取り組み
2025.07.11更新

アバター・AI・人の共生で、接客と働き方が変わる。SMBCグループがAVITAとアバタービジネスに参入する理由

「アバターで人類を進化させる」というビジョンを掲げ、アバターや生成AIを活用したサービスの開発を手がける、大阪大学発スタートアップ AVITA。

SMBCグループは、2023年よりAVITAとの協業および資本提携を進めてきましたが、このたび、AVITAの提供するアバター関連サービスをSMBCバリュークリエーションが外販することを決定しました。

最近は、コンビニや保険業界などにも取り入れられているアバター接客サービス。SMBCグループが協業を進める意図と狙いはどこにあるのでしょうか。関係者へのインタビューを通じて明らかにします。

コロナ禍・生成AIブームを経て、需要が急増するアバターサービス

まずは両社の協業のきっかけについて教えてください。

棚橋AVITAさまは大阪大学発スタートアップということで、かねてより大阪の法人営業部が金融面のサポートに加え、ビジネスマッチングなど戦略面の支援をしておりました。

2023年5月頃、AVITA CEOの石黒さま、COO西口さまと、SMBCグループのCDIO(Chief Digital Innovation Officer)を務める磯和が面会したことをきっかけに本格的な協業の話がスタートし、2024年7月には出資もさせていただきました。

さらに協業効果をどう最大化していくかと考えた際に、グループ会社であるSMBCバリュークリエーションが前面に立って協業していくことがもっともシナジーを生み出せると考え、具体的なビジネスをスタートさせました。

株式会社三井住友銀行 デジタル戦略部 部長代理
棚橋 亨太氏

西口ちょうど会社を設立し、三井住友銀行で口座を開設した2021年6月はコロナ禍だったこともあり、三井住友銀行の法人顧客も非対面のソリューションを求めていました。実際に、三井住友銀行からのご紹介で多くの企業さまにサービスを導入いただきました。

アバターの第一次ブームはコロナ禍でしたが、昨今は生成AIブームの影響もあり、インターフェースとしてのアバターはさらに注目されています。SMBCグループと組むことでさらにビジネスを加速させていけると考え、資本業務提携に至っています。

AVITA株式会社 創業者/取締役副社長COO
西口 昇吾氏

労働力不足、契約数増加に貢献するアバター

AVITAが開発するアバターは、現在どのような形で使われているのでしょうか?今後、どのようなシーンに広がっていくと想定していますか?

西口弊社はリアルとWebで利用できるオンライン接客サービス「AVACOM」と、アバターを活用した接客のロープレ支援サービス「アバトレ」という二つのサービスを提供しています。

AVACOMはホテル業界、保険・金融業界、ショッピングモール、カーディーラー、コンビニなど多様な業種で導入いただいており、人が店舗に常駐することなく遠隔で接客対応をしています。

例えばマニュアルに沿って接客する拠点が複数ある場合、従来は100拠点に200人のスタッフを配置していたとします。しかし、AVACOMを利用することで、1人のスタッフが10店舗を接客できるようになり、20人のスタッフだけで200拠点の対応が可能になります。人的リソースの最適配置で効率的なオペレーションを組むことができ、コスト削減につながります。

AVITAのアバターは現在、特に保険業界での導入が進んでおり、アバターを介して保険を販売することで契約数が大きく向上しています。オンライン診療と同様に、自分のプライベートな情報やネガティブな情報が必要となるケースでは、アバターの方が相談しやすいという声も届いており、アバターでの相談は心理的障壁を下げる効果もあります。

SMBCグループとの協業で、世界に勝てるビジネスを

AVITAが提供するアバターの強みについて教えてください。

西口弊社代表の石黒 浩は大阪大学の教授であり、90年代後半からロボットの研究開発に携わってきました。遠隔操作のロボット=フィジカルなアバターであり、AVITAは石黒が発明した70以上の特許の実施権を保有している強みがあります。

チャットボットのような無機質なAIと進んで会話をしたがる人は少ないですが、ロボットに対してはお客さまから話しかけてくれます。これから生成AIが進化するにつれて質問に対しての返答だけでなく、より高度な対話業務ができるようになります。

最近は海外企業とよく話をしますが、世界を見ても声や表情、身ぶり手ぶりなどの非言語コミュニケーションを重視しているアバター開発企業は数多くはありません。この分野は日本が最先端を走っているので、SMBCグループのグローバルなネットワークを活かして、世界で勝てるビジネスをともにつくり上げたいと考えています。

AVITAとSMBCバリュークリエーションとの協業で目指すもの

今回、SMBCバリュークリエーションがアバターサービスの外販をしようと考えたのはなぜでしょうか?

栗本SMBCバリュークリエーションはSMBCグループの中で成果のあったDXの取り組みを、お客さまにお届けするという活動をしています。そのなかで、従前はどちらかというとRPA(Robotic Process Automation)やAIを活用したバックオフィスの業務効率化ソリューションをお客さまに提供してきました。

しかしこの1年間、お客さまとお話をする中で、「リアルな店舗やコールセンターでの深刻な人手不足を解消するソリューションがほしい」というお声を耳にする機会が多くなりました。

そんな話を社内でしていた際に、フロント業務における人材不足の解決手段として挙げられたのがアバターの活用であり、その領域で注目されていたのがAVITAさまです。AVITAさまと組むことで、顧客接点となるフロントエンドをアバターで、その後の手続きを我々の得意なRPAなどで自動化することにより、申し込みから手続き処理まで一気通貫で対応できると考えました。人材不足という社会課題の解決のためにも、私たちが進んでやるべき仕事だと感じました。

