デザインで変わる、銀行との出会い方。シンプルモード、Olive LOUNGE、そしてストアへ——三井住友銀行のデザイン組織「SMBC DESIGN」のシゴト #2
発足から10年。SMBC DESIGNの役割は、「制作支援」から、事業の初期段階に関わって課題を整理し、体験全体を設計する存在へと広がってきました。連載第一弾では、その歩みと、チームが大切にしてきた考え方をお伝えしました。
第二弾は、その役割の広がりを担うデザイナーたちに焦点を当てます。銀行アプリの「シンプルモード」を手掛けた加藤志保、店舗「Olive LOUNGE」の体験設計に携わった郭春佳、店舗形態「ストア」のデザインに取り組んだ野田智美——。それぞれ異なる現場で、「お客さまの体験」を起点に何を考え、どう動いたのか。具体的な取り組みから、SMBC DESIGNの仕事に迫ります。
連載:SMBC DESIGN
- デザインの力で金融の可能性を切り拓く。「制作支援」から「体験設計」へ——三井住友銀行のデザイン組織「SMBC DESIGN」の10年 #1
- デザインで変わる、銀行との出会い方。シンプルモード、Olive LOUNGE、そしてストアへ——三井住友銀行のデザイン組織「SMBC DESIGN」のシゴト #2
「使いやすさ」とは何か——銀行アプリ「シンプルモード」
デジタルマーケティング会社で、通信会社や家電メーカーのWeb・アプリのUI/UXデザインを数多く手掛けてきた加藤志保。2024年2月に三井住友銀行に入行し、銀行アプリのアップデートや新機能のデザインなどを担当しています。
加藤が、特に印象に残っているプロジェクトとして挙げるのが、銀行アプリのホーム画面を見やすく整理した「シンプルモード」です。
ユーザー調査を通じて見えてきたのは、スマホでの銀行機能の操作に抵抗があり、今もATMを中心に利用している人が少なくないという実態でした。そこで、振込や入出金の確認といった基本的な操作を安心して使えるよう、ホーム画面に表示する情報を整理しました。
目指したのは、単に機能を減らすことではありません。まずは基本的な操作に慣れ、その後、Oliveのカードや特典といったサービスも段階的に使えるようになることです。
加藤銀行からすると、すべての機能を使っていただきたい思いがありますが、お客さまにとっては機能を一気に提示されても困ってしまうこともあります。私たちインハウスデザイナーは、その間に立って情報を整理し、画面のデザインに落とし込んでいきました。
加藤 志保氏
こうした銀行とお客さまの間にデザイナーが立つ役割は少なくないと、インハウスデザイナーの金子直樹は言います。
金子アプリひとつをとっても、みんなそれぞれに思いが強く、関係者も多いんです。インハウスデザイナーは、さまざまな人たちの思いを汲み取りながら、みんなが納得できる形に落とし込む。それはとても大変ですが、大きなやりがいでもあります。
金子 直樹氏
もちろん銀行の担当者もお客さまのことを考えて検討を進めています、と前置きした上で、金子はこう続けます。
金子ただ、ある人にとっては便利でも、別の人にとっては使いづらいといったことがあるんです。そうした見えていない部分を、僕らデザイナーが可視化する。具体的なお客さま像や使い方のバリエーションを絵に描いて提案することで、議論が深まり、より良いものにブラッシュアップされていくと考えています。
Oliveの世界観を「感じてもらう」体験をデザインする——「Olive LOUNGE」
銀行の窓口は長らく、「手続きのために行く場所」というイメージを持たれてきました。銀行の機能にカフェやラウンジなどを組み合わせたOlive LOUNGEは、その発想を転換しようとする取り組みです。
もともとコンサルティング企業のデザイン部門でクリエイティブ関連の仕事をしていた郭春佳は、2022年3月に三井住友銀行に入行。銀行アプリやカードローンのアプリのUXデザインを担当していましたが、現在は新しいコンセプトの個人のお客さま向け店舗「Olive LOUNGE」の担当として、実店舗でどのような体験を提供するかをデザインしています。
郭これまでとは全く異なる業態の店舗で、お客さまにどのような体験をしてもらうのか、銀行としてどのようなコミュニケーションを図るのかを考えるべく、デザイナーとしてアサインされました。
郭 春佳氏
お客さまがOlive LOUNGEを知り、検討し、来店し、共感し、再び訪れるまで。その一連の体験を整理したエクスペリエンスマップを作成し、どの段階にどのような接点が必要なのかを検討しました。
その上で、コースターやしおり、ポスターなど、空間で触れる一つひとつのアイテムにコンセプトを落とし込んでいきました。郭が特にこだわったのは銀行側から情報を一方的に届けるのではなく、お客さまが自然に興味を持ち、自ら手に取りたくなるコミュニケーションです。
郭Olive LOUNGEは、居心地のよい空間を提供することで、お客さまに自然とOliveの世界観を感じていただき、好きになっていただくことをコンセプトにしました。従来の店舗とは異なった体験を提供するため、特典情報を「コースター」に載せるなど、お客さまが自ら手に取りたくなるアイテムを展開しました。
商品やサービスを直接訴求するのではなく、空間で過ごす時間そのものを通じて、Oliveへの親しみを育てていく。その体験を、一つひとつの接点に落とし込んでいったのです。
Olive LOUNGEの拡大に伴い、新たな課題も生まれました。初期の店舗では、デザイナーが企画から制作まで深く関わっていましたが、短期間で店舗数が増える中、すべての開店準備に付きっきりで対応することはできません。そこで、デザイナーがすべての制作に直接関わらなくても、Olive LOUNGEの世界観と品質を保てるよう、コンセプトやデザインルール、制作物をマニュアル化しました。こうした仕組みを構築することで、Olive LOUNGEは現在関西にも拠点を広げ、11店舗へと拡大しています。(2026年6月末時点)
