米国でSMBCグループの新たな歴史を刻む。「デジタルバンク事業」に挑む社員たちの舞台裏
2022年8月に米国でデジタルリテールバンク事業に参入することを発表したSMBCグループ。ロサンゼルスを拠点とするグループ傘下のマニュファクチャラーズ銀行(2023年11月、SMBC MANUBANKに行名変更)の一部門として「Jenius Bank」を立ち上げ、米国在住の個人に向けた事業を展開していきます。
「Jenius Bank」に携わる社員は現在275名(2023年6月末現在)。メンバーは全米各地に分散し、バックグラウンドもさまざまなダイバーシティな環境。業務の大半はオンラインで、時には対面で顔を突き合わせながら、米国でSMBCグループの新たな歴史を刻む新ビジネスの構築に挑んでいます。今回は本プロジェクトに参画している専門領域の異なる社員にお話を伺い、それぞれの立場から「Jenius Bank」設立までの舞台裏を語っていただきました。
連載:米国デジタルバンク
- 「Jenius Bank」設立。なぜ、SMBCグループは米国でデジタルバンク事業に挑むのか
- 米国でSMBCグループの新たな歴史を刻む。「デジタルバンク事業」に挑む社員たちの舞台裏
米国におけるSMBCグループの新たな成長の柱に
デジタルバンク事業に携わることになった経緯と、どのような可能性を感じているかについてお教えください。
大前米国でリテール向けのデジタルバンクを立ち上げることを検討していると聞いて、すぐに公募に手を挙げ本プロジェクトに参画しました。SMBCグループの持続的な成長は、既存業務だけに頼るのではなく、新規ビジネスにもチャレンジすることが重要だと思っていましたので、米国という巨大マーケットでゼロからデジタルバンクを作り上げるプロジェクトに携わることができ、大きな可能性を感じています。
伊藤私は以前、東京側からこのプロジェクトをサポートしていました。Jenius Bankは他の新規プロジェクトと比較して事業規模・収益性ともにかなり大きな見通しを立てていたので、当初は「本当に実現できるのか?」と、どちらかといえば懐疑的な思いを持っていました。大きく掲げたプロジェクトほど関係者の理解を得ることは難しく苦労した経験がありましたが、逆にこのようなプロジェクトを成功に導くことが今のSMBCグループには必要なのではと思い、当時の上司に進言してプロジェクトメンバーに加わった経緯があります。当時の上司には感謝しかありません。
飯田私は2022年の7月からメンバーに加わり、システム領域を担当しています。Jenius Bankの競合はシリコンバレーで名を馳せたスタートアップ企業です。当初は本当に勝てるのかと不安が大きかったのですが、米州戦略統括部副部長の田中やデジタルバンクの責任者を務めるJohn Rosenfeldと面談をすることで、徐々にその考えも変わってきました。日本の大企業の中でも有数の挑戦であると認識しているので、絶対に成功させたいですね。
免出私は駐在していたニューヨークから東京に戻り、その後こちらに着任しました。主にサイバーセキュリティを担当しています。私が携わっているシステム・サイバーセキュリティ領域についてお話ししますと、銀行のシステムは当然ながら堅牢さが求められますが、デジタルバンクでは堅牢さに加えて、クラウド環境を利活用してユーザーエクスペリエンスを高めながら構築していく必要があります。ここが従来のシステムと大きく異なる点で、我々が米国において最善の方法を確立できれば、他国にも横展開することが可能となります。実店舗を始めオフラインでの対応を限りなく排除しているので、各国の規制をクリアすることを前提に、あらゆる場所で展開できるプロジェクトです。そういった意味で可能性とやりがいを非常に感じています。
星野これまでのキャリアで銀行ビジネスの企画に従事するなかで、新しい試みにチャレンジすることを常に意識してきました。そのような思いから、MBA留学の機会を得た際は米国西海岸のビジネススクールにて特にFinTechや起業といった領域に可能性を感じ研究対象としてフォーカスしていました。卒業後にニューヨーク赴任となった際にもイノベーションに携わりたいとの希望から、このプロジェクトにも構想段階から参画しています。もともとは数人の有志グループが掲げたビジョンからスタートしたものでしたが、これがSMBCグループという大企業のなかで伝播していく過程で、熱量を持って昼夜没頭する仲間が集まり、サポーターも増え、気が付けばここまで来ることができました。今もスピード感をもって成長し続けておりますが、Jenius Bankは、SMBCグループの米国戦略における新しい成長の柱になると信じています。
