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世界有望スタートアップとの協業成功のコツとは。SMBCグループがPlug and Play「Corporate Innovation Award」を受賞

日本・米国をはじめ世界各国に拠点を持つSMBCグループは、シリコンバレーにオフィスを設置し、世界最大級のアクセラレーターベンチャーキャピタルであるPlug and Play社と連携しながら世界各地の有望なスタートアップとともに協業先の発掘に注力しています。このような取り組みにより生まれたビジネスの一例に、米Persefoni社と協業した、大企業やグローバル企業向けのCO2可視化ツールの提供があります。

今回、スタートアップとの協業実績が認められ、2023年6月6日~8日に開催されたPlug and Play「シリコンバレーサミットJUNE2023」において、Corporate Innovation Awardを受賞しました。

SMBCグループは、スタートアップとの協業をどのように進めているのか。そして今後の展望とは。SMBCグループ シリコンバレー・デジタルイノベーションラボのラボ長である田村浩気氏へのインタビュー、およびSMBCグループ兼JRI AmericaでExecutive Directorを務める田谷洋一氏がパネルディスカッションで語った内容から、成功のコツを紐解きます。

スタートアップと連携し、時代に即したサービスを提供

Plug and Playが開催するシリコンバレーサミットとはどのようなものなのでしょうか。

田村Plug and Playは毎年、サマーサミットやウィンターサミットといった大規模なイベントを開催しています。これらのイベントには、優秀なスタートアップが数多く参加しており、プレゼンテーションや講演などを通して、具体的な事例を知ることができます。
私たちにとって各業界の動向や最新のトピックを理解する絶好の機会となっています。

今回、Corporate Innovation Awardを受賞されましたが、どのような取り組みが認められたと感じていますか?

田村私たちは情報収集のみならず、ニーズに合ったスタートアップをリストアップして、面談をした上でPoCを実施するケースが多くあります。その点が評価されたと考えています。

スタートアップ側は、自社について具体的に検討して、PoCや導入に進むパートナーとの出会いを望んでいます。そうしたスタートアップのニーズに即したSMBCグループの活動を、Plug and Playに認めていただいた結果だと思っています。

SMBCグループがスタートアップとの連携に積極的な理由を教えてください。

田村企業として対応すべき新しい課題は、増え続けています。新しい課題の中には、新しいソリューションでなければ解決できないものもあります。そうした新たなソリューションを提供しているのが、スタートアップだと感じています。企業のニーズに即した迅速でフレキシブルな対応は、スタートアップならではのものです。スタートアップと連携することで、SMBCグループが取り組む活動のスピードや品質の向上が期待できます。

最近のAllganize社Persefoni社との連携でも、SMBCグループが取り組みたい課題についてスタートアップと相談しながら、素早く進めることができています。連携によって蓄積された知識や経験を活かして、新たなサービス作りを一緒に考えることにもなりました。

スタートアップとのPoC実現、協業成功のコツ

スタートアップと連携したサービスやビジネスを立ち上げる際のフローや期間に関して教えてください。

田谷パンデミック以前から、SMBCグループではイノベーションを継続的に実現するプログラムを確立し、5年間運用してきました。それが「Intensive Research Program(長期出張プログラム)」と呼ばれるプログラムです。

このプログラムには3つの段階があります。第一にSMBCグループの各事業部からDXに関するニーズを聴取します。第二に事業部のニーズを具体化・細分化して、Plug and Playチームに必要な要件を正確に伝えます。そして第三にPlug and Playチームから要件にあった候補企業のリストを基にスタートアップを精査して、面談に進みます。

シリコンバレーで3ヶ月間行われるこのプログラムには、担当事業部の社員に参加してもらいます。パンデミックの影響で社員の出張が難しい時期もありましたが、盤石なリサーチモデルにより、情報の蓄積やイノベーションを推進し続けることができました。

ユースケースはどのように決めていますか。

田谷当社では、業務部門からのリクエストに基づいて自分たちでユースケースを考えています。ビジネス開発のニーズや悩みに即してユースケースを決めると、実装の可能性が高くなります。そのため普段から、事業部のニーズを深掘りすることを重視しています。事業部が実際に直面している課題こそが、私たちのイノベーションを生み出す重要なリソースだと思います。

PoCを行う際に、どのような指標を重視していますか?

