JALUXで外為業務を効率化、月40時間削減をSMBCがDX支援

「10年以上変わらなかったやり方を、私たちの代で変えたい」
日本航空(JAL)の関連会社として、航空機部品や機材などの航空関連事業のほか、環境関連資機材、さらには農水産品・ワインなどの輸出入と、幅広い事業展開をおこなうJALUX。そんなJALUXが頭を悩ませていたのは、為替相場変動リスクを減らす為替予約(※1)関連業務の煩雑さでした。スピードと正確性の両方が要求される中、複雑な業務フローを効率化できず、大きな負担となっていました。
そのような当社の状況に対し、三井住友銀行は、業務効率化のためのデジタルツールの構築支援を提案。この取り組みが、ミス削減や大幅な業務効率化に繋がりました。10年以上変わらなかった業務フローがどのように変わったのか、担当者にインタビューしました。
※1 為替予約:外国為替取引において、将来の一定の期日または期間を取引実行日と定め、為替レートをあらかじめ取り決めておく為替売買取引のこと。
長年の課題だった、為替予約業務の効率化
JALUXさまが、為替予約業務で抱えていた課題を教えてください。
新井手作業の多さですね。
特に、営業部から受け取った為替予約依頼の内容を各銀行さまのWebシステムに入力する作業や、締結した明細情報をJALUXの基幹システムへ登録する作業は全て、画面を見ながら手で入力していました。この作業は入力ミスが会社全体の損益に直結するため、担当者への負担が大きく、是非改善したい業務フローでした。
また、送金や入金を管理し、リアルタイムで残高を把握する仕組みがなかったことも課題でした。営業担当者が締結済みの為替予約の残高を私たち財務に照会する際に、認識のズレが生じるケースが多く、都度明細を確認する業務が発生していました。

新井 龍臣氏
三井住友銀行が、支援を開始したきっかけはなんだったのでしょうか?
中村本案件は、弊行の市場営業部門(市場営業推進部及び市場ソリューション部)と連携してご提案しました。弊行としては為替予約締結システム「i-Deal」によって一定の利便性は提供していたものの、検討を重ねた結果、市場ソリューション部(※2)によるRPAやBIツール(※3)を用いた外為関連業務効率化ご支援の提案に至りました。
※2 市場営業部門内の組織の一つ。為替・金利リスク管理高度化や需要予測等、データ分析や効率化を通してお客さまのDX支援等を行っている。
※3 企業が収集したデータを分析・可視化し、意思決定をサポートするためのツールのこと。
三井住友銀行では、既存プロダクトの提供だけでなく、お客さまのニーズに合わせたソリューション提案を行っています。JALUXさまと我々の長年のお付き合いの中で、特に為替予約業務に関するご担当者さまの負担が大きいと感じていました。そこで、JALUXさまオリジナル為替予約ツールを作成し、導入するのはどうかと、ご提案させていただきました。
小路JALUXの財務部にとって、為替予約関連業務の効率化はまさに業務改善の必須事項でした。当時の財務部長も『長年、正確に業務フローを引継ぐことも大事だが、時代に合わせて見直しを行い、改善を施すことこそ後任者の役割』として、私たちに今回のプロジェクトを全面的に任せてくれました。私自身、これから入ってくる後輩たちにとってより良い環境を作るために、今回の取り組みを必ず成功させたいという思いを持って臨んでいました。
既存業務フローに合わせた、オーダーメイドのシステム構築
どのような提案をしたのでしょうか?
中村最終的にご提案した業務フローは大きく3つに分けられます。

中村 祥太氏
1つ目は、営業部からの為替予約依頼の内容を銀行システムの入力フォーマットに変換する業務です。これまで様々な画面上に表示されるデータを目視で対応していた部分に対し、ロジックを組み込んだ変換ツールを導入することで、効率化を図りました。このツールは、お客さまの社内システムからダウンロードしたデータをもとに、必要な情報を抽出・調整して提示するというもので、従来発生していた誤入力のリスクも低減できるものとなっております。
作成されたツールについて、工夫した点などはございますか。
中村そうですね。なるべく財務部の皆様が普段やっている業務に即したフローとするように心がけました。例えば営業部の方々から提示された受け渡し期間をそのまま利用するのではなく、財務部にて適宜修正していると伺いました。そこで、完全自動とする形式ではなく、修正するステップを間に挟むことで対応しています。

他の2つについても教えてください。
中村2つ目は、為替予約業務の一部を自動化するRPAです。レートや約定日といった締結結果を、JALUXさまのシステムに自動で反映されるようにしました。基本的には定型のフォーマットから決まった箇所への入力作業になりますので、自動化との相性は良いです。今回は、JALUXさまでご利用のシステムの特性等をふまえ、オーダーメイド型の作成支援となっています。
3つ目は、為替予約管理ダッシュボードの導入です。これまで、財務部でしか見られなかった未履行の為替予約について、営業担当者を中心に、予約残高、予約レートなどといった関連情報や必要な契約情報を閲覧・検索できるようにしたのです。この仕組みが浸透すれば、これまで発生していた財務部への照会時の認識相違の解消が期待できます。

