【創業104年の老舗旅館×インクループ・プラリタウン】会計・人事労務システムの導入支援により業務効率を約2倍に

東北・福島の地で創業104年の歴史をもつ老舗旅館、土湯温泉 ホテル向瀧(むかいたき)。震災や新型コロナウイルス流行など、たび重なる未曽有の危機により休館を余儀なくされました。
転機が訪れたのは2020年8月。ホテル事業やレストラン事業を手がける、ワールドサポート合同会社が再建に名乗りをあげたのです。同社はこれまで培った経験とノウハウを活かし、多くの人に愛される老舗旅館の立て直しをスタートさせました。2025年2月にはホテル向瀧をリニューアルオープンし、早くも人気を博しています。
事業継承直後、ブランドコンセプトの見直しやサービス品質の向上と合わせて注力したのが、業務効率化です。SMBCグループの会社であり、顧客の課題解決に資するデジタルサービスを提供するプラリタウンが会計・人事労務関連の複数システムを選定し、その後に同じくSMBCグループのインクループがシステム導入の伴走支援を行い、大幅な工数削減を実現しました。
100年以上の歴史をもつ老舗旅館が、どのようにしてデジタル化に成功したのか。インタビューで明らかにします。
「とにかく紙をなくしたい」老舗旅館再建のため、会計・人事労務をデジタル化
システムの導入前には、どのような課題感をもっていたのでしょうか?
副田紙文化が強く、あらゆる業務に時間がかかりすぎていると感じていました。

副田 幸也氏
たとえば会計業務です。これまでは、受発注書類の作成・管理、経費精算、税理士確認用会計資料の用意など、必要な処理をすべてアナログでおこなっていました。人事労務も同じです。従業員の勤怠管理、給与計算、給与明細作成などすべて紙やExcelでおこなっていました。システム導入により、各業務は格段に効率化され、従業員の業務負担も軽減できると考えていましたね。
加えて、デジタル活用のスキルは、あらゆるところで活用可能なスキルですから、従業員を成長させる観点からも、デジタル化は必要だと考えていました。
従業員のことを大切にされているのですね。
菅藤 真利もちろんです。最高のサービスを提供することは大前提ですが、その前に働く一人ひとりが幸福である状態をつくることも経営者の責務だと考えています。

SMBCグループは、「デジタルサービスの提供だけでなく、お客さまがサービスを使いこなせるまで支援を行う」ことを目的に、2024年8月に株式会社インクループを設立されましたね。実際に、システム導入支援を担当した、インクループ(当時プラリタウン)の是成さまに伺います。相談を受け、システムの導入をどのような流れで進めていったのでしょうか?
インクループ 是成最初にお客さまのご状況や課題をよくヒアリングさせていただいた上で、最適な進め方を一緒に考案させていただきました。今回導入したシステムも機能範囲が非常に広いのですが、無理にすべての業務をシステム化してしまうと、現場の混乱を招き、かえって効率が落ちてしまうこともあります。お客さまに合わせてシステム化の範囲やスケジュール感などを調整させていただきながら、プロジェクト型で半年程度の伴走支援をさせていただきました。
プロジェクトを進める中で特に印象的だったのは、副田さまの「とにかく紙をなくしたい」「担当者の負担を軽減したい」といったお言葉です。ホテルの新設に伴い事務量が増えたとしても安定して業務を継続いただけるよう意識して運用の設計や支援をいたしました。
真の効率化を果たすためには、現行業務フローの見直しから行うことが重要です。既存システムとの連携や、カスタマイズなどについてのご相談を受けながら、現行業務を整理し、新しいシステムの業務フローを再構築させていただきました。

是成 洸寿氏
複数領域でのデジタル化も、専任担当者と相談をしながらスムーズに実現
向瀧は、同時に複数のデジタルシステムの導入を進めました。大変だったかと思いますが、スムーズに進められたのでしょうか?
副田是成さまからのサポートがあったので、特に大きな問題はありませんでした。
これまでも、様々なシステムの導入にトライしてきましたが、自分たちだけで立ち上げるのは本当に大変です。システムを使い始める前に、サービスのそもそもの機能理解や、初期設定が必要ですし、少し疑問に思うことがあってもすぐに相談できる人がいません。そのようなうちに他の業務に追われてしまい、結果的に導入を挫折してしまうケースもありました。仮にいざ導入となっても、従業員からの問い合わせ等に我々だけで対応することもハードルがあります。
今回の導入でもいくつも壁が出てきましたが、その都度、是成さまから適切な解決策を提案してもらえたので本当に助かりましたね。
また、私たちから「こういう機能が欲しい」「ここはカスタマイズしたい」と相談をすると、「それならこうしましょう」「こういう方法もあります」とご提案していただき、そのおかげで妥協せずに済みました。レスが返ってくるスピードも早く、足踏みする時間はほとんどなかったです。
システム導入で、半分の人員で業務が回るように
デジタルシステム導入後、どのくらい業務は効率化しましたか。
菅藤 真利向瀧全体で見ると、これまで40人ほどの従業員で回していたバックオフィス業務を、20人程度で運営できるようになりました。