立ち寄りたくなる小型店舗へ——店舗「ストア」の進化
Olive LOUNGEと並行して、SMBC DESIGNが課題意識を持って携わったのが、「ストア」と呼ばれる店舗形態です。
商業施設など生活動線に近い場所で、気軽に相談できる新たな銀行接点を目指したストア。SMBC DESIGNでは、機能提供にとどまらず、お客さまが日常の中で気軽に立ち寄れる体験の場へと進化させることを目指しました。プロジェクトに携わった野田智美はこう振り返ります。
野田ストアは、商業施設など生活動線に近い場所にあることで、日常に近い銀行接点としての役割を担っていました。そこに、Olive LOUNGEで培った空間やコミュニケーションの考え方を重ねることで、銀行サービスをより自然に知り、使っていただける場へと磨き込んでいったのです。
野田 智美氏
SMBC DESIGNがストアの設計に本格的に関わりはじめたのは、2024年9月にオープンした有明ガーデン店からです。「空間をオープンにし、目的がなくても気軽に立ち寄れる銀行に」というコンセプトは形になりつつありました。一方で、休憩スペースとして過ごす時間を、どのように銀行サービスとの自然な接点につなげていくかという新たな問いも見えてきました。
野田ハード面では、三井住友銀行の店舗であることを自然に感じていただけるよう、関係部署や設計パートナーと連携しながら、素材や照明、空間全体の見え方を含めて、ブランドらしさの表現を磨き込んでいきました。
一方、ソフト面では、来店のきっかけをどうつくるか。来店後に、どのように銀行との接点へつなげていくか。次の段階に向けた検討が、少しずつ具体化していきました。
コミュニケーションを生み出す「来店特典」
その答えのひとつとして設計したのが来店特典施策です。実施期間中は、同意のうえでエントリーいただいたお客さまに、Oliveカードをモチーフにしたミニチュアキーホルダーなど複数メニューからお好きなものを選んでいただけるようにしました。
さらに、この施策には特典を提供する以上の目的があったといいます。
野田店舗では、スタッフからお声がけするタイミングや距離感が難しい場面もあります。特典を受け取るというきっかけがあれば、そこから自然なコミュニケーションが生まれるのではないかと考えたんです。
やがて、想定外の声も届くようになります。スタッフからは、「目の前でお客さまが喜んでくださる姿を見て前向きな気持ちになった」「自然な会話が生まれるようになった」「Oliveの利用促進につながる追加のご案内ができた」といった声も寄せられました。
野田お客さまに喜んでいただけることが、スタッフの前向きな接客にもつながっていく。店舗体験の価値を改めて感じる機会になりました。
また、希望されるお客さまには、デジタルチャネルでも情報をお届けできる導線を設計しました。店舗で生まれた関心を、その場限りで終わらせず、退店後の継続的なコミュニケーションにつなげるためです。
野田リアルな店舗体験とデジタルの接点をつなぐことで、必要な情報を継続的に届けられるようにしたいと考えました。
現在、ストアは首都圏に加え、関西や東海など、さまざまな地域へ広がっています。
野田皆さんの日常の中に銀行が自然に溶け込み、ふらっと立ち寄っていただける。その中で、便利さや親しみを感じながら活用いただけることが重要だと考えています。
SMBC DESIGNの仕事は、アプリの画面設計にとどまらず、空間デザインや体験の仕組みづくり、さらには現場で働くスタッフの前向きな接客にもつながっていました。「事業戦略とお客さまの体験をつなぐ」という前回の言葉が、より具体的な姿として見えてきます。
次回は、事業とデザインの共創の場面と、デザインの力で金融の可能性はどこまで広がるのかを掘り下げていきます。
連載:SMBC DESIGN
- デザインの力で金融の可能性を切り拓く。「制作支援」から「体験設計」へ——三井住友銀行のデザイン組織「SMBC DESIGN」の10年 #1
- デザインで変わる、銀行との出会い方。シンプルモード、Olive LOUNGE、そしてストアへ——三井住友銀行のデザイン組織「SMBC DESIGN」のシゴト #2
PROFILE※所属および肩書きは取材当時のものです。
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株式会社三井住友銀行 リテールIT戦略部 デザイングループ
郭 春佳氏
コンサルティング企業のデザイン部門でクリエイティブ関連の仕事を経て、2022年3月に三井住友銀行入行。銀行アプリやカードローンのUXデザインを担当した後、現在はOlive LOUNGEの体験設計を担う。
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株式会社三井住友銀行 リテールIT戦略部 デザイングループ
加藤 志保氏
デジタルマーケティング会社で通信会社・家電メーカーのUI/UXデザインを手掛け、2024年2月に三井住友銀行入行。銀行アプリのアップデートや新機能のデザインなどを担当。
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株式会社三井住友銀行 リテールIT戦略部 デザイングループ
野田 智美氏
大学卒業後、デザインファームにてデジタルプロダクトの情報設計、UI/UXデザイン、デザインシステムの構築に従事。2023年3月三井住友銀行に入行。
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株式会社三井住友銀行 リテールIT戦略部 デザイングループ
金子 直樹氏
デジタルマーケティング会社でWebサイトの企画・制作・運用業務を経て、2017年に三井住友銀行へ入行。UI/UXを専門領域として、既存サービスの改善や新規プロダクトのデザインリード、社内へのデザイン浸透等を推進。
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