「Design in India」が拓く、日印共創の新時代 Asia Leaders Summit 2026 @バンガロール
2026年7月、インド南部の技術都市バンガロールで、SMBC Asia Rising Fundを共同で運営するIncubate Fund Asiaが主催するイベント「Asia Leaders Summit 2026」が開催されました。
今年のテーマは「製造業・ディープテック・宇宙分野における日印連携」。日系大企業の経営幹部、投資家、インドのスタートアップ、研究機関など、両国を代表する多様なプレイヤーが集結しました。
本レポートでは、Asia Leaders Summit2026への参加を通じて、インドのスタートアップ・エコシステムの最新トレンドと、SMBCグループの取り組みや今後の共創の可能性をお伝えします。
「Make in India」から「Design in India」へ
これまでインドは、多くの日本企業にとって巨大な消費市場であるとともに、豊富な労働力を背景とした製造拠点でした。「Make in India」が象徴するように、グローバルサプライチェーンの中で製造機能を担う国として存在感を高めてきました。
しかし、今回のサミットで見えた最大の発見は、他国で設計された製品を製造するだけでなく、自ら技術を設計し、IP(知的財産)を生み出し、世界市場へ展開していく「Design in India」の動きが広がっていることです。
その原動力になっているのが、優秀な人材の集積です。
インド政府によれば、インドは世界の半導体設計人材の約20%を占めるといいます(※1)
※1 インド電子情報技術省(MeitY)による2026年3月13日の上院答弁より
米シリコンバレーで経験を積んだAIエンジニアや、ISRO(インド宇宙研究機関)・NASA出身の技術者、さらにはインド最高峰の理工系教育機関を卒業した若手人材が、次々とインド国内で起業・事業開発に挑戦しています。
背景には、インド政府が掲げる国家ビジョン「Viksit Bharat 2047」があります。独立100周年となる2047年までに、インドを名目GDP30兆米ドル規模の先進国へと発展させることを目指し、製造業やAI・半導体、宇宙分野への投資を加速しています(※2)。その結果、高度人材が活躍できる産業基盤が急速に整いつつあります。
※2 インドの名目GDPは、2025年時点で3.96兆米ドル。政策の一例として、製造業比率をGDPの17%から25%へ引き上げるほか、AI・半導体分野への大規模投資や、宇宙経済の約5倍成長を目指しています。
今回サミットに登壇したスタートアップ4社も、その変化を象徴していました。
AGRANI Labsは、AIの計算処理に不可欠なGPU(画像処理半導体)の開発に取り組み、Enerzolveは、輸入依存度の高かった電力制御システムや蓄電システムの国産化を推進しています。Bellatrix Aerospaceは、宇宙推進システムの主要部品の80%超を自社開発・製造し、Pixxelは独自の人工衛星群を活用した高精度な地球観測データサービスを展開しています。
こうした企業の多くは平均年齢30歳前後の若い技術者集団であり、インドの「世界のイノベーション拠点」としての存在感を押し上げています。
この変化は、日本企業のインド戦略にも表れています。かつてはコスト最適化を目的としたオフショア開発拠点だったインド法人が、今では「現地向けのソリューションを生み出す」ローカルR&D拠点へと進化しつつあります。
実際にサミットに登壇したある日本の大手メーカーは、当初、米国向けシステム開発のためにインド法人を設立しました。しかし現在は、急成長するインド市場を見据え、現地発の製品・サービス開発を担う戦略拠点として再定義しています。
優秀なソフトウェアエンジニアの報酬が日本本社を上回ることも珍しくありません。それでも同社が着目するのはコストではなく、「少数精鋭の人材が生み出す価値」だといいます。
サプライチェーン再編は、日本にとって最大のチャンス
現在、地政学リスクの高まりを背景に、企業は調達先や製造拠点の分散を進めています。その結果、サプライチェーンの強靱化(レジリエンス)は世界共通の経営課題となりました。
サミットに登壇したインドのディープテック企業からも、単なるコスト競争ではなく、「信頼できるサプライチェーンの構築」が重要なテーマになっていることがうかがえました。
例えば、宇宙分野のある企業は、数百社のサプライヤーと数千点の部品を管理しながら、日本・欧州・米国との連携を拡大し、地政学リスクに強い調達体制の構築を進めています。また、AI分野の企業は、自社で設計やIPを保有しながら、製造は台湾や米国、将来的には日本を含むグローバルパートナーと共創する構想を紹介していました。
この潮流の中で、日本企業が持つ精密製造技術や品質管理、そして長年培ってきた信頼性は、これまで以上に重要な価値を持ち始めています。
実際に、インドのスタートアップ経営者からは次のような声も聞かれました。
「資本提携は関係構築の第一歩であり、我々が本当に欲しいのは、共同開発を通じた日本の精密製造のノウハウだ」
「日本の“精密エンジニアリング”文化こそ、インドの起業家が最も学びたいものだ」
サプライチェーン再編は、しばしばリスク対応の文脈で語られます。しかし見方を変えればこの地殻変動は日本企業に新たな共創機会をもたらしています。インドが「Design in India」へと舵を切る今だからこそ、日印共創の可能性はこれまで以上に広がっているのではないでしょうか。
