DXで日本の医療に新たな変革を。アイリス×プラスメディの挑戦
「みんなで共創できる、ひらかれた医療をつくる。」をミッションに、AI技術を用いたAI医療機器の開発・販売を行うアイリスと、データの利活用で豊かな社会の実現を目指すSMBCグループのプラスメディ。ともにデータや最新技術を活用し、日本医療の変革に挑戦する気鋭のスタートアップ創業者は、どのような医療の形を目指しているのでしょうか。
アイリス 代表取締役社長 沖山 翔氏、プラスメディ 代表取締役社長 兼CEO兼CIO 永田 幹広氏にインタビューを行い、現状の医療現場の課題とそれぞれが目指す理想の医療について伺いました。
AIにより、日本国内に存在する医療格差を埋める
アイリス社創業の背景と、プラスメディ社の事業内容について教えてください。
沖山私は過去に、東京の総合病院を経て、石垣島・波照間島、小笠原諸島の南鳥島に離島医として勤務した経験があります。離島の病院には最先端の設備もなく、医師は私1人という状況も多くありました。日本は世界でもっとも医療格差の少ない国だと思っていましたが、実際には埋めなければいけないギャップがありました。この思いから医療現場を離れ、2017年にアイリスを創業しました。今でも週末に当直医として現場に入りつつ、AIを通じて医療格差をなくすための取り組みを続けています。
永田僕は指定難病の患者なのですが、病院に通うたびに、診察や処方薬の待ち時間をはじめ医療体験に不満がありました。そこで、病院の予約から会計までを一貫してサポートするwellcne(ウェルコネ)というアプリを開発しました。もう一つ、2024年12月に向けて開発を進めている「FAROme(ファロミー)」というQOL(生活の質)の向上を支援するサービスもあります。こちらは未病・予防を目的としたアプリで、日々の体調や食事内容、健診データを入力することで、AIが解析して将来のリスクや改善案などを教えてくれます。データはかかりつけの医師とも共有できるので、より個々の患者の症状に沿った診察が可能となります。
日本初のAI「新医療機器」が誕生するまで
アイリス社が開発したAI医療機器「nodoca®」とは、どのような機器なのでしょうか。
沖山nodocaは日本初(※1)のAI「新医療機器」(※2)として2022年の12月から販売を開始している、インフルエンザを検査する製品です。皆さんも風邪以外の症状で病院に行ったとき、医師からのどの確認をされたことがあるかと思います。のどには多くの病気の情報が集まっているからです。これまでは1人の医師が目視で確認して、知識や経験をもとに診察をしてきましたが、世界中の患者のデータを集約してAIに学習させることで、大きく診察が効率化できると考えたのがnodoca開発のきっかけです。
nodocaで患者ののどを撮影すると、Wi-Fiでクラウドに画像データがアップされ、AIがのどの画像‧問診情報‧咽頭所見情報(のどの赤み等の、医師が見て判断する情報)の複数項目の情報を用いて、十数秒以内(※3)でインフルエンザに特徴的な所見の有無を検出します。保険も適用されますので、町のクリニックでも導入が進んでいます。
(※1)PMDAが公開する令和3年度~平成23年度の新医療機器の⼀覧及び令和4年度の承認医療機器を確認した情報(2022年5月9日時点)
(※2)平成26年11月20日薬食発1120第5号が定める定義
(※3)通信環境による
実際にnodocaを使った患者や医師の声を教えてください。
沖山患者さんから「もう終わったの?」とか「痛くなかったです」といった声をいただくことが多いと聞いています。nodocaは内科、小児科や耳鼻科でよく使われているのですが、カメラの性能に驚かれる先生、子どもへの負担の少なさや待ち合い時間の短さに喜ばれる先生もいてご好評をいただいています。
nodocaの開発において苦労した点はありますか?
沖山nodocaは治験をクリアして、医療機器としての承認を得て、保険適用をされていますが、これらの手続きにはとても苦労しました。創業時は日本にAIを搭載した医療機器が存在しておらず、厚生労働省の皆さんもどのように承認すればいいのか模索しているような状況でした。前例がないので、厚労省とともにルールメイキングをしていったのが大変なプロセスでした。
日々の生活データをもとに、個人の一生を見守るアプリ
自社の機器およびサービスを通じて、現状の医療をどのように変革したいと考えていますか?
永田プラスメディが目指しているのは、「ゆたかな生活」です。wellcneでは主に医療データを収集してきましたが、今年の12月にリリース予定のFAROmeでは患者の日常生活のデータを収集して、未病・予防に役立てます。毎日の食事内容から体重の増減まで、あらゆるデータを集め時系列に整理して、個人の一生を見守るサービスです。女性のユーザーがFAROmeで妊娠、出産時のデータを記録することで、そのお子さんは生まれたときからデータが蓄えられます。毎日のデータを記録していれば健康意識も高まり、未病・予防につながるのはもちろん、病気にかかったときも医師とデータを共有することで適切な治療が可能になります。そして、毎日のデータを記録するということは、その人の生活習慣の詳細も分かるので、飲酒が多かったり脂質を取り過ぎたりしている人には、アラートを出すなどの機能も備えています。病院に行かないで済むのであれば、それが一番ですからね。
毎日のデータは、どう記録されるのでしょうか?
