【Visa×SMBCグループ】法人カード決済データでCO2排出量算定 が可能に。Visa法人カードにおいて世界初「Scope3 Category1」の算定も開始
世界的に進む、脱炭素社会へのシフト。SMBCグループは、これまでも「CO2排出量の可視化」「削減施策の立案」「削減目標の実現」のワンストップ支援を通じ、脱炭素経営の実現をサポートしてきました。
三井住友カードは、ビザ・ワールドワイド・ジャパンとの協業により、2023年11月に「法人カードデータCO2可視化サービス」を日本全国の企業向けに本格提供を開始。三井住友銀行が提供するCO2排出量算定・削減支援クラウドサービス「Sustana(サスタナ)」へのデータ連携を行っています。2024年7月からは、購入した製品・サービスの生産過程でのCO2排出量を示す「Scope3 Category1」(原材料・部品、仕入商品・販売にかかる資材等が製造されるまでの活動に伴う排出)の算定を新機能として追加し、Visa法人カードにおいて世界で初めて提供を開始しました。
サービスの詳しい内容や開発の背景および今後の展望について、プロジェクトメンバーであるビザ・ワールドワイド・ジャパンコンサルティング&アナリティックスのヤッコ ラヤニエミ氏、三井住友銀行 サステナブルソリューション部の尹 春英氏、三井住友カード ビジネスマーケティング商品開発部の森田 健太郎氏と近藤 元気氏に伺います。
CO2排出量算定の自動化で、工数とコストを大幅に削減可能
「法人カードデータCO2可視化サービス」の概要をお教えください。
三井住友カード 近藤三井住友カードが発行する法人向けクレジットカードである「三井住友コーポレートカード」「三井住友エクスプレスコーポレートカード」「三井住友パーチェシングカード」の決済データをもとに、CO2排出量を算定するサービスです。三井住友銀行が提供するCO2排出量算定・削減支援クラウドサービス「Sustana」とのデータ連携も可能です。CO2排出量を算定する際には、Scope1=事業者自らによる温室効果ガスの直接排出、Scope2=他者から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出、Scope3=Scope2 以外の間接排出(事業者の活動に関連する他者の排出)に分類する必要があります。それらのなかでも、特にScope3の算定は企業にとって非常に手間のかかる作業です。本サービスはその効率化を目的に開発されました。
今回のサービスによって企業のScope3算定は、どのように変わるのでしょうか。
三井住友カード 森田算定にかかる膨大な手間が削減でき、“排出量を減らす”といった本来の業務に集中できるようになると考えています。今回のサービスを利用すると、決済データを基にしたCO2排出量が月に一度、データで送られてきます。企業側が追加で作業をする必要はありません。
三井住友銀行 尹一般的にScope3の算定をする企業は、膨大なデータを集め、一つひとつの項目の排出係数を調べる必要があります。企業によってはエクセルで半年ほどをかけて、データを集めているケースもあります。このようなお客さまの課題に対し、データを効率的に集めるためにSustanaのサービスがありますが、それでも手入力やCSVの取り込みは発生しています。最近では、企業間決済にもクレジットカードが多く使われるようになっていますので、その決済データを元にCO2排出量の算定をし、そのままSustanaなどのクラウドサービスに流し込むことにより、工数が大幅に削減できます。これまで、CO2排出量の算定を外部に委託していた場合、コンサル費用もかかりますが、この取組により、委託費用も削減できます。
送られてきたデータをSustanaに連携させることで、Scope3他Categoryを合算したCO2排出量の算定をより簡易になり、削減施策の立案・管理も注力しやくなります。
社会課題解決に、VisaとSMBCグループの協業で挑む
「世界初」のサービスとのことですが、どのような点が世界初なのか教えてください。
Visa ヤッコ2023年11月より提供を開始した、Scope3 Category6(出張)およびCategory7(通勤)の算定に加え、Scope3 Category1のCO2排出量を算定できるようになった点です。今回三井住友カード様がいち早く、Visaがグローバルで展開するサービスに高いご関心を示していただき、Visa法人カードにおいて日本から世界初サービスの開発・実現に至ったことは大変嬉しく思っています。
三井住友カードさまに伺います。サービス開発に至った背景についてお教えください。
三井住友カード 森田プロジェクトのスタートは2022年で、私たち三井住友カードから、VisaさまとSustanaを提供する三井住友銀行側に相談をしてスタートしました。
三井住友カードとしては、お客さまの業務効率化やDXを支援するサービスの開発を日々行っています。海外の事例を調査するなかで、特に欧米や米国のカード会社が個人消費者向けに、決済データを基にしたCO2排出量の可視化サービスを提供していると知りました。日本国内で、大企業を中心にCO2排出量削減の流れが強まっていた背景もあり、日本でも求められるサービスなのではと考え、Visaさまに相談をしたのです。ちょうど同じ頃、三井住友銀行ではSustanaの提供を開始しており、連携してサービスづくりができないかと考え、3社でのプロジェクトを立ち上げました。