田谷PoCを行う際には、必ず特定のKPI(※)を設定し、ソリューションが私たちの要件を満たすかどうかを検証します。私が過去に担当したサイバーセキュリティ・ソリューションでは、機能や回答の正確さ、KPIに設定しました。財務面のチェックや使いやすさ、サポートの充実度、日本市場での浸透度などKPIに設定しました。

特定のKPIの設定は、ソリューション自体を評価するだけでなく、ユースケースを拡張させる上でも役立ちます。PoCを始める前にKPIについてスタートアップに説明し、理解を得ます。スタートアップが私たちのKPIを達成できれば、次の段階に進むことができますし、達成できない場合はスタートアップにフィードバックすることもできます。

(※)KPI:Key Performance Indicator(重要業績評価指標)の略で、ゴールまでのプロセスの達成状況を定点観測する指標。

金融グループとして、コンプライアンスやセキュリティなどを担保する上での難しさはあるかと思います。スタートアップと金融グループの基準は異なる部分が多いと思いますいが、この障壁をどう乗り越えているのでしょうか。

田谷PoCを開始する前に、スタートアップ側にはコンプライアンス上の要件を伝え、理解のすり合わせを綿密に行った上でPoCの実施を行っています。

新たな連携先との信頼関係の構築をめざす

シリコンバレーラボとして、スタートアップとの協業を進める際にどういう役割を担っていきたいですか?

田村シリコンバレーラボを設置している最大のメリットは、スタートアップやベンチャーキャピタルなどにSMBCグループの存在を認知してもらい、新たな連携先との信頼関係を構築しやすくなることだと思います。自分たちでは探しきれないスタートアップにリーチできるようにもなります。

SMBCグループ全体でも、新しいものを受け入れる環境が整備されてきたと感じていますが、まだ新しいものを各部署で十分に活用できているケースばかりではありません。発見した新しいものを作り直して、導入のサポートやお客様への提案方法を行うことが、シリコンバレーラボの役割だと自負しています。

今回のサミットではどのようなスタートアップと出会いましたか?また、今後どんなスタートアップと協業していきたいと考えていますか?

田村たとえば、金融機関との連携実績を持つ生体認証を手掛けるスタートアップの方と直接お話をしました。以前から生体認証は私たちも試したり、実際に使ってみたりしていますが、いくつか課題があって進めにくい部分もあります。とはいえ技術や環境は変化するので、今回のお話では従来の課題が解消できるかもしれないと期待をしています。

また、将来的に連携を検討したいと考えているスタートアップの一例としては、香りを生成するデバイスを作っているスタートアップが挙げられます。このスタートアップの技術は、広告やゲーム、Web3VRメタバースなどに活用できる可能性があると思います。

シリコンバレーラボとして感じている技術トレンドや最新動向にはどのようなものがありますか?

田村最近の例では、広告分野でのAIの活用がよく話題になります。AIによる広告評価や自動配信、生成AIによる画像作成などが注目されています。エネルギー関連では、CO2を吸収する技術やCO2を出さない技術などの開発が目立ちます。またファイナンス・テクノロジーでは、複数の銀行のデータをまとめて見やすく表示するサービスや、銀行業務をサポートするサービスが増えています。

全体的な動向としては、生成AIを活用した新たなサービスが増えているという印象を持っています。

環境問題や労働力不足、女性の活躍など、社会課題解決やSDGsの達成に関して、企業のニーズに対応する事例やアイデアはどのようなものがありますか?

田村SDGs全体については、ガバナンスの部分へのニーズがあると思っています。例えばサイバーセキュリティに関する取り組みなどです。金融機関はサイバーセキュリティへの新たな対応に積極的で、SMBCグループでもサイバー攻撃に対応するスタートアップと連携して、サイバーセキュリティの強化を進めています。そうしたノウハウを活用して、サイバーセキュリティを含むお客様向けのガバナンス強化サービスを開発したいと考えています。

また労働者不足に関する課題は、SMBCグループ自体も悩んでいる状況です。労働者不足に対しては、業務の自動化や現行オペレーション自体の見直しといった試みを進めていますので、その成功事例をSMBCグループのサービスとしてお客様に提供したいと考えています。

日本とシリコンバレーの結びつきの強化に向けて

今回のPlug and Play「シリコンバレーサミット June 2023」は、パンデミック以降最大の参加者が集まったイベントとなりました。日本・韓国・ドイツ・スウェーデン・サウジアラビアなどの国から3,000人以上が参加し、130以上のスタートアップがピッチを行いました。

