取り組み
2026.07.30更新

銀行は、再び産業を動かせるか。大企業とスタートアップをつなぐSMBCグループの「イノベーション・カタリスト」

AIの進化によって、企業に求められるスピードは大きく変わった。

多くの大企業が「このままでいいのか」という危機感を抱いている。資本や顧客基盤を持ちながらも、自前主義だけでは、変化のスピードに対応しきれなくなりつつあるからだ。
一方で、スタートアップには技術とスピードがある。本来なら最高のパートナーになれるはずの両者だが、現実には大きな「温度差」がある。

その断絶を埋め、日本の産業そのものをアップデートしようとしているのが、2025年4月に新設された三井住友フィナンシャルグループ(以下、SMBCグループ)のデジタル・イノベーション本部だ。

本部長を務める長谷部智也氏は、コンサルティングファームやグローバル企業の経営を経て、25年ぶりにSMBCグループへ復帰した人物。なぜ今、銀行がオープンイノベーションの旗振り役を担うのか。その構想を聞いた。

(聞き手:Business Insider Japan ブランド編集長 高阪のぞみ)

今の日本を変えるなら、外からではなく中に入るべきだと思った

長谷部さんは2024年に25年ぶりにSMBCグループへ再入社されました。なぜこのタイミングだったのでしょうか。

長谷部個人のキャリア選択という面もありますが、それ以上に「今この瞬間の日本」と「今のSMBCグループ」だからこそ、大きく変われる可能性があると感じたからです。
私は長年外資系ファームのコンサルタントとして企業変革を支援してきました。しかし、第三者として提言するだけでは限界もある。日本企業が変わるためには、自分自身が当事者になるべきだと考えました。

長谷部智也(はせべ・ともや)氏/三井住友フィナンシャルグループ 執行役員デジタル・イノベーション本部長。1997年さくら銀行入行、3年で退社。その後、戦略コンサルとしてA.T. カーニー、ベイン・アンド・カンパニー(パートナー)、アクセンチュア(マネジング・ディレクター M&A/PEプラクティス日本統括)、事業会社役員としてマスターカード日本地区上席副社長などを歴任。2024年に25年ぶりにSMBCグループへ再入社。2026年4月より現職にてAI・DX推進、オンチェーン金融戦略、スタートアップ投資を統括。東工大院・ミシガン大エクゼクティブMBA修了。著書に『戦略コンサルの技術』、『キャッシュレス・マーケティング』など。

実際に中へ入ってみると、日々さまざまな困難があります。ただ、その困難を乗り越えながら実行していく立場になったことで、これまで見えなかった景色も見えてきました。

SMBCグループも含めて日本の大企業の課題は、特有の硬直化した組織構造や内向きなメンタリティにあると思っています。「失われた30年」と言われる日本ですが、今ようやく再成長に向けた好循環の兆しが見え始めています。

だからこそ、今変わらなければ世界との差はさらに広がってしまう。その危機感を強く持っています。

なぜ大企業とスタートアップはかみ合わないのか

これまで日本企業は、PEファンド(プライベート・エクイティ・ファンド)やアクティビスト(物言う株主)といった“外部からのプレッシャー”によって変化を後押しされた側面もあったと思います。そうした流れを長谷部さんはどのように捉えていますか。

長谷部結果的にそうだったと思います。業界再編や事業構造の変化を主導してきたのは、残念ながら銀行よりもPEファンドやアクティビストでした。もちろん彼らが果たした役割は大きいですが、その多くはコスト削減や事業売却、資産の切り出しなど、どちらかというと合理化や再編を中心とした変革でした。

私たちが目指しているのは、それとは少し違います。大企業とスタートアップを結びつけ、新しい事業や産業を共創することによって、よりポジティブな産業構造変化を生み出したい。そういう意味で、既存の手法とは一線を画した取り組みが必要だと考えています。

聞き手を務めたBusiness Insider Japan ブランド編集長 高阪のぞみ

日本には大企業もスタートアップも数多くあります。それでも両者の連携が進みにくいのはなぜでしょうか。

長谷部一番の要因は、大企業側の「意思決定のスピード」にあります。大企業は組織の特性上、どうしても判断に時間がかかりがちです。スタートアップの商品や技術に興味を持っても、「検討します」と一度持ち帰る。その「検討します」が、場合によっては半年かけて数十人が関わる会議に諮ることを意味するのです。一方で、スタートアップは、「来週には回答がもらえる」と思っている。ここに大きな温度差があります。

さらに実際に協業が始まると、大企業側がスタートアップをパートナーというより「業者」として扱ってしまうケースもあります。もちろん悪意はありません。ただ、スタートアップ側は自らの人生や資金を賭けて事業をつくっています。そうした相手に対して一方的な要求を続けていては、スタートアップ側が「一緒に仕事をしたい」と思わなくなるのは当然です。

イノベーション・カタリストという新職種を置いた狙いとは

そのような課題意識のもとで、2026年4月にSMBCグループ内にデジタル・イノベーション本部が新設されたのですね。

長谷部はい。これまでSMBCグループには、デジタル戦略部とスタートアップ推進部という2つの組織がありました。デジタル戦略部は、非金融領域も含めた新規事業やデジタルプロダクトの開発を担い、スタートアップ推進部は融資やVC(ベンチャーキャピタル)投資など金融面からスタートアップを支援していました。ただ、それぞれのミッションが異なるため、連携は限定的でした。

