三井住友銀行がアスエネとの戦略的資本・業務提携を発表。CO2排出量可視化サービスで世界を狙う
三井住友銀行は2024年6月、CO2排出量を可視化するクラウドサービスの「ASUENE」やESG評価サービスの「ASUENE ESG」を提供するアスエネ社と戦略的資本・業務提携を発表しました。三井住友銀行は同社のシリーズCにリード投資家として出資を行っており、今後のさらなる協業が期待されます。
今回の発表を機にSMBCグループとアスエネ社は、脱炭素の市場においてどのような戦略を描いているのでしょうか。両社の関係者に伺います。
アスエネ×SMBCグループで脱炭素社会への変革を加速
国内におけるCO2排出量可視化のサービス市場および主要プレイヤーについて、現在どのような状況でしょうか?
西和田私たちがCO2排出量可視化サービスを開始した2021年8月当時はプレイヤーも少なかったのですが、最近は市場規模も拡大し、プレイヤーは増えてきています。市場の盛り上がりとともにお客さまのニーズも高まっているので、私たちはプレイヤーの増加をポジティブに捉えています。そのうえで今回、SMBCグループと強力なパートナーシップを結べたことを嬉しく思います。
清水国内のCO2排出量可視化サービス市場ではアスエネ社がトップシェアを握っています。一方、私たちは金融の視点を活かしてアスエネ社と相互補完的な業務提携をして、それぞれの強みを活かしていきます。脱炭素社会への変革を加速していくために、マーケット自体を大きくしていき、大企業だけでなく、中堅・中小企業の方もGX(グリーントランスフォーメーション)に取り組みやすい環境を構築していきます。
SMBCグループとアスエネ社のこれまでの協業の取り組みを教えてください。
西和田2022年11月にエジプトで開催された「国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)」で、三井住友銀行のご担当者さまとお話したことがきっかけです。当時から三井住友銀行ではSustanaをリリースしており、競合ではありましたが、この市場の未来を考え、「市場全体を俯瞰し、協業可能な部分で連携を進めよう」という話になり、23年の1月から本格的な協業の議論をスタートさせました。第一弾として23年10月に発表したのが、企業のESGへの取り組み状況を可視化する「ASUENE ESG」との業務提携です。これにより、三井住友銀行が融資を行う企業がESGのKPIを設定し、改善幅に応じて金利含めたインセンティブを付与するといったことも可能になり、ASUENE ESGの導入実績も大きく伸びました。2024年6月に発表した資本業務提携を機に、より複合的な協業案を実行することが目的です。
藤井金融機関が単独で進めているCO2排出量可視化の事業は業界の中でも珍しく、私たちとしても非常にチャレンジングな取り組みです。今回の提携を機にアスエネ社の取り組みを近くで拝見して、スタートアップとしての迅速な開発力、人材の多様性、社員たちのモチベーションの高さなど、その強みがよく分かりました。競合する部分よりも、脱炭素社会の実現やグローバルトップなど、目指すべきビジョンが一致した事が大きいです。また、銀行が海外で事業展開するには、各国の規制に対応する必要があり時間を要するため、高い成長性を備えたアスエネ社のようなスタートアップとの提携が必須です。我々としても確りスピード感を維持できるよう協業体制を進化させていきたいと考えています。
CO2排出量の可視化サービスにGAFAが進出してこない理由
今後の資本業務提携の内容について教えてください。
西和田まずはSustanaとASUENEのデータ連携を進めていきます。さらにシステム開発、製品導入後のカスタマーサクセスやコンサルティング領域での連携も進める予定です。金融機関は規制の問題で海外展開が難しいので、Sustanaは国内でのサービス提供が基本です。海外では営業面でSMBCグループと連携をしたり、私たちの海外顧客に対して金融ソリューションを提供したりと、幅広い展開を考えています。
カスタマーサクセスというワードが出ましたが、CO2排出量可視化サービスにおいてもその概念は重要なのでしょうか?
清水SustanaもASUENEもサブスクリプション型のサービスなので、「一度使っていただいて終わり」ではなく、顧客から選ばれ続けなければなりません。その点、業界最大手のアスエネ社は契約後のお客さま満足度を高く維持し続けるノウハウを持っています。逆にいうと、私たちにとってはそこに課題を感じておりました。アスエネ社と連携することで解約率を低減し、お客さまがいち早く削減の歩みを進めてもらえる後押しをしていきます。
西和田解約率はサブスクリプションサービスのビジネスモデルにおける一つのKPIですが、私たちのお客さまの99%はサービスを継続いただいていて、解約率は1%に満たないほどの水準です。投資家さま経由で海外の競合の話を聞きますが、解約率の高いサービスは20~30%にもなるそうです。「ASUENEはなぜこんなに解約率が低いのか?」と驚かれることもあります。
藤井アスエネ社の強みは、「デジタルのサービス」と「リアル」をカスタマーサクセスで上手く繋いでいる点です。定型化されたクオリティーの高い対応で、顧客満足度も高く維持されています。
西和田一般的なソフトウェアのビジネスモデルと大きく異なる点が、当社のカスタマーサクセスの概念です。単なるソフトウェアだけではなくて、CO2の計算方法や排出量の削減方法など、人的なサポートが必要だからこそ私たちはその点を強化してきました。それらが参入障壁になっているからこそ、GAFAのような大手企業が参入してこないと考えています。
「サステナビリティデータ×金融」の可能性
協業の発表から3ヶ月ほど経ちましたが、現在はどのような状況でしょうか?
