事業を動かす、デザインの力。――三井住友銀行のデザイン組織「SMBC DESIGN」のシゴト #4【Oliveコンサルティング編】
※本記事は「SMBC DESIGN」のシゴトの連載記事です。掲載写真は、「Oliver's Guide編」「Oliveコンサルティング編」の両記事の出演者による集合写真です。
三井住友銀行のデザイン組織「SMBC DESIGN」は、制作支援にとどまらず、事業の初期段階から関わり、お客さまの体験全体を設計する存在へと役割を広げてきました。本連載では、その仕事の現場に迫ります。
今回取り上げるのは、SMBCグループとSBIグループの共同出資で設立された「株式会社Oliveコンサルティング」が提供する「Olive資産運用サービス」です。同社は、デジタル金融サービス「Olive」の枠組みの中で、デジタルと対面を融合させた新しい資産運用サービスを提供しています。サービスの内容も、届けるお客さま像も、組織の動き方も、ゼロから考える必要があったこのプロジェクト。そこに初期段階から参画したのが、SMBC DESIGNでした。
部署や会社の壁を越えた「共創」に、デザインがどのように寄与したのか。SMBC日興証券から参画した、株式会社Oliveコンサルティング デジタル開発部部長・三浦潤也氏、SMBC DESIGNの金子直樹氏、井山健二郎氏に、試行錯誤の日々や協働から生まれたもの、デザインの役割について伺いました。
連載:SMBC DESIGN
- デザインの力で金融の可能性を切り拓く。「制作支援」から「体験設計」へ——三井住友銀行のデザイン組織「SMBC DESIGN」の10年 #1
- デザインで変わる、銀行との出会い方。シンプルモード、Olive LOUNGE、そしてストアへ——三井住友銀行のデザイン組織「SMBC DESIGN」のシゴト #2
- 事業を動かす、デザインの力。――三井住友銀行のデザイン組織「SMBC DESIGN」のシゴト #3【Oliver’s Guide編】
- 事業を動かす、デザインの力。――三井住友銀行のデザイン組織「SMBC DESIGN」のシゴト #4【Oliveコンサルティング編】
背景の異なるチームに共通言語をつくり、事業立ち上げを前に進める
Oliveコンサルティングの立ち上げが通常業務と異なっていたのは、既存のシステムやサービスのベースがない、まさにゼロからの立ち上げだったことです。三井住友銀行、SMBC日興証券、SBI証券、それぞれのバックグラウンドを持つ10名ほどのメンバーが集まり、「誰にどのようなサービスを展開するか」から話し合う日々が始まりました。
三浦与えられたお題は、「Oliveの枠組みの中で、SMBCグループとSBIグループの強みを結集して、デジタルと対面を融合した新しい資産運用サービスを立ち上げること」、ただそれだけでした。Oliveコンサルティングの大枠での役割だけ決まっていて、具体的に何をやるのかは自分たちで自由に考えてよいという状況でした。
三浦 潤也氏
金子ゼロから生み出さなければならず、考えなければいけないことが山ほどあって、スケジュールもタイト。まずはメンバーの目線合わせから必要でした。会社もキャリアも異なる、さまざまなバックグラウンドを持つ者同士でしたし、お互い何を知っているのか、何が得意なのかもわからない状態でした。だからこそ、まずは知見をすべて出し合って言葉にし、共通の認識をつくることから始めました。
金子 直樹氏
最初の数か月でサービスの骨格を固め、ステークホルダーの合意を取る、というスケジュール感だったため、1~2週間で経営層にアイデアを持ち込み、フィードバックをもらって修正するというサイクルを繰り返していました。
三浦そこで金子さんが中心となって、メンバーの目線をそろえるために、数多くのワークショップを重ねたんです。
金子お客さまの課題は何か、どんなサービスであれば価値を感じていただけるのか。メンバーそれぞれが持っている知見をすべて出し合いながら、発散と収束を繰り返しました。散々アイデアを出してこれ以上出ないという状況の中でも、あれこれ角度を変えて試行錯誤しながら、徹底的にやりました。きっとあの時みなさん「まだやるの?」という状態だったのではないかと思います。
三浦そんな中でも、金子さんと井山さんがきっちりファシリテートしつつ、アイデアをすぐ形にしてくれたんです。だから自然と「もっと考えよう」という気持ちになりました。
