デザインの力で金融の可能性を切り拓く。「制作支援」から「体験設計」へ——三井住友銀行のデザイン組織「SMBC DESIGN」の10年 #1
デザインの役割は、見た目を整えることだけではありません。SMBC DESIGNは、発足から10年を経て、事業の初期段階から関わり、課題を整理し、サービスや組織のあり方をともに考える存在へと役割を広げています。
本連載では、SMBC DESIGNの10年の歩みと現在地を全4回にわたって紹介します。初回となる今回は、三井住友銀行 リテールIT戦略部 デザイングループのグループ長である松下耕太郎氏と、立ち上げから携わってきたチーフデザイナーの金子直樹氏に、役割の変遷や、金融におけるデザインの意義・可能性について伺いました。
「どうつくるか」から「どの課題を解決するのか」へ。企画段階から関わるデザイン
SMBC DESIGNの発足から10年が経ちました。銀行内における役割や担当業務はどのように変化してきましたか?
金子発足前は、当行のデザイン業務はほぼ外部パートナーに発注していました。ですから、上がってきたアウトプットに対して「どこを改善したらよいか」といった部分的な相談を受けることからのスタートでした。
2年目くらいからサイトリニューアルの相談など個別の課題解決や案件伴走という形で徐々に領域が広がり、現在は、事業を成功させるために、企画の初期段階からデザインを活用したいという相談へと変化してきました。自社だけでなく、グループ会社にも関わるようになっています。
金子 直樹氏
グループ会社との関わりの一例をご紹介ください。
金子2025年8月に、SMBCグループとSBIグループが共同出資して設立した「Olive コンサルティング」では、プロジェクトの立ち上げ当初から、サービス設計に参画しました。
このプロジェクトでは、チームビルディング、コンセプトづくり、ミッション・ビジョン・バリューの言語化などにも関わりました。関係者同士が初対面の状態から、毎日のようにワークショップを開催し我々がファシリテーターを務め、みんなで考えたアイデアを可視化しフィードバックをもらいながらブラッシュアップする、といったことを繰り返していました。
グループや会社の垣根を越えて、一つのサービスを形にする。その初期段階から関われたことは、SMBC DESIGNの役割が広がってきたことを示す象徴的な事例だと思います。
認知が広がったのは、グッドデザイン賞受賞の影響もあったのでしょうか。
金子2019年の受賞は一番のターニングポイントでしたね。外部に分かりやすく発信できる実績ができたことで、社外と社内どちらに対しても「三井住友銀行にはデザイナーがいる」という認知が広がりました。その後も受賞を重ね、2019年から2023年までの間に計5回グッドデザイン賞を受賞したことも、存在感を強める要因になりました。
意思決定の場面における、デザインの関わり方も変わりましたか?
金子最初は「どうつくるか」、つまり具体的なアウトプットをどう改善するかが中心でした。もちろん今もその役割はありますが、現在は「何をつくるのか」「どう課題を解決するのか」という、より前段の部分から関わる機会が増えています。
これまでは、プロジェクトオーナーの思いや要件を形にすることに寄り添ってきました。最近ではそれに加えて、経営層にインタビューし考えていることを言語化したり、ブランドとして大切にすべき価値を可視化したりするような、ブランディング領域にも関わるようになっています。
松下今、SMBC DESIGNには15名前後のメンバーがいますが、まだメンバー一人ひとりの経験や知見に支えられている部分も大きいです。今後、領域や事業がさらに広がっていくなら、そうした知見をグループ全体のアセットとして蓄積し、再利用できる形にしていく必要があると感じています。
松下 耕太郎氏
形のない金融サービスを、体験として設計する
インハウスデザイナーでなければできないことや意義はどのような点にありますか。
金子外部パートナーに依頼する場合、予算やリソースなど、依頼内容がある程度固まっていないと発注しづらい面があります。
一方で、インハウスデザイナーであれば、まだ何をつくるのかが固まっていない早い段階から入ることができます。「まだ予算も決まっていないけれど、こういうことを考えている」といった段階で相談を受け、ふわっとしたものを整理し、前に進めていく。それが、中にデザイナーがいることの価値の一つだと思います。
また、部署やプロジェクトごとに個別に発注すると、似たようなものを別々につくっていたり、過去の知見が十分に生かされなかったりすることがあります。私たちは全体を俯瞰しながら、過去のアセットや別のプロジェクトで得た知見を活用できる。それも、インハウスならではの強みです。
デザイナーだからこそできる業務や関わり方はありますか?
金子混沌とした状態を整理し、構造化して、形にしていくことはデザイナーの得意分野だと思います。
たとえば、ディスカッションの内容を文字だけの議事録にするのではなく、会話する中で図解なども交えて構造化・可視化することで、参加者の頭の中は整理されます。ワークショップでは、ホワイトボードや付箋を使って関係性を可視化したり、その場でみんなが同じものを見ながら議論できる環境をつくったりしています。
デジタルツールが発達した現在でも、初対面のメンバー同士のコミュニケーションを密にするために、あえてアナログな手法を選ぶこともあります。関係者の思いや課題を整理し、同じ方向を向けるようにすることも、デザインの大切な役割だと考えています。
金子さんは「銀行とデザイン――デザインを企業文化に浸透させるために」という書籍を共著されています。金融業界のデザイナーは、他業種とどのような点が異なりますか?
