社会課題解決のために、メガバンクグループが求められる社会的インパクトとは (2019年11月27日)

2019年度ダイアログ②
社会課題解決のために、メガバンクグループが求められる社会的インパクトとは(2019年11月27日)

2019年度ダイアログの様子

2019年11月、SMBCグループは「SMBCグループ サステナビリティ宣言」を策定するための2回目のダイアログを実施しました。
2019年9月のダイアログにおいて宣言の策定には、「目指す将来像を定めたうえで、その達成に向けた具体的な取組と指標」が必要であることを強く認識しました。

そこで当社グループが追求しようとする長期計画とKPIに「社会的インパクト」の視点を反映させたいと考えました。

当社グループが踏まえた2点は以下です。
1.事業活動を通じた取組の結果、どのような「社会的インパクト」を与えたか
2.目指す「社会的インパクト」は、社会から求められる内容を反映しているのか

このダイアログではこれまでの財務KPIではない、「社会的インパクト」という観点でのKPIの設定するために、上記2点を意識しながら、社会から求められる適切な内容はどのようなものかそれぞれの立場から有識者の皆さまのご意見をいただきました。

※出席者の社名、肩書き等は開催当時のものです。

ダイアログにご参加いただいた有識者

特定非営利活動法人ソーシャルバリュージャパン 代表理事 伊藤 健 様

特定非営利活動法人
ソーシャルバリュージャパン
代表理事
伊藤 健氏

第一生命保険株式会社 運用企画部部長兼責任投資推進部部長 銭谷 美幸 様

第一生命保険株式会社
運用企画部部長
兼責任投資推進部部長
銭谷 美幸氏

SMBCグループ参加会社

株式会社三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)
他SMBCグループ各社


ファシリテーター:
株式会社日本総合研究所(日本総研)
創発戦略センター 理事 足達 英一郎

Q. SMBCグループでは、「SMBCグループ サステナビリティ宣言」を策定に合わせ、具体的な施策・KPIを検討している。これまで検討したことのなかった、社会から求められる「社会的インパクト」をもとにKPIを設定したいと考えているが、アドバイスをお願いしたい。

SMFG 末廣
「SMBCグループ サステナビリティ宣言」の策定にあたっては、具体的な施策が必要であると、前回実施したダイアログ(2019年9月5日実施)でもアドバイスをいただいた。
サステナビリティに関する長期計画について、社会から求められるインパクトを示すためには、どのようなKPIが望ましいのか、有識者の皆さまのアドバイスを受け今後の計画策定に活かしていきたい。

Q. まずは「社会的インパクト評価」の専門家である伊藤氏に、社会的インパクト評価の全体像とそれぞれの手法の特徴をお伺いしたい。

伊藤氏
社会的インパクト評価は、これまでの事業評価がアウトプット(施策の取組の結果)の把握で留まっていたものから、一歩踏み込んでアウトカム(アウトプットにより期待される社会への効果)から生じる社会へのインパクトを評価していこうというもの。難しいところは、事業実施からアウトカムの実現までにタイムラグがあるということや評価にコストがかかることなどが挙げられる。
具体的にどのように測るのかがポイントになるが、例えばSDGsの169の指標群やIRISの基準などを活用して比較可能性を担保しようとする動きがある。この動きが、社会的インパクト評価における相互換性を担保するための動きとして、加速しつつある。
日本総研 足達
インパクト評価では、「数値化していなければ評価できないのではないか」という意見と「ストーリーといった定性的なものがあれば十分ではないか」という意見がある。定量的なものに最後落とし込むことをどれくらい意識されているか、伊藤氏のご意見を伺いたい。
伊藤氏
定性・定量の両面の評価が必要だが、数値的なものに落とし込むニーズは非常に強い。それは制度化、組織化には必ず指標が必要になるため。そして、マーケットを作るためにも、マーケットメカニズムを作り出すための定量指標が必要になる。その動きとして今、基準作りが出てきている。
SMFG 三上
定量指標では顧客満足度のようなものも入るのか。
伊藤氏
含まれる。顧客満足にも色々な測り方があり、定量的な資料が、定性的なストーリーを補足するものとして活用できる。

