「製品を入れただけ」では守れない。SMBCサイバーフロントとサイリーグが挑む、AI時代のセキュリティ運用改革
セキュリティ製品は入れているが、いざアラートが出ると何をすればよいか分からない――。
そんな課題を抱える中堅・中小企業は少なくありません。サイバー攻撃による被害は、企業規模を問わず広がり、事業継続そのものを脅かす事態に発展することもあります。一方、専門人材の不足やセキュリティ製品の多様化により、「検知した後」の対応が新たな課題となっています。製品を導入するだけでなく、適切に運用できる体制を整えることが求められています。
こうした課題に対し、SMBCサイバーフロントとサイリーグホールディングス(以下、サイリーグ)は、SMBCグループなどがセキュリティ運用の現場で培った知見とAIを組み合わせた「サイバー攻撃対応ナビ」を共同開発し、2026年10月の提供開始を予定しています。
なぜ今、新たなセキュリティ運用の形が必要なのか。そして2社は、日本のサイバーセキュリティをどのように変えようとしているのか。開発の背景と、その先に描く未来について、SMBCサイバーフロント 代表取締役の青木泰憲氏、サイリーグホールディングス 事業統括ディレクターの南部弘毅氏に聞きました。
危機感はある。それでも中堅・中小企業が「検知した後」で止まる理由
現在、中堅・中小企業のサイバーセキュリティ対策には、どのような課題があると考えていますか。
サイバーフロント 青木最も大きな課題は、やはり専門人材の不足です。
中堅・中小企業では、セキュリティの専門家を社内で採用・育成することが難しいケースが少なくありません。一方で、生成AIの悪用によってサイバー攻撃が高度化し、一つの製品だけで企業を守ることは難しくなっています。複数のセキュリティ製品を組み合わせる「多層防御」が当たり前になり、それらを適切に運用することまで求められています。
しかし、人が足りない中で複数の製品を使いこなすのは簡単ではありません。人材不足とセキュリティ製品の多様化、この二つが現在の大きな課題だと考えています。
青木 泰憲氏
サイリーグ 南部もう一つの課題は、「自分たちは狙われない」と考えてしまう企業が、一定数存在することです。
もちろん、この5年ほどで状況は変わってきました。実際にランサムウェア攻撃の被害に遭う中堅・中小企業が増え、「対策しなければ」という危機感を持つ企業は確実に増えています。ただ、その危機感がそのままセキュリティ対策への投資につながっているかというと、必ずしもそうではありません。
セキュリティ対策は、企業にとって利益を生む投資というよりも「コスト」と捉えられやすいものです。限られた予算の中で十分な対策を講じることが難しく、さらに製品を導入しても、それを監視・運用する人材がいない。結果として、本来必要な対策が十分に実行できていない企業が多いのが現状です。
「サイバー攻撃対応ナビ」はどのような経緯で生まれたのでしょうか。
青木多くの企業では、「有名なセキュリティ製品を導入しているから安心」という考え方がまだ根強くあります。もちろん、製品を導入することは大切です。しかし、本当に重要なのは、その製品をどう運用するかです。
セキュリティ製品は日々さまざまなアラートを出します。その一つひとつについて、「本当に危険なのか」「どう対応すべきなのか」を判断し、必要な対応につなげることが、本来のセキュリティ運用です。
ところが、実際にはそこまで対応できる企業は多くありません。専門家が長年培ってきた知見を、より多くの企業へ届ける方法はないか。そう考えたとき、私たちが着目したのが生成AIでした。
ただ、一般的な生成AIの回答を、そのままセキュリティ上の判断に用いることにはリスクがあります。企業が実際に受けた攻撃や、その際の対応内容は、通常は外部に公開されません。インターネット上の公開情報だけでは、実際の運用現場で蓄積された知見を十分に補えないのです。
その点を踏まえ、今回の「サイバー攻撃対応ナビ」は、実際の運用現場で蓄積された知見を、AIが活用できる形にすることで、中堅・中小企業でも実践的なセキュリティ運用を実現できる仕組みを目指しました。
専門家の知見をAIで活用。それぞれの特長を生かした連携で、新たなセキュリティ運用
「サイバー攻撃対応ナビ」は、具体的にどのようなサービスなのでしょうか。
青木セキュリティ製品から上がってくるアラートやログを入力すると、危険度や考えられる原因、推奨される対応方法をAIが提示するサービスです。
利用企業のセキュリティ製品や体制、ログの保存状況などの環境情報をあらかじめ設定することで、自社の状況を踏まえたアドバイスを受けられる点が大きな特長です。本来であれば専門家やベンダーへ問い合わせるような内容を、その場で確認できる。そのスピード感も、大きな価値になると考えています。
また、上がってきたアラートについて、誤検知の可能性を見極めるための確認観点を整理できるため、製品導入後に検知ルールやアラートの判定基準を見直す際の参考として活用することもできます。
今回の開発において、SMBCサイバーフロント、サイリーグはそれぞれどのような役割を担ったのでしょうか。
南部もともと我々は、サイバー攻撃が発生した際のインシデント対応サービスを共同で提供していました。その取り組みを通じて、緊急時だけでなく、日常的に発生するアラートやログへの対応に、多くのお客さまが課題を抱えていることが見えてきました。
そこで、この連携を日常的なセキュリティ運用へと広げる形で開発したのが、この「サイバー攻撃対応ナビ」です。
SMBCサイバーフロントとサイリーグがサービス全体を共同企画し、サイリーグが開発を主導しています。SMBCサイバーフロントは顧客課題や運用ユースケースの検討に参画し、SMBCグループをはじめとする企業がセキュリティ監視やインシデント対応の現場で培った知見を提供しています。
