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【脱炭素経営最前線】三井住友銀行×NECがCO2排出量データを連携。両社が見据える脱炭素の未来

CO2排出量データ連携・脱炭素ソリューションの共創に向けた基本合意を締結したNECと三井住友銀行。これにより、三井住友銀行が提供するCO2排出量可視化サービスの「Sustana(サスタナ)」と、NECの環境パフォーマンス管理ソリューション「GreenGlobeX(グリーングローブエックス)」の間でのCO2排出量データの連携が可能となります。

世界的な脱炭素の流れを受けて、CO2排出量の削減に取り組む企業は増えてきたものの、サプライチェーン全体でのCO2排出量の算定に取り組んでいる企業はまだ多くありません。両社の協業はどのような理由で始まり、どのような未来を目指すのでしょうか。関係者へのインタビューで明らかにします。

サプライチェーン全体のCO2算定は待ったなしの状況

今回、SustanaとGreenGlobeXがデータ連携および協業の検討を始めた背景および経緯を教えてください。

小島NECは2012年から「GreenGlobeX(以下、GGX)」を提供していますが、サプライチェーン全体でのCO2排出量の「見える化」を推進していくと、異なるツール同士でのデータ連携が必ず必要になります。業界や団体で標準化の検討も進んでいますが、実現にはまだ時間がかかる一方で、お客さまとお話ししていると、サプライチェーン全体でのCO2排出量の「見える化」については待ったなしの状況にあると痛感します。そんななかで三井住友銀行さんとゼロボードさんがデータ連携をされるというニュースを見て、非常に興味を持ちました。その後、三井住友銀行さんとお話をする機会があり、NECもその輪に加わることで、サプライチェーン全体のCO2排出量の「見える化」を加速させていきましょうとお伝えして、今回の連携が実現しました。

日本電気株式会社(NEC) スマートシティ事業部門 国内スマートシティシステム統括部
GXサービス事業開発グループ長
小島 有紀子氏

稲垣私の所属するデジタルファイナンス統括部は、金融機関さまに対する新規サービスの提供や、金融機関さまと一緒になって新しい価値を生み出す共創活動に取り組んでいます。金融とサステナビリティを組み合わせたグリーンファイナンスの分野において、弊社のGGXや三井住友銀行さんのSustanaとともに社会に対して新しい価値、事業を生み出せると考え、協業に至りました。

平山SMBCグループはサプライチェーンの頂点企業からTier1・Tier2等のサプライヤー(※)まで、幅広い企業とお取引がございますが、脱炭素に関しては、まだ本格的に取り組んでいない、他社がどう対応していくか様子見している、といったサプライヤーのお客さまも多くいらっしゃいます。今回のデータ連携を踏まえ、そういったお客さまに脱炭素により関心をもっていただき、具体的な取り組みをご支援していきたいと考えています。

(※)メーカーに直接、素材や製品を供給する会社。

今回のデータ連携の狙いと検討している協業について教えてください。

稲垣SustanaとGGXの連携によって多くのデータが「見える化」されると、サプライチェーン全体のCO2排出量の「見える化」に繋がります。NECグループ、SMBCグループともに様々な脱炭素の削減ソリューションを持っていますので、大手製造業からサプライヤーまで各社の困りごとに対して、「見える化」できたデータを利活用して、より各社に適したソリューションを提供できるようになるでしょう。

清水まずは両社でサプライチェーン全体のCO2排出量を「見える化」していきます。Sustana、GGXのどちらを使っていてもCO2排出量の算定結果を取り込めるようになると、それまで点在していたCO2のデータが線になり面になり繋がっていきます。データが繋がれば繋がるほど、お客さまに対して有益なソリューションの提案が可能になると考えています。

もちろんこれまでもお客さまに対して脱炭素のソリューションを提案していましたが、データを分析・活用した提案を行うことで、一段深い付加価値を提供できるのではと感じています。

株式会社三井住友銀行 サステナブルソリューション部 上席部長代理
シニアサステナビリティエキスパート
清水 倫氏

脱炭素に熱心に取り組む企業が、より評価される時代に

SustanaとGGXの連携が実現することにより、企業の脱炭素経営にどんな影響を与えるとお考えでしょうか?

小島GGXは大手製造業のお客さまに多く導入いただいています。サプライチェーンには大小合わせて1万以上の企業が属しているケースもあり、そのなかでは脱炭素に真剣に取り組んでいる企業もあれば、そうではない企業もあります。そして現状では、どの企業が真剣に取り組みをしているのかを判別する術はありません。例えば弊社自身の場合、脱炭素に対するエンゲージメントを高めるために、サプライヤー各社にアンケートを行っていますが、それでも個々の企業がどれだけのCO2を減らしているのかは分かりませんでした。当然ながら、大企業は脱炭素に積極的に取り組む企業と繋がりたいと考えるでしょう。今回のデータ連携により「見える化」される企業のCO2排出量は、大企業にとってサプライヤー企業の脱炭素への取り組み度合を図る際の指標の一つになるでしょう。

平山やはりCO2排出量の一次データが、今後脱炭素の取り組みを進める上で非常に重要だと考えています。現状、公に開示されているCO2排出量は本当にごく一部だと思います。各企業の、どの地域のどの工場で、どういった排出源からCO2が生まれているのか。こういった情報をサプライチェーン全体で分析することで、より効果的なCO2の削減が可能になると考えていますし、より多くのお客さまに、効果を納得いただけるソリューション提案を目指しています。

株式会社三井住友銀行 サステナブルソリューション部 グループ長
平山 貴之氏

ファイナンスの面からも脱炭素をサポート

SMBCグループとNECグループの連携を活かした削減施策などはありますか?

