嶋がAMTの皆さまに声をかけ、我々もチームの一員としてプロジェクトに参画しました。

AMT門永新しいテクノロジーを取り入れてビジネスを成長させたいというSMBCリーガルXの強い思いに共感しました。我々の基本スタンスは、「既存のものを使う」よりも「最適なものを共に創る」というものです。金融機関としてテクノロジーに精通しているSMBCグループとの協業は、非常に魅力的でした。

アンダーソン・毛利・友常法律事務所 パートナー弁護士/Chief Knowledge Officer
門永 真紀氏

藤江リーガル分野では、「どんな企業がバックグラウンドにあるか」が信頼に直結します。SMBCグループのテクノロジー基盤と、AMTのリーガルナレッジやノウハウ、そして生成AIの技術を掛け合わせることで、お客さまにより安心してご利用いただけるサービスを構築できると考えました。

AI時代におけるプロフェッショナルの協働 ― 法務×テクノロジーが生み出す新しい価値

生成AIを活用する上で、専門家の持つナレッジが果たす役割はどのようなものとお考えでしょうか。また、生成AIを活用することでどのような価値を提供できるのでしょうか。

AMT門永法務分野では、情報の正確性や法的助言の信頼性が最も重要です。生成AIは非常に便利な一方で、生成結果に曖昧さやブレが生じることもあります。専門家の知見こそが、その精度と信頼性を支える要素になります。

AMT清水協業を通じて、我々も生成AIの活用姿勢が大きく変わりました。生成AIを使って「お客さまに良いサービスをお届けする」という観点でノウハウを蓄積できており、これは事務所内でも大きな進化です。従来の法的ナレッジに加え、生成AIを活用することで得られる新たな知見を可視化し融合する試みは、非常に先進的だと感じています。

AMT門永いま、私たちは「生成AIを便利なツールとして使う」のではなく、「生成AIを前提に仕事の仕方を再構築する」という段階にいます。SMBCリーガルXとの取り組みを通じて、生成AIをどう使いこなすか、AIを活用するためにどんな思考プロセスが必要かを試行錯誤しているところです。

従来は知識や経験に基づく“職人的な”仕事でしたが、今後は弁護士の法的思考をいかに言語化し、生成AIと協働できる形にするかが鍵になります。弁護士の生成AI活用では、この「法的思考様式の構造化」が核心になると思います。

AMT清水我々は、例えば契約書のレビューであれば、対象の条文を何と比較し、どの先例や法令を参照して判断しているのかなどのプロセスで試行しています。そうした思考プロセスを、生成AIに組み込む前提で分解して整理することによって、我々の法的思考様式を再確認できました。結果として、お客さまにお届けするサービスの質も向上し、自分たちのナレッジを再定義するきっかけにもなっています。

AMT門永暗黙知を意識的に形式知へと変えていくことは、これまでにない新しい試みです。

AMT清水現在では、生成AIの中に暗黙知の要素がすでに内包されています。そのため、我々はそれをどのようにリーガル・プロダクトの中に取り込み、最適なサービスとしてお客さまにお届けするかという思考に変わっています。

AMT門永暗黙知は何なのか、今まで我々が意識することなく「経験」や「肌感覚」に基づいてやってきたことが何なのかといったことを明確にするプロセスは、今後より一層重要になっていくと考えています。

SMBCリーガルX社の強みと市場適応

どういった経緯で、サービスにAIを活用していこうという話になったのでしょうか?

