新規事業は「怒り」から生まれる——ハンコ文化を変えた橘大地が挑む、AIによる採用差別の解消|Podcast『共創前線』
「新規事業」とは一体何なのか?起業家として新規事業を立ち上げる、大企業の中で新規事業を推進する——。そんな挑戦者たちが語り尽くすPodcast番組『共創前線 ~イノベーション・カタリストたちの作戦会議~』。
番組では毎回、新規事業を推進するビジネスパーソンをお招きし、事業創造のプロセスやその思いなどについて、さまざまな角度からお話を伺っていきます。
連載:Podcast『共創前線』
- 新規事業開発の舞台裏に光を当てる。SMBCグループ発Podcast「共創前線」始動
- 新規事業の本質は「意志」。守屋実が語る、十中八九の失敗を超える力|Podcast『共創前線』
- 新規事業は「怒り」から生まれる——ハンコ文化を変えた橘大地が挑む、AIによる採用差別の解消|Podcast『共創前線』
「新規事業は怒りから生まれる」——そう語るのは、第2回のゲスト、HR×AIのスタートアップ・PeopleXを率いる橘大地氏。紙とハンコの契約文化を変えたクラウドサインの事業立ち上げを経て、いま挑むのはAIによる採用差別の解消です。「選考に残る勘と経験、あるいは差別をなくしたい」——その「怒り」を原動力に、採用の「当たり前」を問い直そうとしています。
今回は三井住友銀行 デジタル戦略部の齊田 淳一氏、番組パーソナリティの片桐 千晶氏が聞き手となり、全4回(#5~#8)にわたり橘氏に迫りました。本記事では、#5「“怒り”が新規事業の種になる!?クラウドサインを生んだ橘大地が語る、新たな常識のつくり方」本編を書き起こしで紹介します。あわせて、記事の末尾に#6~#8のトークテーマも掲載していますので、気になるテーマはぜひPodcast本編でお楽しみください。
#05 当たり前を疑い、新たな価値を作る力。ハンコ文化を変えた弁護士が次に挑む、採用の「差別」とAI
片桐今回のゲストは、テクノロジーで社会の仕組みをアップデートし、日本のスタンダードを再定義する実業家、橘大地さんです。橘さんは株式会社サイバーエージェントで弁護士として企業法務活動に従事。2015年に弁護士ドットコム株式会社に入社し、クラウド契約サービス「クラウドサイン」を立ち上げました。そして、2024年に独立。株式会社PeopleXを創業し、自然な対話で採用候補者の魅力を引き出す「PeopleX AI面接」や、営業・接客・管理職トレーニングができる「PeopleX AIロープレ」などの開発、運営を行っていらっしゃいます。
齊田橘さんはSMBCグループとの関わりが非常に深く、私たちもご一緒し、ジョイントベンチャー「SMBCクラウドサイン」を設立しました。PeopleX社も社内スタートアップであるプラリタウンと連携しながらサービス展開を図っています。
片桐そんな橘さんとお送りする今回のテーマは「当たり前を疑い、新たな価値を作る力」です。
橘前職でSMBCグループとご一緒させていただいたのが、クラウド契約サービスの「クラウドサイン」です。これまでの契約書といえば、ハンコを押して提出する紙ベース。それをインターネット上で契約を締結できたら便利だろうと、クラウドサインを立ち上げ、9年間ほど事業責任者をやってきました。今は採用面接をAIで行う「AI面接」などのサービスにチャレンジしています。
片桐そもそも弁護士資格を取得後、なぜサイバーエージェントに就職されたのでしょうか?
橘いわゆる会社員としての弁護士に自分がなりたいかというと、ワクワクはしないなと。さらに弁護士として、スタートアップやインターネットを専門にしていきたいと思った時、サイバーエージェントが一番自分に合っていると感じました。当時の代表の藤田晋さんを尊敬していたこともあって、入社しました。
その後、弁護士ドットコム株式会社の創業者・元榮氏と出会い、弁護士が事業をやっていることに惹かれて入社しました。そして当時社内で検討されていた新規事業の種の一つ、「クラウドサイン」の責任者に自ら手を挙げたんです。
片桐実際に手掛けられてみると、大変だったのでは?