そこで両組織を統合し、新たに「大企業とスタートアップとのマッチング」というミッションを明確に位置付けたのが、デジタル・イノベーション本部です。

SMBCグループ

新体制で最も大きく変わった点はなんでしょうか。

長谷部私の直下に約10人の「イノベーション・カタリスト」を配置したことです。彼らはAIやブロックチェーンなどの専門領域を持ちながら、複数のスタートアップと大企業を横断して見ています。

スタートアップの技術や成長ステージを理解しながら、大企業側の課題も把握し、両者が組んだときに何が起こるかを描く役割です。

ポイントは、スタートアップ側と大企業側を別々の担当者が見るのではなく、1人の担当者が両方を見ていることです。こうした形は、私たちにとっても初めての取り組みですし、他社にもあまり例がないと思います。

イノベーション・カタリストは、単なるマッチング担当ではないのですね。

長谷部その通りです。例えば、ある上場スタートアップと私たちSMBCグループがAI領域で資本提携した事例があります。背景にはSMBCグループのAIエンジニア不足という課題があり、まず行内のAI実装プロジェクトを共同で進めることから始めました。

SMBCグループ側はAIによる業務自動化を進められますし、スタートアップ側にも売上が立つ。さらに、その実績をもとに、ほかの金融機関や異業種向けのソリューションへと広げることもできる。結果として、スタートアップの事業成長につながり、私たちも投資リターンを得られる。そうしたWin-Winな関係をつくれるのが理想だと思っています。

重要なのは、出資や提携をゴールにしないことです。その後も継続的に関与しながら、本当に価値が生まれているかを見届けていく。PMI(M&A後の統合プロセス)に近い役割まで担っています。

高市政権でも重点投資対象として17分野が発表されています。御社として注力する領域はありますか。

長谷部AIやフィジカルAI、ブロックチェーン、サイバーセキュリティといった先端技術領域に加え、エネルギー、宇宙、防衛などの産業領域にも注目しています。加えて、エージェンティックコマースやコンテンツ領域にも関心を持っています。

例えば、コンテンツとブロックチェーンは非常に相性がいいです。ブロックチェーンを使えば、コンテンツの利用や権利移転、対価の支払いといった処理まで自動化できるようになります。だからこそ、コンテンツ担当者であっても、ブロックチェーンの仕組みを理解しておく必要がある。専門領域だけでなく、周辺技術まで視野を広げておくことが求められます。

上場ゴールではなく、大企業と組んで成長する選択肢を

スタートアップにとって、デジタル・イノベーション本部と組む価値は何でしょうか。

長谷部最近は「上場ゴール」という言葉が批判的に語られます。私たちは、その先の成長を見据えた新たな選択肢として、「スイングバイIPO」や「スイングバイM&A」と呼ばれるアプローチを提供したいと考えています。上場前に大企業との資本提携や業務提携を行い、事業を大きく成長させた上で、IPOやM&Aを目指すという考え方です。

また、SMBCグループでは米国やシンガポールにあるCVCのネットワークも活用し、日本企業を海外へ、海外スタートアップを日本へ繋ぐインバウンド・アウトバウンドの支援もできます。大企業との共創と、グローバル展開が2つの大きな軸です。

単なるスタートアップ支援にとどまらない取り組みで、日本の社会課題そのものにも踏み込もうとされていますね。

長谷部はい。医療分野では、SMBCグループ、富士通、ソフトバンクの3社で新たな構想を進めています。健康、医療、金融、生活のデータを統合し、健康寿命の延伸と医療費抑制の両立を目指すプラットフォームです。SMBCグループとしてはこの3社の提携に加えて、SMBCグループのプラスメディの知見も活用しながら構想を進めたいと考えております。まだ3社の提携が始まったばかりですが、大企業とプラスメディのようなスタートアップが同じ方向を向き、交わるきっかけとなり得るこの動きには大きな意味があると思っています。

SMBCグループ、富士通、ソフトバンクが進める「国産ヘルスケア基盤」のイメージ図。スマホアプリを通じて健康データや医療データをシームレスに連携させ、持続可能な医療の実現を目指す。
SMBCグループ

最後に、大企業とスタートアップの断絶を乗り越えるために必要なことは何でしょうか。

長谷部SMBCグループも含めて大企業側に必要なのは、外へアンテナを向けることです。その根底にあるのは好奇心。面白そうだと思ったら飛び込んでみるという姿勢がもっと必要です。

一方でスタートアップ側も、日本企業の意思決定やコミュニケーションの作法を理解する努力は必要でしょう。お互いが歩み寄らなければ、協業は続きません。

私たちのイノベーション・カタリストは、その間をつなぐ、翻訳者であり、伴走者です。大企業とスタートアップが共創し、日本の産業そのものをアップデートしていく。その実現に貢献していきたいと思っています。

出展元

「2026/6/30公開 BUSINESS INSIDERタイアップ広告より」


PROFILE※所属および肩書きは取材当時のものです。

  • 三井住友フィナンシャルグループ 執行役員デジタル・イノベーション本部長

    長谷部 智也氏

    1997年さくら銀行入行、3年で退社。その後、戦略コンサルとしてA.T. カーニー、ベイン・アンド・カンパニー(パートナー)、アクセンチュア(マネジング・ディレクター M&A/PEプラクティス日本統括)、事業会社役員としてマスターカード日本地区上席副社長などを歴任。2024年に25年ぶりにSMBCグループへ再入社。2026年4月より現職にてAI・DX推進、オンチェーン金融戦略、スタートアップ投資を統括。東工大院・ミシガン大エクゼクティブMBA修了。著書に『戦略コンサルの技術』、『キャッシュレス・マーケティング』など。

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