取り組み
2026.06.25更新

3カ月で「法務×AI」を形にする。SMBCリーガルXエンジニアチームの流儀

企業の大小を問わず、事業活動において「契約」は欠かせません。一方で、契約業務は、長らくデジタル化が進みにくい領域でもありました。契約書のチェックは人手頼み、管理は表計算ソフトとフォルダ、承認プロセスは紙と押印。多くの方が思わず首を縦に振るような契約業務における「あるある」が、多くの企業で今も続いているのではないでしょうか。

SMBCリーガルXは、その「あるある」をそのままにせず、「自分たちの力でどうにかしたい!」という強い思いのもと、法務領域に生成AIで切り込もうと決意しました。

そして、この思いに共感したエンジニアたちが、メガバンク発のスタートアップであるSMBCリーガルXに集結。内製開発チームの始動後、わずか3カ月で、AI×RAGを活用した自然言語による契約書検索機能「AIと探す(ベータ版)」をリリースしています。

メガバンクグループでありながら、スタートアップのスピードで内製開発に挑む——そんなユニークな環境で、チームはどう動き、何を大切にしているのか。SMBCリーガルXのエンジニアチームにお話を伺いました。

法務×AIという未開拓の領域に集結したエンジニア

SMBCリーガルXに参画した背景を教えてください。

枝本参画の決め手は大きく二つ。一つは会社のビジョンへの共感、もう一つは「メガバンクのアセットを活用しながら内製開発できる」という環境です。

当社は2025年8月に設立された、SMBCグループの社内ベンチャーです。契約のライフサイクル全体をデジタル化するCLM(Contract Lifecycle Management)プラットフォーム「LegalXross」を展開しています。

越川銀行グループがリーガルテックを手がけるというのは、一見意外に映るかもしれません。ですが、融資、担保、保証、M&A。金融の現場は膨大な契約書で成り立っており、銀行こそが日本で最も長く、最も深く契約業務と向き合ってきた当事者です。

その知見と基盤を持つSMBCグループが自ら生成AIで変革に踏み込む。そこで得た知見と実績を生かし、日本企業全体のレガシーな業務文化を変えていく——そのビジョンに強く共鳴しました。

二つ目のアセット活用についてですが、一般的なスタートアップでは、顧客開拓も、業界知識のインプットも、すべて一から自力で動く必要があります。しかしSMBCグループには、何十年もかけて築いてきたメガバンクとしての信頼や顧客基盤、そして契約業務に関する豊富な知見があります。そうした強みを生かしながら開発できる環境は、他のスタートアップにはなかなかありません。

どんな思いを持った、どんなエンジニアが集まっているのですか。

桒田法務×AIに本気で向き合える原体験を持ったエンジニアが集まっています。バックグラウンドもSIer出身からCTO経験者まで多様で、それぞれの専門性を持ち寄れるのが、このチームらしさだと思います。

岡本チームメンバーの中には、前職で法務部門との苦い思い出を持つ者がいます。エンジニアとして新しい取り組みを進めようとするたびに、契約書の確認や修正で時間がかかり、「ここがAIで自動化されればもっとスピードが上がり、法務とエンジニア双方が幸せになれるのに」と感じていたそうです。そうした原体験が、このプロダクトに関わる動機の根底にあります。

エンジニアのバックグラウンドが多種多様だからこそ、おのおのの専門性を持ち寄りながら、法務×AIという新しい領域に挑めています。

SMBCリーガルX株式会社 Business Development General Manager
枝本 寛之氏

わずか3カ月で実現した「AIと探す(ベータ版)」の開発

2026年1月からわずか3カ月で「AIと探す(ベータ版)」をリリースされました。どのような開発体制で進めたのでしょうか。

枝本開発には、短期間で改善を繰り返しながら進める「スクラム」というアジャイル開発手法を採用しました。2週間単位で開発と検証を行う「スプリント」を6回重ね、リリースにたどり着きました。

スクラムを選んだのは、法務の世界をITで変えようとしたとき、最初から正解が見えないからです。契約業務の実態は複雑で、エンジニアだけでは全体像をつかみきれません。2週間ごとに「動くもの」を作り、フィードバックを受け、プロダクトの進む方向を調整しながら開発する。この繰り返しこそが、私たちのプロダクトに合っていました。

