取り組み
2026.07.23更新

宇宙産業未経験から、日本初の宇宙商社®を創業。三井物産出身・永崎将利の異色のキャリアと起業論|Podcast『共創前線』

「新規事業」とは一体何なのか?成功のために必要なこととは?
起業家として新規事業を立ち上げる、大企業の中で新規事業を推進する――。そんな挑戦者たちが語り尽くすPodcast番組『共創前線 ~イノベーション・カタリストたちの作戦会議~』。
番組では毎回、新規事業を推進するビジネスパーソンをお招きし、事業創造のプロセスやその思いなどについて、さまざまな角度からお話を伺っています。

共創前線イノベーション・カタリストたちの作戦会議

表舞台では語られることの少ない新規事業・事業共創の意思決定の舞台裏を深掘り!新規事業・事業共創の意思決定の舞台裏を深掘り!

今回のゲストは、宇宙産業未経験から、日本初の「宇宙商社®」を掲げるSpace BD株式会社を創業した、同社代表取締役社長の永崎将利氏です。
宇宙産業の発展を見据え、スタートアップ支援や事業共創に取り組む三井住友銀行 スタートアップ推進部の横山嵩氏と、MCの片桐千晶氏が聞き手となり、大企業からの独立、宇宙産業への予期せぬ転身、そして設立から約9カ月で宇宙航空研究開発機構(JAXA)の公募事業における事業者に選定されるまでを語っていただきました。
本記事では、永崎氏が登場する全4回(#09~#12)のうち、#09・#10から抜粋した内容を書き起こしでご紹介します。記事の末尾に#11以降のトークテーマも掲載していますので、気になるテーマはぜひPodcast本編でお楽しみください。

#09 宇宙少年ではないのに、なぜ“宇宙商社®”を?専門外の領域で新規事業を立ち上げる思考法

片桐今回のゲストは、Space BD株式会社 代表取締役社長の永崎将利さんです。早稲田大学教育学部を卒業後、三井物産で人事部、鉄鋼貿易、鉄鉱石資源開発に従事。2014年にナガサキ・アンド・カンパニーを設立し教育事業を手がけられました。その後、2017年9月にSpace BDを設立。設立から約9カ月でJAXA初の国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」民間開放案件の事業者に選ばれました。まさに異例の経歴です。

横山宇宙に携わったことのない方が、宇宙領域に飛び込んでいく――その思い切りと勇気に、私自身とても興味があります。日本の宇宙産業がさらに発展していくためには、こうした多様なバックグラウンドを持つ方々の参入も重要だと感じています。

片桐早速いろいろとお伺いできればと思いますが、最初に勤められた三井物産を辞められたのはなぜでしょうか?

永崎当時、鉄鉱石の資源開発に従事していた際、取り扱う金額があまりに大きく、一マネージャーとしての意思決定は、経営会議まで上がっていく過程の一つに過ぎないと感じていました。生意気ながら、自分で意思決定をしたいという思いが、退職の一つの要因でした。

退職時、1年半は収入なしでいけると計算して大海原に出たんです。でも全くうまくいかず、溺れましたね。いろんなことを試したものの、これだという事業ドメインを打ち出せないまま、気づけば1年が経っていました。

片桐どうして宇宙産業にいこうと思ったんですか?

永崎最初に立ち上げた教育事業で、ある公益財団法人が中学生向けに実施している起業家教育に携わっていたとき、その創業者の方から言われたんです。「あなた自身がチャレンジする姿を見せることの方が、よっぽどインパクトのある教育になる。事業の方向性が見えたら支援する」と。

それで新たな方向性を探していたところ、日本を代表するベンチャーキャピタリストの方に出会い、「永崎さん、宇宙はどうですか?」と言われたんです。「今、宇宙は政府が国のインフラとしてやっている事業だが、これからプレイヤーが民間に移ってくる。そこで大事なのは、ロケットに積む荷物を世界中から獲得してくる営業力であり、そういう商社モデルを作れないか」と。昔から宇宙少年だったわけでもないし、自分で構想したものでもない。正直、最初は怖さや不安もありました。でも、ワクワク感が少しだけ上回っていた。当時、収入がなくて苦労が続いていたので、「特大ホームランを狙うか、三振するか」という心境で飛び込んだんです。

片桐三井住友銀行でスタートアップ支援に携わる立場からは、事業を立ち上げ、成長させてきた永崎さんのキャリアをどのように見ていますか?

横山永崎さんとはSpace BDになってからのお付き合いですが、設立当初から輸送サービスを軸に、ビジネスモデルを変えずに多角化してこられました。スタートアップではピボット(事業転換)が多い中で、これは信念の軸がしっかりしているからこそだと思います。

片桐永崎さんが二つの会社を立ち上げてきた中で、大事にしていることを教えていただけますか?

永崎「ありがとうと言ってもらい、対価をいただける仕事をしたい」ということです。もう一つは、再現性と持続性。創業当初は節操なくさまざまなことに動き回った反省があります。やっぱり続かないものは信頼してもらえないし、一過性では経営も安定しない。ちゃんと価値を提供して「ありがとう、助かった」と言ってもらうことが、結果として再現性のあるビジネスにつながっていく。これは今、全社で共有している大事な経営哲学です。

#10 前例のない市場で、何から始める?宇宙商社®・代表から学ぶ、新規事業での「活路」の見出し方

片桐宇宙産業の中でSpace BDはどんな役割を担っているんですか?

