SMBCグループは「日本の再成長」を目指して、東京と大阪に2つの共創スペース「HOOPSLINK」をオープンしています。では、共創に必要な視点とは何なのでしょうか。
今回は、NEC AIテクノロジーサービス事業部門/シニアエバンジェリスト(元NEC Future Creation Hubセンター長)の野口圭氏をお招きし、NECの共創空間であるFuture Creation Hubの失敗と挫折からの再生を通じて、「本当の顧客視点」と企業および行政・アカデミアとの共創のあり方について考えます。
記事ではトップクラスの経営者から「激怒された」という原体験や注目の共創のかたちについて紹介し、さらに動画の中では「HOOPSLINK」へのアドバイスも伺っています。進行役は、三井住友銀行 システム統括部の山田恵梨子氏、デジタル戦略部の鳥巣悠太氏が務めます。
連載:対談:NEC野口氏×SMBC
- 生成AIとは何か。生成AIエバンジェリストに学ぶ、その本質と進化
- 「究極の顧客視点」とは何か。失敗から生まれた共創のかたち
痛烈な一言から始まった、共創施設の見直し
NEC Future Creation Hubとはどのような施設なのかを教えてください。
野口端的に言うと、お客さまと共創する施設です。なぜ作ったのか、そのモチベーションを話しますね。
これまでNECはショールームがあり、テクノロジーを前面に打ち出してお見せしていたんです。ただ、ある2人のVIPから痛烈なコメントをいただいたことによって、「これはまずいな」と思いました。
一人は修行僧。僕らは当時、NEC未来創造会議というものをやっていて、ダイバーシティのタレントを呼んでいろいろ議論していたのですが、そこに非常に高名な僧侶の方がいらしたんです。私がショールームのテクノロジーを紹介した後に、会議室で「ぶっちゃけ、どうでした?」と聞いたら、「面白かったよ。だけど心は1つも満たされませんでしたね」と言われたんですね。
もう一人は日本の中でトップクラスに入るような経営者。顔認証を中心にさまざまなテクノロジーをご紹介しました。そうしたら翌朝、私の上司から電話がかかってきて、「お前何したんだ。とんでもないことになっているぞ」と言われまして。実は私が対応したその経営者がかなりお怒りだったそうなんです。
別に失礼があったわけではないんです。ただ、その方は非常に時間に厳しい方で、いつも価値あるものにしたいと思っていらっしゃるので、「NECの文化祭に付き合わされ、何の価値も感じない時間を過ごした。もう二度といかない」とおっしゃっていたようです。
シニアエバンジェリスト 野口 圭氏
この2つの出来事から、結局、何が欠けていたのかなと考えると、後者の指摘は、まさに「顧客視点」でした。顔認証を自慢するのはいいんですが、ではそれを使った先に何があるのか、一体何を対話したいのか、そういった哲学やテーマなしに説明しても、向こうからしたら「別にNECの品評会に来たわけではないんだ」という気分になりますよね。でも当時はそれに気づけませんでした。
そして、前者の僧侶の方については、目的と手段をはき違えてしまったのだったと思います。僧侶が考えていることは到底私には想像できませんが、やはり僧侶は人類のことや命のことを考えていると思いますし、社会価値とは何かという視座にいらっしゃる方です。私が紹介したときにそういうレイヤーのwillを持っていたかと言うと、持っていなかったんですね。
つまり、世の中のインフルエンサーや経営者と向き合うには、究極の顧客思考に立たなくてはならない。さらに、自社の事業だけでなく、社会価値創造へのコミットメントがないと相手にされないのだと自覚しました。
ショーケースは品川に構えていたんですが、歴史も長く、抜本的な改革は難しいと判断し、別の場所に新しく構えることにしました。経営会議でOKをいただくのは大変でしたが、本社一階の全フロアをいただきまして、0から全てを考え直し、顧客コミュニケーションの新しい形を作ることをテーマにスペースを作りました。
そこでは2つのことをやりました。1つは徹底的に没入集中できるように、植栽をふんだんに配置し、漆喰の壁なども作って、とにかく集中できるように、お客さまのための空間にしました。以前はよくCM動画も流していたのですが、それも一切やめました。
そして、もう1つはインスピレーション。完成されたパッケージをご紹介するだけではインスピレーションは芽生えないので、まだまだ生煮えのコンセプトや、市場に出すには未成熟なテクノロジーを剥き出しでご紹介することを始めました。さらに言うと、自分たちの意思をもって、社員全員が思っていることなどをお客さまに対して伝えていく場所という意味で、NEC Future Creation Hubを作りました。いろいろ試行錯誤をしながら今に至ります。
野口さんが注目する共創施設
共創施設と呼ばれる施設は、最近増えていると思いますが、野口さんが注目している施設があれば、その理由とともに教えてください。
野口2つあります。1つは森ビルが虎ノ門にオープンされているARCH(アーチ)です。この何がすごいのかを考えると、社会価値創造にフルコミットしていることだと思います。企業だけではなくて、大学や行政も連携させて、都市型イノベーションを創出することがうたわれているんです。
自分たちのノウハウをふんだんに投入しながらも、どちらかというとネットワーキングに特化してやっていらっしゃいます。これは正直、目から鱗でした。