共創エコシステムの実践と、学び合うコミュニティ
一方で、共創の機会が広がるほど、成否を左右するのがその進め方です。
今回、SMBCグループ主催のセッション「Business Co-creation Dojo」では、SMBC Asia Rising Fundの投資先であるVayana、Olyvに加え、SMBCグループが出資するYES BANKの経営陣を招き、インド市場における共創の実践と、その学びについて議論が交わされました。
スタートアップと銀行という異なる立場から共通して語られていたのは、「共創をいかに再現可能な仕組みとして構築するか」というテーマです。
Vayanaは、中小企業向けの与信・トレードファイナンスを支える金融インフラを提供するフィンテック企業です。同社は、共創において重要なのは技術そのものではなく、どれだけ事業を成長させられるか、そしてその成果に誰が責任を持つのかという視点だと語ります。つまり共創のあり方は、単なる技術提供から、成果を共に創る「アウトカム(成果)パートナー」へと進化しているのです。
Olyvは、金融サービスにアクセスしづらかった個人向けにデジタル金融サービスを展開しています。同社は、共創を機能させるには、スタートアップと大企業が互いの強みだけでなく、制約や責任も理解し合うことが重要だと指摘しました。そうした相互理解が、長期的な信頼関係の基盤になるといいます。
一方で、共創をスケールさせるには、成果責任や信頼関係だけでなく、ガバナンスも欠かせません。その観点で、YES BANKの取り組みは参考になりました。
同行は、1万社を超えるフィンテック企業と接点を持ち、インドのデジタル決済取引においてトップクラスのシェアを誇ります(※3)。そうした規模を支えているのが、リアルタイムのリスク管理と、セキュリティやデータ保護を組み込んだガバナンスです。
また、事業部門が共創アイデアを継続的に持ち込み、検証する場を制度化しています。ガバナンス部門はリスク管理やセキュリティ面から支援し、イノベーションと統制の両立を図っています。
※3 2026年度第1四半期時点で、YES BANKはインド最大のリアルタイム決済基盤であるUPI( Unified Payments Interface )において、受取側市場で58.7%のシェア(業界首位)、支払側市場でも36.0%のシェア(業界第2位)を有しています。
成果責任、相互理解、そしてガバナンス——。共創を再現可能な仕組みにするためには、そのすべてが欠かせません。
セッションにおいて、SMBC Asia Rising Fundを推進するMayoran Rajendra氏は、共創エコシステムの本質について次のように語りました。
「共創は勝手には発生しない。意図的に創り出すものだ」
これまでSMBC Asia Rising Fundは、インドのスタートアップへ10社以上の投資を行い、SMBCグループやお客さまとの共創機会の創出を進めてきました。
その一方で、投資だけで新たな事業やシナジーが生まれるわけではありません。異なる企業、業界、国のプレイヤーが互いを理解し、率直に議論できる場が必要です。
こうした考えのもと推進しているのが、Business Co-creation Dojoです。2024年にシンガポールでスタートし、今回のバンガロール開催で5回目を迎えました。これまで累計300名を超える企業関係者が参加し、スタートアップ、大企業、金融機関が業界や国境を越えて知見を共有してきました。
Dojoが目指しているのは、単なるネットワーキングではありません。成功事例だけでなく失敗や課題も共有しながら、共創担当者個人の人脈や力量に依存させず、再現可能な仕組みとして学び合うことです。
SMBC Asia Rising Fundが目指しているのも、まさにその仕組みづくりです。
異なる企業、業界、国をつなぎながら、共創の可能性を広げていく——。
SMBCグループはこれからも、その価値創出を後押ししてまいります。
PROFILE※所属および肩書きは取材当時のものです。
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株式会社三井住友銀行 AIトランスフォーメーション推進部 部長
Mayoran Rajendra(ラジェーンドラ マヨラン)氏
東京大学大学院工学系研究科精密機械工学専攻修士課程を修了。2009年にGEヘルスケア・ジャパンへ入社し、新製品開発エンジニアとしてMRIの研究開発に携わる。その後、GEのエンジニア向けリーダーシップ・プログラムに選抜され、製造、IT、マーケティング、サプライチェーンなど幅広い分野のプロジェクトをリード。2015年にGEジャパンへ移り、産業用IoT事業の立ち上げを主導。業界の先駆けとして、電力、航空、製造業分野における数多くのIoT・デジタルトランスフォーメーションプロジェクトを推進。2020年8月に三井住友銀行へ入行。現在はAIトランスフォーメーション部門の責任者として、SMBCのAIを活用した変革戦略を統括し、デジタル金融ソリューションやパートナーエコシステムの構築を主導。また、SMBC Asia Rising Fund(APAC)およびSMBC Fin Atlas Beyond Fund(米国)を通じて、スタートアップへの投資や共創を推進。
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