永崎主力は宇宙輸送業です。ロケットの打上げ費用は以前に比べて下がってきたとはいえ、たとえば米国大手の主力ロケットでは、1機あたり数十億円規模に上ることもあり、一度に運べる貨物は10トン規模に達します。一方で、技術の進歩によって運ぶ荷物の小型化も進んでおり、1~10キログラム程度の小型衛星も数多く生まれています。

今や、大学やスタートアップ、大企業も宇宙に参入していて、技術を「実証」したいというニーズがあります。狙ったデータや動きが取れるかは、最終的に宇宙に持っていかないと分からない。だから世界中の人たちが、それぞれの狙いで小型衛星を作って打ち上げているわけです。

ただ、そのような方々は、ロケットを1機丸ごと買うわけにはいかず、自分が使う分だけ払いたい。そこで私たちが間に入って、ロケットの輸送能力をまとめて仕入れ、必要な分だけ小分けして提供しています。

片桐設立から約9カ月でJAXAの事業者に選定されたのは、なぜですか?

永崎Space BDを設立して3カ月後に、JAXAがISSから超小型衛星を放出する事業について、民間事業者を対象とした公募を開始しました。これは輸送業をやろうとしていた我々にとってはど真ん中でしたが、それを察知して起業したわけではないので、そこはラッキーでした。公募に選定される企業は2社のみ。一方、当時の我々は正社員3人という状況で、選ばれるためにいくつか手を打ちました。

まずアメリカでこのビジネスを先行していた企業の社長に会いに、ワシントンD.C.まで行きました。ISS利用の有力企業であったその社長に、今後の事業に関する協力を持ちかけ、応援レターを書いてもらったんです。

次に手を打ったのが、大学の研究室との連携です。ISSから衛星を放出する仕組みは、民間移転の前からJAXAが実費で提供していて、すでに一定の利用者がいました。研究室で動いていた衛星プロジェクトを紹介してもらい、「大学とSpace BD」「Space BDとJAXA」という形で間に入らせてもらったんです。狙いは、放出までの一連のフローを実地で学ぶこと。これにより、設立間もない無名の会社でありながら、JAXAの事業者に選定され、放出までのプロセスを経験した会社、という位置づけをつくることができたんです。

横山半年でそれだけのことを実現し、JAXAに認められるというのは、相当なスピードで動かないとできないことですよね。

永崎無我夢中で、本当に疲れ知らずという感じでした。公募選定のためのプレゼン当日は、人生最高のプレゼンができたと思いました。その後は仕事をする気にもなれずに、パブで飲んでいたら、JAXAからのメールが来て「貴社を選定します」と書かれているわけです。もう、泣きましたね。

片桐その後、一気に祝賀会になったわけですね。では同じように、前例が少ない領域で起業を考えている方に、力を入れるべきことを教えてください。

永崎まずは、愚直に「困りごとを解決する」という場所に立つことです。そして業界の中に根を張ること。外から眺めているより、実際に業界に入ったほうが情報の入り方も見え方もまったく違います。「これからこんなことをしようと思います」という人より「こういう事業をやっています」という人の方が、業界のプレイヤーとして扱ってもらえる。だから、まず情報が集まる場所から小さく始めて、その中のプレイヤーになることが大事だと思います。

横山JAXAの公募事業に選定された背景を聞けて、前例のないことへのチャレンジは大企業も含めて常に必要だと改めて思いました。また、永崎さんやスタートアップ企業の皆さんの取り組み方・姿勢は、学ぶ点が多いと感じました。



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本編と続きは以下のテーマで話を深掘ります。ぜひPodcastにてお楽しみください。


PROFILE※所属および肩書きは取材当時のものです。

  • Space BD株式会社 代表取締役社長

    永崎 将利氏

    1980年生まれ、福岡県北九州市出身。早稲田大学教育学部卒業後、三井物産株式会社で人事部(採用・研修)、鉄鋼貿易、鉄鉱石資源開発に従事、2013年に独立。1年間の無職混迷期間を経て2014年ナガサキ・アンド・カンパニー株式会社設立、主に教育事業を手がけたのち、2017年9月Space BD株式会社設立。日本初の「宇宙商社®」として、設立から約9カ月でJAXA初の国際宇宙ステーション民間開放案件「超小型衛星放出事業」の事業者に選定されるなど、宇宙商業利用のリーディングカンパニーとして宇宙の基幹産業化に挑んでいる。著書に『小さな宇宙ベンチャーが起こしたキセキ』(アスコム)がある。

  • フリーアナウンサー

    片桐 千晶氏

    山形県寒河江市出身。2005年、秋田テレビ入社。2011年にフリーに転身。2013年1月からTBSラジオ「荒川強啓デイ・キャッチ!」のアシスタントを6年間務め、ラジオを中心に出演番組多数。

  • 株式会社三井住友銀行 スタートアップ推進部

    横山 嵩氏

    2009年三井住友銀行入行、日系企業の海外進出支援を行う本部部署へ配属。その後、法人営業部では初となるスタートアップ支援専門チームを立ち上げ。欧州・中東での海外勤務経験を経て、2020年に現在のスタートアップ推進部へ異動。スタートアップ企業のバリューアップ支援の傍ら宇宙セクター担当を務める。マサチューセッツ州立大学でMBA取得。

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ピボット
(Pivot)

類義語:

  • 方向転換

企業の事業戦略を転換すること。スタートアップなどで、市場反応に基づき迅速にビジネスモデルを修正する際に用いられる。変化の激しい環境下で、事業を継続・成功させるための柔軟な意思決定。

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