藤江生成AI登場以前のAIでリーガルテックのツールを開発しようとすると、機械学習で大量のデータを学習させて結果を出す必要があり、元となるデータの準備等が非常に大変です。それに対して、生成AIはデータの準備等が必ずしも必要なく、圧倒的に多くのことができます。生成AIが世の中に出てきて、CLMをやるなら生成AIを活用する以外に手はないと思いました。

AMT清水生成AIの登場によって、AIのためにデータを無数に準備して開発するのではなく、「AIの中からどうやって良いものを引き出すか」という思考に変わりました。この変化により「もうこれしかない」と思えるほど生成AIへのシフトは早く進みました。

SMBCリーガルX株式会社 Business Development General Manager
藤江 典雄氏

AMT門永SMBCリーガルX社の強みは「生成AI以前の既存システムや慣習といったレガシーに縛られない」点です。今は、既存の資産に縛られず、新しい技術を活用していち早く市場に出ていくことが重要かと思います。

白澤実際、2023年の春ごろからSMBCグループ内でも生成AIを安全に使える環境を整えたり、業務改善の実証実験を始めたりしていたタイミングでした。そういった背景もあり、我々も現実的なユースケースに落とし込みやすく、スタートしやすかったと感じています。

SMBCリーガルX株式会社 Business Development Leader
白澤 祐一氏

AMT清水生成AIを使ってできることと、我々がやりたいことを比べると、できることのほうが圧倒的に多いので、生成AIを「いかに使いこなすか」が課題だと考えています。SMBCリーガルXとの議論を通じて、生成AIの可能性をどこまで引き出せるかを模索しているところです。

AMT監修、法務デューデリジェンス業務における「ペイン」を解消する「AI契約書アナリティクス(法務DD)」

AMT監修のもと、「AI契約書アナリティクス(法務DD)」をリリースされましたが、どのようなサービスでしょうか?どういった背景で開発に至ったのでしょうか?

白澤「AI契約書アナリティクス(法務DD)」はLegalXrossプラットフォームにおける「The Analytics -分析-」のカテゴリで提供するサービスです。すでに「AI契約書アナリティクス」というサービスがありますが、今回リリースした「AI契約書アナリティクス(法務DD)」は、法務デューデリジェンスにおいて担当者が実務の際に確認している項目にフォーカスする形でサービスを提供するものです。

AMTさんに監修いただいた生成AIを活用して、契約書データをアップロードするだけで、法務デューデリジェンスの際に確認が必要なチェンジオブコントロール条項等、各種条項の抽出・可視化が可能です。また、生成AIが契約書類型を判断し、契約当事者や期間などの一般的な項目抽出だけでなく、類型毎に個別確認が必要な項目も一覧化することができます。

AMT清水本サービスの構想はAMTとしては2019年ごろから考えていました。三嶋さんと出会う前から頭の中にはあったのです。

AMT門永法務デューデリジェンスは弁護士が行う業務の中でも大きなペインになっています。担当するアソシエイトが膨大な作業に追われ消耗してしまう。そういう状況を大きく変えたいという思いがずっとありました。働き方が変われば、ダイバーシティも進みます。そのため、AMTの中では、ずっと以前から法務デューデリジェンスのサービスをやりたいと話しており、開発の機会をうかがっていました。

AMT清水法律事務所はもちろん、企業内でも同様のニーズがあります。また、スタートアップに投資するような場合にも、法務デューデリジェンスをスピーディに実施して、いち早くリスクをつかみたいといったニーズもあるでしょう。そういう意味でも、インパクトの大きいサービスになると考えていました。

藤江最新のAIの登場でカスタマイズもしやすくなり、企画を通す背景にもなりました。7月3日の記者会見時には、まだ「AI契約書アナリティクス(法務DD)」は発表できてはいませんでしたが、契約書の分析ができるようになることはSMBCグループ内からも大きな反響がありました。

白澤リーガルの文脈で最初に展開していますが、サービスの仕組みを活用して、他の業界にも当然展開可能です。

AMT清水AIは24時間稼働できるので、例えば、契約書をプロダクトに投入すれば翌朝にはレビューが終わっている、という世界が来るでしょう。単なる効率化ではなく、仕事の在り方や働き方そのものが変わると考えています。そして、AIを活用することで、弁護士や企業の法務パーソンは、本当に見るべきリスクや論点の検討に注力できるようになるはずです。