特に注目度の高かったテーマは、生成AIと半導体、サイバーセキュリティです。Plug and Playの創業者であるサイード・アミディ氏は「銀行や金融サービス業は、AIの活用によってコストと時間の50%を削減できる」と語っています。AIの活用には、コンピューティングとストレージ容量増加の必要があり、性能の良い半導体と高度なサイバーセキュリティが必要になります。

サイード氏は「コロナの影響が収束した今、シリコンバレーと日本の結びつきを強くする必要がある」と考えています。シリコンバレーで活動する日本のスタートアップが増加するための取り組みを、Plug and Playは積極的に進めています。

今回SMBCグループがCorporate Innovation Awardを受賞した理由について「さまざまな領域でスタートアップとのPoCを積極的に実施して、連携を実現していることに加え、イノベーション活動を推進・啓発するイベントやメディアでの発信を行っていること」だと、サイード氏は語ってくれました。

PROFILE
※所属および肩書きは取材当時のものです。
  • 株式会社 三井住友フィナンシャルグループ 兼 株式会社三井住友銀行
    シリコンバレー・デジタルイノベーションラボ ラボ長

    田村 浩気氏

    外資系金融機関、モバイルアプリ決済企業を経て2016年より三井住友銀行入行。
    複数のプロジェクトにて最新技術を取り入れたサービス開発を推進し、2022年よりシリコンバレー・デジタルイノベーションラボにて勤務、2023年に同ラボ室長。

  • 株式会社 三井住友フィナンシャルグループ 兼 JRI America,Inc.
    Executive Director

    田谷 洋一氏

    2006年、株式会社日本総合研究所入社。銀行やクレジットカードなどのインフラシステム開発のプロジェクトマネジメントや調査部での研究員としての業務経験を経て、現在はシリコンバレー・デジタルイノベーションラボにおけるR&D業務に従事(2019年より現職)。

DX
(Digital Transformation)

類義語:

  • デジタルトランスフォーメーション

「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の頭文字をとった言葉。「Digital」は「デジタル」、「Transformation」は「変容」という意味で、簡単に言えば「デジタル技術を用いることによる、生活やビジネスの変容」のことを指す。

ベンチャーキャピタル
(Venture Capital)

類義語:

未上場の新興企業(ベンチャー企業)に出資して株式を取得し、将来的にその企業が株式を公開(上場)した際に株式を売却し、大きな値上がり益の獲得を目指す投資会社や投資ファンド。

生体認証
(Biometrics Authentication)

類義語:

  • バイオメトリクス認証

人間の身体的特徴(生体器官)や行動的特徴(癖)の情報を用いて行う個人認証の技術やプロセス。

Web3.0
()

類義語:

非中央集権のインターネット。これまで情報を独占してきた巨大企業に対し、デジタル技術を活用して分散管理することで情報の主権を民主的なものにしようとする、新しいインターネットのあり方を表す概念。読み方は「ウェブスリー」。

VR
(Virtual Reality)

類義語:

  • 仮想現実,バーチャルリアリティー

コンピューターによって創り出された仮想的な空間などを現実であるかのように疑似体験できる仕組みを指す。

メタバース
(Metaverse)

類義語:

「Meta」と「Universe」から形成される造語で、コンピュータやコンピュータネットワークの中に構築された、3次元の仮想空間やそのサービス。

サイバー攻撃
(cyber attack)

類義語:

  • サイバーテロ

インターネットを介してパソコンやサーバーなどの情報端末に対し、システムの破壊や情報の改ざん、窃取などをする行為。

SDGs
(Sustainable Development Goals)

類義語:

「Sustainable Development Goals」の略で、「持続可能な開発目標」という意味を表します。 2030年までに達成すべき17の目標が掲げられており、これらは2015年に開催された国連サミットにおいて採択された。

PoC
(Proof of Concept)

類義語:

  • 概念実証

新しいアイデアや技術の実現可能性を検証すること。日本語では「概念実証」と訳される。新しいサービスを立ち上げる際や新しい技術が実現可能かを確認するため、本格開発・導入の前段階で実施される。

アクセラレーター
(accelerator)

類義語:

英語で「加速させるもの」を意味する言葉で、スタートアップ企業や起業家をサポートし、事業成長を支援する事業者のこと。

シリコンバレー
(Silicon Valley)

類義語:

米カリフォルニア州サンフランシスコ南郊のサンタクララやサンノゼなどを含む地域の通称。半導体の素材であるシリコンに由来しており、半導体メーカーがこのエリアに集まるようになったことに由来する。