開発の進め方で工夫したことを教えてください。

岡本開発の初期段階で、エンジニアがプロトタイプを組み立て、早い段階で営業・企画チームとイメージのすり合わせをしたことが大きかったと思います。

完成度よりもスピードを優先して「動くもの」を早く見せることで、「この検索結果の出し方では実務の担当者に伝わらない」「このUIでは操作を間違える」といった現場感覚のフィードバックを、開発の初期段階で拾うことができました。契約業務の専門知識がまだ十分ではない入社間もないエンジニアにとっても、プロトタイプは共通言語になります。抽象的な言葉ではすれ違いが起きても、実際に動く画面があれば議論は進みやすくなります。

越川営業担当者が日々お客さまから受け取る「現場の声」は、エンジニアだけでは気づきにくいものがたくさんあります。早期にすり合わせることで、後半の大きな手戻りを防げました。スプリントを重ねるごとに、プロダクトが「実務に使えるもの」へ近づいていく感覚が、チーム全員にありました。

SMBCリーガルX株式会社 Business Development Leader
越川 慶人氏

「AIと探す(ベータ版)」の開発で苦労したことはありましたか。

岡本最も苦労したのは、AIの検索精度を高め続けることでした。「どの検索結果が正しいか」を定義するためには、大量のサンプル契約書と正解データを揃える必要があります。法務や契約の知識がまだ十分ではないエンジニアだけで抱え込まず、企画・営業チームを巻き込みながら、正解データの設計そのものを議論することから始めました。

精度を客観的に評価するための仕組みも、開発の初期段階から意識的に構築しました。評価方法の定義と自動化を進め、常に精度を検証し続ける体制を早期に整えたことで、短期開発でも品質を担保することができました。

桒田その結果、プロンプトの変更一つひとつに対してすぐに数値を計測し、「ここが改善された、次はここを上げる」と改善を積み重ねていきました。精度向上を単なるエンジニアリングの課題にとどめず、プロダクトの品質をチーム全員の責任として引き受けられたことが、短期間でのリリースにつながったと感じています。

SMBCグループの知見が、プロダクト設計を深くする

「AIと探す(ベータ版)」はAI×RAGで契約書を自然言語検索する機能ですが、法務用語や専門知識をどうプロダクトに反映しましたか。

桒田自然言語で契約書を検索するとき、「何が正しい検索結果か」を定義するのは技術的に難しい問いです。エンジニアが技術的な最適解を追っても、法務の現場とズレた機能では意味がありません。

越川私たちの強みのひとつが、四大法律事務所のひとつであるアンダーソン・毛利・友常法律事務所との密な連携です。エンジニアでは解決できない法務が関わる仕様について、現役の弁護士とやり取りしながら設計に落とし込める環境は、一般のスタートアップでは得がたいものです。

SMBCグループが数十年かけて積み上げてきた知見やネットワークを、立ち上がったばかりの私たちが最大限に生かせている——「守られた環境で、大きな賭けができる」からこそ実現できたことです。この連携があるからこそ、法務の現場感覚をプロダクトの設計に正確に反映できています。

ほかにも、グループの強みを活かせた場面はありましたか。

岡本設計の各所でそれを感じます。たとえば「こういう契約書の処理フローはどうあるべきか」という問いを持ったとき、SMBCグループの営業担当者や法務部門の方に実際の業務感覚を聞ける。業界の最前線で何十年も積み上げてきた「生きた知識」を、自分たちの設計に直接反映できます。

加えて、グループ全体でリスク・セキュリティの観点が統一されており、安全に開発・組織運営ができる基盤が整っていることも大きな強みです。これは、外部のスタートアップが資金力だけでは手に入れにくいものだと感じています。

SMBCリーガルX株式会社 Business Development Leader
岡本 龍太郎氏

リモート中心でも生まれる、フラットなチーム文化

チームの働き方について教えてください。

桒田基本はリモートワークで、週1回の出社です。遠方在住のエンジニアはフルリモートで参加しており、居住地を問わず活躍できる環境が整っています。

ただ、「リモートだから距離がある」かというと、まったくそんなことはありません。困ったことがあれば気軽に相談して、全員で問題を解決していく姿勢がチームの文化として根づいています。スプリント中に壁にぶつかっても、誰かがすぐ相談に乗ってくれます。