データを活用した提案型サービスで、デジタルネイティブ世代のニーズを満たす
デジタルバンク事業を進めるにあたって、大切にしている価値観やコンセプトについて教えてください。
藤原今回のプロジェクトでは全米各地から、さまざまな知見を持った人が集まっています。その意見を、SMBCグループの仕組みの中でどのように取り入れていくかを常に考えています。例えばこんなことをやりたいといった要望が挙がったときに、「それでは社内の承認が得られないよ」といって突っぱねてしまうのは簡単です。ですが、新しいやり方をSMBCグループの中で落とし所を見つけて調整することを大切にしています。
成田私は本プロジェクトでコンプライアンスを担当していますが、一般的にコンプライアンスは保守的な立場を維持することで、ビジネス推進サイドと距離ができてしまうことがあります。しかし、今回のプロジェクトは、ゼロから一緒に立ち上げた結果、コンプライアンスとビジネスサイドがお互いのニーズを早い段階でよく理解し、双方が同じチームという意識でバランスのとれた仕事ができていると感じています。コンプライアンスとしての守りの役割は果たした上で、こうした姿勢は今後も大切にしていきたいです。
デジタルネイティブ世代が求めるニーズを満たすための施策やサービスについて教えてください。
飯田我々の強みの一つはデザインチームを内部で抱えている点です。ユーザーエクスペリエンスについてもデジタルネイティブ世代を対象にパネル調査を実施して、継続的なフィードバックを得ながら開発を進めています。我々は、既存の金融機関の多くが、デジタルネイティブ世代が求める提案型のサービスニーズに十分に対応できていないと考えています。そこで我々は顧客データを活用して「支払い方法を○○に変えたほうが、メリットがあります」とお伝えするなど、ライフイベントを先読みした提案型のサービスを実現していきます。
バックグラウンドの異なる社員同士が、円滑に業務を進めるための工夫
デジタルバンク事業のチームをひとことで表すと、どのようなチームでしょうか?
大前米国で新たに採用された社員が主体の組織で、いくつか拠点はありますが多くの社員がリモート勤務をしています。また、SMBCグループが米国で初めて設立する個人のお客さま向けのデジタルバンクですので、業務内容も働き方もSMBCグループにとっては新しい形態のチームだと思います。
バックグラウンドの異なる社員が数多く在籍する環境で、業務を効率的に進めるために工夫している点を教えてください。
藤原本社はロサンゼルスにありますが、Jenius Bankには全米から人が集まっています。基本フルリモートが前提なので、そこに面白みを感じてやってくる優秀な人も多いですし、多様性のある環境で仕事ができることは素晴らしいと感じています。
西コロナ禍の影響で多くの人が非対面の仕事に慣れていますが、私たちはオフサイトミーティングという形で定期的に実際に顔合わせする機会を設けています。実際に仕事をともにしたメンバーがどんな人で、どのようにプライベートを過ごしているのか。普段会えないからこそ、そういった当たり前の情報を知る喜びがあります。
免出米国ダイバーシティ環境下においてもスムーズにプロジェクトを進めるために、それぞれの意図を正確に汲み取ることを意識して話を聞くのはもちろん、「誰がなにをいつまでにやらなければいけないのか」を明文化して共有し、作業を一日一日進めていくことを意識しています。
大前日本の三井住友銀行から来た人と現地採用の人を比較しても、考え方は大きく異なります。SMBCグループの文化を知らない人間からすれば「なぜこの承認が必要なのか?」「なぜ各自の判断でこれをやってはいけないのか?」といった疑問は尽きません。それらの疑問に対して「ルールで決められているから」と返してもまったく納得感はないので、私も今まで当たり前に思っていたルールや認識について背景や根拠を丁寧に説明することを心がけています。
デジタルバンクにおけるベストプラクティスの確立を目指す
Jenius Bankの今後の展望や実現したいことについて教えてください。
