スタートアップ投資を取り巻く環境が大きく変化しています。国内のスタートアップエコシステムは拡大を続けてきた一方で、近年は資金調達環境の変化やグローバル競争の激化など、新たな課題にも直面しています。
こうした中、SMBCグループ発のSMBC Edgeが、スタートアップ支援の新たな形に挑んでいます。「新たな産業創造を通じた日本の再成長の実現」をミッションに掲げ、150億円規模のファンドを通じたエクイティ投資に加え、採用、営業、アライアンスなど、スタートアップの事業成長に深く踏み込む「伴走型支援」を特徴としています。
その支援先の一つが、現場産業のDXを推進するミツモアです。今回インタビューしたのは、SMBC Edgeの宮坂友大氏、松浦佑真氏、中村優太氏、そしてミツモア 代表取締役CEO 石川彩子氏、共同創業者で取締役CSO 吉村昌子氏。両社はどのような価値を共創しようとしているのか。そして、なぜ今こうした「伴走型VC」が必要なのか。その背景にある日本の産業への危機感と、現場産業が切り開く可能性について語ってもらいました。
人材、資金、ネットワークを総動員するVC
まず、SMBC Edgeについて教えてください。
宮坂SMBC Edgeは、実質的には2025年10月からスタートしたチームです。資本はすべてSMBCグループのものですが、人材はほぼ外部採用で構成しています。現在は21名体制(※取材時:2026年5月時点)で、うち19名が外部から参画したスペシャリスト。投資領域だけでも、ソフトウェアに強い人材、ディープテックに強い人材など多様ですし、事業開発側にはHR、M&A、アカデミア、製造業など、それぞれ異なるバックグラウンドを持つメンバーが集まっています。
SMBCグループが持つブランド、資金力、ネットワークに、外部人材の専門性を掛け合わせることで、新しい産業創造を担うスタートアップを支援していきたいと考えています。
まずは150億円規模のファンドを組成し、ミツモアにも出資しました。今後はさらに規模を拡大し、エクイティ投資だけでなく、デットや大企業ネットワークも活用しながら、インパクトの大きな企業を生み出していきます。
宮坂 友大氏
従来のVCやCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)とは、どのような違いがあるのでしょうか。
宮坂独立系VCは、どうしても資金量や大企業ネットワーク、知名度に限界があります。また、CVCは投資領域が親会社の事業領域に近いテーマに寄りやすく、資金量や事業支援の体制にも一定の制約が生じることがあります。その点、SMBC Edgeは、SMBCグループのアセットを使いながら、外部人材中心で専門性を持ったチームを組成しており、投資と事業支援の双方で、多様な支援の選択肢を持っている点が特徴です。
我々の投資モデルは、件数を絞り、深く伴走する。そのために、採用、営業、アライアンスなど各領域のスペシャリストを配置しています。
松浦一般的なVCは、ファンド運営効率を考えると少人数化しやすいんです。でも我々は、最初から「そうではない方向」で始めています。あえて投資先に伴走支援する人材を厚く配置し、支援機能を増やすことで、スタートアップの成長を本気で加速させる。それがSMBC Edgeの流儀です。
松浦 佑真氏
なぜ今、日本に新しいVCの形が必要なのか
スタートアップを取り巻く環境をどのように見ていますか。
宮坂2013年頃から、日本のスタートアップエコシステムは大きく伸びました。ただ、ここ数年はファンド資金を集めにくくなっており、投資余力が縮小しているケースも増えています。この状態が続くと、イノベーションそのものが遅れてしまう危機感があります。
一方で、今は地政学リスクも含め、国単位で「どの産業を自国で持つべきか」が問われる時代。防衛、AI、ロボティクス、ディープテックなど、日本として育てるべき領域が増えています。人口減少が進む中で、既存産業を維持するためにも、生産性向上は不可避です。単なるアプリ開発ではなく、「国レベルで必要なスタートアップ」が求められていると思っています。
その時に、SMBCグループが持つエクイティ、デット、大企業ネットワークを掛け合わせて活用できるのは、大きな強みです。
大企業ネットワークとは、具体的にはどういう意味でしょうか。