サービスを通して経済発展の一助に。両社が描く、今後の展望

協業を通じて、今後も市場に対して様々な価値の提案を進められるかと思いますが、両社の描く今後の展望についてお聞かせください。

AMT門永AIによって仕事の仕方が大きく変わるのは、法律業界に限った話ではありません。この業界でも、弁護士や法務パーソンの付加価値はより厳しく問われるようになると思います。従前の働き方を前提としてAIを取り込むのではなく、AIを中心に据えた仕事の仕方にシフトしていくことで、法律の専門家として新たな価値を提供できるようになると良いなと思います。

藤江我々のお客さまはもちろん、経済発展の一助を担っていきたいと考えています。契約に関わる業務はリーガル関係者以外には苦手意識が強い領域ですが、SMBCリーガルXのサービスをご利用いただければリスクを把握した上で経済活動ができるようになります。これにより、今まで躊躇していた取引も可能になるかもしれません。

白澤また、多くの法務部門は常にリソース不足に悩んでいます。生成AIを始めとするテクノロジーを活用した契約業務に関わるサービスを提供し、法務部門の抱える問題を解消し、企業活動に貢献していきたいと思います。

AMT清水私個人としてはSMBCリーガルXには「最高のエンジニアが集まる会社」と言われるような存在になって欲しいと思っています。そして、その延長線上でAIの基礎研究機関を立ち上げ、日本初のAIを生み出す拠点に…といった夢も膨らみます。

単なるAIを利用するユーザーに留まるのではなく、自分たちが使いたいと思うサービスを作り出し、世界に貢献していきたいと考えています。将来的には「AIといえばSMBCリーガルX」と言われるような存在になってほしいと、本気で思っています。


PROFILE※所属および肩書きは取材当時のものです。

  • アンダーソン・毛利・友常法律事務所 パートナー弁護士/Chief Knowledge Officer

    門永 真紀氏

    2008年アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所。2020年Chief Knowledge Officer就任。2022年パートナー就任。2021年よりCLOC(Corporate Legal Operations Consortium)日本支部のCo-Leadを務める。2025年FT Innovative Lawyers Award Asia PacificにてLegal Intrapreneur賞受賞。

  • アンダーソン・毛利・友常法律事務所 パートナー弁護士

    清水 亘氏

    2005年弁護士登録、2016年アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所。2017~2021年名古屋オフィス代表。主な取扱業務は、テクノロジー法・知的財産法。Chambers Asia-Pacific 2025<Technology, Media, Telecoms (TMT)>、The Best Lawyers in Japan 2025等を受賞。

  • SMBCリーガルX株式会社 Business Development General Manager

    藤江 典雄氏

    金融向けのシステムエンジニアとしてキャリアをスタートし、証券会社等の複数の金融ベンチャー企業の取締役を歴任。2022年に三井住友銀行へキャリア入行し、リーガルテック事業の開発に取り組む。2025年9月よりSMBCリーガルX事業企画部およびプロダクト開発部の部長を兼務。

  • SMBCリーガルX株式会社 Business Development Leader

    白澤 祐一氏

    2012年大学卒業後に三井住友銀行へ入行。営業店にて個人営業、法人営業を経験。2021年には法人向けデジタル戦略のプロジェクトチームに参画し中小企業向けDXの企画推進を担当。2022年4月よりデジタル戦略部とSMBCクラウドサイン事業企画部を兼務。2025年9月よりSMBCリーガルX事業企画部も兼務。

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プラットフォーム
(Platform)

類義語:

サービスやシステム、ソフトウェアを提供・カスタマイズ・運営するために必要な「共通の土台(基盤)となる標準環境」を指す。

SMBCクラウドサイン

類義語:

SMBCグループが提供するデジタルサービス。「紙と印鑑」で行っていた契約業務を「オンライン」で完結させる電子契約サービスです。契約書以外でもさまざまな場面でご利用頂けます。

AI
(artificial intelligence)

類義語:

  • 人工知能

コンピュータが人間の思考・判断を模倣するための技術と知識体系。

ダイバーシティ
(Diversity)

類義語:

  • 多様性

集団において年齢、性別、人種、宗教、価値観などさまざまな属性の人が集まった状態のこと。

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