Q. インパクト評価をどのように行っているのでしょうか。

銭谷氏
当社では、主に国内未上場企業の個別企業投資を実施している。現時点ではグローバルにも測定方法が確立されていないため、当社のインパクト投資におけるインパクト評価は、まずは社内の投資目線に合致したものを投資対象としたうえで、その企業・事業がどのようなインパクトを出しているのか個々に判断を実施している。
投資先の件数が増えるとモニタリングは大変だが、今後の取組推進のため当社自身のインパクト投資のナレッジを増やすという点につながる。
日本総研 足達
インパクト評価においても、プロジェクトによってその評価指標や定量化における換算の式は異なると割り切って考えるべきか。また、評価しやすい業種とそうでない業種があるものなのか。
銭谷氏
インパクトの部分は評価対象が多様なので異なる。その点を踏まえると、当社として現時点では投資できず逃している案件もあるかもしれない。
伊藤氏
ソーシャルインパクトを研究している立場からいうと、インパクト評価の業界スタンダードとして、IRISというものがある。最新版は1,000以上のインジケーターがあり、領域別に推奨指標をセットして提示している。
全部使う必要はないが、今、登録しているユーザーは15,000社ほどになっていることから、評価の比較可能性に貢献するものではないか、と考える。
社会的インパクト投資を行うファンドにおいては、対象とする社会課題やSDGs項目から、明確に投資先のインダストリーフォーカスや、プライオリティポリシーを定めていると思う。その中でも「環境」は先行研究があり、産業としての規模もあることから評価しやすい領域といえる。一方、こうした社会的インパクト投資が取組の容易な分野にインパクト投資が偏ってしまうのではないかという社会的懸念はある。
日本総研 足達
当社グループは金融経済教育にも力を入れている。例えば、教育分野の評価はいかがか。
伊藤氏
教育がもともと謳っている「人間的成長」という社会的インパクトを勘案すると、長期間のアウトカムを観察する必要があると考える。例えば他の先進諸国では教育に関する数十年の評価研究に基づく指標があるため社会的インパクト評価をしやすい。一方、日本の教育ではそうした研究蓄積が途上であり、指標も試験の得点推移といったような短期的な評価軸となりがちだ。そのような場合、本来的な「人間的成長」というインパクトに対し、どのような指標を設定するのか、といった問題が生じると思う。

Q. SMBCグループの事業を通じた取組によるインパクトを考えるうえで、社会にもたらす「インパクト」をどのように捉えるべきかお伺いしたい。

伊藤氏
社会的インパクト評価の領域では、理論的には4象限で考えようと言われている。「ポジティブインパクト」と「ネガティブインパクト」、「意図したアウトカム」と「意図していなかったアウトカム」という考え方がある。
通常のPR的な観点でいうと、「意図した」「ポジティブな」アウトカムを社会的成果としてハイライトすることが多いが、社会的インパクト評価の中ではネガティブな要素も考え、意図したものだけでなく想定外に発生した結果もインパクトも計っていこうという考え方だ。
ネガティブアウトカムについては、「リスク」としての捉え方ができる。リスクを軽減するために、事業者やステークホルダーとのコミュニケーションを通じた対応が求められる。
また、アセットオーナーやアセットマネジャーが社会的インパクトに配慮した投資を実行することで、発行体である事業者が社会的インパクトに配慮した経営を行うという、トリクルダウン(水滴がしたたり落ちた際に広がる波紋)の効果もあると思っている。ソーシャルインパクトについての関心について、ここ2年程で風向きが変わってきている。これまでは、事業会社であればCSR部署の窓口が多かったが、最近はIR部署や経営企画から投資家目線で自分たちの事業のリスクとインパクトを考える必要があるという認識での問い合わせが増えている。
銭谷氏
当社でも、投資先とのエンゲージメントとして、毎年企業と面談する。3~4年前迄はマネジメント側には「SDGsに関わる社会課題解決を事業活動を通じて行う」との意識は余りなかった。
本業を通じて社会課題の解決を行うとなれば、マネジメントがまずその必要性を認識をして、「自社の社会的存在価値は何か」ということ、「世の中がその会社に対して何を求めているか」ということをしっかり再認識してもらうことが第一歩だと思う。
伊藤氏
例えば、2018年にIFCや国連等の発起で、インパクトマネジメントプロジェクトという社会的インパクトについてのフレームワークができ、そこに賛同する資金の出し手が賛同ベースでは数千集まっており、社会的インパクト評価を実践するというグローバルな流れができている。インパクト評価の世界でも統合の動きが見られつつあるが、プラクティスに関してはまだ裾野が狭い。
この動きが進行していくと、社会的インパクト評価や社会的インパクト投資が「ティッピングポイント(社会的な臨界点)」を超えて、急速に普及するのは時間の問題ではないか。