宮坂SMBCグループは、多くの大企業と取引があります。そのネットワークを通じて、「こういうスタートアップを一緒に育てませんか」と巻き込みながら、新しい産業をつくっていくことができる。
大企業側も、今はイノベーションを起こさないと生き残れない時代です。内部留保を持っていても、それをどこに投下するかが重要になります。その資金やネットワークを、スタートアップと掛け合わせることができるのが我々SMBC Edgeの強みだと思っています。
ミツモアがSMBC Edgeを伴走相手として選んだ理由
ミツモアは、どのような観点で投資家を選んできたのでしょうか。
石川最初のエンジェルラウンドでは、著名なエンジェル投資家の方々に入っていただきました。エンジェル投資家は、リターン以上に「応援したい」という気持ちが強く、今でも支えになっています。
シリーズAでは、日米に拠点を置くグローバルファンドWiLにリード投資家をお願いしました。担当パートナーが元起業家で、起業家目線を持ってアドバイスをいただけると感じたからです。その後、シリーズBのリードはEight Roads Venturesにお願いし、今回のシリーズBエクステンションでSMBC Edgeに参画いただきました。
この規模になると、競合投資の問題や、そもそも大型ラウンドをリードできる投資家が限られてきます。そうした中で、SMBC Edgeは新設ファンドで制約が少なく、かつ規模も大きかったので、魅力的でした。
さらに印象的だったのは、「熱量」です。日本の産業構造を変えるスタートアップを本気で支援するという情熱が、メンバー全員から伝わってきました。売上貢献に関するKPIまで持ち、具体的に事業成長に関与しようとするVCは見たことがありません。「日本のVCが今までやってこなかったことをやるんだ」という空気が、チーム全体にあったんです。
石川 彩子氏
ではSMBC Edgeとしては、ミツモアのどこに可能性を感じたのでしょうか。
宮坂もちろんビジネス自体も魅力的ですが、やはり経営チームですね。ミツモアの事業は、単なるソフトウェアではありません。実際に現場で人が動き、サービス提供が行われる世界です。だからこそ、単に「プロダクトを開発できる」だけでは成立しない。
石川さん、吉村さんはともにコンサルティングファーム出身で、構造化能力や問題解決能力が非常に高い。その上で、現場産業に深く入り込んでいる。さらに、お二人が絶妙なバランスで組織を推進しているからこそ、ミツモアだけでなく、「プロワン」や「ハッチュー」といった新規事業も連続的に立ち上げられているんだと思います。
つまり、単発の成功ではなく、「再現性を持ってマルチプロダクトをつくれるチーム」だと感じました。AIによって置き換わる領域もあるでしょうが、現場産業は最終的に人が動く世界です。そこにAIを掛け合わせることで、むしろ大きな事業機会が生まれる。長期的に見て、日本を代表する会社になる可能性があると感じています。
採用、営業、アライアンスまで。事業成長に踏み込む支援の実態とは
実際にはどのような支援を受けているのでしょうか。
吉村正直、ここまで事業支援をしてくれるVCに初めて出会いました。まず出資後すぐに、「採用や組織の課題を教えてください」と深く入り込んでいただきました。組織課題は外には出しづらい話も多いのですが、そういう部分も含めて共有しながら伴走していただいています。
また、営業支援も受けています。SMBCグループのネットワークを通じた顧客紹介だけでなく、商談獲得チームとも日々やり取りしています。そしてアライアンスについては、かなり初期段階から相談しています。仲介会社の選び方や進め方など、経験者ならではの知見を共有いただいています。
吉村 昌子氏
松浦アライアンスに関しては、我々のチーム内にも仲介業界出身者がいます。だからこそ、「どのプレイヤーをどう活用すると効率的か」といった実務レベルまで踏み込んで支援しています。また、SMBCグループには融資機能もあります。エクイティだけではなく、デットも含めて、どういうスキームが最適かという話もしています。
中村出資した時点で、もう同じ船に乗っている感覚なんです。だからこそ、経営陣が見ている景色をできるだけ理解し、必要な支援を先回りして届けたいと思っています。言われたことだけをやるのではなく、「次に必要になるものは何か」を考えながら動く。それが伴走だと思っています。
中村 優太氏
「100年かかる世界」を、5年後、10年後に実現するために