成田今回のように、日本と米国をはじめとする海外の社員たちを巻き込んだプロジェクトが成功すれば、SMBCグループの今後にもプラスの波及効果が生まれるでしょう。同時に改善点も見えてくるはずなので、そこはしっかりと活かしていく必要があります。当初はプレッシャーばかりを感じていましたが、新しいビジネスに対するリスク感覚や海外でゼロからの体制整備などの経験値を得ることができましたので、この経験は他の新規ビジネスにも共有してより良いものを作っていければと思います。
免出Jenius Bankでは、これまでの伝統的な手法とは異なる方法で開発やプロジェクト管理を行っています。この方法で成功できれば、他のさまざまなプロジェクトへの横展開が可能になり、SMBCグループ全体のシステム開発にも大きく寄与するでしょう。これから山場を迎えるとは思いますが、そういう展望を持ちながらプロジェクトを推進していきます。
星野大企業にはイノベーションジレンマがつきものだといわれますが、Jenius Bankの事業を進めていく上で、むしろSMBCグループだからこそ掴めるビジネスチャンスがあることに気が付きました。我々が持ち合わせている優位性のかけ合わせにより、米銀大手ともFinTech勢とも異なる事業モデルを確立できると思っています。後発の強みとして、先進的なテクノロジーをベースに立ち上げますが、そのうえで、ユーザーの声に誰よりも耳を傾け、高度なデータ利活用を実現することで、高い顧客満足度を得られるサービスを展開していきます。それらがマーケットに受け入れられ、米国に根差したサービスとして浸透しはじめるのを見るのが楽しみでなりません。もっと言えば、今は立ち上げ段階にすぎませんが、プラットフォームが出来上がったあとの構想も第二弾、第三弾…と可能性が広がっており、我々の最終的なビジョンが実現する日が来るのはまだまだ先になりそうです。
連載:米国デジタルバンク
- 「Jenius Bank」設立。なぜ、SMBCグループは米国でデジタルバンク事業に挑むのか
- 米国でSMBCグループの新たな歴史を刻む。「デジタルバンク事業」に挑む社員たちの舞台裏
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飯田 真之氏
大学院卒業後、日本総合研究所に入社。
入社後はクラウドを利用した銀行システムの開発に従事、2022年から現職。 -
伊藤 厚志氏
大学卒業後、三井住友銀行に入行。中小企業の営業、業務推進、経営管理等に携わり、国際部門を経て2021年から現職。
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大澤 幹太氏
大学卒業後、三井住友銀行に入行。
国内法人営業、海外トレーニーを経て2023年から現職。 -
大前 恵氏
大学卒業後、三井住友銀行に入行。
リテール事業部門において窓口業務、個人営業、企画業務に携わり、2021年から現職。 -
成田 愛樹氏
大学院卒業後、司法修習、メーカー等を経て、三井住友銀行に入行。グローバルビジネス部門のガバナンス業務に携わり、2021年から現職。
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西 香奈枝氏
大学院卒業後、三井住友銀行に入行。
国内法人営業を経験、グローバルビジネス部門の業務・経費管理業務やリスク管理部門での業務後、2021年から現職。 -
藤原 慎司氏
大学院卒業後、三井住友銀行に入行。
国内法人営業を経験後、主に海外システム案件に携わり2021年から現職。 -
星野 勇太氏
大学卒業後、三井住友銀行に入行。
海外ビジネスの業務推進/拠点開設、三井住友フィナンシャルグループのIR等、主に企画業務に従事。米国MBA取得後、米州本部にてInnovation Team立上げに携わった後、2019年より現職。 -
免出 知之氏
大学卒業後、外資系ITベンダーを経て三井住友銀行に入行。
入行後は海外システム企画に携わり、6年のニューヨーク駐在等を経て2021年から現職。 -
日髙 央基氏
大学院卒業後、三井住友銀行に入行。
英外銀への出向やデジタル・イノベーション・投資案件に従事、2021年から現職。本特集は企画編集側としてサポート。
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