シリコンバレー発のAI開発ツールで地域課題に挑む。6自治体が試した「作りながら考える」地域DX
SMBCグループは、シリコンバレー・デジタルイノベーションラボを拠点に、現地の最新トレンドやソリューションを調査し、グループ企業を通じて日本の企業や自治体のDX、新規事業開発につなげています。日本語で指示するだけでアプリを作れるAI開発プラットフォーム「Replit」も、その一つです。三井住友ファイナンス&リースでの導入に続き、ReplitとJSOLの協業も始まりました。
今回JSOLは、住友商事とともに、宇都宮市、堺市、相模原市、静岡市、豊田市、横浜市の6自治体と民間企業による地域DXワークショップを開催。非エンジニアを中心とする約60名の混成チームがReplitを活用して、地域課題の解決策を試作しました。
JSOLとReplitの協業を橋渡しした同ラボの安河内章太郎が、JSOLの三尾幸司氏と、ReplitのMegan Ruan氏に、今回の取り組みと今後の可能性について聞きました。
なぜ、自治体の課題をテーマにしたのか
SMFG/JRI America 安河内今回は、単なるAI開発ツールの体験会ではなく、参加した6自治体がそれぞれの地域課題を持ち寄りました。自治体の地域課題はどのような特徴があり、JSOLは今回のワークショップをどのように設計・支援したのでしょうか。
JSOL 三尾自治体は制度や地域の実情、住民のニーズを知っており、企業は技術や事業化、継続運用の知見を持っています。一方で、言葉だけの段階では、双方が思い描くサービス像や運用方法が一致しているかを確かめにくいことがあります。
地域課題は、困りごとが見えていても、解決策や一緒に取り組む相手まで決まっているとは限りません。また、地域ごとに事情は異なり、一つ一つにきめ細やかな対応が求められます。だからこそ、異なる立場の人が集まり、まず一緒に試してみることが、解決に向けた重要な一歩になります。
そこでJSOLは、住友商事とともに自治体と民間企業が地域課題を持ち寄る場を設け、混成チームで試作できるワークショップを設計しました。
当日のプログラムは前半と後半に分け、前半は参加した6自治体に、それぞれが抱える地域課題を話していただきました。後半は、参加者がチームで解決アイデアを考え、Replitに言葉で指示し、修正を重ねながら、実際に動くプロトタイプを作るという流れです。課題を知る自治体と、技術や事業化の知見を持つ企業が、作りながら認識を合わせ、想定する利用者や必要な機能を具体的に検証できる状態をつくることが狙いでした。
画面を見ながら考える。6自治体が体験した「作りながら考える」プロセス
SMFG/JRI America 安河内当日は約1時間の開発で、50件を超えるプロトタイプが生まれました。とはいえ、最初から完成したサービス像や詳細な要件があったわけではなかったと思います。参加者は、どのようにReplitを使い、アイデアを具体化していったのでしょうか。
Replit Meganまず、参加者が思いついたことを、自分たちの言葉でReplitに入力しました。Replitは、言葉で指示すると操作できる画面が立ち上がり、その画面を見ながら修正を重ねられます。
最初は何を入力すればよいか迷う方もいましたが、画面が一つ表示されると、「思っていたものと違う」「この項目は必要ない」「こちらの順番の方が分かりやすい」と、次に伝えるべきことが見えてきました。イメージと違えば指示を変えて作り直す。その試行錯誤を繰り返すことで、参加者自身のアイデアが少しずつ明確になっていきました。
Megan Ruan氏
JSOL 三尾面白かったのは、プロトタイプを作りながらアイデアそのものが具体化していったことです。例えば堺市のチームは、健康寿命の延伸という地域課題から、食塩の過剰摂取への対策というテーマに取り組み始めました。
まずReplit上で「食事の写真から塩分量を推定し、アドバイスするアプリを作りたい」と伝えました。生成された画面を見ながら検討するうちに、楽しく継続して使ってもらうための仕掛けが必要だと考え、リマインド通知やキャラクターが成長する仕組みを加えていきました。画面にしてみたことで、情報を示すだけでなく、利用を続けてもらうために何が必要かまで考えられたのです。
イベントに参加した堺市東京事務所長の羽田氏からも「堺市役所でもCopilotは使用できるが、こんな短時間で動画やアプリが高いレベルで作成できるAIツールは初めてで驚いた」というコメントをいただきました。