橘営業もマーケティングも開発も初体験でしたし、1社が導入を決めても、取引先に送ると「ネットじゃダメです」と断られてしまう。社会全体が「せーの!」で変わらないといけないのに、1社1社変えていくのはとても大変でした。
片桐そこにSMBCグループとしてどのように関わられたのでしょうか。
齊田当時、DXに悩む会社がとても多かった中で、クラウドサインのプロダクトとしての魅力を、三井住友銀行の全国のネットワークを通じて展開できると考え、ご一緒したと聞いています。
橘どの会社もDXと言いつつうまく進んでいないのが現状だったので、まずは無料で使ってもらう戦略をとりました。月30件まで無料、有料でも月1万円という安価な設定で普及を進めながら、大企業への導入につなげていきました。
片桐そんな中、独立されたのはなぜですか?
橘2020年のコロナ禍で在宅勤務が進み、移動を抑えながら企業活動を継続する必要がある中、「出社理由の1位がハンコ出社」と社会問題となりました。当時の規制改革推進会議が書面交付義務の電子化を推進してくださり、クラウドサインが使えなかった分野の法律が次々と改正され、2021年にはハンコ文化を変えることができたと手応えを掴みました。自分の使命は果たせたと感じたんです。
片桐どのような志を持って独立したんですか?
橘新規事業って、怒りから生まれると考えています。契約書を送るのにハンコが必要というのがおかしいと思ったのと同じように、人の採用や給与決定のプロセスにも、勘と経験、あるいは差別が残っていると思っています。AIによって差別が残っている「人の評価」を救いたいと思って起業しました。
片桐AIで大丈夫なの?という反応が多かったのでは。
橘いまだにそういうご懸念はありますし、当然だと思います。弊社PeopleXでも、最終面接は必ず人が面接するようにしています。自分が撤廃したいのは、書類選考。日本の採用では、実に7割の応募者が書類選考で落ちている。年齢、性別、結婚の有無——そんな形式的な情報だけで判断されてしまい、熱意を伝える前に判断されるのは、差別ではないかと思っています。AIとの対話を通じて熱意や人柄を伝え、その内容をもとに人が判断する。書類だけで選考から外される応募者を減らそうというのが、AI面接のチャレンジです。
片桐私もアナウンサー試験の書類選考でたくさん落ち、「会ってもらえれば良さが伝わるのに」と思っていました。
齊田応募者だけでなく、企業側にとっても採用にかかる人的コストをAIで代替できるのはメリットがあると感じます。
片桐AI面接はどういう形で進むんですか?
橘企業が質問内容や面接時間、深掘りの方向性をカスタマイズし、AIが応募者と対話する。短ければ自己アピール2分、長ければ深掘り40分まで、設定は企業次第。AIとの対話はすべて録画・文字起こしが残るため、合否判断は最終的に人事担当者が行います。
片桐受けた方の反応は?
橘AIと話すのが初めてで緊張したという人もいれば、「人との面接の方がよっぽど緊張する」「家にいてすぐ受けられる」「AIの方が話しやすかった」という学生の声が届いています。
片桐AIは公平に見ることができるのでしょうか?
橘人間同士の場合は相性がありますが、話したデータが、録画や書き起こしで残ります。AIが勝手に最終的な合否判断をするのではなく、それらのデータを見返して「ぜひ2次面接にチャンスを与えたい」など、評価は人間がする前提になっています。
齊田前職も含め、橘さんは事業を始めるタイミングが絶妙だと感じます。遅すぎるのはもちろん、早すぎてもダメという狭いタイミングにバシッと決められている印象で素晴らしいですね。
橘新規事業参入のゴールデンタイムは半年しかないんです。スマホゲームに参入する最適な時期も、インターネット決済の時期も、振り返れば半年ほどしかチャンスがなかった。でも、そのベストタイミングは渦中にいる起業家にはわからない。自分はあまりタイミングを意識せず、ただ「おかしい」という怒りがあり、今回は生成AIという技術が出てきたこのタイミングで参入しました。それが結果的にゴールデンタイムだった、ということです。
自分の中には怒りの種がまだ50個ぐらい蓄積しています。今、具体的に見据えているのが、給与決定のAI化。給与を決める際に1年間の動きを評価しようとしても、直近1カ月の印象に引っ張られてしまったり、マネージャーとの相性で評価が変わってしまう。自分自身が相当曖昧に給与を決定しているという自覚があるからこそ、これを客観的にやるべきだと思っています。実現できれば、女性管理職比率は上がるし、ダイバーシティも必然的に進むと思います。
片桐「どこに挑戦すればいいかわからない」という人も多いと思いますが、勝てる領域の見つけ方はありますか?
