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AI活用で、温室効果ガス算定に不可欠なデータ収集作業を効率化。SMBC×Allganizeの共同開発ソリューション「Alli for Green」

世界規模で企業の脱炭素経営が求められるなか、SMBCグループは脱炭素社会のリーディングカンパニーを目指し、さまざまな取り組みを進めています。その取り組みの一例が、温室効果ガス(Greenhouse Gas 以下、GHG)排出量算定におけるデータ収集を支援するソリューションの開発です。三井住友銀行が提供するGHG排出量算定ソリューションの「Sustana(サスタナ)」および「パーセフォニ」はじめ、GHG排出量算定サービスを利用する際には、お客さまが受け取る電気・ガス等の請求書から必要な情報を抽出し、データ化してツールに入力する必要があります。GHG排出量の算定は、Sustanaおよびパーセフォニ等の活用で効率化が図られていたものの、この前段階の作業はアナログのままであり、膨大な時間と手間がかかっていました。

三井住友銀行とAllganize Japanが共同開発し、2023年1月より提供を開始したクラウドサービスの「Alli for Green」は、このデータ収集作業をDX化し、AIを活用して効率化するツールです。

Allganize Japanと協業して「Alli for Green」を開発するに至った背景とは何か。これによりどのような効果が期待できるのか。そして今後の展望とは。Allganize JapanでBusiness Development Managerを務める池上 由樹氏と三井住友銀行 デジタル戦略部の関口 倫子氏に伺います。

温室効果ガス算定に必要な情報収集を、AIで一気に効率化

2023年1月にリリースした「Alli for Green」とはどのようなサービスなのでしょうか。他の類似サービスとの違いも含めて教えてください。

関口三井住友銀行では2022年より、SustanaおよびパーセフォニというGHG排出量算定ツールを提供していますが、こうしたツールを利用し自社の排出量算定を行うには、まず企業全体の電気やガス等の請求書、検針票などの情報を取りまとめ、使用量をツールに入力していく必要があります。SMBCグループ自身の算定においても、この作業には大変な時間と手間がかかっていました。この部分の作業効率化を図るサービスが、今回開発・提供を開始した「Alli for Green」です。
具体的には、紙ベースやPDFベースで届く書類をクラウド上にアップロードすると、予め指定した項目を自動で抽出し画面に表示してくれます。抽出する項目は、例えば電気・ガスといったエネルギーの種類、使用量、使用期間、といった内容です。また、抽出した項目をExcelやCSVでアウトプットすることも可能ですので、人が手打ちでデータをインプットしていく必要がなくなります。

池上「Alli for Green」は、Allganizeが持つ自然言語を理解するAIを搭載しており、排出量算定に必要な情報を自動で抽出できます。他社サービスと大きく異なるのは、フォーマットの異なる書類でも正確に必要な情報を抽出できる点です。従来の一般的なAI-OCR(AIを用いた光学文字認識)ですと、記載場所が異なったり表記のブレがあったりすると正確に読み取ることができず、事前にそれらの情報をひとつひとつ設定しないと精度が上がらないものがほとんどでした。これに対して「Alli for Green」では、そういった事前設定なしにワンクリックで精度が高い情報を抽出できます。

AI-OCRよりも格段に精度が向上したんですね。

池上はい。さらに、もう一つの強みが学習機能です。AIといってもヒトと同様にミスをすることはあります。この場合、AIを賢くすればよいわけですが、そのためには通常、膨大なデータを集めて時間と費用をかけて学習させる必要があります。一方、「Alli for Green」には再学習機能を搭載しており、クリック一つでAIをトレーニングし、簡単に賢くすることができます。使えば使うほど精度が自動的に向上する仕組みです。我々の知る限り、同様の機能を搭載したサービスは他にありません。

関口テナントとしてビルに入居しているとエネルギー使用量などはビルオーナーが出す請求書ごとにフォーマットの差異が大きく、一般的なAI-OCRでは対応が難しいですが「Alli for Green」は言葉の意味を理解して抽出してくれるので表記や記載場所が異なっていても高い精度での読み取りが可能です。これまでになかった画期的なサービスだと自負しています。

