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【グループCDIO 谷崎勝教氏インタビュー 後編】『Beyond & Connect』 即断即決でデジタル発のビジネスを事業化。SMBCグループの新規事業開発の舞台裏

メガバンクの中でも率先してITやデジタルの技術を経営に取り入れてきたSMBCグループ。

金融サービスに閉じることなく、お客さまのニーズに応えるデジタルサービスを検討し生み出し続けた結果、非金融領域を含むデジタル子会社はいまや10社を超え、一金融機関からグローバルソリューションプロバイダーへと変化しつつあります。

SMBCグループはなぜ、新規事業を次々と生み出すことができるのか。その秘訣を三井住友フィナンシャルグループの執行役専務にして、グループCDIO(Chief Digital Innovation Officer)を務め、CDO Club Japanによる「Japan CDO of The Year2022」として表彰された谷崎勝教氏へのインタビューで明らかにしていきます。後編では、新たなイノベーションを生み出し続ける仕組みとグループCDIOとしての目標、SMBCグループのデジタル戦略の未来について聞きました。

連載:グループCDIO 谷崎勝教氏インタビュー

  1. 【グループCDIO 谷崎勝教氏インタビュー 前編】「デジタル戦略がないのが、デジタル戦略」。SMBCグループから、非金融領域のデジタルサービスが続々と誕生する理由
  2. 【グループCDIO 谷崎勝教氏インタビュー 後編】『Beyond & Connect』 即断即決でデジタル発のビジネスを事業化。SMBCグループの新規事業開発の舞台裏

新たなイノベーションを生む、2つの仕組み

社内SNSである「ミドりば」では日々多くの意見交換が行われ、ここから生まれた新規プロジェクトもあると伺いました。まずは概要から教えてください。

谷崎「ミドりば」は人事部が用意してくれた社内のコミュニティ広場のような空間です。「ミドりば」内で新規事業の発案を目的にしたコミュニティができて、そこから形になった面白いプロジェクトが、マンション管理業界向けの新規デジタルサービスです。マンションの管理会社や管理組合では、毎月の書類や金銭のやり取りに加え、理事長の交代に伴う諸々の手続きなど、煩雑な作業が発生します。それらをオンラインで管理できるようにして、管理会社、管理組合と金融機関の手間を大幅に削減したものです。これは行員が日常のお客さまとの接点の中で不便に感じている課題から生まれたサービスです。私はこのように「自分」や「お客さま」が困っていることを起点に、事業が生み出されていくという流れをとても大切にしたいと思っています。

ただ、サービスをつくるのは簡単ですが、それをビジネスとしてどうマネタイズしていくか、どうサステナブルにしていくかが重要です。あったらいいよね、という思いつきならいくらでも考えられますが、その程度のアイデアは他でも思いつくものです。いかに特殊性を出して、長く使ってもらうサービスにするか。その辺りのセンスを身につけるには、銀行の中だけで仕事をしていたのではとても無理だと僕は思います。

やはり他の業態、業種の人たちと交流して、仕事の進め方や考え方を学んでいく。そうでなければ、新しいイノベーションは生まれてこないでしょう。そのために設立したのが渋谷にあるSMBCグループのオープンイノベーション施設「hoops link tokyo」です。大企業の新規事業担当部署の方やベンチャーキャピタル、スタートアップ、大学など、さまざまな方に来ていただいているほか、コロナ禍以降は、情報の発信拠点として機能する機会が増えています。

hoops link tokyoから生まれたプロジェクトはどんなものがありますか?