今後、両社でどのような価値を実現していきたいですか。
石川私たちは、現場産業におけるインフラになりたいと思っています。ミツモアという集客プラットフォームだけでなく、業務ソフトウェア、AI、現場向けのシステム開発、さらには施工領域まで含め、現場産業全体を支える存在になりたい。
そのためには、オーガニックな成長だけでなくM&Aも必要ですし、資金、営業、組織づくりといった面での支えも欠かせません。あらゆる面でSMBC Edgeの力を借りながら、自力でやれば100年ほどかかる世界を、5年後、10年後に実現したいと思っています。
宮坂人口減少が進む日本では、少ない人数で社会インフラを維持し、生産性を高めていくことが不可避になります。既存の事業者が個々に担うには限界がある中で、ミツモアには、こうした現場事業者と連携しながら、現場インフラを支える存在として、日本を代表する企業にいちはやくなって欲しい。時価総額という観点でも、ユニコーンにとどまらず、数千億円規模の企業に早く成長してほしいですね。
SMBC Edgeとしては、その道のりを一緒に走りたい。石川さんは「今は0.1合目」と仰いますが、少なくとも5合目までは最短距離で連れていけるような武器と支援を提供したいと思っています。
PROFILE※所属および肩書きは取材当時のものです。
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株式会社ミツモア 代表取締役 CEO
石川 彩子氏
ベイン・アンド・カンパニーでのコンサルタント経験を経て、シリコンバレーのEC企業で開発管理や経営管理業務に従事。帰国後、ミツモアを共同創業。東京大学 法学部卒 ペンシルバニア大学ウォートン校MBA取得。
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株式会社ミツモア取締役 CSO
吉村 昌子氏
マッキンゼー・アンド・カンパニーにて製造業・IT・小売業界を中心に、大手クライアントの全社トランスフォーメーションやデジタルマーケティング、価格戦略等のプロジェクトに従事。京都大学 法学部卒。
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株式会社SMBC Edge 取締役 Managing Director
宮坂 友大氏
総合金融グループの金融持株会社SBIホールディングスを経て、2006年に住友信託銀行とSBIグループの出資による現住信SBIネット銀行の立ち上げに参画。2008年よりGMO VenturePartnersに参画、取締役・パートナーを務める。その後、専門である未上場領域に加えて、上場企業経営、共創、海外へ活動の幅を広げる。慶應大学経済学部卒。
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株式会社SMBC Edge 投資チーム Vice President
松浦 佑真氏
名古屋大学経済学部卒業後、2016年日本政策投資銀行(DBJ)に入社。東南アジア中堅企業へのPE投資、国内化学セクター大企業へのコーポレートファイナンス実務等に従事。その後、グループVCのDBJキャピタルに参画。国内IT/ソフトウェアおよび素材化学ディープテック投資、社外取締役としての支援に携わる。並行して、同社初の東南アジア投資体制を立ち上げ、現地スタートアップへの初案件実行までをゼロから主導。2025年9月より現職。
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株式会社SMBC Edge 事業開発チーム Vice President
中村 優太氏
大学卒業後、2012年にソフトバンク株式会社入社。営業・営業企画・新規事業責任者として活動。2015年にフォースタートアップス株式会社に入社し、創業からIPOを経験。スタートアップの採用支援やオープンイノベーション事業の新規立ち上げを担当。スタートアップデータベース「STARTUPDB」やグローバルカンファレンス「GRIC」等のサービスを公開。2020年に執行役員、2022年に専門役員に就任。2025年4月に現職へ入社。
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