稲垣NECグループ内の企業との連携も視野に入れています。グループ内には工場の設備診断やコンサルティングを手がける企業などもあるので、CO2排出量の「見える化」から工場の設備診断に繋げて、さらにSMBCグループさんのファイナンスのサービスまで提供する。お客さまの現状としては直面する脱炭素経営課題に対して様々な会社のソリューションを都度検討し、時間や手間もかかっていると思います。今回の取り組みでは両社の強みを活かし連携することで、お客さまの課題に即したソリューションを一気通貫で提供できると思っています。

日本電気株式会社(NEC) デジタルファイナンス統括部 ディレクター
稲垣 将太氏

清水最近は脱炭素のフェーズが変わってきて、排出量の「見える化」だけにとどまらず、本気の削減が求められるフェーズに来たと感じています。実際に工場の現場でCO2削減に取り組んだ経験者のアドバイスがないと、なかなかお客さまのニーズに応えられない状況です。一方、NECさんはこれまでに積み上げた脱炭素の成功体験をお客さまに提供されているので、私たちはそのアドバイスをいただきニーズのあるお客さまをお繋ぎしていきたいと考えています。

また、CO2削減のための設備投資では、設備を購入するよりも、リース形式のほうが導入しやすいお客さまもいらっしゃいます。一例として、三井住友ファイナンス&リースと連携し、金融面からお客さまの脱炭素をサポートするようなスキームも今後検討していきたいですね。

2050年よりも先を見据えた脱炭素の取り組み

では、両社の今後の展望について教えてください。

小島三井住友銀行さんとの協業を機に、お客さまにとって使いやすい形でのデータ連携をしっかりと進めていくことが目標です。新しいお客さまが脱炭素を目指す上で必要なソリューションを、ともに開発していきます。

稲垣海外諸国と比べると日本の脱炭素への取り組みはまだまだかと思います。日本全体の脱炭素を推進するような取り組みを目指し、SMBCグループ、NECグループという枠組みに囚われず、脱炭素推進の輪を広めていきたいですね。

清水企業の努力が報われる社会を目指したいと考えています。CO2削減において努力した結果が「見える化」されることで、より選ばれる企業が増えてくるでしょう。日々の頑張りが結果に繋がるということを、脱炭素の観点から後押ししていきます。

平山脱炭素の取り組みは一朝一夕で終わるものではありません。CO2排出に関するデータを中長期的に蓄積し分析することで、お客さまの既存事業の見直しや、気候変動に対応した新たな事業を生み出すなど、経営やビジネスの変革のお役にも立てると考えています。また、そういった1社1社のお客さまの変革が、さらに日本全体の再成長にも繋がると確信していますので、NECさんとの連携により、その再成長にも貢献していきたいと考えています。

脱炭素の取り組みは非競争分野なので、どこか1社が独り勝ちを目指すよりも手を取り合って推進していくものかと思います。今後はSMBCグループ、NECグループ以外の場面でも他社との協業が増えると思いますか?

平山そうですね、今後は増えていくと思います。サステナビリティ情報開示の標準化やScope3開示の動きが進んでいけば、CO2排出量データもサプライチェーン上だけでなく、日本全体で共通化できるような仕組みが必要になってくるでしょう。脱炭素の分野では、他社は“競合”ではなくマーケットを一緒に拡大していく“仲間”ですので、私たちも積極的に仲間の企業を増やし、連携の輪を広げていきたいと考えています。

PROFILE
※所属および肩書きは取材当時のものです。
  • 日本電気株式会社(NEC) スマートシティ事業部門 国内スマートシティシステム統括部
    GXサービス事業開発グループ長

    小島 有紀子氏

    日本電気株式会社に入社後、通信キャリア向けのシステム開発、携帯電話端末の開発を経て、エネルギー領域における新規事業開発に従事。現在は、GreenGlobeXを始めとしたGX(グリーントランスフォーメーション)サービス事業の企画・開発・全体推進を行う。

  • 日本電気株式会社(NEC) デジタルファイナンス統括部 ディレクター

    稲垣 将太氏

    大学卒業後、印刷会社に入社。食品メーカー向け営業担当を経験後、金融機関向けFintech新規サービス企画に従事。2020年NEC入社。金融機関向け新規事業企画、共創活動の推進を行う。

  • 株式会社三井住友銀行 サステナブルソリューション部 グループ長

    平山 貴之氏

    2003年株式会社三井住友銀行入行。法人営業や営業統括、海外ビジネス企画等の経験を経て、サステナブルビジネスの企画開発部署の立ち上げに携わる。現在、Sustanaをはじめとしたサステナブルソリューションの戦略企画やマーケティング、外部企業提携等の推進を行う。

  • 株式会社三井住友銀行 サステナブルソリューション部 上席部長代理
    シニアサステナビリティエキスパート

    清水 倫氏

    2007年3月慶應義塾大学卒業(MDGs専攻)。株式会社三井住友銀行入行。法人営業部での勤務経験を経て、新規ビジネス開発を行う部署へ異動。2018年東京都とともに政策特別融資「三井住友銀行経営基盤強化」「SDGs経営計画策定支援」を立ち上げ。2020年日本総合研究所とともに、横浜市における地方創生SDGs金融制度の構築を支援。現在はSustanaをはじめとするサステナブルソリューション全般の企画・開発・推進を行う。

この記事でご紹介したサービス
カーボンニュートラル
(Carbon Neutral)

類義語:

  • 脱炭素

温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすること。 「全体としてゼロに」とは、「排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにする」ことで、現実には温室効果ガスの排出量をゼロに抑えることは難しいため、排出した分については同じ量を吸収または除去する。