谷崎電子署名・契約サービスを提供するデジタル子会社のSMBCクラウドサインは、hoops link tokyoがきっかけとなって生まれたプロジェクトです。hoops link tokyoに弁護士ドットコムの方が来てくれた際に、「なにかいっしょに面白いことをやりたいですね」と話したことから具現化していきました。新しいことに挑戦したい人が集まる場があれば、これからもどん
hoops link tokyoでは定期的にどん面白い取り組みが生まれてくるでしょう。
「経営者道場」というイベントも開催しています。著名な経営者をゲストに迎えて、成功までのプロセスや苦労したエピソード、発想のコツや事業のスケール方法などを話していただくイベントです。毎回の内容は行内でも共有しています。

即断即決で新規事業がスタート

DXを成功させるには経営陣の理解が必須といわれています。デジタル戦略に対するSMBCグループの経営陣の理解はどの程度進んでいるのでしょうか?

谷崎経営陣はデジタルに対する理解がありますし、グループCEOの太田は就任以来、前例や先入観、固定観念、組織の論理等に囚われず、どんどんチャレンジして欲しいという想いを込めて「カラを、破ろう。」というメッセージを発信しています。取り組みを始めたばかりの頃は、AIに対して深い知見を持つ東京大学の松尾豊教授や、デジタルに精通した経営者を講師に迎えて、経営陣向けの研修を行ったこともあります。一方で若い世代は、非デジタルな旧来のやり方に疑問を持つ中で育ってきたので、我々ほどの違和感もなくデジタルを取り入れていると思います。

新規事業への投資はどのように決定しているのでしょうか。

谷崎2017年から、新規デジタル事業の投資決定を行う場としてCDIOミーティングを設けており、現在は月に一回開催しています。新規事業のアイデアを担当者自身がプレゼンして私や社長の太田など経営陣の判断を直接仰ぎ、賛同を得られたらその場でゴーサインが出ます。先ほど紹介したマンション管理業界向けの新規デジタルサービスも、社内SNSでアイデアが出ていたものをCDIOミーティングで発表してもらい、即決で事業化が決定しました。もちろん、アイデアの練り直しを求められる場合もありますが、その場合はブラッシュアップしての再挑戦もできます。

これまでの金融機関では考えられないような即断即決ですね。

谷崎これが本当にスピーディかどうかといわれると、私はまだまだスピーディではないと思っています。社内の他の会議に比べたら遙かに速度は上がっていますが、もっと速くする必要があります。今の状態がゴールだとはまったく思っていません。

CDIOの役割にゴールはない

グループCDIOとしての今後の目標を教えてください

谷崎CDIOとは「Chief Digital Innovation Officer」であり、デジタルを活用して新しいビジネスやサービスを創出することが目的です。私は新しいものをつくり出す行為に終わりはないと考えています。インタビューではよく「谷崎さんは今、山の何合目まで来ましたか?」などと聞かれますが、決まったゴールに向かって進んでいるわけではありません。進みながらいろいろな紆余曲折があり、山はどんどん高くなっていきますし、テクノロジーの進化によって到達点も変われば、ターゲットも変わってきます。今進んでいる方向が本当に正しいのかどうかもわかりません。新しい時代の変化に応じて、ずっと進み続けなければいけないポジションです。ですから私のミッションが完了するときは来ないと思っています。

ゴールも変わってくるとのことですが、ブレないのは顧客起点という軸だけでしょうか?

谷崎そうですね。どんなに立派なテクノロジーを駆使してサービスを生み出したとしても、お客さまに使っていただかなければ意味がありません。SMBCグループにとってDXやデジタル戦略はあくまでも手段の一つであり、「by digital」の意識を徹底しています。

金融業界も再定義される時代

SMBCグループのデジタル戦略は今後、どのように進化するのでしょうか。展望を教えてください。

谷崎非常に難しい質問ですね。長期的な展望を考えても、確実な未来が予想できるわけではありません。かつてビル・ゲイツが「銀行機能は必要だが、やがて銀行自体は必要なくなる」と発言したように、銀行の機能はデジタルで統合と分断が進み、従来の金融グループのあり方も変化していくでしょう。これからは再定義の時代です。今のような固定的な見方で「現状がこうだから、将来もその延長線上にあるだろう」と考えるのは止めたほうがいいでしょう。規制緩和が進み、顧客のニーズが変化すると、アメーバのように変化していくはずです。その変化に対して、数歩でも速く対応できる仕組みをつくることが大切です。

