食品専門商社ラクト・ジャパン、業務効率化成功の秘訣とは ~外為業務をDX~

乳原料・チーズなどをはじめとした食品専門商社であるラクト・ジャパンは、年間で数千件という膨大な為替予約を締結しています。この業務は従来、紙と人力によるアナログな作業が多く、従業員の大きな負担となっていました。これらの業務を自動化し、大幅に作業効率を向上させたソリューションが、SMBCグループが支援したRPA(Robotic Process Automation)の導入です。
オンラインで外貨預金振替・為替予約ができるサービス「i-Deal」とRPAの連携による業務自動化で、ラクト・ジャパンの社内にはどのような変化が訪れたのか。ラクト・ジャパン 財務部主任の小林 由梨氏、三井住友銀行 人形町法人営業部の櫻間 健太氏、市場営業推進部の大野 智弘氏に伺います。
アナログな為替予約業務をDXで効率化
ラクト・ジャパンが日常的に抱えていた課題はどのようなものだったのでしょうか?
小林食品専門商社である弊社は、海外から原料を仕入れて国内のお客さまに販売をしています。仕入れと販売で通貨が異なるため、為替のリスクを回避する必要があります。弊社は船積みされる貨物ごとに紐付けて為替予約を細分化するため、毎日膨大な為替予約を締結しています。
以前は、この為替予約に関連する締結から管理までの、ほぼすべての業務がアナログでした。まず、営業担当から為替予約の依頼メールが届くと紙に出力して内容を確認します。次に、銀行に架電をして予約を依頼し、締結した結果を営業担当にメールで回答し、締結した内容を銀行のネットバンキングからSLIP(為替予約締結の確認証憑)を1件ずつ出力後、社内システムに手打ちで入力。その後、社内システムより伝票出力するなど、あらゆる工程を紙と人力に頼っていたので、作業負担が非常に大きいという問題がありました。

今回、三井住友銀行さんのご提案によりRPAを導入したことで、作業負担が大幅に軽減されました。これまでは為替予約の締結から社内システムへの反映までに1週間ほど要していましたが、RPAの導入により翌日には反映できるようになっています。
手入力だと当然入力ミスも発生するわけですよね?
小林そうですね。手作業で進めていた頃は一割ほどミスが発生していました。毎日チェックは行っていましたが、予約件数が膨大で確認漏れも出てきます。そんなミスが数ヶ月後になって発覚することもありました。
SMBCグループ内で連携し、RPA構築・導入を支援
どのようなことがきっかけで、RPAの構築・導入を検討することになったのでしょうか。
小林社内には多くの紙があふれているだけではなく、財務部の人員も減っていたため、なんとか解決したく三井住友銀行さんへ熱い想いを書いたメールをお送りしたのが最初のきっかけです。解決したい課題をいくつか記載したのですが、そのうちの一つが為替予約含む海外決済に関連するものでした。
ラクト・ジャパンの課題に対し、SMBCグループとしてどのような座組みで具体的なソリューションを提案したのでしょうか?
櫻間為替予約締結業務は「i-Deal」を用いて利便性をご提供できていたものの、三井住友銀行として、他にどんなご支援ができるのかディスカッションを重ねた結果、三井住友銀行の市場営業推進部・市場ソリューション部とグループ会社のSMBCバリュークリエーションによる、RPAを用いた為替予約結果登録自動化のご提案に至りました。市場営業推進部・市場ソリューション部とは綿密な打ち合わせを重ね、RPAを現在の業務フローにどのように組み込んで、どういった仕組みで設計していくのか具体的な要件定義を行い、SMBCバリュークリエーション主導でRPAの構築を手がけました。

より具体的には、「i-Deal」で締結した為替予約取引データをラクト・ジャパンさまの社内システムに入力する作業を自動化するためにUiPath社のRPAを構築、導入の支援をしました。
大野我々、市場営業推進部や市場ソリューション部では定型のプロダクトにとらわれず、お客さまのマーケットに関するお悩みに寄り添ったソリューションを提供するべく日々活動しております。ラクト・ジャパンさまは商社として当然、その複雑な為替リスクに対応する必要があります。しかしながら、為替予約締結や海外送金業務の繫忙さ故に、リスクヘッジ手法の高度化を検討することは難しい状況だと推察しました。そこで、まず為替予約業務に付随する業務を効率化することが重要なのではないかとの結論に至り、提案をさせて頂きました。
RPAの導入で、作業時間の大幅な短縮に成功
RPAの導入により「これまで1週間を要していた社内システムへの反映が翌日には可能になった」とのことですが、それ以外にはどのようなメリットがありましたか?
小林今回は財務部を主な対象とした業務改革だったので社内全体ではありませんが、財務部の外為担当だけでも月に30時間ほど業務時間の短縮につながっています。為替関連の業務は大きなウェイトを占めていましたが、RPAに単純な入力作業を任せ、人にしかできない業務に割ける時間が多くなりました。これは大きなインパクトですね。
人のリソースをどのような業務に振り分けるようになりましたか?
小林今までは為替予約を締結すると、事務作業だけに時間をとられてしまい、その内容を精査する時間と余力がありませんでした。内容の精査ができるようになったことで、「どのようにすれば為替リスクを最小化できるか?」や「この為替予約は本当に必要だったのか?」といったフィードバックを営業担当に行う時間が生まれ、より高度な為替管理ができるようになりました。財務部として本来のミッションを果たせるようになった感覚ですね。
為替予約の締結方法やその後の管理について営業担当からたびたび質問を受けていたので、その対応ができるようになったのは大きな進歩です。財務部内でも人力に頼っていた頃の業務フローには戻れないと話しています。
乳原料価格の高騰や急激な円安進行において、RPAの導入はどのような役割を果たしましたか?
小林急激に相場が動くと予約の本数が増え、多いときは1日100件、200件の予約が発生します。それらすべてを銀行に架電して予約を取っていると、為替予約だけで1日が終わってしまいます。それらが「i-Deal」によりオンラインで可能になり、社内システムへの入力も自動化されたおかげで非常に助かっています。