池上三井住友銀行さまの規模になると、取り扱う書類のフォーマットも1000種類ほどになります。それらすべてを手入力するのはとても大変ですが、「Alli for Green」であればクリック一つで完了します。

Allganize社の優れたAI技術を脱炭素の領域に応用

今回、三井住友銀行とAllganize社が協業してサービスを開発した背景を教えてください。

関口三井住友銀行は2年以上前から、脱炭素領域においてお客さまの課題を解決できるソリューションの提供を検討してきました。脱炭素領域は、膨大なデータの収集・専門的なロジックの構築・計算の実行など、まさにデジタルでの効率化が可能な分野です。そうした分野で、三井住友銀行でのサービス開発やグリーンテックと呼ばれるスタートアップとの協業などを推進してきました。

GHG排出量算定が脱炭素の第一歩と考え、推進する中で、お客さまからも算定ツールを利用する前のデータ収集作業が大きな負担となっているという声はありましたし、三井住友銀行でもこれらを効率化していく必要性を感じていました。当行は全国に多数の拠点を有していることから、各拠点にエネルギー利用に関する請求書や報告書が届きます。また、テナントとして入居していることも多く、請求書の様式は多種多様です。こうした状況から、同じ課題をもつお客さまへの提供も視野に、データ収集・データ化といった、デジタルで効率化できるサービスをAllganize社と共同開発することとなりました。

Allganize社は、SMBCグループの米国シリコンバレー・イノベーションラボが当地で知り合ったスタートアップです。その自然言語理解に関する技術の高さに大きな可能性を感じ、当行から出資することになりました。その後実際に、AIチャットボットなどのAllganize社製品の導入を通じて、自然言語処理技術の優位性や開発スピードの速さ、柔軟性などを高く評価しており、その高い技術を脱炭素の分野にも応用できないかと考え、相談をしました。AIが言語を理解し、フォーマットを問わずに特定の情報を抽出できる汎用的な技術があるとのことでしたので、これを活用すれば課題を解決できると考え、共同開発に至った次第です。

開発にあたって苦労した点があれば教えてください。

池上三井住友銀行さまでは、パーセフォニを導入してGHG排出量算定を行うため、「Alli for Green」で抽出したデータをパーセフォニに入力する必要がありますが、その入力作業に時間を取られてしまっては工数の削減も限定的なものに留まります。さまざまな試行錯誤を重ね、パーセフォニが提供する一括アップロード用のフォーマットへのマッピング機能を搭載することで、クリック一つでフォーマット作成しデータを算定ツールに流し込めるようにしました。

関口行内で「Alli for Green」を実際に使用する部署と密に連携を取りながら、ユーザー視点での使い勝手を第一に考えて開発を進めました。また、お客さまへのサービス提供にあたっても、サービス自体はAllganize社製ですが、三井住友銀行としてお客さまにご提案するサービスですので、クオリティについてもしっかりと確認を行い、提供開始に至りました。

「Alli for Green」の競合は今のところ存在するのでしょうか?

池上私が知る限り同様の他社サービスはありません。皆さん、GHG排出量の算定ツールは利用されていますが、その前段階のデータ収集の時点で問題を感じている方は多くいらっしゃいます。算定ツール自体に、請求書などの書類から数値を読み取る機能をつけているものもありますが、やはり「Alli for Green」はそれらと比較しても精度に圧倒的な強みがあります。実際にも、日本・米国を中心に、多数のお引き合いを頂戴しています。

デジタルを活用したソリューション提供で、企業の脱炭素経営を支援

企業の脱炭素に対する取り組みの意識に変化は感じますか?

関口Sustana・パーセフォニともに、この1年ほどで契約社数・お問い合わせ共に増加していますし、2023年度から上場企業は有価証券報告書にScope1・2(※1)の排出量の記載が推奨されており、企業の脱炭素経営への意識は高まっていると感じています。

(※1)スコープ1は事業者が直接排出するCO2、スコープ2は他社から供給された電気・熱・蒸気の使用に伴い間接的に排出されるCO2を指す。

今後は、算定ツールに入力するデータ収集の効率化にも注目が集まってくるとお考えですか?