Visa ヤッコVisaとしては地球温暖化を防ぐため、企業のCO2排出量削減に貢献したいという強い思いがありました。本プロジェクトの実現可能性を検討したところ、Visaがもつ決済データと加盟店のカテゴリー情報を活用することで、Scope3 Category1の算定が可能だと判断し、プロジェクトメンバーに加わることを決めました。
三井住友銀行 尹SMBCグループとしては、中期経営計画で掲げた基本方針の一つとして、「社会的価値の創造:『幸せな成長』への貢献」を掲げています。特に脱炭素は重要なキーワードであり、我々のお客さまの脱炭素経営に貢献したいという思いがありました。
そのような思いから、2022年からCO2排出量の算定と削減支援を目的としたクラウドサービスSustanaの提供を開始し、これまでに約2,000社のお客さまにすでにご利用いただいています。しかし、Scope1〜2は比較的簡単に算定できるものの、Scope3となると非常に手間がかかったり、専門のスキルが必要だったりする悩みがありました。今回のプロジェクトにより、お客さまがより簡単にScope3のCO2排出量算定ができるようになると感じ、参画を決めました。
本気でCO2排出量削減を目指す企業にとって、使いやすいサービス設計
サービス開発において特にこだわった部分を教えてください。
三井住友カード 近藤「世界初」という点は重視していましたが、それ以上に、世界初を取り逃がすリスクがあっても時間をかけてお客さまのニーズを聞き、お客さまが実務において使いやすい品質にすることにこだわりました。
特に、CO2排出量の算定データをお客さま用のファイルにどう表示させるかという検討においては、機械的に加盟店と排出係数を紐づけるだけではなく、お客さまが分析をする際に混乱しないような項目の振り分けや並べ替えなどの工夫をしました。
三井住友カード 森田今まさに求められているニーズだけでなく、今後生まれるであろうニーズにも目を向けてサービスの設計を行いました。
特に今回のサービスでは会社全体だけでなく、部署や個々の従業員に紐づいたCO2排出量算定ができるように設計しています。現在はまだお客さまに求められない機能かもしれませんが、企業が本気でScope3を含めたCO2排出量削減に取り組むには必要な機能だと判断しました。
例えば、飛行機を何度も利用する従業員がいる場合、近い距離であれば飛行機よりもCO2排出量が少ない新幹線を検討するよう声かけができるようになります。今後、CO2削減に本気で取り組むお客さまにとって必要な機能を見越して、サービスの設計を行っています。
サービスの特徴を教えてください。
三井住友カード 森田大きく2つ紹介します。
1つ目は、データの網羅性です。我々のサービスは、全世界で多くの加盟店をもつVisaブランドのカードを利用しているため、Visaの加盟店であればどこでもデータを取得できます。特に米国のVisa加盟店数は、他のカードブランドと比べても多いため、海外出張時でも我々のサービスが利用できます。
2つ目は、カード会社自身がCO2排出量の算定を行い、その結果を外部認証機関で確認してからお客さまへデータ共有を行っていることです。
Visa ヤッコ製品やサービスごとに環境省により決められている排出係数について、それぞれの加盟店と正しく紐づけができているかを、外部の認証機関に確認してもらうようにしています。それによって、より日本のルールに沿った正確なCO2排出量の算定が可能になり、お客さまに安心してサービスをご利用いただけるようにしています。
三井住友カード 近藤本サービスは、Sustanaをはじめとする算定ツールを導入せず、単体で利用できるところも特徴の一つです。
通常、複数のサービスをセットで導入しなければCO2排出量の算定をできないケースが多いです。一方で、このサービスの場合、三井住友カードが提供する法人カードを持っている企業であれば、他のサービスを導入することなく一回の申し込みでCO2排出量の算定データをCSVファイルで取得できるようになります。試しにこのサービスでCO2排出量の算定をしたいという企業にとっては、新しいシステムの導入は不要なので、好きなタイミングで気軽に利用開始できる点はメリットです。
脱炭素経営のファーストステップ「見える化」に、取り組む企業を増やす
今後の展望についてお教えください。
三井住友カード 近藤我々が目指すのは、日本が掲げる「2050年カーボンニュートラル宣言」の達成です。そのために企業は、データを収集し、それをもとにCO2排出量を算定し、分析して、最終的には削減するというプロセスを必ず通らなければなりません。カード会社としては、引き続き、既存の商品やソリューションを活用しながら、常識にとらわれない思考で新たに削減にも寄与するソリューションを生み出せればと考えています。