小路ありがたかったのは、JALUXの為替予約業務を深いところまでご理解いただき、そのうえで適切なご提案をしていただいたことです。以前他のデジタルシステム導入を検討した際は、パッケージ化されたシステムを我々がカスタマイズしなければならず、費用と工数の観点から断念したことがございました。
今回は最初から、JALUXの業務フローに組み込めるツールをご提案いただき、導入後の運用方法まで丁寧にレクチャーいただけました。そのおかげで、スムーズな導入が実現できたと感じています。
月40時間の工数削減、ミスの起こりにくい業務フローを実現
システム導入後の効果を教えてください。
新井大きかったのは業務時間の削減です。為替予約にかかわる業務が月40時間ほど削減でき、これまで担当者が2名必要だったところ、1名で対応できるようになりました。特に「各銀行で為替予約を取る」「取った為替予約を自社の財務会計システムに入力する」の自動化による工数削減効果が大きかったです。入力ミスなどのヒューマンエラーも減りました。
また、為替予約管理ダッシュボードのおかげで、実行中の為替予約に関する情報を、各部署が確認できるようになったことも大きな変化の一つです。財務部側の対応工数が大幅に削減でき、他部署からしても、その都度財務部に聞かなくても済むようになったことで、スムーズに業務が進められるようになりました。
加えて個人的には、社内にRPAが浸透したことも良かったポイントだと感じています。「財務部ではRPAを活用している」という噂が社内に広まり、他部署から「RPAの仕組みや構築方法について教えてほしい」と相談が寄せられるようになりました。会社全体のあらゆる業務が効率化するきっかけになりつつあると感じます。
小路業務効率化のおかげで、会社をよりよくする方法について、考える時間をもてるようになったことも大きな成果だと思います。

小路 菜々実氏
効率化と高度化を実現し、「攻める財務」へ
両社の連携の展望について教えてください。
新井直近は、債権・債務の評価替え(※4)業務の効率化をおこなう予定です。特に為替予約の際に自動で発行される予約番号や為替レートを正確に紐づける作業が煩雑で、ミスが起こりがちです。誰でも簡単に処理できる仕組みの構築を三井住友銀行さまと模索しています。
※4 評価替え:外貨建債権の帳簿価額を、ある時点のレートで評価の見直し(評価替え)すること。
中村三井住友銀行としては、今回のプロジェクトを皮切りに既存事務の効率化を実現し、その後は次のステップとして「高度化」を支援していきたいと考えています。原点に戻って「そもそも今の為替リスクヘッジ方法が本当に最適なのか」という部分から見直し、さらなるご提案をしていければと思っています。
また、私たちはJALUXさまとの取り組みを通じて、日本企業が輸入取引や債権・債務の管理において多くの課題を抱えていると実感しました。こうした課題は大企業だけでなく、中堅・中小企業にも共通するものであり、三井住友銀行とお取引のある企業さまのなかにも、同じような課題を抱えている企業は多いはずです。
そこで、そういった課題をお持ちのお客さま向けに「SMBC Linker」という、デジタルサービスを開発中です。はじめは債権債務と為替予約の紐付け管理機能をリリース予定ですが、将来的には為替リスクの評価やヘッジ方法のレコメンドなど、コンテンツの拡充を検討しております。
小路今、三井住友銀行さまと取り組んでいる為替関連業務の効率化は会社の利益に直結する非常に重要な領域です。先の見えない為替変動のなかでどのようにリスクヘッジし、的確に先を読み、より多くの資産を会社に残せるのかは財務部にかかっていると思っています。単なる作業屋ではなく、よりよい提案をおこなう「攻める財務」であるために、業務効率化と高度化を実現させたいです。
-
株式会社JALUX 財務部 資金課 副主任
小路 菜々実氏
2021年(株)JALUXに新卒入社。
外為業務を中心とした、全社の債権債務管理・企画に従事。
若手社員の人事ローテーションにより毎年メンバーの入れ替えが起きる中で、自身も2025年度より営業部門への異動が決まり、後任者への確実なバトンタッチを行うにはどうしたらよいか、日頃から模索。 -
株式会社JALUX 財務部 資金課 副主任
新井 龍臣氏
2023年(株)JALUXに新卒入社。
外為業務、海外・国内支払い業務を主に担当。
会社全体の事業が拡大する中、管理業務をどのように効率化させていくのか、という課題を抱える。第2弾として取り組んでいる債権・債務の評価替え業務以外でも、効率化・高度化できる業務の増加を目指す。 -
株式会社三井住友銀行 本店営業第七部 部長代理
中村 祥太氏
2014年三井住友銀行に入行。
一貫して法人営業に従事。2024年より本店営業第七部。
現在は空運業界のお客さまを担当。