関口そうですね。大企業の多くが算定ツールを導入している今、次の課題として前段階のデータ収集の効率化に焦点が当たるでしょうから、「Alli for Green」には将来性があると考えています。

スタートアップとの協業も含めた、SMBCグループの今後のサービス開発の展望や方向性について教えてください。

関口SMBCグループは、金融サービスだけではなくお客さまのニーズや社会課題に対して、質の高いソリューションを提供していくことを目指していますが、すべて自前で出来るものではありません。また、すべてを自前で開発しようとしていたらスピードの面でも追い付けません。ですので、Allganize社のスピードと技術に、SMBCグループが持つ基盤をかけあわせて、新しい価値を生み出していけたらと思っています。

池上SMBCグループさまは、大企業であるにもかかわらずスピード感があって、アジャイル開発に対する理解も深いため、スムーズな取り組みができたと感じています。また、お声がけいただいたことによって、私たちの技術が脱炭素の分野にも役立つという気づきを得られたことは大きかったですね。SMBCグループという日本有数のメガバンクグループが先進的な脱炭素の取り組みを進めることは社会的にも大きな価値があります。その取り組みに我々が持つ自然言語を理解するAIの技術を活用してもらい、ヒトにはヒトにしかできない付加価値の高い業務に注力してもらう。そういったユースケースを、日本だけでなく私たちが拠点を持つ米国や韓国を含め、グローバルに広げていきたいと考えています。

関口これからもメガバンクグループとして脱炭素経営を自ら推進するとともに、「Alli for Green」を含めたさまざまなサービスを提供することで、企業の脱炭素経営を支援していきたいと考えています。また脱炭素以外の領域でも、他の金融機関やスタートアップと協業しながら、社会的な価値を提供できるグローバルソリューションプロバイダーを目指していきたいと思います。

PROFILE
※所属および肩書きは取材当時のものです。
  • Allganize Japan Business Development Manager

    池上 由樹氏

    2021年よりAllganize Japanにて事業開発業務に従事。日本・米国(NY州)弁護士。Allganizeの高度な自然言語理解AIと、脱炭素関連を含むグローバルな法律分野の知見を活かして「Alli for Green」のほか請求書情報抽出AI「Alli for Invoice」などの開発責任者を務める。

  • 三井住友銀行 デジタル戦略部

    関口 倫子氏

    2007年三井住友銀行入行。デジタル戦略部では主にスタートアップとの連携を通じた法人向けサービスを担当。

カーボンニュートラル
(Carbon Neutral)

類義語:

  • 脱炭素

温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすること。 「全体としてゼロに」とは、「排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにする」ことで、現実には温室効果ガスの排出量をゼロに抑えることは難しいため、排出した分については同じ量を吸収または除去する。

GHG
(Greenhouse Gas)

類義語:

  • 温室効果ガス

Greenhouse Gasの略称であり、地球の温暖化現象を引き起こす気体のこと。 大気中の温室効果ガス濃度が増加すると、地球表面の温度は上昇するため、地球温暖化の主な原因とされている。

DX
(Digital Transformation)

類義語:

  • デジタルトランスフォーメーション

「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の頭文字をとった言葉。「Digital」は「デジタル」、「Transformation」は「変容」という意味で、簡単に言えば「デジタル技術を用いることによる、生活やビジネスの変容」のことを指す。

グリーンテック
(Green tech)

類義語:

  • クリーンテック

持続可能な社会を実現するためのプロセスで、資源や環境に配慮したテクノロジー、またはサービスのこと。

AI-OCR
(Artificial Intelligence Optical Character Recognition/Reader)

類義語:

OCR(Optical Character Recognition/光学文字認識)に、AI(人工知能)技術を融合させた最先端のOCRの仕組みやサービスのこと。AIの機械学習やディープラーニングにより、従来のOCRに比べて文字認識精度やレイアウト解析精度などが大幅に向上。

アジャイル開発
(Agile development)

類義語:

短い開発期間単位を採用することで、リスクを最小化しようとする開発手法の一つ。