不確実性の時代に従来のやり方は通用しないと。

谷崎グローバルな視点を持てば、日本以外の海外でもまだまだやれることがあります。日本では実現が難しいことを、海外で形にしてから逆輸入する方法です。日本では既存の仕組みがパーツごとに完成されてしまっているので、それを一気に崩すことは難しいです。なにか新しい仕組みを提案しても、既存のシステムが完成されているので誰も変えようとしない。しかし、日本では受け入れられない仕組みでも、東南アジアなどのように確固たるシステムが完成されていない地域では受け入れられる余地があります。そこで成功したモデルをそのまま日本に逆輸入すれば、上手くいくかもしれません。

私は部下たちに「beyond」と「connect」を大事にして欲しいと伝えています。beyondは既存の壁や枠組みを超える発想を持てということです。そして、connectはいろいろな企業やサービスとあらゆる形でつながることです。既存の考え方に固執していては通用しない時代です。

では、新しい海外展開の事例があれば教えてください。

谷崎アメリカでの実現を目指しているデジタルバンクです。これは従来のネットバンクとは設計思想が根本的に異なります。自動車を例に挙げると、テスラの自動車は一晩でソフトウェアがアップロードされ、データがテスラに集積される仕組みを作っています。つまり、データに基づいたサービスが提供できるのです。これは、ガソリン車が電気自動車に変わった以上の大きな変化です。今までのネットバンクは、人間が手で行っていた作業をコンピュータに置き換えただけですが、我々のデジタルバンクはまったく異なる発想で人が介在しない仕組みを実現します。

自動車業界が大きく変わっていくように、SMBCグループはライバルに先駆けて旧来の銀行のイメージから脱却し、ビジネスモデルの変革を実現してきました。これからも、社会と人々の暮らしを豊かにする新たな未来を切り拓いていきます。

連載:グループCDIO 谷崎勝教氏インタビュー

  1. 【グループCDIO 谷崎勝教氏インタビュー 前編】「デジタル戦略がないのが、デジタル戦略」。SMBCグループから、非金融領域のデジタルサービスが続々と誕生する理由
  2. 【グループCDIO 谷崎勝教氏インタビュー 後編】『Beyond & Connect』 即断即決でデジタル発のビジネスを事業化。SMBCグループの新規事業開発の舞台裏
PROFILE
※所属および肩書きは取材当時のものです。
  • 三井住友フィナンシャルグループ 執行役専務 グループCDIO

    谷崎 勝教氏

    1982年に東京大学法学部卒業後、株式会社住友銀行(現 三井住友銀行)に入行。
    市場運用部長やシステム統括部長を経て、2017年よりグループCIO、2018年より現任のグループCDIOに就任し、SMBCグループ全体のデジタル戦略推進を牽引。
    2022年にはCDO(最高デジタル責任者)のグローバルコミュニティであるCDO Clubより「Japan CDO of The Year 2022」を受賞。

オープンイノベーション
(Open Innovation)

類義語:

製品開発や技術改革、研究開発や組織改革などにおいて、自社以外の組織や機関などが持つ知識や技術を柔軟に取り込んで自前主義からの脱却し、市場機会の増加を図ること。

デジタルバンク
(Digital Bank)

類義語:

デジタル技術を活用してオンライン上でサービスを提供している銀行のこと。

ベンチャーキャピタル
(Venture Capital)

類義語:

未上場の新興企業(ベンチャー企業)に出資して株式を取得し、将来的にその企業が株式を公開(上場)した際に株式を売却し、大きな値上がり益の獲得を目指す投資会社や投資ファンド。

DX
(Digital Transformation)

類義語:

  • デジタルトランスフォーメーション

「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の頭文字をとった言葉。「Digital」は「デジタル」、「Transformation」は「変容」という意味で、簡単に言えば「デジタル技術を用いることによる、生活やビジネスの変容」のことを指す。