金子金融業界ならではの法令やコンプライアンス、システム上の制約を理解したうえでデザインワークができることや、いろんな視点を持つ人たちと協働できる点ですね。
デザイナーの根本的なスキルは、業界が違っても共通する部分があります。ただ、どの業界で経験を積んできたかによって、強みや個性は変わります。金融業界では、法令、コンプライアンス、システム制約、ブランド方針など、考慮すべき条件が非常に多い。さらに部署や個社をまたいで多くの人と関わることも多く、そうした環境でデザインワークができることは、金融業界のデザイナーならではの特徴だと思います。
松下私は製造業出身ですが自動車会社のデザイナーであれば自動車を、ジュエリー会社のデザイナーであればジュエリーをデザインする。もちろんそれぞれに面白さがありますが、何をデザインするのかが比較的明確です。
一方で、金融サービスはもともと実体がありません。アプリや紙媒体をつくる、店舗や行動をデザインする、といった個別のアウトプットはありますが、本質的には形のないサービスや体験をどう設計するかが問われます。
だからこそ、可能性が非常に広いと感じています。SMBCグループは、新しいことに挑戦しようという文化があることに加え、もともと実体のない金融サービスだからこそ周囲もデザイナーの役割を「ここまで」と決めず、必要であれば領域を越えて関わっていける土壌があります。
金子確かに、できないことはないのではと思うほど、業務の幅は広いですね。あらゆる業務にデザインが関わる可能性があるので、業務内容を説明するのが難しいこともあります。
松下上司からも「所管部署の枠にとらわれず、自由に飛び出せ」と後押しされています。リテールシステム企画の範疇を超え、近年はリアル店舗デザインにも参画するなど、業務の幅はさらに広がっています。今後も、リテールビジネスに貢献できるモノやコトに貪欲に関わっていきたいと考えています。
事業とお客さまをつなぎ、金融体験を進化させる
お話を伺っていると、一般的にイメージされる「デザイン」とは少し異なる役割を担っているように感じます。
松下社内でも、「自分が知っているデザインのイメージと違う」と言われることがあります。多くの人にとって、デザインはまだ「制作」のイメージが強いのかもしれません。
でも、私たちが担っているのは、体験全体をデザインすることです。銀行アプリであれば、使っている瞬間だけではなく、そのサービスを知る、比較する、インストールするといった一連の行動を踏まえて動線を設計していく必要があります。
金子事業戦略とお客さまの体験をつなぐこと、と言えるかもしれません。経営や事業側の思いがあり、お客さまの行動やニーズがあり、その間には法令やシステム、ブランドなど、さまざまな要素があります。それらを整理し、つなぎ、お客さまに届く形にしていく。それが、私たちのデザインだと思っています。
松下金融サービスは、リリースして終わりではなく、むしろそこからが始まりですので、常に進化し続けるものをつくるという意識が必要です。その変化を前向きに捉えながら、サービスの価値を高め続けていくことが、これからの銀行におけるデザインには求められると思います。
今後、SMBC DESIGNとしてどんなことに挑戦していきたいですか?
金子まだ関われていない領域にも活動の幅を広げていきたいですね。また、デザインに価値を見出してくれる人を増やし、組織全体でデザインを活用する体質をつくっていきたいと考えています。
大きな組織でそれが実現できれば、社内外に価値あるサービスを生み出し続ける力になるはずです。私たちがそのハブとなり、デザインを起点に、よりよい体験やサービスをつくっていければと思います。
松下領域を広げるだけでなく、顧客体験全体をより深く考えていきたいですね。活動領域を広げながら、デザインの影響力をさらに大きくしていきたいと考えています。
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次回は、こうした考え方が実際の顧客接点でどのように生かされているのか、シンプルモード(三井住友銀行アプリ)やOlive LOUNGE、ストアなどの事例を通じて見ていきます。
PROFILE※所属および肩書きは取材当時のものです。
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株式会社三井住友銀行 リテールIT戦略部 デザイングループ
グループ長松下 耕太郎氏
2004年総合電機メーカーに入社。ハードウェアプロダクトやサービスのデザイン開発、イノベーション創生手法の研究に従事。2023年三井住友銀行に入行。SMBCグループにおけるデザイン拡大戦略の検討と金融デジタルサービスの企画を推進。
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株式会社三井住友銀行 リテールIT戦略部 デザイングループ
チーフデザイナー金子 直樹氏
デジタルマーケティング会社でWebサイトの企画・制作・運用業務を経て、2017年に三井住友銀行へ入行。UI/UXを専門領域として、既存サービスの改善や新規プロダクトのデザインリード、社内へのデザイン浸透等を推進。
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