岡本また、フレックスタイム制を採用しているため、保育園の送り迎えや育児による中抜けも柔軟に対応できます。子育て中のエンジニアにとっても、仕事と家庭を無理なく両立しやすい環境だと思います。「いざとなれば動ける」という安心感は、長く現場で働き続けるうえで大きな支えになります。

日常のコミュニケーションはどのように取っていますか。

越川スクラムイベントに沿った定期的なミーティングを行っています。たとえば、開発内容や優先順位を決める「スプリントプランニング」、日々の進捗や課題を共有する「デイリースクラム」、進め方を振り返り改善点を話し合う「レトロスペクティブ」を繰り返し実施することで、チーム全体の進行リズムを作っています。

加えて最近始まったのが、LT(ライトニングトーク)会です。メンバーが持ち回りで、業務で得た知識や技術的な発見を発表しています。SIer出身者、バックエンド専門家、フロントエンドのプロ、CTO経験者——それぞれの視点が交わると、「そんな見方があるのか」という発見が毎回あります。楽しみながらスキルアップできている実感があります。

枝本チームとして意識していることがあるとすれば、「専門領域を持ちながら、全員がプロダクトの全体に責任を持つ」姿勢です。バックエンドの人はフロントエンドを知らなくていい、という割り切り方はしていません。少人数で大きな課題に挑むからこそ、各自が広く見渡せる視座を持つことが大切だと感じています。

多様なバックグラウンドが集まることで、どんな学びが生まれていますか。

枝本開発言語やアーキテクチャの選定も、既存の正解に頼らず、毎回チームで議論しながら決めています。SIer出身者の「システム全体を俯瞰する視点」、バックエンドエンジニアの「スケーラビリティの設計知識」、フロントエンドエンジニアの「ユーザー体験への嗅覚」——それぞれが持ち寄る経験が重なることで、一人では気づけない選択肢が生まれます。

反省点があれば立ち止まって再検討する。必要ならリファクタリングに踏み切る。そういう判断をためらわずにできるのも、少人数で全員がプロダクトに責任を持っているからです。

技術的な探求心はもちろんですが、チームが最も大切にしているのは「ユーザーファースト」です。法務担当者が実際の現場で使いやすいかどうか。その問いを常に中心に置きながら、設計の判断を積み重ねています。

SMBCリーガルX株式会社 Business Development
桒田 貴志氏

「熱を持って、法務×AIに挑める人」と一緒に働きたい

採用では、どんなエンジニアを求めていますか。

越川技術力はもちろん大切です。ただ、それ以上に「熱を持っているか」を重視しています。特に、法務×AIという領域に対して、自分ごととして向き合える原体験がある方に来てほしいです。

たとえば「法務部に何度も契約書のNGを受けて、もどかしい思いをしてきた」「自分のサービスの契約まわりで苦労したことがある」「法律とAIの間に、もっといい答えがあるはずだと信じている」。そういった感覚を持ったエンジニアと共にプロダクトを開発したいと思っています。

法務の世界はまだまだデジタル化が遅れていて、まだ正解を誰も持っていない状態です。そこに自分の技術で切り込んでいるという感覚が、毎日の仕事のエネルギーになります。

改めて、SMBCリーガルXのエンジニアにはどのような環境が用意されているのでしょうか。

枝本大きく四つあります。

一つ目は、裁量の大きさです。現在は4名のチームで、技術選定から設計の判断まで、自分たちで提案していけます。

二つ目は、SMBCグループの知見や基盤です。グループの信頼や顧客基盤・専門家ネットワークを生かしながら開発できます。一般のスタートアップが持ちたくても持てないリソースは大きな武器になっています。

三つ目は、働き方の柔軟さです。週1回出社・基本リモートで、遠方在住者はフルリモートも可能です。チームの雰囲気はフラットで、誰でも気軽に声をかけられます。

四つ目は、会社の基盤そのものを作れる経験です。組織の立ち上げから間もないため、開発環境の整備だけでなく、使用するソフトウェアやミドルウェアの選定・リスク検討など、会社の土台づくりから携わることができます。プロダクトを作るだけでなく、「働く環境そのものを設計する」経験は、スタートアップならではの醍醐味です。