中堅・中小企業では、人材を採用することも育成することも簡単ではありません。だからこそ、専門家の知見をより多くの企業が活用できる形で提供したいと考えました。
南部 弘毅氏
AIと人の役割を、どのように切り分けているのでしょうか。
青木今回のサービスにおけるAIの役割は、アラートやログを分析し、人が判断するための道しるべを示すことです。
例えば、あるシステムにサイバー攻撃の疑いが見つかったとして、「システムを停止すべきか」という判断は、技術だけでは決められません。システムを止めれば事業への影響も発生しますし、逆に止めなければ被害が広がる可能性もあります。
そうした最終的な意思決定には、経営判断やビジネス上の判断も伴います。だからこそ、人がより良い判断を下すための材料を提供することが重要だと考えています。
南部私たちが現場で日々向き合っているのは、本当に危険な攻撃だけではありません。実際には、「怪しいかもしれない」というアラートやログが大量に発生し、その一つひとつを確認しながら優先順位を判断しています。
専門家の時間の多くは、この一次切り分けに費やされています。AIは人を置き換えるものではなく、専門家が力を発揮するための土台になると考えています。
一方で、重大なインシデントの可能性が高いとAIが示した場合には、事前契約型のインシデント対応サービスなど、各社が契約している専門家にスムーズに相談できる仕組みも用意しています。
AIだけで完結するのではなく、AIと専門家が連携しながら企業を支える。それが今回のサービスの考え方です。
開発にあたり、特にこだわったポイントを教えてください。
南部生成AIは非常に便利な技術ですが、「AIが答えを返したから、そのまま信じればいい」というサービスにはしたくありませんでした。そこで、ノウハウを生成AIそのものに固定的に活用させるのではなく、蓄積した知見の中から必要な情報を検索し、回答に活用する仕組みを採用しました。
青木セキュリティ運用を取り巻く環境は、日々変化しています。現在のベストプラクティスが1、2年後もそのまま通用するとは限りません。そのため、情報を継続的に更新し、新しい知見を回答に反映できる仕組みにすることにこだわりました。
「専門家でなければ運用できない」を変える。我々が目指すセキュリティの未来
最後に、今後の展望について教えてください。
青木私たちが目指しているのは、「専門家しかセキュリティ運用ができない世界」を変えることです。
現在は、製品を導入しても、それを適切に運用できる人材が不足しているため、導入した製品の性能を十分に引き出せていない企業が少なくありません。「サイバー攻撃対応ナビ」を活用することで、専門家でない担当者でも、一定水準の初動判断や対応を行いやすい環境を広げていく。それが私たちの役割だと思っています。
サービスの発表後には、中堅・中小企業だけでなく、大企業からも「グループ会社で活用したい」という声を多くいただきました。大企業が自社のセキュリティだけを高めても、グループ会社や取引先など、サプライチェーン上の企業が攻撃の入り口になる可能性があります。まずはグループ会社や取引先がサイバー攻撃対応ナビを活用して対応し、必要に応じて重要度の高い事象を親会社や専門家へつなぐ。そうした使い方を広げることで、サプライチェーン全体のセキュリティ向上にも貢献できると考えています。
南部もう一つ目指したいのは、専門人材の価値をさらに高めることです。
AIが一次対応を支援することで、専門家は本当に重要な業務へ集中できるようになる。人材不足が続く中でも、日本全体のセキュリティレベルを底上げできる仕組みをつくりたいと考えています。
日本企業のセキュリティ対策は、「やっているか、やっていないか」という0か1で捉えられがちです。しかし、製品を導入していても、十分に運用できていなければ、対策のレベルは高まりません。このサービスによって、すでに対策を始めているもののセキュリティ運用を十分に対応しきれていない企業の運用レベルを、さらに引き上げていきたいと考えています。その積み重ねが、日本全体のサイバーセキュリティを強くしていくことにつながると信じています。
PROFILE※所属および肩書きは取材当時のものです。
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SMBCサイバーフロント株式会社 代表取締役
青木 泰憲氏
2014年に三井住友銀行へ新卒入行。法人営業を経て、システム障害の未然防止・発生時の影響極小化に従事。2019年より米国カーネギーメロン大学へ留学し、サイバーセキュリティの修士号を取得。帰国後、SMBCグループのサイバーセキュリティの戦略立案・プロジェクトをけん引。2025年2月、SMBCサイバーフロント(株)代表取締役に就任し、中堅・中小企業を中心に幅広な企業のセキュリティ対策の高度化を支援。
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サイリーグホールディングス株式会社 事業統括ディレクター
南部 弘毅氏
PR会社などでプロモーションやデジタル施策に携わったのち、2012年より国内セキュリティソフトウェア企業にてデジタルマーケティングに従事。2017年からは米国セキュリティベンダーにて、日本市場におけるEDRの普及に向けた市場啓発を推進。2024年8月よりサイリーグHDに参画し、サービス開発、アライアンス、マーケティングを統括。サイバーセキュリティ事業の拡大と市場価値向上に取り組んでいる。
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