菅藤 真利氏
八巻私が担当する会計業務でもっとも改善されたのは、お金の入出金を記録する出納帳の作成時間の削減です。特に、スマホアプリで撮影するだけで、請求書や領収書のデータを取り込み、必要な情報を自動で補完してくれる機能には非常に助けられています。全体的に作業時間が半分程度に短縮されました。作成データはそのまま税理士の先生へデータで送付でき、情報共有もスムーズになりましたね。
実は私は最近、会計担当になったばかりですが、システム活用を通して会計処理や保険関連の知識を深められ、スキルアップできたこともありがたいと思っています。
瀬戸私が担当する勤怠管理でも大きな改善がありました。これまでは、お客さまの予約状況に応じて頻繁に発生するシフト変更は手作業で調整し、その都度、該当従業員に連絡をしていました。
システム導入により、従業員全員の出勤状況や残りの勤務時間を一目でわかるようになり、シフトの調整がしやすくなりました。また、携帯端末からリアルタイムでシフトの確認・変更ができるようになったことで、毎度連絡する手間も省けるようになりました。
さらに、給与計算の面でも大幅な業務効率化につながっています。以前は勤怠データを個別に集計し、Excelで給与計算をおこなっていましたが、現在は従業員が日々の出勤・退勤を打刻するだけで、自動的に給与計算まで完了します。

右:ワールドサポート合同会社 接客部フロント課 中国語通訳案内士 瀬戸 優水氏
菅藤 真利会計、勤怠管理などあらゆる状況の見える化は、現場の効率的な運営に役立つことはもちろん、翌年の計画を立てる際にも大いに役立っています。
「向瀧でよかった」と、従業員が誇りを感じられるグループへ
向瀧の今後の展望について教えてください。
菅藤 江未まずは、安定した経営基盤の確立が最優先です。その上で、従業員を大切にしながら、さらなる事業成長を目指します。
従業員に将来への不安を感じさせないためにも、経営の安定化と事業拡大は必要です。最終的には「このグループに入ってよかった」と向瀧で働くすべての人が誇りを感じられるようなグループに成長し、他施設からも注目される存在になれればと考えています。

菅藤 江未氏
SMBCグループとしての、今後の展望も教えてください。
是成中堅・中小企業の皆さまを中心にデジタル利活用に資する取り組みを幅広く展開していきたいと考えています。2024年8月からシステム導入支援などの事業を強化するため、会計や人事システムを手がけるフリー株式会社とプラリタウンでインクループを共同設立し、取り組みを加速しております。現状はfreeeシステムの導入支援をメインで行っておりますが、今後は取扱システムの幅を広げるとともに、業務プロセス整理や最適化をおこなうBPRコンサルティングや、クラウドを用いて経理・人事労務業務を受託するBPOサービスの開発・提供など、支援の幅を広げていく予定です。
デジタル化やDXを検討したいけれど「それを実現するための人材が社内にいない」「何から手を付ければいいかわからない」といった課題を抱える全国の企業さまに寄り添い、真に必要とされる伴走支援を提供し続けたいと考えています。
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ワールドサポート合同会社 代表
菅藤 真利氏
平成27年、ワールドサポート合同会社設立、ホテルレストラン業他、輸出入貿易業、海外飲食店経営及びコンサルタント業を行う。
モンゴル国大学院大学インターナショナルビジネス名誉博士。 -
ワールドサポート合同会社 専務
菅藤 江未氏
(株)WIC代表取締役としてアジア圏を中心とした輸出入貿易業を行う、8歳の息子の育児と福島大学行政政策学部2年生として、ビジネス・育児・学業に奮闘中。
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ワールドサポート合同会社 執行役員/経営統括 向瀧グループ総支配人
副田 幸也氏
福島県老舗ホテル辰巳屋の執行部、営業部、運営部長を勤めた、再開発事業によるホテル廃業を機にワールドサポート合同会社に入社。
「ホテル向瀧」、「向瀧別館 瀧の音」総支配人。 -
ワールドサポート合同会社 接客部フロント課 中国語通訳案内士
瀬戸 優水氏
2024年入社、勤怠管理、フロント業務他、台湾、中国インバウンド商談会で通訳業務を行う。
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ワールドサポート合同会社 経理部経理課
八巻 里沙氏
2023年入社、経理業務他、宿泊、料飲業務も行うマルチプレイヤー。
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株式会社インクループ アシスタントマネージャー
(支援当時:株式会社プラリタウン 事業企画・開発部)是成 洸寿氏
2020年三井住友銀行に入行。法人営業を経験後、2022年からプラリタウンを兼任。日本の中小企業の再成長のため導入支援の必要性を感じ、2024年にインクループに創業メンバーとして参画。