また、今回はSustanaと連携できるようにしていますが、他サービスとの連携も選択肢の一つです。あくまでもお客さまのニーズが主軸であり、企業間の垣根を越え、可視化から削減まで一気通貫で支援できる体制を構築することが重要だと考えています。
三井住友カード 森田CO2排出量が算定できる範囲を増やすことも力をいれるポイントの一つです。例えば、Visaさまと進めている「ビジネス・ペイメント・サービス・プロバイダー(BPSP)」という仕組みを活用し、カードの加盟店でなくとも決済できる環境の構築を進めています。これにより、CO2排出量算定の可能な商品・サービスが大幅に拡大する見込みです。
Visa ヤッコVisaとしても引き続き、CO2排出量削減の取り組みに力をいれるつもりです。世界各国のCO2排出量に関する規制は年々厳しくなってきており、その傾向はこれからも続くと思われます。加えて、世界中ではすでにCO2排出量削減への取り組み内容が、商品・サービスを選ぶ基準になりつつあります。そのような状況のなか、日本企業の多くがまだ「削減」の前段階である「可視化」にすら着手していないことは、リスクが高いのではないでしょうか。
CO2排出量削減についてのマインドセットを変えるためにも、今回のサービスのPRを通して、取り組みの重要性をご理解いただくことが重要だと考えています。
三井住友銀行 尹同感です。Sustanaとしても引き続き、お客さまの脱炭素経営の実現をサポートしてまいります。ヤッコさまのおっしゃるとおり、日本企業のCO2排出量削減についての意識は他国と比べて低い傾向にあります。とある調査では、プライム企業であっても18%ほどしかScope3の開示に至らないそうです。CO2排出量算定による見える化ができなければ、その先の削減にも進めませんので、まずはSustanaの導入企業数を増やし、お客さまにCO2排出量の算定を後押しできればと思っています。
特に最近日本でも、CO2排出量開示を義務化する動きが強まっています。2027年3月期から、時価総額が3兆円以上の東京証券取引所プライム市場上場企業を対象に、開示の義務化が検討されており、その後も徐々に対象企業が広げられる予定です。情報開示を行うには、その前段階のデータ収集体制の構築や仕組み化に取り組む必要があり、非常に時間がかかります。早めに取り組みをはじめることが肝要だと思います。
三井住友カード 近藤脱炭素経営に今から取り組む企業さまには、「完璧を追い求めず、まず第一歩を踏み出そう」とお伝えしたいです。いきなり完璧なデータ収集や削減施策の立案を行うのは難しいので、まずはできるところから始めてもらえるとよいのかなと思います。
「法人カードデータのCO2可視化サービス」がそのための第一歩となれればと思います。
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ビザ・ワールドワイド・ジャパン株式会社
コンサルティング&アナリティックス シニア・マネージャーヤッコ ラヤニエミ氏
2022年6月に入社後、トークンやサステナビリティに関わるプロジェクトに参画。Visa入社前は、2017年9月に立教大学大学院を修了後、デロイト トーマツ ベンチャーサポートにて大企業の新規事業開発やベンチャー企業の成長戦略および市場参入戦略アドバイザリーを提供。テーマとしてMaaS、金融、サステナビリティ、消費者向けアプリ、大型システム開発プロジェクトの経験が豊富。
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株式会社三井住友銀行 サステナブルソリューション部 戦略企画グループ 部長代理
尹 春英氏
北海道大学大学院環境科学院修了後、2014年4月精密機器メーカー入社。環境管理部、CSR推進部で従業員啓発活動、企業の環境管理に従事。2022年3月三井住友銀行入行。現在はSustanaをはじめとするサステナブルソリューションの企画、開発、推進を行う。
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三井住友カード株式会社 ビジネスマーケティング商品開発部
近藤 元気氏
2016年9月同志社大学国際教育インスティテュート卒業後、2017年4月三井住友銀行入行。国際法人営業部での外資系企業取引RM、決済商品開発部/決済企画部でのグローバル企業向けインターネットバンキングや決済インフラの企画管理などを経験。2023年より三井住友カードに出向中。法人カードデータCO2可視化サービスなど、法人決済ビジネス領域のデータ高度化を中心とした商品企画開発に従事。
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三井住友カード株式会社 ビジネスマーケティング商品開発部 グループ長
森田 健太郎氏
2008年、三井住友カード入社。法人営業部門を経て、2013年より法人向け商品・サービスの企画開発を担当。B2B分野の新事業立上げやコンカーとの戦略的業務提携に伴い、共同開発商品の開発リーダーに就任、数多くの商品立ち上げに従事。2022年、三井住友銀行及びビザ・ワールドワイド・ジャパンとの共同プロジェクトリーダーとして、法人カード決済データを用いたCO2可視化サービスを提供。