SMBCバリュークリエーション株式会社 代表取締役社長
栗本 雄太氏

棚橋金融機関とアバターの相性は非常に良いと考えています。過去、法人のお客さまに対して商品のご案内をするコールセンター業務を、アバターに置き換えた実証実験を行ったことがあります。それまで資料を送付して電話で説明していたところ、アバターと資料投影に切り換えることで視覚情報も増え、お客さまの体験価値の向上につながりました。

我々はオンラインの資産運用相談なども行っていますが、中には対面で話すのが苦手なお客さまも一定数いらっしゃるので、そういったお客さまにはアバターで相談できるような仕組みも整えていきます。将来的には金融機関ならではの投資相談などにも対応できるアバターの開発も進めていきたいですね。

人の心を中心とした「アバター共生社会」を生み出す

AVITAとSMBCグループの今後の展望について教えてください。

島田中長期的には両社の強みと技術を掛け合わせたプロダクトを生み出していきます。現在、「個人の信用」というものは主に資産情報に重きが置かれていますが、将来はこの信用が多様化すると考えています。

AVITAのサービスであれば個人の「接客経験」などもデータ化が可能です。ブラックボックスだった接客経験をデータ化することで、新しい信用の一つになるかもしれません。外出の難しい障害を抱えた方や高齢者、小さなお子さまのいる方でも、アバターを活用して接客をはじめとする仕事に就いて、世の中にいろいろな価値を提供することが可能になります。

AVITA株式会社 社長室 経営企画部長
島田 奎氏

以前、アバターのオペレーターとして働いている方からとても嬉しいお言葉をいただいたことがあります。その方はお体が不自由なためこれまで8時間などまとまった時間での勤務はできませんでしたが、アバターを介してであれば数時間からでも働くことができるので、自分の価値を十分に発揮できるようになったと。「社会参加が難しい人々でも働けるプラットフォームを生み出してくれたAVITAには、微力ではありますが私も最大限の協力をします」といっていただいたときは本当に嬉しかったです。これからもアバターを社会実装させ、人類の進化に貢献していきます。

西口私たちが目指すのは身体・時間・空間の制約から解放されて、人々が働けるインフラの整備です。日本では人手不足が社会課題になっていますが、海外では働きたくても働く場所がない若者がたくさんいて、失業率が社会課題になっている国も多くあります。AIがあれば言語の問題も解決できますし、アバターを使えば人手不足の深夜帯の店舗で、海外の若者に働いてもらうことも可能でしょう。世界中の人たちが国境を越えてアバターで働けるようになれば、新しい雇用を生み出しながら世界の人口問題を解決していくことができる。国境を越えた労働のインフラをつくることが目標です。

棚橋AVITAさまが持つアバター、ロボット、AIの技術は、これからの世の中を大きく変えるテクノロジーだと見ています。それらを適切に社会に落とし込むことで社会全体が良い方向に変わり、幸せになれる人が増えていく。数十年後、このサービスに当初から関わっていたことを誇れるように、良い方向に社会を変えていきます。

栗本SMBCグループは経済的価値のみならず、社会的価値も創造していくことを中期経営計画で謳っています。あらゆる制約を超えて誰もが活躍できる、自分らしく活躍できる社会を我々としても積極的につくっていきたい。AVITAさまとの連携で人の心を中心とした「アバター共生社会」を生み出していきたいですね。


PROFILE※所属および肩書きは取材当時のものです。

  • 株式会社三井住友銀行 デジタル戦略部 部長代理

    棚橋 亨太氏

    2012年に三井住友銀行へ入行。
    法人企業向けの営業等に従事し、2022年4月よりデジタル戦略部で現職。
    2023年10月よりアバターサービスの事業化に向けたプロジェクトをAVITA社と共創で推進。

  • SMBCバリュークリエーション株式会社 代表取締役社長

    栗本 雄太氏

    1996年に三井住友銀行へ入行。
    投融資を通じた企業の再生・海外進出・成長戦略実行の支援経験豊富。
    SMBCグループのシリコンバレー・デジタルイノベーションラボ所長を経て、2024年より現職で企業のDX推進を支援。

  • AVITA株式会社 創業者/取締役副社長COO

    西口 昇吾氏

    2017年に日本テレビ放送網株式会社に入社。2018年にVTuber事業を立ち上げ、共同代表に就任。
    2021年に独立し、AVITA株式会社を創業。
    大阪・関西万博「いのちの未来」アドバイザー。三重県明和町デジタルプロジェクトPM。

  • AVITA株式会社 社長室 経営企画部長

    島田 奎氏

    2018年にパーソルキャリア株式会社に新卒入社。
    その後、ITスタートアップにて複数社経験した後、2023年にAVITAに入社。
    現在は、AVITAのビジネスアライアンスを軸に、営業活動を推進。

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フロントエンド
(front end)

類義語:

システムやWebアプリケーションにおいて、ユーザーが直接触れる部分を指す。たとえば、ウェブサイトのデザイン、メニューやボタン、テキスト入力欄など、画面に表示され、操作する部分がフロントエンドに該当する。

SMBCバリュークリエーション

類義語:

SMBCグループが提供するデジタルサービス。RPAやOCRなど先端技術を活用した多様なサービスの提供により、お客さまの生産性向上に貢献します。

AI
(artificial intelligence)

類義語:

  • 人工知能

コンピュータが人間の思考・判断を模倣するための技術と知識体系。

RPA
(Robotic Process Automation)

類義語:

定型作業を、ルールエンジンやAI(人工知能)などの技術を備えたソフトウェアのロボットが代行・自動化すること。

プラットフォーム
(Platform)

類義語:

サービスやシステム、ソフトウェアを提供・カスタマイズ・運営するために必要な「共通の土台(基盤)となる標準環境」を指す。

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