経営層から返ってきたフィードバックは、「お客さまにとって本当に価値があるのか」という一点に集中していました。「本当に使いたいと思うのか」、「実際にそうなるのか」。さまざまな目線で指摘をいただきながら、改善を繰り返していきました。
「相談したいが、押し売りされたくない」――相反する本音を設計に変える
Oliveコンサルティングは、サービス対象者の設定もゼロから検討する必要がありました。Oliveは幅広いお客さまを対象としたサービスですが、その中で「誰に届けるのか」をより明確にする必要があったからです。そこで生まれたキーワードが「デジタル富裕層」でした。
三浦「デジタル富裕層」とは、日常的にデジタルを使いこなす一方で、資産運用にじっくり向き合う時間は取りにくい――従来の対面営業ではなかなかニーズを満たせなかった層です。そういう人たちが「都合よく使えるサービス」とはどういうものかという問いに向き合う中で、コンセプトが固まっていきました。
金子お客さまのニーズを深掘りしていくと、「人に相談したい人」と「自分で考えたい人」の間にいる人たちの存在が見えてきました。基本的には自分でやるけれど、たまに後押ししてほしい時や、自信が持てない時、時間がなくて調べられない時にちょっと聞けるサービスがあったらいいよね、という方向性でメンバー全員が腹落ちしました。
もうひとつ、サービス設計の軸となったのは、「金融機関に対する不信感」への向き合い方でした。
金子資産管理に関する社外のお客さまへの調査結果から、「都合のいい商品を売られそう」、「押し売りされるのでは」という懸念を少なからず抱かれていることが課題として浮かび上がっていました。だからこそ、最終的に決めるのはあくまでお客さま自身であり、ご自身の意思でオンライン取引をする。そのために必要な情報を提供し、前に進むためのサポートをするというサービスの方向性に定まりました。
対面で相談を受けた後も、最終的な取引はお客さま自身で行っていただき、その場では注文を受けない。そうした「押し売りされるのではないか」というお客さまの不安を徹底的に払しょくし、お客さま自身が納得して判断できる設計をサービスの根幹に据えました。
言葉が形になる速さが、プロジェクトそのものを加速させる
三浦氏はかつて、SMBC日興証券時代に外部のデザイナーと仕事をした経験がありました。今回、インハウスのデザインチームと協働する中で、大きな違いを感じたといいます。
三浦今回強く感じたのは、インハウスのデザインチームと一緒に進めることのスピード感です。外部デザイナーとやり取りする場合は、定期的なミーティングを中心に、担当者が作成した簡単なイメージを渡してデザインしてもらうという進め方が一般的でした。一方、今回は社内で使っている言葉や前提が共有されているため、「ここはこうしたらどうか」と相談すると、その場でアイデアがリアルタイムで形になっていくんです。
言葉が形になるスピードが非常に速く、精度も高い。だから「サービスとして成立するか」がすぐにわかります。足りない点も、違和感がある点も、即座にわかる。その後の工数も削減でき、仕事の回し方そのものが変わりました。
金子デザイナーとしては「可視化する力」の大きさを知っていたので、プロトタイプづくりも得意な井山さんにこのプロジェクトに入ってもらいました。
三浦井山さんが膨大な量のプロトタイプを作ってくれて、本当に助かりました。ディスカッションしながら作るのでアイデアのブラッシュアップが非常に早くできましたし、経営層への報告でも視覚化して伝えられたのでスムーズに内容を理解いただき、素早い意思決定につながったのではないかと思います。しかも、プロトタイプがあると後のシステム開発でも「これを作ってほしい」と要件を伝えやすい。通常は骨の折れる要件定義も、実物に近いものがある分、スムーズに進みました。結果として、工数の削減にもつながったと思います。
ワークショップの整理でも同様です。言語や認識をそろえるには、やはり可視化が大事です。出てきたアイデアをどう分類し、どう見せると議論が前に進むか。そういう気づきを丁寧にまとめてくれたことには感謝しています。
デザイン思考を、金融ビジネス全体へ
三浦氏はプロジェクトを終えて、「デザイン」という言葉のとらえ方が変わった経験が最も印象に残っているといいます。