最後に、この記事を読んで興味を持ったエンジニアの方へのメッセージをお願いします。

枝本法務という、長年デジタル化が遅れてきた領域を変えることは、技術的な面白さとやりがいが同時にある仕事です。正解がない分、自分の設計が直接プロダクトに反映される。「自分が作ったもので、現場の人の仕事が変わる」という実感を持ちたい方には、最高の環境だと思います。

大きな組織のアセットを武器にしながら、スタートアップのスピード感で挑戦できる場所は、そう多くありません。法務×AIというフロンティアで、一緒に答えを出していきましょう。


PROFILE※所属および肩書きは取材当時のものです。

  • SMBCリーガルX株式会社 Business Development General Manager

    枝本 寛之氏

    SI、事業会社、ITコンサルにてシステム開発から組織マネジメントまで幅広く経験。CTO/CIOとして内製開発体制の構築やDX推進を主導し、KPI改善やコスト最適化を実現。現在はSMBCリーガルXにてプロダクト開発部門の責任者として、生成AIを活用した契約DX領域の開発をリード。

  • SMBCリーガルX株式会社 Business Development Leader

    越川 慶人氏

    2015年に情報系大学を卒業後、JR東日本情報システムへ入社。社会インフラを支える電子決済や、クラウド移行、先進的なAI活用プロジェクトに従事。その後、SMBCリーガルXの立ち上げ期から参画し、現在はスクラムマスター兼テックリードとしてプロダクト開発を力強く牽引。プライベートでも技術解説書の執筆や個人開発を通じて継続的に研鑽を積む根っからの技術好き。最も愛する言語はC#。

  • SMBCリーガルX株式会社 Business Development Leader

    岡本 龍太郎氏

    2015年に情報系大学院を修了後、JR東日本情報システムにて遺失物分類AIアプリの開発に従事。2022年よりLINEヤフーにてYahoo!フリマのiOSアプリ開発を担当するとともに、カンファレンス登壇等の技術発信を通じて社内外のiOS開発コミュニティに貢献。2026年よりSMBCリーガルXに参画し、生成AIプロダクト開発や社内AI導入推進をリード。

  • SMBCリーガルX株式会社 Business Development

    桒田 貴志氏

    2012年情報系大学院を修了後、通信系ベンチャーにて訪日客向けプリペイドSIM管理システムの新規立ち上げを担当。2021年より不動産テック企業にてECサイトの開発やインフラのクラウド移行や業務効率化を担当。2026年よりSMBCリーガルXに参画、バックエンド開発経験を生かし、現在はAIプロダクト開発を担当。

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生成AI

類義語:

  • ジェネレーティブAI

機械学習の応用分野の一つ。大量のデータで事前学習した基盤モデルに指示(プロンプト)を与え、文章・画像・音声など新しいコンテンツを生成するAI技術。業務の試作やアイデア具現化を加速することが可能。

AI
(artificial intelligence)

類義語:

  • 人工知能

コンピュータが人間の思考・判断を模倣するための技術と知識体系。

プラットフォーム
(Platform)

類義語:

サービスやシステム、ソフトウェアを提供・カスタマイズ・運営するために必要な「共通の土台(基盤)となる標準環境」を指す。

プロトタイプ
(Prototype)

類義語:

「原型」や「最初のもの」を意味し、新製品やシステムの開発過程において設計の妥当性を確認するために製作される試作品のこと。IT分野では、ハードウェア開発の際の量産前の試作品や、動作や機能を検証するために最小限の規模で試作されたソフトウェアなどのことを意味する。

フロントエンド
(front end)

類義語:

システムやWebアプリケーションにおいて、ユーザーが直接触れる部分を指す。たとえば、ウェブサイトのデザイン、メニューやボタン、テキスト入力欄など、画面に表示され、操作する部分がフロントエンドに該当する。

アジャイル開発
(Agile development)

類義語:

短い開発期間単位を採用することで、リスクを最小化しようとする開発手法の一つ。

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