Q. 今後、SMBCグループに求められる社会インパクトとは。

SMFG 竹田
「プロジェクト=企業体」といったピュアカンパニー会社が、事業活動を通じて与える社会的インパクトは事業そのものと直結してわかりやすい。一方、当社グループのように、金融グループとしてお客さまの事業を資金を通じて間接的にサポートしている場合には、事業のポートフォリオやその結果生じる社会的インパクトは様々である。このように間接的に、社会に影響を与える金融グループが求められる「社会インパクト」はどのようなものか。また、それを図るためのアウトカムには何を設定すべきか。
銭谷氏
なぜ銀行が必要とされるかを経済学的に考えれば「信用創造機能を保有しているから」と言えると思う。信用創造は信用があるから成立するものであり、社会的な信頼がなければできないもの。社会的な信頼は何に基づくのか、今一度考え直す時期に来ていると思う。
今の時代は、資本市場における機能としての金融機関だけでなく、“金融機関と付き合うと自分や社会にとって何かメリットがある”といったような、お金だけではない、サービス全体を含めた総合的な社会インフラだからこそできるものが、これからの社会における金融機関に求められる安定感やサステナビリティではないか。
伊藤氏
役職員の意識変化というところも、昨今企業の社会的価値の議論のアジェンダになってきている。従業員のサステナビリティ浸透が、人事評価や社内文化につながると、社内に存在するインパクトビシネスのシーズがたくさんでてくるのではないか。
銭谷氏
対外的に“マネジメントが〇〇したい”と発表しているものの、その取組と人事制度がリンクしなければ絵に描いた餅となってしまう。
一度に大きな人事制度の変更は、難しいかもしれないが、会社の方針を実践し評価される人事制度に変えていく必要がある。
採用活動においても、入社前に聞いていた話と入社後で大きな差があるとすれば、若手の早期退職にも繋がり、真剣に考えたほうがよいところ。金融機関においても良い人材が入るかどうかで今後の10年、20年が決まってくる。面接に来てもらえない限り、採用もできないし、優秀な人材が不足すれば、良い商品やサービスの提供や開発はおろか、今の状態を維持することも難しくなる。
それは日本人だけでなく、グローバルにみてもそうで、特にZ世代の人たちはそういった価値観をもって企業を選んでいると思う。
SMFG 末廣
今回の問題提起を考えたのも、当社グループは得てして、従業員への視点は欠けていた、ということもある。目標を立てることはよいが、会社の立てた指標が従業員に響くかどうかはわからない。
逆に、「当社グループはCO2を削減します」ということを表現すると、うちの会社はこういうことをやるのか、ということを知ってもらう効果もあると思う。確かに、どのような社会インパクトが求められるのか、答えはないが悩みながら考えていく。
銭谷氏
ESG投資評価は格付け機関がESG評価企業を買収している状況。ここ1年くらいでESGの考え方が株式投資のみならず、債券や融資等金融全般に広がって来た動きが加速している。
インパクト投資もこれからだと考えている一方で、インパクト評価の手法が十分理解されないとインパクト投資も広まっていかない。
SDGsについてもそれぞれ大きな目標があるが、2030年まであと10年ほどしかない。課題解決に必要とされる資金に対して、「どのようにして資金を振り向けていくのか」「ESG投資の観点からネガティブとされる事業をどうトランジションしていくのか」「その為の資金供給のためのマーケットをどのように作っていくのか」様々な課題がある。
これらは自社だけではできることでは無い為、関係者と色々と協議しながら良い方向に進んでいけるように先進的に取り組みたいと思っている。世界の潮流を見ながら動きを考えていく必要があると思う。

ご意見を受けて

三上常務執行役員

株式会社三井住友フィナンシャルグループ
常務執行役員
三上 剛

SMBCグループでは、「SMBCグループ サステナビリティ宣言」の策定にあたって、ダイアログを二回開催致しました。
第1回目では、「宣言の内容やその浸透」について、そして2回目では、当社グループが社会的インパクトを通じて持続可能な社会の実現を目指すために、「求められる期待や役割、社会にどのようなインパクトを与えることができるか」という観点で改めて貴重なご意見を頂きました。
特に、社会課題解決に必要とされる資金に対して、「どのように資金を振り向けていくのか」「ESG投資の観点からネガティブとされる事業をどうトランジションしていくのか」というご意見は、当社グループの事業活動に直結するものであり、長期計画の策定を通じて向き合い、考える必要があると強く感じました。
持続可能な社会の実現を目指すうえでの基本姿勢となる今回の宣言は、内容のみならず、これを具現化するための施策や指標、さらには社内や社外にしっかりとその取組を浸透させる重要性を強く認識しています。
当社グループが一丸となり、真摯にこの取組に向き合うことで、サステナビリティ経営を加速化させていきたいと思います。

SMBCグループ サステナビリティ宣言