三浦私がこれまで関わったデザインというと、システム制約がある中で、どう使い勝手を向上するかといった、いわゆるUIデザインに関するものが多かったと思います。デザイン思考やUXに関する本は読んでいたものの、それをデジタルサービスや人によるコンサルティング、そして専用商品まで、すべてを首尾一貫して「デザイン」するのは今回が初めてでした。顧客体験や価値提供の部分からデザインを考えていくことは、非常に新鮮な体験でした。
金子僕たちは、世間で言われているデザインプロセスを実践しているだけで、とてつもなく先進的なことをやっているわけではないと思います。ただ、金融機関の中でこういうやり方を取り入れていくことは、当時はまだ多くなかったかもしれません。
デジタルとリアルが融合する今、お客さまはさまざまな選択肢の間を行き来します。デジタルで調べ、対面で相談し、またデジタルで取引する――その複雑な動線の中で、どう自然に選んでいただくかを設計することが、以前よりずっと難しくなっているように感じます。
三浦お客さまにとって「選択」は難しいものかもしれません。ただ、行動で悩んだときは相談し、答えが出ていればそのままお客さま自身でオンライン取引していただければいい。納得感のある意思決定を、前向きにご支援できる設計ができたと自負しています。複数の道筋をこちらでご用意しつつ、お客さま自身が道を選び、たどっていける。その設計が実現したのは、デザイン思考があってこそだと思います。
井山お客さまがさまざまな選択肢を持てるサービスだからこそ、提供する側がその選択のしやすさを設計する必要があります。お客さまの立場に立って、どのような人が、どの道をたどるのかを考える。そこがより重要になっていると思います。
井山 健二郎氏
三浦今回、企画の段階からデザインが入り込み、顧客体験や価値提供から考えていく進め方を間近で学びました。この考え方は、他のプロジェクトにも応用ができそうですし、さらに広げていけたらと思っています。
Oliveはお客さまへの価値提供をとことん考え抜いているサービスだと改めて感じました。その一員としてOliveコンサルティングも磨き続けていきたいです。
連載:SMBC DESIGN
- デザインの力で金融の可能性を切り拓く。「制作支援」から「体験設計」へ——三井住友銀行のデザイン組織「SMBC DESIGN」の10年 #1
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- 事業を動かす、デザインの力。――三井住友銀行のデザイン組織「SMBC DESIGN」のシゴト #4【Oliveコンサルティング編】
PROFILE※所属および肩書きは取材当時のものです。
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株式会社Oliveコンサルティング デジタル開発部 部長
三浦 潤也氏
日興證券株式会社(現SMBC日興証券)入社後、オンライントレード専業証券への出向を経て、オンライントレード・スマートフォンアプリをはじめとするデジタル領域における企画・開発・運営・マーケティングを一貫してリード。営業部門におけるDX戦略・チャネル戦略の策定・推進、インサイドセールス組織の立ち上げに従事した後、株式会社Oliveコンサルティングの設立に参画。
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株式会社三井住友銀行 リテールIT戦略部 デザイングループ シニアデザイナー
金子 直樹氏
デジタルマーケティング会社でWebサイトの企画・制作・運用業務を経て、2017年に三井住友銀行へ入行。UI/UXを専門領域として、既存サービスの改善や新規プロダクトのデザインリード、社内へのデザイン浸透等を推進。
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株式会社三井住友銀行 リテールIT戦略部 デザイングループ リードデザイナー
井山 健二郎氏
大手腕時計メーカーにて、新規事業の立ち上げを機に時計デザイナーからサービスデザイナーへ転身。ブランド戦略、国内外PR企画、Web/アプリ制作、デザインシステム構築など多岐に従事。2025年三井住友銀行入行。HCD-Net認定人間中心設計専門家。
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