他の自治体のチームも同様です。公園の管理団体の人数が減っているという課題に対し、最初は「市内の公園を地図上で管理できるサイトを作りたい」という要件から始まりました。生成された画面を見ながらチームで議論を重ねる中で、ボランティア活動に応じてポイントがたまる仕組みが加わりました。公園の管理状況を可視化するだけでなく、住民の参加を促すサービスへと、アイデアが具体化していきました。
このように、まず画面にしてみることで、「本当に必要なのは何か」「誰が使うのか」「どの情報が必要なのか」が見えてきます。作ったものが想像と違っていても、それは失敗ではありません。「何か違う」と感じた瞬間に、曖昧だった前提が表に出るからです。
事後アンケートでも、要件整理から開発までを一気通貫で進められる点や、短時間でアイデアを形にできるスピード感に、驚きの声が多く寄せられました。
地域課題で試した進め方を、企業のDXへ
SMFG/JRI America 安河内ここまで自治体の地域課題を例に見てきましたが、課題を知る人と、形にする人の間で完成像を共有しにくいという構造は、企業のDXや新規事業にも共通するのではないでしょうか。
JSOL 三尾そう思います。企業内にも、数人しか使わないためシステム化されなかった業務や、Excelと手作業のまま残っている作業があります。現場では不便を感じていても、通常の開発案件にするには規模が小さく、IT部門や開発会社へ相談する前で止まってしまうことがあります。
新規事業でも、アイデアはあっても、利用者や提供価値がまだ曖昧で、完成した要件として説明できないことがあります。そうした段階で、まず触れられるものを作れば、関係者同士で具体的な議論ができるようになります。
重要なのは、作ったものをすべて本格開発することではありません。まず小さく試し、続けるのか、変えるのかを判断する。その上で、価値を確認できたものについて、本格的な開発や実装を検討していきます。
今回、JSOLは、参加者が課題を言葉にし、プロトタイプを見ながら次の修正を考える段階を支援しました。このワークショップは、地域課題を起点に、そうした進め方を試す第一歩だったと考えています。
Replit MeganAI開発ツールは、最初から正しい答えを作るためだけのものではありません。課題を知る人と形にする人が、作ったものを見ながら一緒に答えを探していくための手段です。この進め方は、企業の業務改善や新規事業にも応用できると思います。
PROFILE※所属および肩書きは取材当時のものです。
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Head of International Growth, Replit, Inc
Megan Ruan氏
Replitで海外市場の事業成長を担当。Replit参画以前は、Morgan Stanleyで機関投資家やファミリーオフィス向けのアドバイザリー業務に従事し、その後、Johnson & Johnsonのファミリーオフィスでベンチャー投資を担当。Gold House Venturesを共同創設し、General Partnerとしてスタートアップ投資や起業家支援を主導した。Kauffman Fellows Class 29にも選出された。
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株式会社JSOL
三尾 幸司氏
JSOLにて、新規事業開発やマーケティングを担当し、AI事業開発、地方創生、農業など幅広いプロジェクトを推進。Replitとのパートナーシップにも携わる。社会課題の解決と新たなビジネスの創出を目指す「社会デザイン・ビジネスラボ」の設立に参画し、現在は事務局長を務める。
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株式会社三井住友フィナンシャルグループ 兼 JRI America, Inc.
シリコンバレー・デジタルイノベーションラボ(JSOLから出向)安河内 章太郎氏
2020年、株式会社JSOL入社。金融や保険業界のインフラシステム開発・保守業務の経験を経て、現在はシリコンバレー・デジタルイノベーションラボにおけるR&D業務に従事。(2024年からJRI Americaに出向し現職)
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