西和田毎週定例会を設け、進捗確認や今後の展開について議論を行っています。まずは半年で結果を出すために、スピード感を持って取り組んでいます。私たちのもとには脱炭素やESGのデータが集まってきますので、今後はデータ企業になることも視野に入れています。サステナビリティデータ×金融の連携が実現すれば、融資、投資、ファイナンスを組み合わせて、いろいろなサービスがグローバルに展開できるでしょう。
清水こうしたサステナブルファイナンスの中には、お客さまのサステナビリティにおけるKPIを設定して、達成状況に応じて金利を下げるといった手法があります。ASUENEとASUENE ESGを使えば、毎年の排出量の削減実績やESGの取り組みが可視化されるので、改善幅に応じてインセンティブを付与する施策も可能です。
いずれ、サステナビリティ以外のビジネスにも進出する可能性はありますか?
西和田サステナビリティのデータと他分野のデータを掛け合わせることで新しい価値が生まれるので、徐々にフィールドを広げる形はあり得ると思っています。「CO2の見える化=コスト発生」ではなく、先んじて取り組むことで差別化につながったり、採用力の強化や、営業上の強みにもなったりします。国内外の機関投資家も上場企業には脱炭素の取り組みを要請し始めていますので、CO2を削減しないことには融資も受けられない時代になりつつあります。攻めの脱炭素を推進するためにも、ASUENEのデータとSMBCグループのファイナンスを掛け合わさることは意義があると考えています。
グローバルのトップを目指し、社会にインパクトを与える
ASUENEの海外展開について教えてください。
西和田現在はシンガポールに「Asuene APAC」、ロサンゼルスに「Asuene USA」という現地法人があります。アジアでは複数国で販売実績があり、今後さらにアジア諸国に進出する予定です。アジア地域においては営業面で協業しながら事業を拡大していければと思っていますし、シンガポール以外のアジア諸国は、日本よりも脱炭素の取り組みが遅れていますので、いいタイミングで進出できたと思います。
アメリカには「Persefoni(パーセフォニ)」という、金融機関と親和性の高いCO2排出量可視化サービスが存在しますが、ASUENEは製造業や建設業のお客さまに多く導入されています。機能に関しても各業界向けにアレンジされているので、上手くすみ分けができています。
今回の資本業務提携を経て、両社が目指したい未来について教えてください。
藤井日本では2030年までに、各企業が脱炭素に向かう設備投資金額として150兆円が発生すると言われています。グローバルベースだとさらに大きな金額になることから、我々としては脱炭素・サステナビリティ関連の資金需要は非常に大きな事業機会とも捉えており、金融機関としてこの機会を逃さずに資金提供を行っていきます。そのための最初の入り口としてSustanaとASUENEというCO2排出量可視化サービスを提供する間口を拡げることが基本戦略であり、これからもアスエネ社とともにマーケットを開拓しパイを獲得していきます。
清水お客さまが事業変革を起こすための最初の一歩として、CO2排出量の可視化と削減をSustanaとASUENEでサポートします。企業のGXをデータに基づくアドバイスとファイナンスで、能動的に支援・加速させたいと考えています。
西和田アスエネは「次世代によりよい世界を。」というミッションを掲げていますが、次世代を変革して社会に大きなインパクトを与えるためには、グローバルのトップを目指す必要があります。今回、資金調達をした大きな背景には、SMBCグループというリーディングカンパニーと資本業務提携をして、グローバルの市場を狙うという想いがあります。Sustana、ASUENEともに日本とアジアで強いポジショニングを確立しており、ここから本格的にグローバル市場を狙っていきますので、今後の取り組みにもご期待ください。
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アスエネ株式会社 Founder & 代表取締役CEO
西和田 浩平氏
慶應義塾大学卒業、三井物産にて日本・欧州・中南米の再生可能エネルギーの新規事業投資・M&Aを担当。ブラジル海外赴任中に分散型電源企業に出向、海外のM&A・PMI・事業投資・新規事業などを経験。2019年、アスエネ株式会社を創業。「次世代によりよい世界を」をミッション、「次世代を変える会社」をビジョンに、CO2排出量見える化クラウドサービス「アスエネ」、サプライチェーン調達におけるESG評価サービス「アスエネESG」、カーボンクレジット・排出権取引所「Carbon EX」のマルチプロクトを展開中のClimate Techのスタートアップを経営。2023年よりCarbon EX株式会社の共同代表取締役Co-CEOも兼任。
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株式会社三井住友銀行 サステナブルソリューション部 副部長
藤井 慎介氏
慶應義塾大学卒業、2002年株式会社三井住友銀行入行。国内法人営業を経て米州(NY、SF)勤務、日系・非日系RMとして金融危機含む計8年間、多様な金融イベントを支援。帰国後は総合商社RMを略7年経験、幅広いセクター知見を基に事業ポートフォリオの最適化と財務戦略両立を支えた。現在は、顧客との事業共創による脱炭素オーダーメイドソリューションの開発、出資機能も活用し先端気候テクノロジー探索・事業開発業務等を管掌。
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株式会社三井住友銀行 サステナブルソリューション部
戦略企画グループ長 シニアサステナビリティエキスパート清水 倫氏
2007年3月慶應義塾大学卒業(MDGs専攻)。株式会社三井住友銀行入行。法人営業部での勤務経験を経て、新規ビジネス開発を行う部署へ異動。2018年東京都とともに政策特別融資「三井住友銀行経営基盤強化」「SDGs経営計画策定支援」を立ち上げ。2020年日本総合研究所とともに、横浜市における地方創生SDGs金融制度の構築を支援。現在はSustanaをはじめとするサステナブルソリューション全般の企画・開発・推進を行う。