橘怒りのサイズが大きければ大きいほど、同じように思っているお客さまがいます。ミクロの怒りで参入しても、市場規模が小さい。普遍的な怒りを持ち、適切なタイミングで参入すれば、結果的に勝てる。自分のやり方は、個人から大企業まで、業種も問わず、「全員が救われる事業」しか参入しない、ということです。クラウドサインも、AI面接も、すべての企業が面接をやっていて、業種を問わない。それを判断軸にすれば、結果的に勝てるんだと思います。
片桐新規事業には欠かせない資金調達ですが、銀行との付き合い方はどのようにされていますか?
橘今はIPO市場の低迷でスタートアップの時価総額がつきにくくなっており、調達が難しい「冬の時代」とも言われ始めています。特に、借り入れをする銀行とのお付き合いでは「必ず返せる会社である」ということを常に意識しています。投資は10社に1社成功すればリターンが出るモデルですが、銀行は100社に貸したら100社から回収するモデル。その健全なプレッシャーが、きちんと経営できている理由の一つになっています。
片桐ズバリ、新規事業を立ち上げるにあたっては、何が大切でしょうか?
橘結局、人間性を磨くしかないと思っています。「この人を救いたい」という怒りの種を育てること。同じ人生を送っていても、素通りしてしまう人もいれば、気づいていても「自分の力では無理だ」とジャッジしてしまう人もいる。できるという信念、心の中にある怒りを育てていけば、新規事業は必ず生まれると思っています。
齊田私は、会社員として生きる中で怒りを感じることはあっても、精神衛生のためにデトックスしてしまうことの方が多いです。でも新規事業という観点では、そこをしっかり忘れずに覚えておいて、タイミングが来るのを待ったり、自分で仕掛けていくことが必要——というところがとても勉強になりました。
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続きは以下のテーマで話を深掘ります。ぜひPodcast本編にてお楽しみください。
#06 起業と社内新規事業は全くの“別ゲーム”。100億円規模を目指す、PeopleX流「伸びる市場」の見極め方
連載:Podcast『共創前線』
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PROFILE※所属および肩書きは取材当時のものです。
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株式会社三井住友銀行 デジタル戦略部
齊田 淳一氏
中堅企業への法人営業を担当した後、海外拠点を中心としたコンプライアンス・ガバナンスに従事。2020年より、株式会社SMBCキャピタル・パートナーズの立ち上げ・経営管理業務を担当し、会社立上げ、各種ルール・制度作りを経験。2025年4月より、デジタル戦略部に着任し、デジタル子会社に関する親会社・株主としての役割や牽制機能を担うと共に、各社の経営体制の強化・支援に対応中。
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フリーアナウンサー
片桐 千晶氏
山形県寒河江市出身。2005年、秋田テレビ入社。2011年フリーに転身。2013年1月からTBSラジオ「荒川強啓デイ・キャッチ!」のアシスタントを6年間務め、ラジオを中心に出演番組多数。
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株式会社PeopleX 代表取締役 CEO
橘 大地氏
2010年東京大学法科大学院修了。株式会社サイバーエージェント、GVA法律事務所にて弁護士として企業法務活動に従事した後、2015年、弁護士ドットコム株式会社に入社。同社「クラウドサイン」事業責任者、執行役員、取締役を務める。2024年4月、株式会社PeopleXを創業。2025年4月「AIによる採⽤⾯接・⼈事評価サービス協議会」を創設し、代表理事に就任。
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