既存のサービスを提案するのではなく、顧客の課題をともに解決する
RPAの導入に対して担当部署からの反発はありませんでしたか?
小林これまでの事務フローが変わって新たに覚えることが増えるため、最初は反発がありました。そこでまず、RPAの導入により業務がどう変わって、どんなメリットが生まれるのかを丁寧に説明し、担当者にも随時ミーティングに参加してもらいました。当事者意識を持ってもらうことで、導入に向けて積極的に動いてくれるようになりました。
今回、他の銀行にもお悩みを相談されていたとのことですが、三井住友銀行を選んだ理由を教えてください。
小林どこの銀行さんからも「こういったことができます」といったご提案はいただきましたが、DXの観点から業務フローの改善をご提案いただいたのは三井住友銀行さんだけでした。私はこれまでRPAと接点がなかったので、こんなことが実現できたらすごいなという期待感もありました。

大野銀行はどうしてもお客さまのお悩みを聞くと、「その課題を解決できる商品やサービスはあるのか?」といった発想になりがちです。そこに最適な商品やサービスがなければ、「当行にはありません」ということで終わってしまう。我々は最初から「お客さまの課題解決に最適なサービスはない」という前提で臨みます。既存のサービスでは解決できないからこそ、お客さまと一緒に解決法を探っていく。これが先ほどお話ししたコンサルティングアプローチです。
RPA導入を機に、為替予約取引も三井住友銀行に
今回の取り組みをきっかけに、ラクト・ジャパンとして為替予約の多くの取引を三井住友銀行に移したそうですね。その理由を教えてください。
小林いくつかの理由がありますが、まずは「i-Deal」の使い勝手が非常によかったことです。為替予約を締結するのはもちろん、管理のしやすさも優れています。また、他サービスでは取引内容によってFAXや紙の伝票を送る必要がありますが、「i-Deal」ではほとんどの取引がオンラインで完結できるのも嬉しいですね。
もう一つはサポートの手厚さです。困ったことがあると迅速にサポートしていただきました。近年の急激な円安環境においても、弊社の状況をふまえて細かくフォローしていただけ、とても助かりました。

それまでは複数の銀行と為替予約の取引を行っていましたが、取引銀行が増えれば煩雑な業務も増えるので、ご提案内容とサービスの質が高かった三井住友銀行さんに多くの取引を集約いたしました。
では、両社の取り組みの展望を教えてください。
櫻間ラクト・ジャパンさまの為替予約業務における他のプロセスでもDXを進めていきたいですね。例えば為替予約を締結した後に期日の変更などが生じた場合は、一部で手作業が発生してしまいます。請求書まわりの業務でも入金消込などは効率化の余地があるので、SMBCグループの力を結集して他行に先駆けて優れたサービスを提供したいと考えています。

小林櫻間さんのお話のとおり、まだまだ効率化できる作業が残っているので今後も順次DXを進める予定です。今回のプロジェクトは弊社としても前例がなく、私にとっても成功体験となりました。これを契機に人がやらなくてもいい作業はRPAなどデジタルツールに任せ、人がより有意義な仕事に集中できる環境をつくっていきます。会社を見渡してもまだまだアナログな作業は多く残っているので、DXを推進していかないと会社としての成長の限界がきてしまいます。人材が少ない時代において、一層の効率化を進め成長を目指していきます。
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株式会社ラクト・ジャパン 財務部 主任
小林 由梨氏
金融機関での法人営業を経て、2020年に(株)ラクト・ジャパンへ入社。
財務部にて与信や為替、資金調達などを企画・管理。 -
株式会社三井住友銀行 人形町法人営業部 部長代理
櫻間 健太氏
2011年三井住友銀行に入行。
一貫して法人営業部にて法人取引に従事。2019年より人形町法人営業部。
現在は主に法人新規のお客さまへのアプローチに従事。
マイブームはウイスキー。 -
株式会社三井住友銀行 市場営業推進部 部長代理
大野 智弘氏
2007年三井住友銀行に入行。
一貫して市場営業部門にて市場性取引のセールス業務やバンキング業務に従事。
2023年より市場ソリューション部所属となり、当社と同様の課題を抱えるお客さま宛に外為業務の効率化支援を案内。