永田各種機器とBluetoothでつなげて、自動的にデータを取得するのはもちろんのこと、会話機能も持たせているので、音声と表情からもデータの取得が可能です。会話の相手として3Dアバターを用意して、「今日は何時の電車に乗りましたか?」とか「今日のランチは何を食べましたか?」といった何気ない会話をもとに、表情や声のトーンからストレスの有無を読み取って未病・予防に役立てることができます。ストレスチェックではなかなか見抜けない潜在的なストレスも、日常会話を通じてなら明確化しやすいというメリットもあります。
AIで全ての診察データを集約し、医療環境を改善する
では、アイリス社として、現状の医療をどのように変革したいのか教えてください。
沖山私がnodocaを開発した背景には、やはり医師として離島で働いていた経験が大きくあります。離島で不安だったことは、医師が私1人しかいないのでまわりに相談する相手がいなかったことです。大きな病院では、心臓のことで不明点があれば循環器の先生に、耳の病気で不明点があれば耳鼻科の先生に聞きに行くことができます。離島ではそれができないので、とにかく必死に勉強をしました。そのため、短い期間で大きく成長できたという実感もあった一方で、決まった期間が終わると私の代わりにまた次の先生がやってくるわけです。これだと医療というアセットが現地に蓄積されないわけで、私はそれがとてももったいないと感じていました。そして、島の人たちも「しょうがない」と諦めている節がありました。
AIがそのような問題に対するソリューションになると考えました。データを個人の頭の中だけではなく、皆で共有できる形に残してAIを構築する。AIは一度つくって終わりではなく、データが増えることでさらに進化していきます。医師たちが集めたデータを活用することでAIは次第に発展していき、離島の医療環境の改善にもつながるでしょう。過去、すべての医師がのどを診察したデータが残っていれば、今頃はスーパーAIが完成していたかもしれません。そういった取り組みを一歩一歩、私たちは着実に積み重ねていきます。
患者と医師、それぞれの立場から「ひらかれた医療」を目指す
プラスメディ社の事業とアイリス社の事業において、双方で共感できる箇所、実現したい未来について教えてください。
永田沖山さんとは以前から、何か新しい取り組みでご一緒できないかとお話をしていました。僕は患者目線に立って、通院を支援するアプリを開発しましたが、医療データを活用して豊かな社会をつくりたいという想いは互いに共通していると感じます。沖山さんが目指す、都内の病院でも離島の病院でも同じ医療体制を実現するという未来には、僕も大きく共感しています。
沖山私たちはそれぞれ患者と医師の立場から製品・サービスを開発していますが、お互いに手を伸ばし合っていると考えています。プラスメディさんのwellcneは患者の医療情報を医師と共有できるので、診察の質の向上につながるでしょうし、nodocaを活用すれば診察の質が上がるのはもちろん、患者の負担も少なくて済みます。将来、nodocaが全国に普及すれば、リアルタイムでインフルエンザの流行地域が把握できるようになり、各地の患者さんに正確な情報を伝えられるようになるでしょう。DXによりそのような未来を目指しています。
SMBCグループは、「テクノロジーで医療を変革する」というビジョンを持つアイリス社の取り組みに共感し、中期経営計画で掲げたスタートアップ支援の一環として、積極的に支援を行っています。SMBCグループは、こうしたスタートアップとの連携を通じて、日本の未来を共に切り開いていきます。
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アイリス株式会社 代表取締役社長
沖山 翔氏
2010年東京大学医学部卒業。日本赤十字社医療センター救命救急科での勤務を経て、ドクターヘリ添乗医、災害派遣医療チームDMAT隊員として救急医療を実践。石垣島・波照間島の沖縄県立病院や診療所での勤務、また南鳥島・沖ノ鳥島(国交省事業)にて離島医・船医として総合診療に従事。元国立研究開発法人 産業技術総合研究所 AI技術コンソーシアム医用画像ワーキンググループ発起人、救急科専門医、日本救急医学会AI研究活性化特別委員。2017年にアイリス株式会社を創業。
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株式会社プラスメディ 代表取締役社長 兼 CEO 兼 CIO
永田 幹広氏
1976年生まれ。通信会社数社を経験後ソフトバンク株式会社に入社。
主にY!BB立ち上げに参画。関連企業の事業立上げ等を推進した後、NHNJapan株式会社(現LINE)経営企画室にて新規事業立上げ、子会社(メデュエータ―代表、データホテル取締役)役員を歴任。動画配信、飲食事業O2O事業等立上げ、その後親会社との合併を経て、引き続き同社の新規事業の立上げを推進。
その後、2016年株式会社プラスメディを設立、代表取締役社長兼CEOに就任。
自らが潰瘍性大腸炎という難病を抱えて病院通いをする中で様々な課題を感じたことから、個人の弱者の立場に立って問題解決するために新しいサービスを創出。
また、2023年12月から大阪警察病院 臨床研究・治験センター(医療情報部門)特任研究員に就き医療情報利活用によるQOL向上の研究に従事している。