NECみたいな企業が共創ハブを作ると、だいたい自前のテクノロジーを少し見ていただきながら、一社二社との連携が限界になりがちです。だけど、森ビルは自社のパッケージやテクノロジーがあるわけではないので、まさにネットワーキングをその場の価値にしている。インキュベーションするためには、例えばビジネスモデルのプロも必要ですが、そういう経験者を常駐させています。
何より虎ノ門というのがすごくいい立地で、霞ヶ関が近いんですよ。行政連携とベンチャー連携をあの場所で絶妙に実現されています。そういうことをコンセプチュアルにしてやると宣言することはできても、それを本当にやり続けることは難しいのですが、ARCHの当時のセンター長とコミュニケーションをさせていただいたこともあり、いい形だな、学びたいなと強く思いましたね。
もう1つは、最近、大学のサポートをすることがあって、さまざまな方とお話しする機会があるのですが、その中で福井大学が嶺南地域共創センターというのを立ち上げていらっしゃることを知りました。アカデミアならではと言いますか、営利目的だけではなくて、地域課題を解くことにコミットした共創センターなんですけど、実はそこのある課題をしっかり解決すると決めた研究員が、センターではなくて拠点に常駐してその地域で問題を解いているんですよ。これは、なるほど、と思いました。
正直言うと、NECが田町でひたすら待っていても、本当の共創は生まれない。嶺南地域共創センターの取り組みは実際に現地に行って、生のステークホルダーとやってやるんだという、強い覚悟を感じました。
NECも社会価値創造することを謳っていますけど、最近は営業なり、実際にインキュベーションするチームなどが地域に行って、その場に常駐しながらフルコミットすることが増えているんですね。その意味では、センターを作ってしまうと、ついついそこに集めたくなってしまうんですが、それだけではダメなんだと学びました。
まとめると、森ビルのように自前主義ではなくて、本当にネットワーキングに特化していきながら価値を生んでいくやり方も素晴らしいですし、福井大学のように、地場の社会価値を生むなら地場に行くという覚悟も素晴らしいと思います。一企業としてどう真似できるのかというのはいくつも課題がありますが、ぜひ取り入れていきたいと思っています。
HOOPSLINKで考えると、銀行が運営しているという点でルールは大事なんですが、施設の目的を明確にし、ルールは守りつつも事業共創のきっかけを自ら出向いて創り、具現化をしていく熱意や行動力が非常に重要だなと思いました。ありがとうございます。
バイスプレジデント 山田 恵梨子氏
(右)株式会社三井住友フィナンシャルグループ/株式会社三井住友銀行 デジタル戦略部
ダイレクター 鳥巣 悠太氏
野口さんの人柄に迫るコーナーや、「HOOPSLINK」への具体的なアドバイスは動画でさらに詳しく語られています。ぜひあわせてご覧ください。
連載:対談:NEC野口氏×SMBC
- 生成AIとは何か。生成AIエバンジェリストに学ぶ、その本質と進化
- 「究極の顧客視点」とは何か。失敗から生まれた共創のかたち
PROFILE※所属および肩書きは取材当時のものです。
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NEC AIテクノロジーサービス事業部門
シニアエバンジェリスト野口 圭氏
のべ1万人のお客様との対話を通し、NECで共創をリードしつづけるDXイノベータ。入社後、12年間はシステムエンジニアとして従事。2019年に顧客との共創による社会価値創造を目的とした「NEC Future Creation Hub」センター長に就任。デジタル時代に必要となるDX人材のスペシャリスト「NEC DX innovators 100」に2022年より選出され、顧客との共創セッションは、累計1,077回を超える。2023年より、生成事業の立ち上げを目的としたNEC Generative AI HUB(現AIテクノロジーサービス事業部門)のシニアエバンジェリストに就任、各方面で活躍中。
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株式会社三井住友フィナンシャルグループ/株式会社三井住友銀行 デジタル戦略部
ダイレクター鳥巣 悠太氏
2024年株式会社三井住友銀行入行。「デジタル x ビジネス」の観点で業界の未来の在り方を提示するThought Leadershipを推進。また大企業やスタートアップを巻き込み、デジタルイノベーション促進に向けたエコシステム構築をリード。入行以前は、外資系コンサルティングファームや外資系シンクタンクにて、ITアナリストとして十数年間活動。講演・執筆の実績多数。
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株式会社三井住友フィナンシャルグループ/株式会社三井住友銀行 システム統括部
バイスプレジデント山田 恵梨子氏
2013年株式会社三井住友銀行入行。リテール部門の営業業務に従事。その後、事務統括部およびリテール部門の管理職業務を経て、公募制度を活用してシステム統括部に異動。現在は2025年4月より新設されたIT人材企画グループに所属し、IT・デジタル人材の採用や育成、タレントマネジメントなどの企画業務を担当している。
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